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証人(飯塚堅藏君) それはもうそういうような話を聞きますので、誠に心外に堪えない。非常に残念に思
つております。私としましてはもう佐藤さんのこと、これはもう全然
係長になるまでは知りませんでした。自分が
係長にな
つて、今度の
事件を私の部下の宗像と……それでまあいろいろこの経過を聞きますし、もう
搜査二課として非常に残念な点がある。これは
搜査二課のためにはつきりしなくちやいかんと、こういうふうに
考えて、ただその
搜査二課、
搜査二課の将来というものを
考えて、ただその信念でこの佐藤さんの
事件をやりましたのでありまして、そんな
考えは毛頭ありませんです。第一私も
搜査二課に長くおりますですが、
事件の
搜査というものは、これはもう私心を挾んだり、邪念があ
つては決して成功しないのです。やはり公平無私な、本当に虚心坦懐な気持でやらなければこの
搜査というものは絶対成功しないものと、そういう信念を持
つておるのです。従
つて私が仮にもそういうような私心、或いは邪念があ
つたならば恐らくこの
搜査も成功しなか
つたろうと思います。のみならず先程申上げましたように、佐藤さんにしても本当に虚心坦懐な気持で事実を我々の前に率直に話をするということは絶対になか
つたと思うのです。その点を何かそのような含みがあるようなふうに言われる節があるらしいですが、それは我々が神聖な気持でや
つたこの仕事を、誠に穢いものによ
つて冒涜されるような、誠に残念な気持に
考えております。ついでに詳しく申上げますと、宗像主任が昨年の四月か五、六月頃からこの厚生省
事件をやりまして、この厚生省
事件というものは相当発展する、こういうふうな期待を持ち、又上下共にそういうような期待を持
つてその
搜査に努力してお
つたらしいです。ところが味の素の鈴木恭二の逮捕の段階にな
つて、宗像主任に対して地検の担当検事の加藤検事さんから、若し鈴木を逮捕できないならば、検事局で直接逮捕する、こういうふうに強硬な申入れを受けた。ところが当時の吉武さんは、任意出頭で取調べる方が適当だろう、その方がいいじやないかというような意向で以てですね、その後宗像主任が加藤検事さんからどうする、こういうふうな催促を受けて、それで宗像主任としてもとにかくすでに鈴木さんの下の
課長二人は起訴されて、而も二百万円を、厚生省の予防研究所の役人に二百万円という多額の金を渡しておる。当然これはもう鈴木さんも
関係があるのみならず、その両
課長の自供によ
つても鈴木さんと相談してや
つた、や
つておると、こういうふうにはつきりその話をしておるのですね、而もその責任者は当然の責任者であるところの鈴木さんを逃して、下の方の
課長だけを縛るというようなことは、これはもう
搜査の常道から外れておるもので、金額も二百万円、そういうような大きな
事件でありますので、それを任意出頭でやるということは大体これは間違いだ、検事としてもそれは当然逮捕して取調べるのがこれはもう当然のことなんです。それに対して任意出頭で取調するというようなことはですね、これはもう
搜査二課の、
搜査の常道から外れておることなんです。当時宗像主任もその気持で以て、それで
係長の吉武さんに話したところが吉武さんがそういうふうな意向であ
つて、自分も立場に困
つて、それで
課長に話をした。ところが
課長は直ぐにやれ、直ぐに逮捕しろと、こういうふうに言うたので直ぐ逮捕することにな
つたのです。その際に宗像主任の当時の話を聞きましてですね、吉武さんにその逮捕状を、先ず加藤検事がこういう意向だからどうしても逮捕してやらなくちやいかんと言うて、逮捕状を請求する決裁を求めたところが、吉武さんは
課長の意向でちよつと待てというようなことで、それを取上げたまま返さない。こういうような事情があ
つた。大体
搜査二課が、これはその
検察庁から、お前の方でやれない事情があるならば、俺の方でやるという、こういうようなことを言われるということは、これはもうこれまでに
搜査二課の生命をこれは一度に失墜することになる重大な問題だと思う。私ならば、検事がそういう意向ならば、どういうわけでそういうことを言うか。僕は
警視庁が、私がこういうふうに、検事の方に直談判に行かなくちやならんところの事態だと思うのです。ところがこれに反して、この検事のそういう意向にも拘わらず、任意出頭でやるというので、逮捕状の請求書をそのままにして返さない。こういうようなことは、これはもう
搜査二課のために非常にこれは悲しむべき事態であ
つたと思うのです。その後において鈴木恭二の取調をしたけれども、勾留期間満了に際して、起訴にならずに、
課長は起訴にな
つておるにも拘わらず、ならずに、処分保留のまま保釈された。こういうような事態があ
つて、当時宗像主任もこれはいかん、どうも変だ、これには何かそのもう裏があるのじやないかというようなことから
考えてですね、その意向を
課長に話をし、
課長もやつぱり主任と同じような意向であ
つたのです。これを
最初宗像主任はこの厚生省
事件について大きな期待をかけてお
つたけれども、なかなかこの調子でや
つたのでは、幾ら
搜査を進めても次々にそういうような事態が生じたのではこれはもう徒労に帰する。先ずその何か裏にあるものを、これを排除してから更に
搜査を進めなければこれはもう目的を達成し得ない。まあ多少廻り道にな
つても仕様がないから、その方が先方問題として、殊にその介在する裏面の
搜査を始めて行
つて、初めはもう何ものだか分らなか
つたらしいです。何か相当いろいろ相談……
搜査した結果、この結果、何かもう神田方面におる佐藤が
警視庁に出入りしておる。そうしてボス的存在であ
つて、
事件の裏に介在しておる。こういうようなことが分
つて、それから更に
搜査を進めて行
つて、それが前の
昭電事件にも連坐した佐藤昇さんであるということが分
つて、それでまあいろいろの事実が段々分
つて来たので、
搜査を進めて行
つて、今度のような
事件にな
つたのです。で、尚そのことにつきまして、何か最近その松本
課長が何か赤坂の待合で鈴木恭二の味の素から何か請託を受けた。こういうような話も聞きましたので、私もさようなことならば、これはもう自分の
考えてお
つたこと、自分の信念がもう一時にひつくり返るような気持でございましたので、実はその後も
課長にそういうことがあ
つたのかどうか尋ねましたところ、
課長は絶対にそのようなことはない。あるならば、自分にそのようなことがあるならば、この
事件を、これをやるわけがないじやないか。当時その鈴木恭二が処分保留のまま釈放にな
つたので、そのことについては宗像主任と共に検事局に抗議を申込んで行
つておる。その事実を以てしてもそれは明らかじやないか。自分は絶対にそんなことはない。こういうふうに言いますし、私も
課長はそんな人じやないと信じておりまして、これは、そういうようなことは甚だ心外のことだというふうに私は
考えてお
つた。今申上げたように、我々の今度や
つた事件は、まあ
搜査二課というものに対しては社会から相当期待されておる面があるのではないかと思う。この
搜査二課が外部の圧力で公平な
搜査ができなくな
つたならば、これはもう由々しき問題であると思う。のみならず、現在
搜査二課には百八十名おりますけれども、この将来後に続くところの
搜査二課員に対して我々は相済まん。こういうような
考えを持
つて、ただ
搜査二課を真直ぐに社会が期待するような方に持
つて行きたい。持
つて行かなければならんというような
考えでや
つたのであ
つて、そこに一分一厘の私心もなければ邪念もない。これが私の信念であり、私は確信を持
つて今度の
事件をや
つたのでありまして、絶対にそのようなことはないのであります。その点よく御了解を願いたいと思います。そういうように
考えられるならば、我々としても本当に我々の気持を、もうどぶに投げ捨てられたような気持で、誠に残念に思うのであります。