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証人(
吉武辰雄君) 握り潰しはしません。実はこれはこういう
状況だ
つたのでございます。八月の初め頃だ
つたですか、
松本課長に呼ばれまして
厚生省の
役人がこの
事件については悪いのだ、勿論
課長の言われるように
厚生省の
役人というのは非常に悪質な貰い方をしてお
つたわけなんです。
鈴木は単に
田代なり或いは斎藤だ
つたか覚えがありませんが、それから
厚生省の
役人の
意向を聞いて、そうしてそれに同意したに過ぎないのだ。これは
身柄不
拘束でも調べられるのじやないかというような
意味の
言葉があ
つたわけなんです。そうして不
拘束にして調べてくれという
意味に私は
松本課長の
意図を解したわけなんです。ところが私といたしましては現場に近い
係長としましてはこれは駄目だ、その
鈴木の下の
田代なり或いは
齋藤というものが
身柄拘束を受けて、そうして
鈴木だけを不
拘束にするということについては均衡を失する。更に又見方によ
つたのでは
鈴木が
承認をしなければ贈
收賄事件は起らないじやないか、こういう点も
考えられる。
松本課長の言われたことも成る程一理あるわけなんです。
鈴木に悪意というものは極めて少いのじやないか、
従つて身柄不
拘束にして調べても
差支ないじやないかというような
意向も一理はあるわけなんです。併しながら私としましてはその当時の
状況から見て
部屋の方の
空気もあり、これは
検挙して調べた方がより妥当じやないか、こういう
考えを持
つてお
つたわけなんです。
これにつきましてはその当時私よりも先に恐らくその
部屋の
主任の
宗像警部補あたりか
松本課長のそういう消極的な
意向というものはよく
知つてお
つたのじやないかと思います。と申しますのは私が外に出ておる間に私の
部屋に
棟方部長というのが
宗像主任の下におりますが、それが私の
部屋に来て、
鹽川という私の
係長付がいるのですが、それに
課長が
鈴木を引張ることについて極めて消極的だから
係長は積極的だろうかどうだろうか、
係長の
意向にかか
つているのだというような話をしたというのです。それで私は
鹽川に対しまして絶対大丈夫だから心配せずに一生懸命やれということを
言つておけということを私は話をしてお
つた。そうしますと
課長の私に対するお
言葉とそれから
棟方部長の祕書官に対する
言葉と総合してみますと、
課長がこの
事件に対しては極めて消極的だというような私は感じを持
つたわけなんです。そこでそうするうちに誰だ
つたかちよつと相手は分らないのでございますが、
課長が自分の
友人からこの問題について
鈴木をできるならば不
拘束にして調べて貰いたいという依頼を、赤坂の小笠原という待合で饗応を受けて、そうしてそれを引受けて来たという話を私は聞いた。
そこで私といたしましては、
課長の
立場というものは引受けて来た以上は非常に苦しい
立場にある。そこで私も一旦
課長の
申出を断りましたのですが、必ず引張るということを私は
言つた、引張らなければいかんということを
言つたわけです。併しながら
考えてみると、
課長の
立場というものは非常に苦しい
立場にあるのじやないかというので、私もこれは暫く
考えた。それ
でその
一つの
方法がまだ残されてお
つた。と申しますのは、
鈴木がその当時出て来てお
つたのは二百二十万円くらいの
贈賄事件なんです。確か
小川というのと
竹前というのと
五味、この三人の
事務官に対してでございますが、それが単に二級のいわば下の方の
事務官だけでなくて、それだけの金が動いているならば、更に大きな所へこの
事件というものは拡大するのではないか。そうしてそのためには
小川なり或いは
竹前なり或いは
五味、これは誰か分りませんが、これをもう少し調べて、そうして上に発展させる必要があるというのと、もう
一つは
齋藤が
鈴木と
一緒に
厚生省の或る
役人の所へ、
高官の所に
行つた事実を確か
齋藤であ
つたと思いますが、その当時自供してお
つた。そうしてそのときに
鈴木がその
高官に対して
金包を持
つて行つたというような漠然とした
状況が出て来てお
つたわけです。
従つて鈴木が果してその
高官の所へ金を持
つて行つたかどうかということは、
齋藤をもう少し徹底的に調べなくちやならぬ。それで
齋藤を徹底的に調べることによ
つて、そうして
鈴木の犯罪事実というものが、単に二百二十万円の
贈賄以外にあるということになれば、私が仮に
課長の意志に反して引張
つても、やはりこれは引張
つてよか
つたのだ、
課長には私の
意図というものは後から分
つて貰える、こういう
考えを持
つたわけです。
従つて宗像警部補に対しては先ずともかく
齋藤をもう少し徹底的に調べろということで四、五日くらい引延ばしたかも知れんと思います。
そうしてその間に又同じ人だ
つたのでありますが、当時私は相当それを事実として信用できると思
つてお
つたわけなんでございますが、同じ人から実はあなたの転勤問題が出ている、こういう話があ
つたわけなんです。それでこれは事実か嘘か分りませんですが、赤坂の待合で第二回目の
会合を
課長がされたときに、ともかく
吉武が俺の言うことを聞かん、それでこれはどうしても引張らなければならんようになるかも分らん。
吉武が
宗像を掴むことができないからこういうことにな
つたのだ。それで了承して貰いたいという話が出た。その後でどうせ
吉武は変えなければならんという話が出たということを、まあ相当私は当時は本当だと思
つてお
つた。よく信頼できる人からの話なんですが、とにもかくにも……。そうしてそれはなんだもんだから、私としては私が
課長の意志に逆ら
つて、
鈴木を引張る
考えを持
つてお
つたので、
課長としては非常に私を煙たが
つているのではないか、こういう
立場に立
つてお
つた。そこで私の残された途というものはともかくどうしても別の犯罪事実を出してこれは
課長、こういうふうに出たのだからやはり引張
つておいてよか
つたでしようというところまで持
つて行かなければならなか
つた。そこで私はその間の期間に外の犯罪容疑を調べさせるように私は
宗像に命令さしてお
つた。