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政府委員(
岡咲恕一君) それでは本日は二百三十條の二から御説明申上げます。
二百三十條の二は、
株主総会の権限
規定いたしました基本的な
規定でございまして、即ち「
総会ハ法令又
ハ定款ニ定
ムル事項ニ限り
決議ヲ為
スコトヲ得」というこの原則を掲げたわけでございます。この
総会の権限につきましては、
法務総裁の
提案理由の説明、或いは私の試みました総括的な説明におきまして、この根本的の趣旨は大体御了解を得たことかと考えます。従来は
株主総会は
会社における最高の機関といたしまして、
取締役の
業務執行に関することにつきましても、一切の指示、監督、命令をなし得たわけでございますが、このたびの改正によりまして、
総会は原則といたしまして、法令に掲げた
事項に
限つて決議をなすことができるということにいたしたわけでございます。
改正法案に掲げておりまする
総会の権限といたしましては、
現行法の建前を承継いたしまして、
取締役、
会計監査役、又は
清算人の選任及び
解任に関する
事項、
取締役に対する
競業禁止の解除及びいわゆる
介入権に関する
事項、それから
取締役の
自己取引に関する責任の免除に関する
事項、
取締役又は
会計監査役の受くべき報酬の決定に関する
事項、
計算書類の承認、利益又は利息の配当に関する
事項というのが、この
通常決議と申しますから、一般の
決議において行われます
事項でありまして、
特別決議として掲げられたものは、これも
現行法の建前を大体踏襲いたしものでございますが、
定款の変更、それから営業の譲渡、その外これに準ずべき行為に関する
事項、
事後設立に関する
事項、
授権資本の範囲を拡張いたします際の
新株引受権に関する
事項、それから
会社の解散、
会社の継続及び
会社の合併に関する
事項、こういうのが
特別決議として本法に
規定されておる
事項でございます。これが本法に定められておりまする
事項でありまして、
総会の権限でありまするが、
定款によりまして、更にこの法律の定める権限以外の
事項を
株主総会の権限に属せしめますることは一向差支ないのでございまして、この点
会社の自由なる判断に任せておるわけであります。
次に二百三十一條を御説明申し上げます。
現行法によりますると、
総会の
招集は本法に別段の定めのある場合を除きまして、
取締役がこれを決定する。
取締役が單独で決定いたしますると、旧法におきまして弊害を見ましたように、同時に数個の
総会が
招集されるという虞れもございまするので、
現行法では、二百三十六條の
規定を設けまして、
取締役の
過半数の
決議によるということにいたしておるわけですが、
改正商法案におきましては、
取締役会というものを採用いたしました関係上、
現行法の
取締役の
過半数の
決議に代えまして、
取締役会によ
つて招集を決定するということにいたしたのであります。「
本法ニ別段ノ定アル場合」とありまするのは、申し上げるまでもないことと思いますが、四百三十條の二項におきまして、清算中の
会社におきましては
清算人、それから二百三十七條におきまして、
少数株主に
総会の
招集権を認めておる。それから二百九十四條の三項におきまして、
裁判所の命令によ
つて総会を
招集する場合などはこの特別の定に当るわけであります。
次に二百三十
五條は、別段申上げることはないと思います。
現行法におきまして、この二項におきまして、
監査役も
臨時総会を
招集することができることを
規定しておりまするが、
監査役を廃止いたしましたので二百三十
五條の二項を削除いたしたわけでございます。
次に二百三十六條を削除いたしましたのは、先程申しましたように、
株主総会は
取締役会においてこれを
招集を決定することになりましたので、二百三十六條の
規定は必要がないことになつたわけであります。
次に二百三十七條でございますが、これはいわゆる
少数株主による
総会の
招集でありまして、
現行法によりますると、資本の十分の一以上に当る
株主は会議の目的たる
事項及び
招集の理由を記載したる書面を
取締役に提出して、
総会の
招集を
請求することができるということになつておりまするのを改めまして、「
発行済株式ノ総数ノ百分ノ三以上ニ当
ル株式ヲ有スル」
株主に
招集権を認めたわけでございます。第二項は字句の整理でございまして別段申上げることもないと思います。第三項は
現行法の二百三十
五條の、この二項の後段の
規定をこちらに移したものでございまして、同趣旨でございます。そうして
現行法の二百三十七條の三項は、私のこの総括的の説明のときにも申上げましたように、
総会招集のこの費用を
株主の負担とするということは、
株主の権利を保護する上におきまして適当でございませんし、又
総会というものの性質上
会社が負担するのが当然と考えまして、三項の
規定を削除いたしたわけでございます。
二百三十八條は、
監査役を廃止いたしまして、
会計監査役を認めましたのに伴いまして條文の字句の整理をいたしただけでございます。
次に二百三十九條でございまするが、これも一般的な説明のときに申述べましたように、
総会につきまして
定足数の定めをいたしたわけでございます。即ち本法又は
定款に別段の定のある場合を除きまして、
発行済総株数の
過半数に当る
株式を有する
株主が出席しなければ
総会を開くことができないし、又その
決議は
議決権の
過半数を以てこれをするということにいたしたわけでございます。それから
現行法におきましてもこの代理人による
議決権の行使は認めまして、その場合にこの
委任状、いわゆる
代理権を証する書面を
会社に差出することを要件といたしておるのでありまするが、この
委任状が包括的に與えられましたり、或いは数回の
株主総会に利用されましたりする実情があるやに承わりまするし、さようなことがありますると、
理事者の専断によりまして
議決権を濫用されるという虞れもありまするので、
代理権の授與は
総会毎になさなければならないという定をいたしたわけでございます。即ち二百三十九條の第四項の
規定でございます。
次に二百四十條でございまするが、これは第一項は、
現行法の三百四十四條の一項と同趣旨でございます。即ち「
総会ノ
決議ニ付テハ議決権ナキ株主ノ有
スル株式ノ数
ハ発行済株式の
総数ニ之
ヲ算入セズ」ということにいたしておるのでございます。本
法律案によりますると、二百三十七條の一項によりまするこの
総会招集の
少数株主の権利、或いは二百五十六條の二にございます
取締役の
選任決議における
定足数に関する問題、或いは二百六十四條の二項に
規定いたしておりまする
取締役の競業に対する
総会の認許の場合、或いは二百六十六條の五項にございまする
取締役の
自己取引に対する責任の免除に関する場合、或いは三百四十三條の一項、三百四十
五條の二項に
規定がありますが、いわゆる
特別決議につきまして、それぞれ一定の
発行済総数の一定の割合による
株式を有する
株主の出席を要件といたしておりまするが、その場合におきまする
発行済総株数の中にこれを算入をいたさないという取扱をいたすことになるわけでございます。第二項は、別段御説明を申上げるまでもないと思いまするが、この
総会の
決議につきまして、特別の
利害関係を有するものの
議決権の数は、前項の
議決権の数の中にこれを算入しないということにいたしておるのでございまするが、これは
現行法通りでございます。
次に二百四十一條でございます。第一項は、各
株主は一株について一個の
議決権を有するという原則を明らかにいたしまして、一切の例外を認めないことにいたしたのでございます。
議決権尊重の建前から申しまして、
現行法にありまするような、
定款による制限をいたすことを適当と認めない次第でございます。第二項は別に申上げることはございません。
次に二百四十二條でございますが、これはいわゆる
議決権のない
株主に関する
規定でございます。
会社が数種の
株式を発行する場合におきまして、
定款を以て利益の配当に関し、
優先的内容を有する種類の
株式を発行いたすことがあるのでございまするが、その場合に、その
優先的利益配当を受くる種類の
株式につきまして、完全に
議決権を與えないことができるわけでございます。
現行法におきましては、
議決権のない
株式というものを認めておりますが、これは必ずしも法律上の
優先株に限りません。如何なる種類の
株式につきましても
議決権は與えないという定をいたすことができるわけでございますが、
改正案におきましては、
議決権のない
株式は
優先的待遇を受ける
株式に限るということにいたしたのでございます。と同時に、若しその
優先株式が
定款に定めるような優先的な配当を受けなか
つた場合には、
議決権が当然復活するということにいたしたのでございます。即ち但書にございまするように、「其ノ
株主ハ定款ニ定
ムル優先的配当ヲ
受ケザル旨ノ
決議アリタル時
ヨリ其ノ
優先的配当ヲ
受クル旨ノ
決議アル時迄
ハ議決権ヲ有ス」ということにいたしたのでございます。これは従来から論ぜられたところでありまして、
株主の権利として
議決権を高度に尊重すると同時に、
優先株主が
議決権のないことによりまして、不当の待遇を受けることがないことを保障いたしまするためには、この但書の
規定は適切な
規定ではなかろうかと考える次第でございます。
二百四十四條につきましては別段申げることはございません。
次に二百四十
五條でございます。これは
総会で
特別決議を要すべき
事項として定められたものでございまするが、
限行法によりますると、営業の一部の譲渡につきましても
特別決議を要するということになつておるのでありまして、一部の譲渡の中には、極めて部分的な営業、全般から見ますると、軽微な譲渡でありましても、
総会の
決議を経なければならないということは、やはり行過ぎと考えまして、営業の全部の譲渡或いはこれに準ずるような重要なる一部の譲渡に限りまして、
総会の
特別決議を要するというふうに改めたのでございます。それから四号には
取締役又は
監査役の責任の免除に関する
規定を定めておりまするが、
取締役、
会計監査役につきまして、
総会の
特別決議による免除ということを認めることが適当でないと考えましたので、これは削除いたしたわけでございます。次に二百四十
五條の
現行法の二項によりますと、二項は、
取締役に対する訴えの提起に関する
規定を準用いたしておるのでありまするが、これは
代表訴訟を認めました結果、全然必要がございませんので削除いたしたわけでございます。次に二百四十
五條の二項といたしまして新らしく、前項の行為の要領は二百三十二條、即ち
会社の
総会招集の通知若しくは公告の中に前項の行為の要領を記載することを要するという
規定を設けたのでございまするが、これは四百八條の二項におきまして、
会社の合併の際に、
合併契約の要領を事前に通知いたすという
取扱いをいたしておりまするのに対応いたしまして、問題が重大でありまするが故に、予め
株主にこれを知らしめるという手続をとることが適当ではないかと考えて、かようにいたしたわけでございます。又これは後に御説明申上げまするように、
株主の
買取請求権を認めました関係から申しましても、又かような一般的な通知、公告を必要と考えたわけでございます。
次に二百四十
五條の二から二百四十
五條の四迄でございまするが、これは
株主の
買取請求権に関する
規定でございます。
株主の
買取請求権につきましては、先般総括的な御説明のときに一応この根本の趣旨を申上げましたので、これは省略さして頂きまして、ここに
規定されておりまする手続に関する概要を御説明申上げたいと思います。買取の
請求をいたしますためには、二百四十
五條の
決議をなすべき
株主総会に先立ちまして
会社に対して書面を以てその行為に反対であるという意思を予め通知いたすことが第一番に必要になるわけでございます。この反対の事前の
意思通知と同時に、
総会におきまして
反対投票をするということが必要になるわけでありまして、この二つの手続を行いました
株主は、
会社に対して自己の持株を公正なる価格を以て買取るべき旨の
請求をいたすことができるわけでございます。
買取請求をいたしますることは、
会社がこの
決議後におきましても尚存続するということを要するのでありまして、若し
会社がこの営業の譲渡と同時に解散の
決議をいたすということになりますると、
清算手続に入りまして、残余の財産の分配という手続をいたすわけでありまするから、
買取請求をいたさせる必要はないわけでございます。従いまして二百四十
五條の二に但書の
規定を設けたわけでございます。
買取請求は
決議の日から二十日に持株の種類及び数を記載いたしました書面を
会社に提出してなさなければなりません。この場合に問題になりまするのは、価格の決定であろうかと考えまするが、この価格は、若し
会社におきまして、二百四十
五條の
決議がなかつたならば、その
株式が有したであろう推定的な価格であつて、而も
一般的判断におきまして、妥当、公正と考えられる価格であることを要するわけでございます。その価格につきまして、
会社との間に協議が調いました場合に、
会社は
決議の日から九十日内に
株式の
買取代金を支拂わなければならない。若し
決議の日から六十日内に協議が調わないときには、
株主はその六十日の経過後三十日内に
裁判所に対して価格の決定を
請求いたすことができるということにいたしたわけでございます。この
裁判所における手続は、非訟事件として取扱われるわけでありまして、
裁判所は諸般の事情を斟酌せられまして、適当なる価格の決定をなさるであろうと考えております。
裁判所が価格の決定をいたします場合には、
決議の日から九十日内に
株式の代金を支拂うべき義務を
会社が負担いたしておるわけでございまするから、その経過後の
法定利息をも加算して支拂うことを命ぜられるわけでございます。
株式の買取は然らばいつ效力を生ずるかという問題でございまするが、これは代金の支拂の時期において
株式移転の效力を生ずる、代金の支拂は株券と引換になさなければならないという
規定を設けたわけでございます。
買取請求は成るべく事柄を敏活に処理する必要がございまするし、又
会社が二百四十
五條に掲げまする行為を中止いたしましたような際には、
買取請求をいたさせる
根本原因がなくなつたわけでございまするから、二百四十
五條の四の
規定を設けまして、二百四十
五條第一項に
掲ぐる行為を
会社がみずから中止したときには、
買取請求は遡
つて努力を失うということにいたしまするし、又二百四十
五條の三項、即ち
裁判所に対して
請求をいたさないという場合にも、又
買取請求に遡
つて效力を失うということにいたしたわけでございます。
次に二百四十六條、二百四十七條は別段御説明申上げることもないと思います。
二百四十八條は、
株主総会の
決議取消の訴の
提起期間の点を改めております。
現行法によりますると、
決議の日から一ケ月内に訴を提起することを要するということにいたしておりますが、一ケ月の期間はやや短きに失するのではないか、
株主の権利を保障するという意味におきまして、この期間を伸長して三ケ月に改めてわけでございます。
次に二百四十九條を削除いたした点について御説明いたします。
現行法の二百四十九條によりますると、「
株主ガ決議取消ノ訴ヲ
提起シタルトキハ会社ノ
請求ニ依
リ相当ノ担保ヲ
供スルコトヲ要ス但シ其ノ
株主ガ取締役又
ハ監査役ナルトキハ此ノ限ニ在ラズ」、ということにいたしまして、
会社の
請求がある場合には訴を提起いたしました
株主は相当の担保を供すべき義務を認めておるのでありまするが、若しこの担保を提供いたしませんで訴を提起いたしますると、
裁判所は
民事訴訟法の百十七條、百十四條の
規定によりまして、
口頭弁論を経ないで判決を以て訴を却下し得るわけでございます。
株主の提起は、自分の個人的な利益を擁護するための訴ではありませんで、飽くまでもいわゆる
共益権に基く訴でございまするが故に、その訴の提起につきまして担保を提供せしめるということにいたしましたのでは、
株主の訴提起の事実上の権利が妨げられ、又場合によつては奪われるという事実上の結果を伴う虞れもありますので、
株主の権利を保護する意味におきまして、二百四十九條を削除いたしたわけでございます。二百四十九條の
規定は、
決議取消の訴のみではございませんで、
決議無効確認の
訴或いは
決議取消変更の訴、二百五十二條或いは二百五十三條の訴、その外減資無効の訴にも準用いたされておるのでございまして、二百四十九條の
規定を削除いたしますることは、相当重大な意義を持つものと考えます。
次に二百五十一條の
規定でございますが、これも前に御説明申上げましたように、かかる
裁判所の
裁量権を法文の
規定に上に掲げますことは適当でないと考えまして削除いたしたわけでございます。
裁判所が当該の事案を公正に判断せられまして、法律の解釈といたしまして、原告の
請求を棄却せられるということは毫も差支ないわけでございまするし、その意味におきまして
裁判所に公正な
裁量権がありますることはもとよりでありまして、これをも奪う趣旨でないことは申上げるまでもないと考えます。
次に二百五十二條でございますが、これは先程申しましたように二百四十九條の
規定に準用を削つただけでございます。います。
二百五十三條も同様でございまして、二百四十九條の準用を削除いたしたわけでございまして、その外別段あとは字句の整理でございまして申上げることはございません。
次に
取締役及び
取締役会に関して御説明申上げます。二百十五四條につきましては、第二項におきまして「
会社ハ定款ヲ
以テスルモ取締役ガ株主タルコトヲ要
スベキ旨ヲ定
ムルコトヲ得ズ」という
規定を新設いたしたのでございまするが、これは総括的な御説明のときに御説明申上げましたので省略いたします。
二百五十四條の二は、
取締役の
職務遂行の義務を明らかにいたしましたもので、これも別段御説明申上げる必要はないと考えます。
二百五十六條は、
取締役の任期に関する
規定でございまするが、
現行法では
取締役の任期は三年を超えることができないというふうになつておりますのを、期間を短縮いたしまして二年と改めたわけでございます。
取締役の権限は
改正法律におきましては極めて強化いたされましたし、又その
解任は、後程申上げまするように、
特別決議という極めて困難なる
決議を必要とすることにいたしまして、その在任を保障するという
取扱いをいたしましたのに鑑みまして、三年の期間はやや長きに失するのではないか、アメリカの多くの立法の実例を申上げますると、一年となつておるのに照しまして、二年と改めたわけでございます。言い換えれば
株主総会におきまして
取締役の信任を問う機会を早く来らせるのが適当ではないかと考えたわけでございます。次に最初の
取締役につきましては、
現行法は別段の定をいたしておりませんで、
会社成立のときからやはり三年までは存任できるわけでございまするが、最初の
取締役は
設立過程において選ばれるという関係、殊に
総立総会において選任されるのでありまして、その
創立総会におきましては、いわゆる
累積投票の採用をいたさないことにいたしておりますので、最初の
取締役につきましては、これを一年と定めまして、特に信任を問う会機を早く與えるということが適当ではないかと考えたわけでございます。第三項は
現行法通りでございまして別段申上げることもございません。
二百五十六條の二は、
取締役の選任の
決議に関する
規定でございます。これもすでにたびたび申上げましたので説明を省略させて頂きます。
次に二百五十六條の三は、いわゆる
累積投票に関する
規定でございます。
累積投票につきましてはいろいろ論議も多かつたところでございまして、この
規定を定めますにつきましても大いに苦慮いたしたわけでございます。第一項は、又
取締役の選任を目的とする
総会の
招集があつたときには、
株主は
会社に対して会日より五日前に書面を以て
累積投票を
請求することができる、言い換えれば、
総会の当日になりまして突然
累積投票の
請求をするというふうなことになりますると、他の
株主に思わない損害と申しまするか、思いがけない事態を生ぜし
むる虞れもございまするので、
累積投票につきましては、必ず会日より前に書面で以て
会社へ
請求をする、そうしてこの
請求がありました場合には、この会日におきましては、議長は議決に先立ちまして、
累積投票のあつた旨を宣告したければならないということにいたしたのでございます。四項の
規定でございます。そうして果してその
請求があつたかどうかということが問題になることもあり得るかと考えましたので、その
請求の書面は
総会の終結に至るまで本店に備え置きまして、
株主の閲覧に供するということにいたしたのであります。第五項の
規定でございます。第二項と第三項は
累積投票の効果に関する
規定でありまして、即ち
累積投票の
請求がありましたときには、
取締役の
選任決議につきましては、各
株主は自己の持株に付き選任せらるべき
取締役の数と同数の
議決権を有する、この
議決権は一人の
候補者に対して集中して投票することも許されるし、且つ二人以上に分散投票してその権利を行使することができるのでございます。で
累積投票の結果は、投票の
最高点を得ました者から順次
取締役の数に
滿つるまで選んで参りまして、そうして得点の多い者から
取締役の定数に達するまでの
候補者が
取締役に選任されるわけでございます。
二百五十六條の三は、
累積投票の原則的な
規定でございまするが、
会社によりましてはそれぞれ特別な事情を持つた
会社もありまするので、
累積投票によらないことを適当とする
会社もあるわけであろうかと考えまして、二百五十六條の四において、
会社は
定款を以て
取締役の選任につき
累積投票によらざることを定むることができることといたしたのございます。尤もこの場合におきましても、
発行済総株数の四分の一以上に当る
株式を有する
株主から
請求があります場合には、
定款の
規定に拘わらず必ず
累積投票をなさなければならないということにいたしたのでございます。これは
苟くも発行済総株数の四分の一の多数の
株主から
累積投票によりたいという要望がある場合に、これを尊重することは妥当と考えましたので、この
規定を置いたわけでございます。
次に二百五十七條でございまするが、これは
取締役の
解任に関する
規定でございます。第一項は
現行法通りでございまして、別段申上げることはございません。第二項は
現行法におきましては
取締役の
解任は
通常決議によるわけでありますが、
取締役の地位を保障する意味におきまして大多数の不信任がない限り
解任できない。即ち
解任の
決議は
特別決議によるということにいたしたのでございます。併し如何なる場にも必ず
特別決議によらなければならないということになりますと、多数の
株主と結託いたしまして
取締役が
不正行為を遂行する、
定款違反の行為を行な
つた場にも
解任できないということになるのでありまして、かかる場合には特別の
解任方式を認めることが適当といたした次第でございます。よつて第三項を
盛つたわけでございます。即ち「
取締役ノ
職務遂行ニ関シ不正ノ行為又
ハ法令若
ハ定款ニ違反スル重大ナル事実アリタルニ拘
ラズ株主総会ニ於テ其ノ
取締役ヲ
解任スルコトヲ否決シタルトキハ発行済株式ノ総数ノ百分ノ三以上ニ当
ル株式ヲ有
スル株主ハ三十日
内ニ其ノ
取締役ノ
解任ヲ
裁判所ニ請求スルコトを得」、即ち
発行済総株数の百分の三以上に当る
株式を有する
株主は、
取締役解任否決の
総会決議後三十日以内に
裁判所に対して
解任の
請求ができる、
解任の訴をすることができるということにいたしたのでございます。この訴は本店の所在地を管轄する
裁判所の
専属管轄といたしまして、訴が区分に提起されることを防ぐことを適当と考えまして八十八條の
規定をこの訴に準用いたすことといたしたのであります。この訴は申すまでもなく
少数株主が原告となりまして、被告は
取締役でございます。判決の結果によりまして
解任の効力を生ずるというのでありまして、いわゆる形成判決になるわけでございます。形成判決は判決の性質上第三者に対してももとより効力を生ずるわけでありまして、
会社及びすべての第三者に対してこの
解任の判決は効力を有するわけであります。併し訴を起しましたのに拘わらず、判決あるまで依然
取締役がその任におりますと、
会社に又不測の損害を生ぜしめる虞れもありますので、後に申上げますように、二百七十條におきまして
解任の訴の提起がありました場合には、本案の管轄
裁判所は
取締役の職務執行を停止し、又は代行者を選任するという仮処分ができることといたしたのでございます。
二百五十八條は別段申上げるまでもございません。
監査役の廃止に伴う條文の整理に過ぎないのであります。
二百五十九條以降は、二百五十九條から二百六十一條ノ二までは、
取締役会に関する
規定でございます。総括的な説明の時に申上げましたように、
改正法律案は、
会社の
業務執行の機関といたしまして、この
取締役会という会議体を
会社の機関として採用いたしたのでございます。この
取締役会は会議体でありまして、正式な
招集によつて開かれることといたすのが適当と考えまして、二百五十九條におきましては、
招集権者に関する
規定を設けたのでございます。即ち
取締役会は、各
取締役がこれを
招集いたすことにいたしたのであります。尤も
取締役の中には、後に申上げますように、
会社を代表すべき代表
取締役と、然らざる
取締役があるのでありまして、
会社の代表
取締役が
会社を代表すると同時に、
会社の内部関係におきましては、
会社の業務を現実に執行する機関となることから考えますると、一般には代表
取締役が
取締役会を
招集するのが通常の事態になるのではないかと思います。そこで但書を設けまして、
取締役会におきまして
招集をなすべき
取締役を定めることを認めたわけでございます。この定がない限りは、各
取締役が
取締役会を
招集いたすわけでございます。
次に、会議体でありまするが故に、
招集の通知を必要とすると考えまして二百五十九條ノ二の
規定を設けたのでございます。即ち「
取締役会ヲ
招集スルニハ会日ヨリ一週間前ニ各
取締役ニ対シテ其ノ通知を発スルコトヲ要ス」、この一週間という期間は、一応この法律で定めましたけれども、
会社には大小さまざまございますし、又
取締役の員数も法定数以上であれば、これは制限がございませんので、
会社の実情によりまして、一週間の期間は長きに失するということになれば、これを短縮することを認めるのを適当かと考えまして、但書を置いたのでございます。この
招集の通知には
取締役会の開催せらるべき日にちと場所を通知すれば足りるものと考えております。いわゆる会議の目的たる
事項、議事日程というものは必ずしも掲げることを必要としないと考えます。
又
取締役会は会議体と申しましても極く少人数の会議体でありまするが故に、二百五十九條ノ三の
規定を設けまして、全員の同意のあるときには正式の
招集の手続を経ないでも随時会議を開くことができるということにいたしたのでございます。これは有限
会社法の三十八條の
規定と同趣旨の
規定でございます。
二百六十條は別段申上げることもないと考えます。
二百六十條ノ二におきまして
取締役会の
定足数と
決議要件とを
規定いたしたのでございます。即ち
取締役会は原則として
過半数の
取締役が出席しなければならない。そうしてその
決議は「
取締役ノ
過半数ヲ以テ之ヲ為ス」ということにいたしております。「但シ
定款ヲ以テ此ノ要件ヲ加重スルコトヲ妨ゲズ」ということにいたしたのでございます。やや
取締役会の
決議の方式が嚴格に過ぎるのではないかという反対意見もあろうかと思いまするが、
取締役会というものの
会社における極めて重要なる権限に鑑みますると、少くとも
過半数の出席を必要とするし、又
過半数を以て
決議をするということは当然なことではないかと考えます。多少論議になるかと思いまするが、この
決議は、原則といたしまして必ず会議によることを要するのでありまして、通例行われておりまするような持ち廻りの書面による
決議というものは認めない方針でございます。と申しまするのは、一般に会議体はそうでございまするが、会議体に対して大きな権限を設定いたしまするのは個々の人の知識、経験、判断、意見というものを尊重いたすのではありませんで、個々の人の集たつた会議におきまして、その衆智を盡して意見を交換する、そうして衆智の集つた経験と意見の交換によりまして導き出されたところの結論である判断採用というものに、法律は特に重い価値を置いておるわけでございまするから、個々の意見の表明に過ぎないようなこの書面による持ち廻り
決議というものは、この会議に代るべき性質のものではないと考えます。次に
取締役会には代理人の出席が許されるかということも多少問題になるかと思いまするが、これは
取締役会の性質上、代理人は許されない。
株主総会におきましても特段の
規定がなければ代理は許されないわけでありまするが、これには特別の
規定を設けておるのにも照らしまして、
取締役会の会議におきましては代理人の出席は許されないと考えております。それから二百六十條ノ二の二項は、
決議に特別の
利害関係ある
取締役は
議決権を行使することができないことといたし、又その
取締役はこの定数に算入しないということにいたしまして、二百三十九條第五項及び二百四十條第二項の
規定を準用することといたしたのでございます。
二百六十條ノ三は省略さして頂きますのは、議事録に
取締役が署名をいたさなければならないということでございます。而もこの署名につきましては、後程二百六十六條のところで御説明申上げまするが、
決議に賛成したものであるかどうか、反対であるかどうかということを明らかにいたしまして署名をいたすことが必要であると考えております。
二百六十一條は代表
取締役に関する
規定でございます。
取締役会は
業務執行機関でございまするけれども、会議体というものの性質上、一切の
会社の業務につきまして、言い換えれば常務についても一々会議を経なければ事務が行えないというのでは行過ぎと考えまするので、常務を執行する機関といたしまして代表
取締役を選ぶことにいたしたのであります。この代表
取締役は
会社の内部におきましては、業務の現実の執行機関であると同時に、
会社外の関係におきましては、
会社を代表すべき機関となるわけであります。現在でも
会社を代表すべき
取締役を
定款で定めることを認めておりまするし、数人の代表
取締役を選ぶことを認めておる次第でありまするが、これは任意の定に過ぎないのであります。ところが新法におきましては、代表
取締役を選ぶことは
取締役会の義務でありまして、代表
取締役の選任がなければ設立の登記ができないわけでございます。三項は別段申上げることもないかと思いまするが、代表
取締役の一人に対してなされたる意思表示は、
会社に対して効力を生ずることにいたし、又代表
取締役は
会社の営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をなす権限を有することを明らかにし、又代表
取締役の員数を欠くに至りました場合、任期の満了又は辞任によつて退任した代表
取締役は新たに選任せられた代表
取締役が就職するまで代表
取締役としての権限を有するということにいたしまするために、三十九條の二項、七十八條、二百五十八條等の
規定を準用いたすことにいたしたのでございます。
次に二百六十一條の二は、
会社が
取締役に対し、又は
取締役が
会社に対して訴を提起する場合における
会社の代表関係を
規定いたしたのでございます。これは
利害関係が衝突する虞れもありまするので、特にこの場合には
取締役会の定むる者が
会社を代表することにいたし、又
株主総会は
会社を代表すべき者を定めることができるということにいたしたのでございます。
次に二百六十三條は、書類の備え置きの義務でございまするが、
取締役は
定款並びに
総会及び
取締役会の議事録を本店及び支店に、
株主名簿及び社債原簿を本店に備えて置くことを要することといたしたのでございます。そうして
会社が
定款を以て名義書換代理人を置くということを定めました場合は、
株主名簿若しくは社債原簿又はその複本を名義書換代理人の営業所に置かなければならないということにいたしたのでございます。
株主及び
会社の債権者は、この
現行法通り、前項に掲ぐる書類の閲覧又は謄写を求めることができるということにいたしたのであります。謄写を求める権利を認めましたのは
現行法にない点でございます。
次に二百六十四條でございますが、これはいわゆる
取締役の
競業禁止に関する
規定でございます。
取締役と
会社との間の利害の衝突による
会社利益の侵害を防ぐために、
現行法は
競業禁止を認めておりますが、この建前を承継いたしたのでございます。この禁止の解除は、
現行法通り株主総会の認許によつて行われるのでありますが、その認許を得るためには、特に取引の内容につきまして重要な事実を開示しなければならないという義務を
取締役に與えたのでございます。そうしてこの
現行法によりますると、この認許は普通
決議によつて行われるのでありますが、認許の性質の重大なことに鑑みまして、一種の格別の
決議の方法によることにいたしたのでございます。これは
発行済株式の総数の三分の二以上の多数を以てなすということにいたしたのでございます。
発行済株式の総数の三分の二以上でございまするから、いわゆるこの特剔抉議よりも要件が遙かに重いわけでございます。
取締役が
総会の認許を得ませんで競業をいたしました場合に、
株主総会はいわゆる
介入権を有するのでありますが、これはやはり
現行法通り認めた次第でございます。その権利は取引のときから一年を経過したときには消滅するということにいたしたのでございます。尚
現行法によりますると、
取締役が同種の営業を目的として他の
会社の無限責任社員若しくは
取締役となるにつきましても、
株主総会の認許を要するということになつておりまするが、同種の営業を目的とする他の
会社の無限責任社員又は
取締役となりますことは、いわゆる私的独占禁止法の十三條によりまして禁止された
事項でありまするので、
改正法律案においては、この
規定を削除いたしたのでございます。
次に二百六十
五條は、いわゆる
自己取引に関する定でございます。
現行法におきましては、
取締役が
会社の利益を犠牲にして私利を図るということを防止するために、特に
監査役の承認がある場合に限つて、
自己取引ができるということにいたしておりますが、
監査役が廃止せられましたので、
取締役会の承認を得ることといたしたのであります。と同時にこの取引の内容を、
会社の製品その他の財産を譲受けたり又は
会社に対し、自己の製品その他の財産を譲り渡す、或いは
会社より金銭の貸付を受けるといつたような、取引の内容を具体的に掲げまして、特に禁止せらるべき取引を明らかにいたした点が、
現行法と異つている点でございます。
次に二百六十六條でございまするが、これは
取締役の損害賠償或いは金銭支拂の責任を
規定いたしたものでございます。
現行法におきましては、債務不履行一般として包括的に
規定されておりまするのを、成るべく
会社に対して損害を與える虞れの多い
事項を例挙いたしまして、その責任の範囲を明確にいたしたのが、この
規定の
現行法と異るところでございます。即ち二百六十六條の一項の各号に掲げる行為を為したる
取締役は、
会社に対して連帶して責任を負うということを明らかにいたしたのでございます。先ず第一番にこの責任を負いまするのは、二百九十條第一項の
規定に違反する利益配当、俗に申しまするタコ配当による損害を賠償するという責任を認めたのでございます。二百九十條の第一項の
規定に違反いたしました利益の配当を行なう議案を
総会に提出いたしまして、
総会においてその議案が可決されて利益配当が行なわれました場合には、その配当は不当な配当といたしまして、
会社は
株主に対して返還
請求をいたすことができるわけでありまするが、返還
請求をした事例は殆んどございませんし、又善意の
株主に対しても尚返還
請求を認めるべきであるかどうかということは、多少異論のあるところではないかと考えます。本来いわゆるタコ配当に関する第一次的な責任は、
取締役が負うべきものでありまするが故に、先ず
取締役に対して責任のあることを明らかにし、その損害賠償の範囲を明らかにいたしたのでございます。即ち配当せられました金額につきまして、
取締役が連帶して責任を負うということにいたしたのでございます。二号は、これも
会社によりましては起りがちのことかと思いまするが、他の
取締役に対して金銭を貸付けるという場合に、その
取締役から弁済を得ない金額について責任があることを明らかにしたのであります。三号は、
株主総会の認許を得ませんで競業をいたしまして、これによつて損害を與えた場合に、
取締役に責任がある。四号は、
自己取引をなした場合に、それによつて損害を生じたときに、その損害額について責任を負う。五号は、これは
現行法にありますように、法令、
定款に違反する行為を為して
会社に損害を與えた場合、
取締役は連帶して責任を負うということになるのでございます。
取締役が連帶して責任を負うという場合に、その如何なる範囲の
取締役が責任を負うかということが問題になりまするので、第二項を設けまして、
取締役会の
決議に基いて行為が行われた場合には、その
決議に賛成した
取締役のみが連帶して責任を負うということを明らかにいたしたのでございます。若し議事録に賛否が明らかでない場合には、苟くも会議に参加した
取締役であれば、その
決議に賛成したものと推定することにいたしまして、
取締役の
決議における態度を、一方成るべく明確にすることを期待いたしますると同時に、異議を止めなかつた
取締役についても責任を認めることにいたしまして、責任の範囲を拡げたわけでございます。次に四項は、前にもしばしば申上げましたように、
取締役の責任は総
株主の同意がなければ免除することができないと
規定いたしたものでありまして、第五項は、
自己取引につきましては、取引の重要なる事実を開示して
株主総会において免除し得ることを
規定いたしたのでございます。
自己取引は、取引自体といたしましては、毫も違法なものではございませんで、一定の取引について要件を要求しておるだけでありまするし、又実際問題といたしましても、
取締役と
会社との間に取引が行われる必要のあることはしばしばでありまするし、この場合に
発行済株式の総数の三分の二以上の多数を以て責任を免際し得ることは適当と考えまして、これを唯一の例外としてこの
規定を置いたわけでございます。尤も
計算書類の承認に関係いたしまして、二百八十四條は責任解除の
規定を設けておりまするが、これはやはり
改正法律案におきましても存置いたすことにいたしたのでございます。
二百六十六條の二は、
取締役が二百九十條第一項の
規定に違反する利益配当をいたしましてその責任に任じました場合に、悪意の
株主に対しましては求償権を行使せしめるのが適当と考えまして、この
規定を置いたわけでございます。本当タコ配当によりまして利益を得ておりますのは、
取締役ではなくて
株主であるのでありまするので、悪意の
株主に対しては求償権を行使せしめるのが適当と考えまして、この
規定を置いたのであります。この
規定の反射的な效果といたしまして、善意の
株主が
取締役に対しても求償する義務がないこととなるわけでございます。
二百六十六條の三は、
取締役の第三者に対する責任を
規定したものでございます。即ち
取締役が職務を行うにつきまして、悪意又は重大なる過失があつたときには、その
取締役は第三者に対しても連帯して損害賠償をしなければならんことを明らかにしたのであります。
現行法は法令、
定款違反ということに
規定いたしておりまするが、
改正法律案におきましては、任務懈怠一般についてこの責任をとりますと同時に、主観的責任原因を悪意又は重大なる過失に限定したわけでございます。尚
株式申込証、社債申込証、目論見書、それから二百八十一條に掲げまするいわゆる
計算書類、それから二百九十三條の五にありまする附属明細書、そういうものは
会社の内容、状態、或いは財産、業務の状況に関する一つの公示的な性質を持ちまする書面でございまして、この書面に真実が記載されなければならないのは、
会社が公示の建前をとつておりまする原則上当然だと考えますので、苟くもこれらの書面に虚僞の記載をする、或いは虚僞の登記をする、若しくは公告をするという場合には、
取締役に第三者に対する絶対責任を認めたわけでございます。この場合に悪意若しくは重大なる過失の部分はとりませんで、苟くもこの事実がある場合には、
取締役が第三者に対して法律上当然責任を負うこととなるわけでございます。
二百六十七條から二百六十八條ノ三までは、
取締役の責任を追及する訴、いわゆる
代表訴訟に関する
規定でございます。先ず二百六十七條を御説明申上げますると、
株主は
会社に対して
取締役の責任を追及する訴を提起すべき旨を書面を以て
請求することができるといたしまして、
会社がその
請求の日から三十日以内に訴を提起しないとき、又三十日の期間を待つておつたのでは
会社に回復すべからざる損害を生ずる虞れがあるという場合には、
株主はみずから
会社のために訴を提起することができることといたしたのでございます。この訴は本店の所在地を管轄する地方
裁判所の
専属管轄といたしましたし、
株主又は
会社は何時でも前項のこの訴に参加することができることといたしたのであります。但し参加したために不当に訴訴が遅延する、或いは徒らに
裁判所の負担を加重せしめるという場合には、参加を認めないことにいたしたのでございます。又この
代表訴訟の提起されました場合には、遅滞なく
会社に対して訴訟の告知をすることといたしたのでございます。これが二百六十八條の
規定でございます。
次に二百六十八條の二でございまするが、代表訴におきまして原告が勝訴いたしました場合には、この訴訟は
株主個人の利益のためでありませんで、
会社のために訴を提起したものでありまするが故に、弁護士に支拂うべき相当なる報酬額について、
会社にこれを負担せしむるのが適当と考えまして一項の
規定を置いたわけでございます。
株主が敗訴いたすことももとよりあり得るわけでございまするが、この場合には悪意の
株主に限つて
会社に対して損害賠償の責を負わしめることにいたしたのでございます。この相当報酬額の支拂を求めることと、悪意のある場合に損害賠償に任ずるということは、訴訟に参加した
株主につきましても認める必要があると考えまして、三項の
規定を置いたわけでございます。
尚この
代表訴訟は、原告と被告とが共謀いたしまして馴合訴訟をいたしまして
会社の利益を浸す虞れもありまするので、これを防止する意味を以ちまして、馴合訴訟の判決に対しましては、再審の訴を以てこの不服を申立てることができるということにいたしたのでございます。これが二百六十八條の三でございます。
次に二百七十條でございまするが、これ先程も申しましたように、
取締役の
解任の訴を加えまして、
取締役の
選任決議の無效若くは取消又は
取締役の
解任訴の提起ある場合におきましては、管轄
裁判所は当事者の申立によつて、仮処分を以て
取締役の職務の執行停止又は代行者を選任することができるといたしたのでございます。この
規定を設けましたことによりまして、
現行法の二百七十條は必要がなくなりましたので、これは削除いたしたのでございます。
二百七十條に新らしく
規定を設けました。即ち、「
取締役ガ
会社ノ目的ノ範囲内ニ在ラザル行為其ノ他法令又
ハ定款ニ違反スル行為ヲ為シ之ニ困リ
会社ニ回復スベカラザル損害ヲ生ズル虞アル場合ニ於テハ
株主ハ
会社ノ為
取締役ニ対シ其ノ行為ヲ止ムべキコトヲ
請求スルコトヲ得」という
規定を設けたのでございます。これはいわゆるウルトラ・バイアレスの
規定でございまして、アメリカ法に広く認められておりますインジヤンクシヨンの制度を採用いたしたのであります。
会社は
定款に定める一定の目的を目的といたしまして設立されたものでございまして、各
株主はその目的のために一定の金額を出資いたしているわけでございますから、
会社の目的というものは、
取締役が業務を執行いたしますのにつきましては、極めて重大なる制限を持つのは当然でございます。にも拘わらず
取締役がその目的の範囲を超えて業務を執行した、或いは法令又と
定款に違反する行為をして、それが
会社に回復すべからざる損害を生ずる虞れがある場合は、
株主はこれを拱手して傍観しなければならないというのでは、
株主の権利を十分保護するゆえに反するので、この場合に
株主は
会社のために
取締役に対してその行為を差止めるという方式をとるのが適当ではないかと考えておるのでありまするが、この点は十分御検討、御審議を願いまして、或いはこの非訟事件手続について取扱うことが適当であるという御意見になりますならば、非訟事件手続の方を改正いたしまして、適当なる手配をいたしたいと考えます。
次に第二百七十三條から二百八十條までは、
会計監査役に関する
規定でございます。
現行法の業務の監査をいたす
監査役を廃止いたしまして、専ら経理監査をなす
会計監査役を設けることにいたしたのでございます。別段特に御説明を申上げることもないかと思いまするが、二百七十六條の
会計監査役が、
取締役は支配人その他の使用人を兼ねることができない。
会計監査役の職責の成るべく独立であることを必要とすると考えましたので、特にかような
規定を設けたわけでございます。
二百八十條はこの
会計監査役の選任、
会社との関係、それから
解任、責任免除の制限、第三者に対するその責任、責任追及の訴等につきまして、
取締役に関する
規定を準用いたしたものでございます。