○羽仁五郎君 吉田
内閣は、
国民の幸福を保障する能力がないのではないか、無能
政府ではないかということが最近の内外の印象でありますが、果して
如何でありますか。以下七つの点について
質疑をいたします。
第一に、主として
首相に講和問題についてお尋ねをしたいのですが、現在
国民の最大の関心が集中しておる講和問題について、
首相の態度の不透明であるということは、
首相が
国民の要望を代表して献身する能力がないのではないか。(「ノーノー」と呼ぶ者あり)或いはひそかに隠すところがあるのかを思わせて、
国民をしていたく失望させております。昨晩の東京新聞のごときは、
首相は地獄に落ちるべきだということを書いております。
仮定の問題には答えない、或いは我輩に一任しろとか、(「飛んでもないこつちや」と呼ぶ者あり)或いは御
自分の主宰される民自党自体に対しても猿ぐつわをはめて、講和問題については言つちやいかんというふうなことをなさ
つておられる。こういう官僚的な態度、或いは議会
答弁を以て事足れりとしておられるような態度、これを一擲されて、
国民の要望に
従つて努力する能力がおありになるかどうか。(「そうだ」と呼ぶ者あり)
次に具体的にお尋ねをしますが、
日本の将来の幸福が全面講和より外にないということは、すでに御
承知のように安倍能成、或いは大内兵衛とか、そういう人々を以て組織しておる平和問題懇談会が、全面講和、中立不可侵、国連の保障、中井貿易の促進、軍事基地には絶対に反対というような決議をされて、これを朝日新聞のような代表的な言論機関が支持しておる。南風原大総長が老躯を提げてアメリカにおいて努力をせられたことも又この方向にあります。
首相は
日本の有識者がこれらの決議に到達した理由を御了解になる能力がないのではないか。
世界の対立の禍の
原因とならないで、
世界の調和の幸福の
原因となれということは、先頃朝日新聞の特派員に向
つてフランスのダラデイエ氏が忠告しておるところでもある。
自衛権の問題について
首相は先日から水掛論を繰返しておられるが、マツカーサー元帥の声明の二番煎じをや
つておられるのではないか。一体
自衛権は
日本にと
つて何を
意味するか、御了解にな
つておるであろうか。言うまでもなく軍備を持たない
日本の
自衛権というものは二つしかない。或る国がそれを守るか、それとも国際保障によ
つてこれを守るか、二つしかないのであります。そうして或る国がこれを守ろうとすれば、必ず
日本は他の国との対立にさらされる。米ソが原子爆彈を持
つておる今日、或る一国によ
つて日本の
自衛権を守ろうとすれば、必ず他国の原爆に
日本はさらされるんです。この二十四日の
日本タイムスに、アメリカの有力な政治評論家であるワルター・リツプマンがどういうことを書いておられるか、お読みにな
つたと思う。アメリカの原爆の独占を打破することがソ連によ
つて成功して以来、毛沢東が中国革命の指導に成功して以来、
世界の情勢は一変しておる。アメリカのドイツ及び
日本に対する
政策は変えなければならないのではないか。いわゆるソ連を包囲するというような
政策、或いはドイツ又は
日本をアメリカに接近させようとする
政策はすでに失敗であることが明らかにな
つておる。強いてこれをやれば必ず
日本を反対側に接近させるということになるのではないか。(「よく聞いとけ」と呼ぶ者あり)リツプマンはそう言
つております。リツプマンは
日本及びドイツにすでにそういう
現象が現われておると言
つておる。ドイツのごときは、新聞を御覧にな
つても分るように、そういう
現象が現われておる。
従つてリツプマンは、アメリカの対独、対日新
政策は、ドイツ及び
日本に中立を嚴守して貰うという方向に行くべきであるということを書いておるではありませんか。(「
自分の
見解だ」と呼ぶ者あり)
首相は政治の道徳性を説かれましたが、單独講和でも早い方がいいということ程いわゆる打算的な
考え方はありません。そこには一片の道徳もありません。
次に
日本の民主化の徹底ということが講和の前提であるは
首相もお認めにな
つておる。併し
日本民主化の徹底ということに現
内閣は果して能力があるのか。農地改革の推進ということを口に言うだけであ
つて、実際にはその逆転を許しておるではありませんか。労働條件の
改善を実行しておられるかどうか。労働基準の低下ということは、国際的に悪影響のあることは言うまでもありません。或いは失業問題を真に重視しておられるかどうか。朝日新聞の世論
調査を見ても、現在
日本人は三人に一人はこの一年の間に失業するかも知れないという不安におののいておる。この鼻先に向
つて経済安定、社会保障
制度を早く確立しなければならないのだが、その能力があおりになるのかどうか。
又中国問題に関しては、
首相は中国は極めて不安定で、極東平和のために甚だ遺憾であるというようなことを言
つておる。(
笑声)中国は
日本帝国主義の侵略のために数十年の戰禍に苦んだのです。その戰争から最近救われつつあるのであります。その事実を英国も承認しておるではありませんか。現に
首相がああいうことを言われたその当日、外電は、アメリカの
政府がマツカーサー元帥に向
つて日本の中共貿易を促進すべきことを勧告しておられる。能力がないばかりじやない。見通しもない。(
拍手)
対日理事会の融和的の進行を図るべき責任があると我々は
考えるのですが、
日本政府はこの引揚残留者の数字を再
検討するようなお
考えは恐らくまあないだろうと思う。各地の世話課の当惑の事実も御
承知がないのだろうと思う。
首相は一体米ソ間の対立を悲しんでおられるのか、喜んでおられるのか。(「そこだ」と呼ぶ者あり)先頃アメリカのダンヴアー大学の世論
調査においても、現在米ソの対立の主たる責任はソ連にはないという答が八三%にな
つている。アイゼンハウアーが一九四五年当時を回顧して、ソ連と西欧民主主義とが併存し得ないという理由は発見できなか
つたと言
つておる。(「宣伝
演説」と呼ぶ者あり)米ソ対立を挑発して、反共を挑発して、実は
日本帝国主義の復活を陰謀しておるのではないか。(「ノーノー」「その
通り」と呼ぶ者あり、その他発言する者多し)戰前、戰時において、あらゆる進歩的な、良心的な分子をいわゆる赤としていじめ拔いた蛮風が今再びや
つて来ておる。町の子供までが赤やーいと言
つておる。実に嘆くべき
状態じやないかということを、これは僕が言うのじやない。東京新聞が嘆いておるのです。(
笑声)英国のエコノミストが、
日本の
政府と資本家とは、野蛮な反共の叫び声を揚げて、実は
日本の労働條件を引下げ、
日本の大衆を失業に投げ込み、そのために
日本の労働組合運動を潰滅させようとする、こういう
政府は講和担当の資格がないということをエコノミストが指摘しておる。APのラツセル・プラインズも、
首相の
演説に対して、軍事基地反対の問題について
首相が回避しておるということを指摘しております。これらの点について、
首相は
国民のために、私に答えろというのではない、
国民のためにはつきり答えて頂きたい。
次に
首相並びに
大蔵大臣、或いは人事院総裁は今日見えておられませんが、
首相に特にお
考え願いたいと思うのは、一体現在の
政府は法律を本気で尊重するのかどうか。
国家公務員法に関する人事院の勧告、いわゆる公共企業体労働関係法による最終的に裁定を尊重するしかないのか。これは一言で申上げますれば、公務員の給與の
実情が悪いということは
政府も御
承知にな
つておる。それから
予算を動かさないでもやる
措置があるということは、それぞれ專門家が指摘しておるところである。第二に、
物価に重大な影響がないということは、人事院の証言しておるところである。民間の給與が昨年度において三〇%上
つておる。この時に公務員だけを除外するということはどうしても納得できないということは、毎日新聞すら言
つておる。(
笑声)而も若しも
政府がこの人事院の勧告や裁定を無視されるならば、そこに自働的に争議権と団体交渉権が発生して来るのです。(「アカハタは何と言
つておるか」「君は無銭飲食者だ」と呼ぶ者あり)現にこの二十二日に、いわゆる穏健派である全逓の従業員組合の方が、穏健派ですらも、
政府が法律を無視するならば、合法鬪争として争議を
考えるということを決議しておられる。これは單なる
財政的な問題ではないのです。
財政の体裁に目が眩んで政治的判断を誤まりつつあるのではないか。
第三に、
日本の
経済の自立ということを言うけれども、
日本は資本は立つけれども、
日本の労働は倒れつつある。こんな自立はあり得ないのです。
第四に、労働
調査協議会の
調査によれば、昨年末の失業は二千万人だと言う。それに対する
政府の失業対策というものは
如何に哀れなものであるか。
日本の過去の最大の恐慌であ
つた昭和四、五年当時の失業者は二百万人であ
つたのが、それが現在二千万人にな
つておる。これに対して
政府の失業対策というものは貧弱極まる。即ち無能力を指摘されるゆえんである。
農村の農地改革の問題についても、促進すると言いながら、登記は三〇%にしかな
つていない。いつ逆転するか分らない。而も
農業恐慌に対する何らの具体的の対策がない。
国民の
生活に対しても、住宅不足が三百五十万戸、緊急産業住宅の不足が三十万戸というのに、二十五年度において八万戸しか建てられない。これではどうしても無能力と断定せざるを得ない。(
笑声)或いは社会保障
制度も容易に行わない。
日本では主婦や母親も社会保障
制度の対象とせよというのが世論であるのに、これらを実現される能力があるのかないのか。結核対策の場合にも、国立病院や国立療養所を縮小したりして、
財政的な見地からこういうことをや
つておる間に、結核は
国民の間に蔓延をして行く。結核の予防費に対して僅かに二億の
予算しか組めないのかどうか伺いたい。
文化問題についても、
政府は
日本学術
会議というものを果して尊重する能力がおありになるかどうか。
日本学術
会議は、大学の自由によ
つて、又大学その他研究所の
財政について、湯川君がノーベル賞を受けておる間に、彼の研究室は潰されて行くというような
状態にある、或いは学校、研究所に対する寄附金の免税というような問題について、或いは勧告し、或いは決議を重ねておるのであるが、果してそれらが尊重されておるか。それから六・三制の
予算は依然として低調を続け、教員の待遇が悪いために師範学校の入学の志望者は減退を続けておる。これは
日本の子供の不幸です。図書館法を今度出されるというのですが、これに一文の
予算も付けない。或いは付ける能力がないか。併しこの間の「成人の日」に学生や子供達はああいう署名運動をや
つておる。決して
首相の白足袋を非難するのでないが、こういう子供達の素足に温かさを與える政治が欲しいということを世論は言
つておる。七億
程度の
予算があれば図書館法は立派に発足できるのだが、この七億
程度の
予算を付けるということがおできにならないのかどうか。入場税のごときも十五割から十割にお下げにな
つたが、併しこれは依然として芸者の花子と同じだ。これは
日本学術
会議のようなものがあるのだから、そういうところに諮問して、そうして優秀な映画というものについては
減税或いは免税をお
考えになるということができないか。
最後に基本的人権の尊重、この重大な問題について依然として人権蹂躪の非難が絶えない。又事実も絶えない。これは
国民の生きる権利というものを
首相は尊重されているのか。現在非惨極まりない親子心中の数が激増している。東京都内だけでも昨年一ケ年間に主として
生活苦を
原因として一千人の人がみずからの生命を断
つているのだ。或いは人権蹂躪の事実についても、警察官や検事などの頭を切換えるために、具体的にどういう努力をしておられるのか。この前、
質問したときに、人権擁護局の問題については我々も
承知しておりましたが、人権が蹂躪されてから擁護するのじやいけない、人権蹂躪を予防する、即ち警察主義というものによるべきでないということがはつきりお分りにな
つていないのじやないか。警官に最近ピストルを持たせ、警官が
自分を許婚を撃
つたり、或いは
自分の弟を撃
つたり、同僚を撃
つたりしている。ピストルによ
つて治安を維持するというような警察主義を一擲して、基本的人権を尊重することによ
つて真の治安を維持すべきである。最近アメリカの有識者のアンケートに、
日本人の永久に斥くべきことは、天孫民族というような優越
国家主義或いは天皇崇拜を中心とするような権威に対する無條件の服従、これらを斥けなければならぬ、それで
日本の将来は基本的人権の尊重から始めなければならないということに言
つている。
以上殊に講和問題については、
首相に西独のアデナウアー
首相程の節操があるならば、
内閣の運命を賭してまでも、眼前の勢力を超越して、
日本の本当の将来の幸福のためにはつきりした態度をおとりになり、殊の全面講和、軍事基地反対というような
国民の要望を代表なさる能力がないかどうか。以上
国民の前にはつきり
お答えを願いたい。
国民は知る権利があるのです。(「
答弁の必要なし」と呼ぶ者あり、
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕