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1950-03-11 第7回国会 参議院 法務委員会 第10号 公式Web版

  1. 会議録情報

    昭和二十五年三月十一日(土曜日)   —————————————   本日の会議に付した事件 ○商法の一部を改正する法律案(内閣  送付)   —————————————    午前十時四十五分開会
  2. 伊藤修

    委員長伊藤修君) ではこれより法務委員会を開会いたします。商法の一部を改正する法律案を議題に供します。  昨日に引続きまして逐條審議をいたします。本日は第三節会社機関、第一款株主総会、第二款取締役までを御説明をお願いいたします。
  3. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) それでは本日は二百三十條の二から御説明申上げます。  二百三十條の二は、株主総会の権限規定いたしました基本的な規定でございまして、即ち「総会ハ法令ハ定款ニムル事項ニ限り決議ヲ為スコトヲ得」というこの原則を掲げたわけでございます。この総会の権限につきましては、法務総裁提案理由の説明、或いは私の試みました総括的な説明におきまして、この根本的の趣旨は大体御了解を得たことかと考えます。従来は株主総会会社における最高の機関といたしまして、取締役業務執行に関することにつきましても、一切の指示、監督、命令をなし得たわけでございますが、このたびの改正によりまして、総会は原則といたしまして、法令に掲げた事項限つて決議をなすことができるということにいたしたわけでございます。  改正法案に掲げておりまする総会の権限といたしましては、現行法の建前を承継いたしまして、取締役会計監査役、又は清算人の選任及び解任に関する事項取締役に対する競業禁止の解除及びいわゆる介入権に関する事項、それから取締役自己取引に関する責任の免除に関する事項取締役又は会計監査役の受くべき報酬の決定に関する事項計算書類の承認、利益又は利息の配当に関する事項というのが、この通常決議と申しますから、一般の決議において行われます事項でありまして、特別決議として掲げられたものは、これも現行法の建前を大体踏襲いたしものでございますが、定款の変更、それから営業の譲渡、その外これに準ずべき行為に関する事項事後設立に関する事項授権資本の範囲を拡張いたします際の新株引受権に関する事項、それから会社の解散、会社の継続及び会社の合併に関する事項、こういうのが特別決議として本法に規定されておる事項でございます。これが本法に定められておりまする事項でありまして、総会の権限でありまするが、定款によりまして、更にこの法律の定める権限以外の事項株主総会の権限に属せしめますることは一向差支ないのでございまして、この点会社の自由なる判断に任せておるわけであります。  次に二百三十一條を御説明申し上げます。現行法によりますると、総会招集は本法に別段の定めのある場合を除きまして、取締役がこれを決定する。取締役が單独で決定いたしますると、旧法におきまして弊害を見ましたように、同時に数個の総会招集されるという虞れもございまするので、現行法では、二百三十六條の規定を設けまして、取締役過半数決議によるということにいたしておるわけですが、改正商法案におきましては、取締役会というものを採用いたしました関係上、現行法取締役過半数決議に代えまして、取締役会によつて招集を決定するということにいたしたのであります。「本法ニ別段ノ定アル場合」とありまするのは、申し上げるまでもないことと思いますが、四百三十條の二項におきまして、清算中の会社におきましては清算人、それから二百三十七條におきまして、少数株主総会招集権を認めておる。それから二百九十四條の三項におきまして、裁判所の命令によつて総会招集する場合などはこの特別の定に当るわけであります。  次に二百三十五條は、別段申上げることはないと思います。現行法におきまして、この二項におきまして、監査役臨時総会招集することができることを規定しておりまするが、監査役を廃止いたしましたので二百三十五條の二項を削除いたしたわけでございます。  次に二百三十六條を削除いたしましたのは、先程申しましたように、株主総会取締役会においてこれを招集を決定することになりましたので、二百三十六條の規定は必要がないことになつたわけであります。  次に二百三十七條でございますが、これはいわゆる少数株主による総会招集でありまして、現行法によりますると、資本の十分の一以上に当る株主は会議の目的たる事項及び招集の理由を記載したる書面を取締役に提出して、総会招集請求することができるということになつておりまするのを改めまして、「発行済株式ノ総数ノ百分ノ三以上ニ当ル株式ヲ有スル」株主招集権を認めたわけでございます。第二項は字句の整理でございまして別段申上げることもないと思います。第三項は現行法の二百三十五條の、この二項の後段の規定をこちらに移したものでございまして、同趣旨でございます。そうして現行法の二百三十七條の三項は、私のこの総括的の説明のときにも申上げましたように、総会招集のこの費用を株主の負担とするということは、株主の権利を保護する上におきまして適当でございませんし、又総会というものの性質上会社が負担するのが当然と考えまして、三項の規定を削除いたしたわけでございます。  二百三十八條は、監査役を廃止いたしまして、会計監査役を認めましたのに伴いまして條文の字句の整理をいたしただけでございます。  次に二百三十九條でございまするが、これも一般的な説明のときに申述べましたように、総会につきまして定足数の定めをいたしたわけでございます。即ち本法又は定款に別段の定のある場合を除きまして、発行済総株数の過半数に当る株式を有する株主が出席しなければ総会を開くことができないし、又その決議議決権過半数を以てこれをするということにいたしたわけでございます。それから現行法におきましてもこの代理人による議決権の行使は認めまして、その場合にこの委任状、いわゆる代理権を証する書面を会社に差出することを要件といたしておるのでありまするが、この委任状が包括的に與えられましたり、或いは数回の株主総会に利用されましたりする実情があるやに承わりまするし、さようなことがありますると、理事者の専断によりまして議決権を濫用されるという虞れもありまするので、代理権の授與は総会毎になさなければならないという定をいたしたわけでございます。即ち二百三十九條の第四項の規定でございます。  次に二百四十條でございまするが、これは第一項は、現行法の三百四十四條の一項と同趣旨でございます。即ち「総会決議ニ付テハ議決権ナキ株主ノ有スル株式ノ数ハ発行済株式総数ニヲ算入セズ」ということにいたしておるのでございます。本法律案によりますると、二百三十七條の一項によりまするこの総会招集少数株主の権利、或いは二百五十六條の二にございます取締役選任決議における定足数に関する問題、或いは二百六十四條の二項に規定いたしておりまする取締役の競業に対する総会の認許の場合、或いは二百六十六條の五項にございまする取締役自己取引に対する責任の免除に関する場合、或いは三百四十三條の一項、三百四十五條の二項に規定がありますが、いわゆる特別決議につきまして、それぞれ一定の発行済総数の一定の割合による株式を有する株主の出席を要件といたしておりまするが、その場合におきまする発行済総株数の中にこれを算入をいたさないという取扱をいたすことになるわけでございます。第二項は、別段御説明を申上げるまでもないと思いまするが、この総会決議につきまして、特別の利害関係を有するものの議決権の数は、前項の議決権の数の中にこれを算入しないということにいたしておるのでございまするが、これは現行法通りでございます。  次に二百四十一條でございます。第一項は、各株主は一株について一個の議決権を有するという原則を明らかにいたしまして、一切の例外を認めないことにいたしたのでございます。議決権尊重の建前から申しまして、現行法にありまするような、定款による制限をいたすことを適当と認めない次第でございます。第二項は別に申上げることはございません。  次に二百四十二條でございますが、これはいわゆる議決権のない株主に関する規定でございます。会社が数種の株式を発行する場合におきまして、定款を以て利益の配当に関し、優先的内容を有する種類の株式を発行いたすことがあるのでございまするが、その場合に、その優先的利益配当を受くる種類の株式につきまして、完全に議決権を與えないことができるわけでございます。現行法におきましては、議決権のない株式というものを認めておりますが、これは必ずしも法律上の優先株に限りません。如何なる種類の株式につきましても議決権は與えないという定をいたすことができるわけでございますが、改正案におきましては、議決権のない株式優先的待遇を受ける株式に限るということにいたしたのでございます。と同時に、若しその優先株式定款に定めるような優先的な配当を受けなかつた場合には、議決権が当然復活するということにいたしたのでございます。即ち但書にございまするように、「其ノ株主ハ定款ニムル優先的配当受ケザル旨決議アリタルヨリ其優先的配当受クル旨決議アル時迄ハ議決権ヲ有ス」ということにいたしたのでございます。これは従来から論ぜられたところでありまして、株主の権利として議決権を高度に尊重すると同時に、優先株主議決権のないことによりまして、不当の待遇を受けることがないことを保障いたしまするためには、この但書の規定は適切な規定ではなかろうかと考える次第でございます。  二百四十四條につきましては別段申げることはございません。  次に二百四十五條でございます。これは総会特別決議を要すべき事項として定められたものでございまするが、限行法によりますると、営業の一部の譲渡につきましても特別決議を要するということになつておるのでありまして、一部の譲渡の中には、極めて部分的な営業、全般から見ますると、軽微な譲渡でありましても、総会決議を経なければならないということは、やはり行過ぎと考えまして、営業の全部の譲渡或いはこれに準ずるような重要なる一部の譲渡に限りまして、総会特別決議を要するというふうに改めたのでございます。それから四号には取締役又は監査役の責任の免除に関する規定を定めておりまするが、取締役会計監査役につきまして、総会特別決議による免除ということを認めることが適当でないと考えましたので、これは削除いたしたわけでございます。次に二百四十五條現行法の二項によりますと、二項は、取締役に対する訴えの提起に関する規定を準用いたしておるのでありまするが、これは代表訴訟を認めました結果、全然必要がございませんので削除いたしたわけでございます。次に二百四十五條の二項といたしまして新らしく、前項の行為の要領は二百三十二條、即ち会社総会招集の通知若しくは公告の中に前項の行為の要領を記載することを要するという規定を設けたのでございまするが、これは四百八條の二項におきまして、会社の合併の際に、合併契約の要領を事前に通知いたすという取扱いをいたしておりまするのに対応いたしまして、問題が重大でありまするが故に、予め株主にこれを知らしめるという手続をとることが適当ではないかと考えて、かようにいたしたわけでございます。又これは後に御説明申上げまするように、株主買取請求権を認めました関係から申しましても、又かような一般的な通知、公告を必要と考えたわけでございます。  次に二百四十五條の二から二百四十五條の四迄でございまするが、これは株主買取請求権に関する規定でございます。株主買取請求権につきましては、先般総括的な御説明のときに一応この根本の趣旨を申上げましたので、これは省略さして頂きまして、ここに規定されておりまする手続に関する概要を御説明申上げたいと思います。買取の請求をいたしますためには、二百四十五條決議をなすべき株主総会に先立ちまして会社に対して書面を以てその行為に反対であるという意思を予め通知いたすことが第一番に必要になるわけでございます。この反対の事前の意思通知と同時に、総会におきまして反対投票をするということが必要になるわけでありまして、この二つの手続を行いました株主は、会社に対して自己の持株を公正なる価格を以て買取るべき旨の請求をいたすことができるわけでございます。買取請求をいたしますることは、会社がこの決議後におきましても尚存続するということを要するのでありまして、若し会社がこの営業の譲渡と同時に解散の決議をいたすということになりますると、清算手続に入りまして、残余の財産の分配という手続をいたすわけでありまするから、買取請求をいたさせる必要はないわけでございます。従いまして二百四十五條の二に但書の規定を設けたわけでございます。  買取請求決議の日から二十日に持株の種類及び数を記載いたしました書面を会社に提出してなさなければなりません。この場合に問題になりまするのは、価格の決定であろうかと考えまするが、この価格は、若し会社におきまして、二百四十五條決議がなかつたならば、その株式が有したであろう推定的な価格であつて、而も一般的判断におきまして、妥当、公正と考えられる価格であることを要するわけでございます。その価格につきまして、会社との間に協議が調いました場合に、会社決議の日から九十日内に株式買取代金を支拂わなければならない。若し決議の日から六十日内に協議が調わないときには、株主はその六十日の経過後三十日内に裁判所に対して価格の決定を請求いたすことができるということにいたしたわけでございます。この裁判所における手続は、非訟事件として取扱われるわけでありまして、裁判所は諸般の事情を斟酌せられまして、適当なる価格の決定をなさるであろうと考えております。裁判所が価格の決定をいたします場合には、決議の日から九十日内に株式の代金を支拂うべき義務を会社が負担いたしておるわけでございまするから、その経過後の法定利息をも加算して支拂うことを命ぜられるわけでございます。株式の買取は然らばいつ效力を生ずるかという問題でございまするが、これは代金の支拂の時期において株式移転の效力を生ずる、代金の支拂は株券と引換になさなければならないという規定を設けたわけでございます。  買取請求は成るべく事柄を敏活に処理する必要がございまするし、又会社が二百四十五條に掲げまする行為を中止いたしましたような際には、買取請求をいたさせる根本原因がなくなつたわけでございまするから、二百四十五條の四の規定を設けまして、二百四十五條第一項に掲ぐる行為会社がみずから中止したときには、買取請求は遡つて努力を失うということにいたしまするし、又二百四十五條の三項、即ち裁判所に対して請求をいたさないという場合にも、又買取請求に遡つて效力を失うということにいたしたわけでございます。  次に二百四十六條、二百四十七條は別段御説明申上げることもないと思います。  二百四十八條は、株主総会決議取消の訴の提起期間の点を改めております。現行法によりますると、決議の日から一ケ月内に訴を提起することを要するということにいたしておりますが、一ケ月の期間はやや短きに失するのではないか、株主の権利を保障するという意味におきまして、この期間を伸長して三ケ月に改めてわけでございます。  次に二百四十九條を削除いたした点について御説明いたします。現行法の二百四十九條によりますると、「株主ガ決議取消ノ訴ヲ提起シタルトキハ会社請求ニ依リ相当ノ担保ヲ供スルコトヲ要ス但シ其ノ株主ガ取締役ハ監査役ナルトキハ此ノ限ニ在ラズ」、ということにいたしまして、会社請求がある場合には訴を提起いたしました株主は相当の担保を供すべき義務を認めておるのでありまするが、若しこの担保を提供いたしませんで訴を提起いたしますると、裁判所民事訴訟法の百十七條、百十四條の規定によりまして、口頭弁論を経ないで判決を以て訴を却下し得るわけでございます。株主の提起は、自分の個人的な利益を擁護するための訴ではありませんで、飽くまでもいわゆる共益権に基く訴でございまするが故に、その訴の提起につきまして担保を提供せしめるということにいたしましたのでは、株主の訴提起の事実上の権利が妨げられ、又場合によつては奪われるという事実上の結果を伴う虞れもありますので、株主の権利を保護する意味におきまして、二百四十九條を削除いたしたわけでございます。二百四十九條の規定は、決議取消の訴のみではございませんで、決議無効確認訴或い決議取消変更の訴、二百五十二條或いは二百五十三條の訴、その外減資無効の訴にも準用いたされておるのでございまして、二百四十九條の規定を削除いたしますることは、相当重大な意義を持つものと考えます。  次に二百五十一條の規定でございますが、これも前に御説明申上げましたように、かかる裁判所裁量権を法文の規定に上に掲げますことは適当でないと考えまして削除いたしたわけでございます。裁判所が当該の事案を公正に判断せられまして、法律の解釈といたしまして、原告の請求を棄却せられるということは毫も差支ないわけでございまするし、その意味におきまして裁判所に公正な裁量権がありますることはもとよりでありまして、これをも奪う趣旨でないことは申上げるまでもないと考えます。  次に二百五十二條でございますが、これは先程申しましたように二百四十九條の規定に準用を削つただけでございます。います。  二百五十三條も同様でございまして、二百四十九條の準用を削除いたしたわけでございまして、その外別段あとは字句の整理でございまして申上げることはございません。  次に取締役及び取締役会に関して御説明申上げます。二百十五四條につきましては、第二項におきまして「会社ハ定款以テスルモ取締役ガ株主タルコトヲスベキ旨ヲ定ムルコトヲ得ズ」という規定を新設いたしたのでございまするが、これは総括的な御説明のときに御説明申上げましたので省略いたします。  二百五十四條の二は、取締役職務遂行の義務を明らかにいたしましたもので、これも別段御説明申上げる必要はないと考えます。  二百五十六條は、取締役の任期に関する規定でございまするが、現行法では取締役の任期は三年を超えることができないというふうになつておりますのを、期間を短縮いたしまして二年と改めたわけでございます。取締役の権限は改正法律におきましては極めて強化いたされましたし、又その解任は、後程申上げまするように、特別決議という極めて困難なる決議を必要とすることにいたしまして、その在任を保障するという取扱いをいたしましたのに鑑みまして、三年の期間はやや長きに失するのではないか、アメリカの多くの立法の実例を申上げますると、一年となつておるのに照しまして、二年と改めたわけでございます。言い換えれば株主総会におきまして取締役の信任を問う機会を早く来らせるのが適当ではないかと考えたわけでございます。次に最初の取締役につきましては、現行法は別段の定をいたしておりませんで、会社成立のときからやはり三年までは存任できるわけでございまするが、最初の取締役設立過程において選ばれるという関係、殊に総立総会において選任されるのでありまして、その創立総会におきましては、いわゆる累積投票の採用をいたさないことにいたしておりますので、最初の取締役につきましては、これを一年と定めまして、特に信任を問う会機を早く與えるということが適当ではないかと考えたわけでございます。第三項は現行法通りでございまして別段申上げることもございません。  二百五十六條の二は、取締役の選任の決議に関する規定でございます。これもすでにたびたび申上げましたので説明を省略させて頂きます。  次に二百五十六條の三は、いわゆる累積投票に関する規定でございます。累積投票につきましてはいろいろ論議も多かつたところでございまして、この規定を定めますにつきましても大いに苦慮いたしたわけでございます。第一項は、又取締役の選任を目的とする総会招集があつたときには、株主会社に対して会日より五日前に書面を以て累積投票請求することができる、言い換えれば、総会の当日になりまして突然累積投票請求をするというふうなことになりますると、他の株主に思わない損害と申しまするか、思いがけない事態を生ぜしむる虞れもございまするので、累積投票につきましては、必ず会日より前に書面で以て会社請求をする、そうしてこの請求がありました場合には、この会日におきましては、議長は議決に先立ちまして、累積投票のあつた旨を宣告したければならないということにいたしたのでございます。四項の規定でございます。そうして果してその請求があつたかどうかということが問題になることもあり得るかと考えましたので、その請求の書面は総会の終結に至るまで本店に備え置きまして、株主の閲覧に供するということにいたしたのであります。第五項の規定でございます。第二項と第三項は累積投票の効果に関する規定でありまして、即ち累積投票請求がありましたときには、取締役選任決議につきましては、各株主は自己の持株に付き選任せらるべき取締役の数と同数の議決権を有する、この議決権は一人の候補者に対して集中して投票することも許されるし、且つ二人以上に分散投票してその権利を行使することができるのでございます。で累積投票の結果は、投票の最高点を得ました者から順次取締役の数に滿つるまで選んで参りまして、そうして得点の多い者から取締役の定数に達するまでの候補者取締役に選任されるわけでございます。  二百五十六條の三は、累積投票の原則的な規定でございまするが、会社によりましてはそれぞれ特別な事情を持つた会社もありまするので、累積投票によらないことを適当とする会社もあるわけであろうかと考えまして、二百五十六條の四において、会社定款を以て取締役の選任につき累積投票によらざることを定むることができることといたしたのございます。尤もこの場合におきましても、発行済総株数の四分の一以上に当る株式を有する株主から請求があります場合には、定款規定に拘わらず必ず累積投票をなさなければならないということにいたしたのでございます。これは苟くも発行済総株数の四分の一の多数の株主から累積投票によりたいという要望がある場合に、これを尊重することは妥当と考えましたので、この規定を置いたわけでございます。  次に二百五十七條でございまするが、これは取締役解任に関する規定でございます。第一項は現行法通りでございまして、別段申上げることはございません。第二項は現行法におきましては取締役解任通常決議によるわけでありますが、取締役の地位を保障する意味におきまして大多数の不信任がない限り解任できない。即ち解任決議特別決議によるということにいたしたのでございます。併し如何なる場にも必ず特別決議によらなければならないということになりますと、多数の株主と結託いたしまして取締役不正行為を遂行する、定款違反の行為を行なつた場にも解任できないということになるのでありまして、かかる場合には特別の解任方式を認めることが適当といたした次第でございます。よつて第三項を盛つたわけでございます。即ち「取締役職務遂行ニ関シ不正ノ行為又ハ法令ハ定款ニ違反スル重大ナル事実アリタルニ拘ラズ株主総会ニ於テ其取締役解任スルコトヲ否決シタルトキハ発行済株式ノ総数ノ百分ノ三以上ニ当ル株式ヲ有スル株主ハ三十日内ニ其取締役解任裁判所ニ請求スルコトを得」、即ち発行済総株数の百分の三以上に当る株式を有する株主は、取締役解任否決総会決議後三十日以内に裁判所に対して解任請求ができる、解任の訴をすることができるということにいたしたのでございます。この訴は本店の所在地を管轄する裁判所専属管轄といたしまして、訴が区分に提起されることを防ぐことを適当と考えまして八十八條の規定をこの訴に準用いたすことといたしたのであります。この訴は申すまでもなく少数株主が原告となりまして、被告は取締役でございます。判決の結果によりまして解任の効力を生ずるというのでありまして、いわゆる形成判決になるわけでございます。形成判決は判決の性質上第三者に対してももとより効力を生ずるわけでありまして、会社及びすべての第三者に対してこの解任の判決は効力を有するわけであります。併し訴を起しましたのに拘わらず、判決あるまで依然取締役がその任におりますと、会社に又不測の損害を生ぜしめる虞れもありますので、後に申上げますように、二百七十條におきまして解任の訴の提起がありました場合には、本案の管轄裁判所取締役の職務執行を停止し、又は代行者を選任するという仮処分ができることといたしたのでございます。  二百五十八條は別段申上げるまでもございません。監査役の廃止に伴う條文の整理に過ぎないのであります。  二百五十九條以降は、二百五十九條から二百六十一條ノ二までは、取締役会に関する規定でございます。総括的な説明の時に申上げましたように、改正法律案は、会社業務執行の機関といたしまして、この取締役会という会議体を会社の機関として採用いたしたのでございます。この取締役会は会議体でありまして、正式な招集によつて開かれることといたすのが適当と考えまして、二百五十九條におきましては、招集権者に関する規定を設けたのでございます。即ち取締役会は、各取締役がこれを招集いたすことにいたしたのであります。尤も取締役の中には、後に申上げますように、会社を代表すべき代表取締役と、然らざる取締役があるのでありまして、会社の代表取締役会社を代表すると同時に、会社の内部関係におきましては、会社の業務を現実に執行する機関となることから考えますると、一般には代表取締役取締役会招集するのが通常の事態になるのではないかと思います。そこで但書を設けまして、取締役会におきまして招集をなすべき取締役を定めることを認めたわけでございます。この定がない限りは、各取締役取締役会招集いたすわけでございます。  次に、会議体でありまするが故に、招集の通知を必要とすると考えまして二百五十九條ノ二の規定を設けたのでございます。即ち「取締役会招集スルニハ会日ヨリ一週間前ニ各取締役ニ対シテ其ノ通知を発スルコトヲ要ス」、この一週間という期間は、一応この法律で定めましたけれども、会社には大小さまざまございますし、又取締役の員数も法定数以上であれば、これは制限がございませんので、会社の実情によりまして、一週間の期間は長きに失するということになれば、これを短縮することを認めるのを適当かと考えまして、但書を置いたのでございます。この招集の通知には取締役会の開催せらるべき日にちと場所を通知すれば足りるものと考えております。いわゆる会議の目的たる事項、議事日程というものは必ずしも掲げることを必要としないと考えます。  又取締役会は会議体と申しましても極く少人数の会議体でありまするが故に、二百五十九條ノ三の規定を設けまして、全員の同意のあるときには正式の招集の手続を経ないでも随時会議を開くことができるということにいたしたのでございます。これは有限会社法の三十八條の規定と同趣旨の規定でございます。  二百六十條は別段申上げることもないと考えます。  二百六十條ノ二におきまして取締役会定足数決議要件とを規定いたしたのでございます。即ち取締役会は原則として過半数取締役が出席しなければならない。そうしてその決議は「取締役過半数ヲ以テ之ヲ為ス」ということにいたしております。「但シ定款ヲ以テ此ノ要件ヲ加重スルコトヲ妨ゲズ」ということにいたしたのでございます。やや取締役会決議の方式が嚴格に過ぎるのではないかという反対意見もあろうかと思いまするが、取締役会というものの会社における極めて重要なる権限に鑑みますると、少くとも過半数の出席を必要とするし、又過半数を以て決議をするということは当然なことではないかと考えます。多少論議になるかと思いまするが、この決議は、原則といたしまして必ず会議によることを要するのでありまして、通例行われておりまするような持ち廻りの書面による決議というものは認めない方針でございます。と申しまするのは、一般に会議体はそうでございまするが、会議体に対して大きな権限を設定いたしまするのは個々の人の知識、経験、判断、意見というものを尊重いたすのではありませんで、個々の人の集たつた会議におきまして、その衆智を盡して意見を交換する、そうして衆智の集つた経験と意見の交換によりまして導き出されたところの結論である判断採用というものに、法律は特に重い価値を置いておるわけでございまするから、個々の意見の表明に過ぎないようなこの書面による持ち廻り決議というものは、この会議に代るべき性質のものではないと考えます。次に取締役会には代理人の出席が許されるかということも多少問題になるかと思いまするが、これは取締役会の性質上、代理人は許されない。株主総会におきましても特段の規定がなければ代理は許されないわけでありまするが、これには特別の規定を設けておるのにも照らしまして、取締役会の会議におきましては代理人の出席は許されないと考えております。それから二百六十條ノ二の二項は、決議に特別の利害関係ある取締役議決権を行使することができないことといたし、又その取締役はこの定数に算入しないということにいたしまして、二百三十九條第五項及び二百四十條第二項の規定を準用することといたしたのでございます。  二百六十條ノ三は省略さして頂きますのは、議事録に取締役が署名をいたさなければならないということでございます。而もこの署名につきましては、後程二百六十六條のところで御説明申上げまするが、決議に賛成したものであるかどうか、反対であるかどうかということを明らかにいたしまして署名をいたすことが必要であると考えております。  二百六十一條は代表取締役に関する規定でございます。取締役会業務執行機関でございまするけれども、会議体というものの性質上、一切の会社の業務につきまして、言い換えれば常務についても一々会議を経なければ事務が行えないというのでは行過ぎと考えまするので、常務を執行する機関といたしまして代表取締役を選ぶことにいたしたのであります。この代表取締役会社の内部におきましては、業務の現実の執行機関であると同時に、会社外の関係におきましては、会社を代表すべき機関となるわけであります。現在でも会社を代表すべき取締役定款で定めることを認めておりまするし、数人の代表取締役を選ぶことを認めておる次第でありまするが、これは任意の定に過ぎないのであります。ところが新法におきましては、代表取締役を選ぶことは取締役会の義務でありまして、代表取締役の選任がなければ設立の登記ができないわけでございます。三項は別段申上げることもないかと思いまするが、代表取締役の一人に対してなされたる意思表示は、会社に対して効力を生ずることにいたし、又代表取締役会社の営業に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をなす権限を有することを明らかにし、又代表取締役の員数を欠くに至りました場合、任期の満了又は辞任によつて退任した代表取締役は新たに選任せられた代表取締役が就職するまで代表取締役としての権限を有するということにいたしまするために、三十九條の二項、七十八條、二百五十八條等の規定を準用いたすことにいたしたのでございます。  次に二百六十一條の二は、会社取締役に対し、又は取締役会社に対して訴を提起する場合における会社の代表関係を規定いたしたのでございます。これは利害関係が衝突する虞れもありまするので、特にこの場合には取締役会の定むる者が会社を代表することにいたし、又株主総会会社を代表すべき者を定めることができるということにいたしたのでございます。  次に二百六十三條は、書類の備え置きの義務でございまするが、取締役定款並びに総会及び取締役会の議事録を本店及び支店に、株主名簿及び社債原簿を本店に備えて置くことを要することといたしたのでございます。そうして会社定款を以て名義書換代理人を置くということを定めました場合は、株主名簿若しくは社債原簿又はその複本を名義書換代理人の営業所に置かなければならないということにいたしたのでございます。株主及び会社の債権者は、この現行法通り、前項に掲ぐる書類の閲覧又は謄写を求めることができるということにいたしたのであります。謄写を求める権利を認めましたのは現行法にない点でございます。  次に二百六十四條でございますが、これはいわゆる取締役競業禁止に関する規定でございます。取締役会社との間の利害の衝突による会社利益の侵害を防ぐために、現行法競業禁止を認めておりますが、この建前を承継いたしたのでございます。この禁止の解除は、現行法通り株主総会の認許によつて行われるのでありますが、その認許を得るためには、特に取引の内容につきまして重要な事実を開示しなければならないという義務を取締役に與えたのでございます。そうしてこの現行法によりますると、この認許は普通決議によつて行われるのでありますが、認許の性質の重大なことに鑑みまして、一種の格別の決議の方法によることにいたしたのでございます。これは発行済株式の総数の三分の二以上の多数を以てなすということにいたしたのでございます。発行済株式の総数の三分の二以上でございまするから、いわゆるこの特剔抉議よりも要件が遙かに重いわけでございます。取締役総会の認許を得ませんで競業をいたしました場合に、株主総会はいわゆる介入権を有するのでありますが、これはやはり現行法通り認めた次第でございます。その権利は取引のときから一年を経過したときには消滅するということにいたしたのでございます。尚現行法によりますると、取締役が同種の営業を目的として他の会社の無限責任社員若しくは取締役となるにつきましても、株主総会の認許を要するということになつておりまするが、同種の営業を目的とする他の会社の無限責任社員又は取締役となりますことは、いわゆる私的独占禁止法の十三條によりまして禁止された事項でありまするので、改正法律案においては、この規定を削除いたしたのでございます。  次に二百六十五條は、いわゆる自己取引に関する定でございます。現行法におきましては、取締役会社の利益を犠牲にして私利を図るということを防止するために、特に監査役の承認がある場合に限つて、自己取引ができるということにいたしておりますが、監査役が廃止せられましたので、取締役会の承認を得ることといたしたのであります。と同時にこの取引の内容を、会社の製品その他の財産を譲受けたり又は会社に対し、自己の製品その他の財産を譲り渡す、或いは会社より金銭の貸付を受けるといつたような、取引の内容を具体的に掲げまして、特に禁止せらるべき取引を明らかにいたした点が、現行法と異つている点でございます。  次に二百六十六條でございまするが、これは取締役の損害賠償或いは金銭支拂の責任を規定いたしたものでございます。現行法におきましては、債務不履行一般として包括的に規定されておりまするのを、成るべく会社に対して損害を與える虞れの多い事項を例挙いたしまして、その責任の範囲を明確にいたしたのが、この規定現行法と異るところでございます。即ち二百六十六條の一項の各号に掲げる行為を為したる取締役は、会社に対して連帶して責任を負うということを明らかにいたしたのでございます。先ず第一番にこの責任を負いまするのは、二百九十條第一項の規定に違反する利益配当、俗に申しまするタコ配当による損害を賠償するという責任を認めたのでございます。二百九十條の第一項の規定に違反いたしました利益の配当を行なう議案を総会に提出いたしまして、総会においてその議案が可決されて利益配当が行なわれました場合には、その配当は不当な配当といたしまして、会社株主に対して返還請求をいたすことができるわけでありまするが、返還請求をした事例は殆んどございませんし、又善意の株主に対しても尚返還請求を認めるべきであるかどうかということは、多少異論のあるところではないかと考えます。本来いわゆるタコ配当に関する第一次的な責任は、取締役が負うべきものでありまするが故に、先ず取締役に対して責任のあることを明らかにし、その損害賠償の範囲を明らかにいたしたのでございます。即ち配当せられました金額につきまして、取締役が連帶して責任を負うということにいたしたのでございます。二号は、これも会社によりましては起りがちのことかと思いまするが、他の取締役に対して金銭を貸付けるという場合に、その取締役から弁済を得ない金額について責任があることを明らかにしたのであります。三号は、株主総会の認許を得ませんで競業をいたしまして、これによつて損害を與えた場合に、取締役に責任がある。四号は、自己取引をなした場合に、それによつて損害を生じたときに、その損害額について責任を負う。五号は、これは現行法にありますように、法令、定款に違反する行為を為して会社に損害を與えた場合、取締役は連帶して責任を負うということになるのでございます。取締役が連帶して責任を負うという場合に、その如何なる範囲の取締役が責任を負うかということが問題になりまするので、第二項を設けまして、取締役会決議に基いて行為が行われた場合には、その決議に賛成した取締役のみが連帶して責任を負うということを明らかにいたしたのでございます。若し議事録に賛否が明らかでない場合には、苟くも会議に参加した取締役であれば、その決議に賛成したものと推定することにいたしまして、取締役決議における態度を、一方成るべく明確にすることを期待いたしますると同時に、異議を止めなかつた取締役についても責任を認めることにいたしまして、責任の範囲を拡げたわけでございます。次に四項は、前にもしばしば申上げましたように、取締役の責任は総株主の同意がなければ免除することができないと規定いたしたものでありまして、第五項は、自己取引につきましては、取引の重要なる事実を開示して株主総会において免除し得ることを規定いたしたのでございます。自己取引は、取引自体といたしましては、毫も違法なものではございませんで、一定の取引について要件を要求しておるだけでありまするし、又実際問題といたしましても、取締役会社との間に取引が行われる必要のあることはしばしばでありまするし、この場合に発行済株式の総数の三分の二以上の多数を以て責任を免際し得ることは適当と考えまして、これを唯一の例外としてこの規定を置いたわけでございます。尤も計算書類の承認に関係いたしまして、二百八十四條は責任解除の規定を設けておりまするが、これはやはり改正法律案におきましても存置いたすことにいたしたのでございます。  二百六十六條の二は、取締役が二百九十條第一項の規定に違反する利益配当をいたしましてその責任に任じました場合に、悪意の株主に対しましては求償権を行使せしめるのが適当と考えまして、この規定を置いたわけでございます。本当タコ配当によりまして利益を得ておりますのは、取締役ではなくて株主であるのでありまするので、悪意の株主に対しては求償権を行使せしめるのが適当と考えまして、この規定を置いたのであります。この規定の反射的な效果といたしまして、善意の株主取締役に対しても求償する義務がないこととなるわけでございます。  二百六十六條の三は、取締役の第三者に対する責任を規定したものでございます。即ち取締役が職務を行うにつきまして、悪意又は重大なる過失があつたときには、その取締役は第三者に対しても連帯して損害賠償をしなければならんことを明らかにしたのであります。現行法は法令、定款違反ということに規定いたしておりまするが、改正法律案におきましては、任務懈怠一般についてこの責任をとりますと同時に、主観的責任原因を悪意又は重大なる過失に限定したわけでございます。尚株式申込証、社債申込証、目論見書、それから二百八十一條に掲げまするいわゆる計算書類、それから二百九十三條の五にありまする附属明細書、そういうものは会社の内容、状態、或いは財産、業務の状況に関する一つの公示的な性質を持ちまする書面でございまして、この書面に真実が記載されなければならないのは、会社が公示の建前をとつておりまする原則上当然だと考えますので、苟くもこれらの書面に虚僞の記載をする、或いは虚僞の登記をする、若しくは公告をするという場合には、取締役に第三者に対する絶対責任を認めたわけでございます。この場合に悪意若しくは重大なる過失の部分はとりませんで、苟くもこの事実がある場合には、取締役が第三者に対して法律上当然責任を負うこととなるわけでございます。  二百六十七條から二百六十八條ノ三までは、取締役の責任を追及する訴、いわゆる代表訴訟に関する規定でございます。先ず二百六十七條を御説明申上げますると、株主会社に対して取締役の責任を追及する訴を提起すべき旨を書面を以て請求することができるといたしまして、会社がその請求の日から三十日以内に訴を提起しないとき、又三十日の期間を待つておつたのでは会社に回復すべからざる損害を生ずる虞れがあるという場合には、株主はみずから会社のために訴を提起することができることといたしたのでございます。この訴は本店の所在地を管轄する地方裁判所専属管轄といたしましたし、株主又は会社は何時でも前項のこの訴に参加することができることといたしたのであります。但し参加したために不当に訴訴が遅延する、或いは徒らに裁判所の負担を加重せしめるという場合には、参加を認めないことにいたしたのでございます。又この代表訴訟の提起されました場合には、遅滞なく会社に対して訴訟の告知をすることといたしたのでございます。これが二百六十八條の規定でございます。  次に二百六十八條の二でございまするが、代表訴におきまして原告が勝訴いたしました場合には、この訴訟は株主個人の利益のためでありませんで、会社のために訴を提起したものでありまするが故に、弁護士に支拂うべき相当なる報酬額について、会社にこれを負担せしむるのが適当と考えまして一項の規定を置いたわけでございます。株主が敗訴いたすことももとよりあり得るわけでございまするが、この場合には悪意の株主に限つて会社に対して損害賠償の責を負わしめることにいたしたのでございます。この相当報酬額の支拂を求めることと、悪意のある場合に損害賠償に任ずるということは、訴訟に参加した株主につきましても認める必要があると考えまして、三項の規定を置いたわけでございます。  尚この代表訴訟は、原告と被告とが共謀いたしまして馴合訴訟をいたしまして会社の利益を浸す虞れもありまするので、これを防止する意味を以ちまして、馴合訴訟の判決に対しましては、再審の訴を以てこの不服を申立てることができるということにいたしたのでございます。これが二百六十八條の三でございます。  次に二百七十條でございまするが、これ先程も申しましたように、取締役解任の訴を加えまして、取締役選任決議の無效若くは取消又は取締役解任訴の提起ある場合におきましては、管轄裁判所は当事者の申立によつて、仮処分を以て取締役の職務の執行停止又は代行者を選任することができるといたしたのでございます。この規定を設けましたことによりまして、現行法の二百七十條は必要がなくなりましたので、これは削除いたしたのでございます。  二百七十條に新らしく規定を設けました。即ち、「取締役会社ノ目的ノ範囲内ニ在ラザル行為其ノ他法令又ハ定款ニ違反スル行為ヲ為シ之ニ困リ会社ニ回復スベカラザル損害ヲ生ズル虞アル場合ニ於テハ株主会社ノ為取締役ニ対シ其ノ行為ヲ止ムべキコトヲ請求スルコトヲ得」という規定を設けたのでございます。これはいわゆるウルトラ・バイアレスの規定でございまして、アメリカ法に広く認められておりますインジヤンクシヨンの制度を採用いたしたのであります。会社定款に定める一定の目的を目的といたしまして設立されたものでございまして、各株主はその目的のために一定の金額を出資いたしているわけでございますから、会社の目的というものは、取締役が業務を執行いたしますのにつきましては、極めて重大なる制限を持つのは当然でございます。にも拘わらず取締役がその目的の範囲を超えて業務を執行した、或いは法令又と定款に違反する行為をして、それが会社に回復すべからざる損害を生ずる虞れがある場合は、株主はこれを拱手して傍観しなければならないというのでは、株主の権利を十分保護するゆえに反するので、この場合に株主会社のために取締役に対してその行為を差止めるという方式をとるのが適当ではないかと考えておるのでありまするが、この点は十分御検討、御審議を願いまして、或いはこの非訟事件手続について取扱うことが適当であるという御意見になりますならば、非訟事件手続の方を改正いたしまして、適当なる手配をいたしたいと考えます。  次に第二百七十三條から二百八十條までは、会計監査役に関する規定でございます。現行法の業務の監査をいたす監査役を廃止いたしまして、専ら経理監査をなす会計監査役を設けることにいたしたのでございます。別段特に御説明を申上げることもないかと思いまするが、二百七十六條の会計監査役が、取締役は支配人その他の使用人を兼ねることができない。会計監査役の職責の成るべく独立であることを必要とすると考えましたので、特にかような規定を設けたわけでございます。  二百八十條はこの会計監査役の選任、会社との関係、それから解任、責任免除の制限、第三者に対するその責任、責任追及の訴等につきまして、取締役に関する規定を準用いたしたものでございます。
  4. 伊藤修

    委員長伊藤修君) ではこれで三十分休憩いたします。正一時から質疑に入ります。今日は土曜日でありますから正一時からお願いいたします。    午後零時二十三分休憩    —————・—————    午後一時二十七分開会
  5. 伊藤修

    委員長伊藤修君) これより午前中に引続き法務委員会を開きます。
  6. 松井道夫

    ○松井道夫君 先ず総会についてちよつとお尋ねしたい点があるのであります。新たに二百三十條の二という規定定められまして、「総会ハ法令ハ定款ニムル事項ニ限リ決議ヲ為スコトヲ得」という案になつておるのでありまするが、従来は御説明にもありますように、株主総会というものは何でもできた、要するに会社最高機関であるということになつてつたのであります。それで新らしい会社法の理念といたしまして、株式会社の性格というものはどういうことになるか、最高機関でやはりあるのか、或いはそうでないのか、観念上のことで伺いますが、その点を先ずお尋ねしたいのであります。  それから「法令ハ定款ニムル事項ニ限リ決議ヲ為スコトヲ得」ということになつておりまして、法令で直接決議事項とせられておることは間違いありませんし、定款にも定めることでございましよう。併しながら従来の観念を持つておりまして、定款を作りますと、当然総会権限に嘱しておることを抜かすことが沢山あると思うのであります。当然総会権限に属せしめていいのではないかと一般株主が考えておることを抜かすことが沢山あると思うのであります。それで非常に嚴格に「限り」ということを書いてありますと、いろいろ問題が起きるのじやないかと、かように考えるのであります。その辺について伺いたいと思います。  それから例えば利益配当決定するというようなことは、これはあとで計算の場合に出て来るかも知れませんが、利益配当のようなことは、これは株主の固有の権限である、株主の地位に附随した固有のものだというような意味で、総会権限に属せしむべきだという意見が強いように今承つておるのでありまするが、その点についての御見解、それから新法の規定、この二百三十條の二に関連しての新法の規定をお尋ねいたしたいと思います。  元来この事業の運営上のことは、取締役会に一任するのだ、専ら取締役会に属するのであるという建前のようなんでありますが、その点に関して、今の二つ程の疑問があるのであります。それは定款規定によつて、どの程度取締役権限、即ち事業運営上のことを規定できるのか、総会権限にとり得るのか、法律規定で当然取締役権限に属されておることについては、定款規定によつて何らの制限も加えることができないのかどうか、そういつたいろいろの問題があると思うのであります。  それから更に今の利益配当のようなことでありますが、これは一面勿論株主固有の権利と見られるのでありますけれども、又一面から言えば、株主は必ずしも利益配当を目当てにして株主になるのではなくして、これを転売するというようなことが現在としては却つて多いのじやないか、相当の数あるわけなのでありまして、果してこれを特別の準備金に積立てないで、或いは設備の新設、拡張というようなことに当てないで、利益としてこれを配当するかどうかというようなことは、これは事業の運営上の最高の方針にも、殊に現在の経済状態としては、当つておるのであります。それを株主がいろいろ取締役の方針に異議を申立てるということでは、今の事業の復興、再建、整備というものは、いわゆる合理化というようなことはなかなか困難である。そういうことを考えますと、これは利益配当というようなことも、これは執行面、運営面の最も大事なこととして取締役会権限に属せしむるという考えも当然出て来ると思うのであります。要するに二百三十條の二に関通いたしまして気の付いたこと、疑問に思うことを雑多に申上げたのでありまするが、その辺について御意見を拝聴いたしたいと思います。
  7. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) 現行法におきましては、株主総会会社における最高機関であるということは、法律規定の上にはございませんけれども、株主総会権限を限定する何らの規定がございませんし、株主の意見を直接に表現する会議体として認めたものが総会でありますが故に、株主の総意を尊重するという理論から申しまして株主総会会社最高機関である。言に換れば法令或いは定款に格別の定がない限り、株主総会におきましては業務の運営、経営法針につきましても決定をして、取締役会業務執行を支配しておるということに相成つておるわけでございます。ところがそういう株主総会の在り方というものが、企業の実際の運営の上から考えて、合理的な在り方であるかどうかということが疑問になりましたので、検討いたしました末、二百三十條の二のように「総会ハ法令又は定款ニ定ムル事項ニ限り決議ヲ為ス……」機関であるということにいたしたわけでございまするが、然らば株主総会会社における機関としての最高性を失つたものかどうかという問題に相成りますと、只今の御疑問御尤もと考えるわけでございます。法令に掲げておりまする総会権限といたしましては、特別法は別といたしまして、本法に掲げておりますのは、大体現行法建前を踏襲いたしたものでございます。先程の説明のときに触れて参りましたので、重ねて重上げることは控えることといたしまするが、会社の組織の変更、例えば定款変更解散或いは合併というような会社の組織に関することの決定というものは、これは挙げて株主総会権限とされておるわけであります。企業の組織というものを非常に重く考えるという立場から見ますると、そういう組織変更権限を有しておるということは、総会の一つの最高性というものを認めておるということも言えるのではないかと思います。同時に、成る程会社におきましては、資金の形成という問題と会社の運営ということが中心になることは申上げるまでもございませんが、資金を調達する或いは会社を運営すべき機関である取締役というものは、然らばどうしてやられるかという問題を考えますると、これは株主総会において選ばれるものでありまするが故に、如何なる人を取締役決定するかというその決定権を持つておるという点を考えますというと、株主総会取締役の母体であるということも言い得るわけでございまするから、その点から申しますと、又最高性を有しておるということも或る面から言えるのではないかと思います。しかのみならず二百四十五條、これは、いわゆる営業に属する事項でございますけれども、最も根本的なものでありまするが故に、これは総会決議によらなければならないということにしてあるわけであります。その外個々の規定は省略いたしまするが、検討して見まするというと、法令に定むる事項に限つて権限を有すると言いましても、実は相当重大な権限を持ておりまするので、これは結局最高性という言葉の問題になりまするけれども、そういう権限を持つていることは、機関としての最高性を意味するということも言えないことではないとと思います。ところがここで問題になりまするのは、会社の業務について如何なる権限を持つているかという問題だけに限定いたしますると、改正法律案におきましては、この業務に関する直接の支配権、或いは取締役に対する命令権というものは認めないということが、この大きな変革であるわけであります。業務だけを中心にいたして考えまするというと、或いは従前総会の有しておつたような高い権限総会は失つたということを言えるかと思いますが、それのみを以て総会根本的性格までも、最高である地位から極めて低い地位に落ちたということは申されないのでございまして、業務の運営というものは取締役をして、その責任において行わしめることの方が合理的であるのでありまするが故に、そういたしたのでありまして、私はこの点を消したからと言つて、必ずしも株主総会の高い地位というものを失つたというふうには言い得ないのではないか。かように考えます。  次に「定款」ということを定めておりますが、ここに非常を含みがあるのでございまして、会社定款は、言い換えれば憲法にも該当すべきものでございまして、大小さまざまの会社、或いは業種をいろいろ異にした会社もございまして、会社によりましては、総会というものに非常に広い権限を持たせる。或いは業務の執行についても或る程度総会決定によるというふうな定をする会社もあり得るかと考えまするし或いは業務に関しませんでも、外の事項につきまして特に総会権限を留保するということは差支ないことと考えまして、定款定め事項総会決議することができるのだということにいたしたわけでございます。  次に利益配当の問題でございますが、これは松井委員の御指摘の通りに私は考えております。会社の業務の運営から申ますると、会社の経営、監督を如何にいたすか、将来の予算を如何に出すか、或いは従つて営業年度の末における利益というものを如何なる形において利用して行くか、使用して行くかという問題は、業務決定としては最も中心をなすものでありまして、むしろ取締役の専決事項といたすことの方が合理的ではないかと考えます。アメリカでもさように取扱われておるものが、各州の州法で定めてありまする、松井委員のお話にございましたように、株主にとつて非常に重大な権利である。現行法においては総会における決議事項とされておるし、なかなか重要な決議事項である。これをこの際奪つてしまうことはやや行き過ぎではないかというふうな意見が支配的になりまして、一つの妥協といたしまして、これは一応総会権限として留保して置こどういうことになつたわけであります。併し法制審議会の商法部会におきましても、松井委員と同様の意見を持つておる有力な学者なり実際家もおられまして、大いに議論せられたのでございまするが、現状においては、妥協して従来通りの取扱にいたすのが適当であらうというので、利益配当に対する決定は、総会事項といたしたわけでございます。二百三十條の二の「定款ニ定ムル事項ニ限リ」という、「限リ」という言葉を使つておりまするが、これはただ表現上明確にするとよう趣旨におきまして、「限リ」という言葉を使いましたので、さして強い意味があるわけではございません。総会法令又は定款定め事項にについて決議をなす機関であるというだけに過ぎないのであります。先程触れましたが、二百六十條におきまして、「会社業務執行取締役会之ヲ決ス」、こういうふうに規定されておりまするので、定款を以て業務執行に関する事項の或る部分を総会決議事項にいたすことが許されるかどうかという問題につきましては、多少論議があるかと思いまするが、二百六十條は強行規定であつて定款を以てしてもこの規定と異る定をすることができないというのはやはり行き過ぎではないか、会社におきましては、原則として業務執行機関取締役会であるけれども、その取締役会業務執行するにつきまして、或る事項については総会の議にかけるというような定款定めた場合に、これが無效な定款であるというところまで果して言い得るかどうかということは疑問ではないかと思います。先程申しましたように、定款は、会社根本的な法規でありますが故に、その根本的な法規において、或る特別の事項業務執行にかかる事項であるつても、これを総会に留保するという定款の定をするということは、必ずしも二百六十條の禁止したところではないというように解釈し得るのではないかと思います。併しこれは将来の解釈問題としては相当議論のあるところではないかと思いますので、現在におきましては、一応私共の考えておる見解を申上げて御参考に供したいと思います。
  8. 松井道夫

    ○松井道夫君 今の点は、例えば授権資本の範囲内における新珠の発行、或いは社債の募集といつたようなことが取締役会事項になつておる。それを或る限度総会の、例えば授権資本が四分の三ある場合に、四分の一程度のものは自由にやつてもよろしいが、四分の一を超過するような大きな新株の発行の場合には、これは総会決議を要するというような問題、そういつた問題が必ず起きて来ると思うのであります。これは全然取締役権限を奪うということは、これはいけないだろう、いけないと思うのでありますけれども、これを或る程度制限するということはいいのじやないかという問題が必ず起きると思います。その他いろいろ各規定があるでありましようが、すべてにおかれての見解が、余り酷くない、法律趣旨根本から覆すようなものでない限りは、総会決議によることができるのだという御解釈と拝聴して、それはその程度に打切つて置きます。  次に総会決議方法、定足数とか、そういうようなことにも関連いたしましての決議方法、これはいろいろな事項につきまして、新らしい法案には、いろいろ異つた方法がとられているように思うのであります。例えば今の取締役責任の解除には、株主全員の同意を要するとか、尤もそれは必ずしも総会を開かなくてもいいので、同志を集めればいいのだというようなことであるかも分りませんが、とにかく総会を開いたとすれば、一つの新らしい別個の決議方法、又今の認許を得る、競業の禁止ですか、何でしたか、とにかく認許というのがあつたと思いますが、その場合は又その場合で、発行株の三分の二以上、その他特別決議、普通決議といろいろあつたと思いますが、その各種の決議方法と、それがどういう場合、それから何故に他と違つた決議方法が必要なのであるかというようなことを一つ御説明願いたいのであります。尤もこれは後日表にでもして下すつて示して下されば、それでも一向差支ございません。  それからもう一つ、少数株主におきましても、いろいろの場合で違つた方式を立てる、十分の三とか、十分の一とか、いろいろあるように思うのでありまするが、その辺も一つ表でも図解でも、何でも結構ですから一目瞭然のようにして頂きたいと思います。  それから又訴もあります。訴もあり、又必ずしも訴をしようとせずに、非訟事件でやるという方法もある。この点も比較検討の必要がありますから、それも一つ一覧して分るようにお願いしたいと思うのであります。  尚、今の申上げた決議事項に関しまして、特に附加して頂くようなことがあつたら一つ御説明願いたいと思うのでありまするが、いずれにいたしましても、こういう議論は必ずあると思うのであります。同じ会社総会決議で、そういういろいろの決議方法を認める必要はないのじやないか、それはまあ事柄の性質によつて、事の軽重がおのずからあるだろうけれども、それを一々細かく取上げてやつてつて決議の方法その他を変えて行つても仕方がないのじやないか、大体の線で一つなり二つなり三つなりやつた方がいいのじやないかというような議論は必ず起きて来ると思うのであります。それが会社決議方法であれ、今の少数株主権の株主数であれ、必ず起きるのであります。そういつた点についての御見解をお伺いしたいのです。
  9. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 今の御要求ですね、お手数でも表にして頂きますと非常に我々としても便利でもあると思います。
  10. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) 只今松井委員の御要求になりました本法律案におきまして定められました総会決議方法、それから少数株主権の種類と申しまするか権限、それから訴によるか或いは非訟事件による申立にするか、訴訟上の公式における採用といつたようなものを表にしまして御参考に供することにいたします。その方が明権に御了解頂けるかと思いますので、さように取計らいたいと思います。  この決議方法につきましては、主として通常決議特別決議、この二通りに分れておりまして、特別決議につきまして、このたびの法律案も、従来の事項を大体特別決議事項といたしたわけでございます。通常決議に属する事項とされてありまする事項の中で、特に一種格別な決議方法を認めましたものは、只今御指摘になりました取締役に対する競業禁止の解除につきまして、発行済株数の三分の二以上の多数を以てするという規定を設けました点、それから取締役自己責任に関する責任免除につきまして同様の決議方法を認めましたという点が異例の取扱だと考えます。この決議方法を認めましたのは、認許とか或いは取締役責任免除というものが、事柄といたしまして極めて重大でございまするので、特別決議よりもむしろ重い決議定めたわけでございます。尚お手許に表を差上げましてそれを御検討頂きまして、お尋ねがございますならばお答え申し上げることにしたいと思います。
  11. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 松村さんと皆さんに申上げて置きますが、午前中に第三節の会社機関のうち、株主総会取締役会計監査役と、この三つの事項についての逐條説明がありました。その今質疑を行なつておるわけであります。
  12. 鬼丸義齊

    ○鬼丸義齊君 何條ですか。
  13. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 二百三十條から二百八十條までの質疑を今行なつております。
  14. 松井道夫

    ○松井道夫君 それからもう一つ、いろいろ立案の過程その他で問題になつたと聞いておることで、一体この自由企業の経営ということを考えて見ますると、法律によつて一定の枠を嵌められるということが、相当苦痛の場合が沢山出て来ると、これはまあ当然予想されるのでありまするが、その企業の組織の点におきましても、これを縛られると相当窮屈だということがあり、又その企業体の自治に任して置いて一向差支ない事柄が多いと、さように考えられるのであります。昨日問題になりましたが、例の定款規定により株式譲渡に対する制限を加えることができないという規定もその一つでありまするが、又今日説明を受けました問題の中にも、そういうことがちよいちよい出て来るのであります。例えば取締役、これは規定がどこに行きましたかちよつと見当りませんが、取締役にするには、定款を以てするも株主たることを要するというようなことはできない。これは経過的の歴史的の理由はあると思うのであります。取締役株主たることを要すとした法制もあるし、時代もある。これを株主以外からも経営の専門家を入れることができなきやならんということで、それが株主たることの要件がなくなつた。更に徹底いたしまして、定款を以てするも株主たることを要するということはできないというように、それは歴史的の意味合もありましよう。何もこれをことごとくし第二項に持つて来て、特殊の会社におきまして、そういう要件を入れるということを禁止する必要もなかろう。尤も今の株式讓渡の絶対自由という、昨日問題になつた点とも関連しておるのかも知れませんが、併しいずれにしましても、自治に任して結構なことぢやないかとも言う議論は必ず起るのぢやないかと思うのでありますが、そういつたことは外にも認められるのであります。これは私が今ここに探して申上げるよりは、説明の衝に当られる、立案の衝に当られた政府委員の方で、疾くによく御承知なのであります。例の松本蒸治博士は、そういうことは大嫌いだと言いまして、これは実際界のむしろ顧問的な立場にあられて、勿論御自分も事業を経営せられたこともあるでしようけれども、まあいやでいやで仕様がないらしいのですが、そういう規定が確かに、松本さんの御指摘を俟つまでもなく、ぼつぼつ見受けられるのでありますが、そういうものを強いて今のような大きな政策的な株式の讓渡禁止乃至は制限を認めるかどうかといつたような、大きな政策上の問題と関通をせんようなところでも、そういうようなことがあるのぢやないかと思うのであります。そういつた点如何にお考えになりますか。
  15. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) この法律案の中には相当強行的な規定もありまして、その規定に反する定款の定は効力はないという結果になりまするのは相当あろうかと思いまするが、特に定款を以てするもその定をすることが許されなというふうな規定の仕方をいたしておりまするのは、只今の御指摘のように取締役のこの資格の問題と、株式の讓渡を保障するという二つの点であつたがと思います。で二百五十四條の二項のような規定が果して必要であるかどうか、かかる規定は余りに自由企業というものを拘束して、国民の自主的な活動というものを制限することになつて甚だ面白くない規定ではないかという意見は承つたことがあるのでございまするが、会社の実際を見ますると、特に会社理事者株主でなければならないという必要が、果してあるのかでうであるか、勿論株主取締役になることは、これは法律規定しておるところではございませんで、自由になり得るので、総会で適当と思う人を選ぶ場合に、その適当な人がたまたま株主であつたということは、これは一向差支がないわけですが、必ず株主でなければ取締役になれないのであるかどうかということは、実務の実際から見ましても、ちよつと問題ではないかと思いますのみならず、実際の実例を承わりますのに、使用人を重役にならしめるために、いわゆる資格株を名義上使用人に與えるというふうなことはよくある例と聞いておりまするが、若しそうだとすれば、実際の必要というものと定款との間に食違いがあるわけでありますし、若しも定款を以て株主たる資格を限定し得る、取締役たる資格を株主に限定し得るということにいたしますと、それが一株の株主でも足りるというのであれば、まだこれは差支ないかと思いまするが、この場合に千株以上の株主でなければならない、或いは一万株以上の株主でなければならないというふうな定款規定をいたしますと、実質的に少数株主取締役たる機会を奪われるわけでございまして、これは甚だ不当な株主に対する差別的取扱を結果するのではないかと思います。さような点から考えまして、むしろ取締役は最適任者を以てその地位に就かしめるという意味におきまして、定款で特にこの取締役たることを要するというふうな資格上の限定をいたすことは適当でないであろうと、かように考えましてこの規定を設けたわけでございます。この表現自体から受けまする印象は、如何にも定款に当事者が自由意思によつて如何ようにも決め得る事項であつて、而も別段公の秩序なり善良なる風俗に反することのないようなこの事柄について、法律を以て特に制限するというふうなことは、如何にも自発的な、自主的な国民の意思というものを抑えたような印象を與えますが、実態をよく考えて見ますと、左程なことではないのでございまして、むしろ適者経営という面から考えまして、こういう規定を置くことが合理的ではないかと考えるわけでございます。
  16. 松村眞一郎

    ○松村眞一郎君 ちよつと私の感じでは「定款ヲ以テスルモ」と法律に書いてあることの裏は、定めることができない。端的に言いますと、元来定款法律規定と変つたことは定め得るのであるけれども、定款を以てするもこの場合は定め得ないのであるというふうに誤解を招く虞れがないかと思います。元来法律の下に定款があるのでありますから、任意規定であれば定款を以て定め得るでありましよう。併しながら凡そこの会社法の中に書いてある規定は、定款を以てすればどれもこれも格別の規定をなし得るのであるけれども、この場合は定款を以てしてもなし得ない、こんなような工合に読める虞れが私はあると思いますが、どうも「以テスルモ」という、法律より下のものを逆に尊重するような必要はないのであつて、むしろ取締役株主たることを要せずと書いて置けばそれで私はよろしいと思いますが、そう書いてはなぜいけないか、取締役株主たることを要せず、これでいいじやないですか。
  17. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) 松村委員の仰せの通りでよろしいかと考えます。かような表現をいたしましたのは、もとより定款を以てすれば、本法規定しておりまする強行法規に反する定もなし得るというふうな大きな力を定款に與える趣旨ではもとよりございませんで、これはもう申すまでもなく、強行規定はたとえ定款を以てしてもそれに反する定をし得ないことは申すまでもないのであります。ここに「定款ヲ以テスルモ」と、こう申しましたのは、従来から取締役の資格を定めますにつきましては、多く定款を以て定めておりましたし、又定款会社における基本的規約として尊重を受けておるものでありまするが故に、その定款を以てしても取締役株主であることを要するという定をすることができないという表現が適当ではないかと考えまして、かようにいたしたのでございまするが、今松村委員仰せのような趣旨に相違ございませんので、場合によりましてはさように規定を修正いたすことは差支ないと考えております。
  18. 松村眞一郎

    ○松村眞一郎君 会社法の中に、定款を以てするもいけないという、こういう書き方をしておるところはどこかに例がありますか。
  19. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) 二百四條の株式譲渡禁止が大体それに似た定をしておると思います。その外にはないかと考えます。
  20. 松井道夫

    ○松井道夫君 私の先程質問いたしたことは、單に定款の定によるものだけではないのであつて、今の定款の定によるものという例は、只今問題になりました二百五十四條の二にございますし、それから取締役会招集方法など、これも取締役会にそれ程の権限を認め、自治性を認めておるのでありまするから、こういうことも一週間前にやらなくちやならんとか、そういつた規定を親切に作つて、却つて無駄が起るんじやないかと思うのでありますが、会議体でありますから、自分達で勝手に決めていいわけであります。こういつたことについて余りに法律が親切過ぎるということは、却つて何か特殊な事情で、或いは企業々々によつて事情が違うのでありますから、例えばこれは松本蒸治博士が主張しておられる全国の工場の工場長は皆取締役をしておるといつたようなことで、持廻り会議を認めず、実際に一週間前に通知をする。一週間より短いところもあるかと思いますが、これは最小限一週間というんでしよう。併しながら同じ東京都内におるというならば、何も書面通知をする必要はない、電話で明日出て来て呉れというようなことでどんどん取締役会を開くこともできるわけでありまするから、聊か親切に過ぎるんじやないかというような気がいたすのであります。総じてこういう会議体が多いんじやないか、こういう意味で果上げたのであります。要するに質問の体をなさんかも知れませんが、余り細かいところまで当事者の自治に法律を以てタツチするということは行き過ぎる場合があるんじやないかという批判に対して、その見解を承わりたいのであります。
  21. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) この取締役の資格の問題は、実態から見ますると相当重要でございまするし、適者経営という原則を貫く、それから一株の株主にも又取締役たる資格を認めるという意味におきまして、二百五十四條ノ二の規定は、実質的に十分意味があるかと考えます。次に二百五十九條ノ二の取締役会招集通知の問題でございまするが、これは取締役会というものをやはり一つの会議体として取扱います関係上、正式の招集というものが法律上要求されるであろう、かように考えまして設けた規定でございます。勿論これはそれぞれの会社定款に任せて差支ないことでありまするが、一応一週間前ぐらいの期間を置いて通知をするということが合理的ではないか、併し会社においてはその必要のないところもあるだろうから、定款を以てその期間を短縮することができるということにいたしたわけでございまして、必ずしも無用な制約を定款なり、或いは会社に対して加えておることにならないのではないか。松本先生の御指摘になる程、迷惑千万でやり切れない規定というふうにはならないのではないか。さように考えております。
  22. 松井道夫

    ○松井道夫君 それから又この今回の改正を通じいろいろ問題になつておりまする点は、個々の株主取締役に対する責任追及の訴を起すことができるように認めておる。これは一種の少数株主権のミニマムであるのでありましようが、その他関連いたしましてインジヤンクシヨンとか又違つた面から言えば株主買取請求権、こういうものが権利の濫用によりまして会社に相当な損害を掛ける虞れがある。この権利の濫用を防ぐところの何らかのいい方法があれば、これは何もその憲法の訴の自由、そういう憲法にまで遡つた権利としての訴訟だから是非こうしなくちやならんのだ、或いは制限はよろしくないのだということでなしに、今の公共の福祉、これは申すまでもないことでありますけれども、近頃公共の福祉の名において余りにも基本的人権を蹂躪するという傾向が強いというような非難もありますけれども、何らか権利の濫用を防ぐ必要があるのではないか。現行法ではたびたび指摘せられておるように、訴に関しては担保その他補償を要求するということもあるのでありまするが、立案の過程におきましてそういう点について何らかの方法が考慮せられたかどうかということをお伺いいたします。
  23. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) 松井書のお尋ねになりましたように、株式買取請求権或いは取締役の経限超越の行為に対する差止請求或いは取締役責任を追及するいわゆる代表訴訟というものはいずれも個々の株主権利として認められておりますので、これが濫用される虞れはないか、その濫用に対して如何ように考えるか、適当な措置を立法上講じておるかというお尋ねでございますが、これは議決権の行使と違いまして、只今申しました株主権利はいずれも終局におきましては、国家の司法機関による判断において行使されるのでありまして、裁判外におきまする権利の行使と異りまして、この権利の行使が濫用である場合には必ず請求が否定されますから、その点から申しますと、裁判外の権利行使に比べますと、権利者みずから相当の愼重さを必要とするのではないかと思います。規定といたしましては、この代表訴訟におきましては二百六十八條の二の二項におきまして、敗訴した株主に悪意があるときには損害賠償の責任を負うということにいたしておりますので、悪意ある株主は損害賠償の責任の下に行動しなければならない。ただ問題は、全く無資産の株主が、損害賠償の請求などは問題にしないで訴を起して、そして法律担保提供の義務免除しておる以上は、そういう無資産な無信用な株主も悠々と訴を起せる。この場合の会社の迷惑は大きいのではないか、これに対する措置をどうするかということになるわけでございますが、確かに担保提供を現行法で認めておりますのは、その点におきまして大いに意味があると思います。担保提供の義務免除いたすことにいたしました点につきましては、実は私共立案に当りまして相当苦心いたしたのでございまするが、この担保提供は、えて株主の正当なる、証実なる株主権利行使を阻むという面が非常に大きいのでありまして、アメリカにおきましても、最近の立法であつたかと思いますが、ニユーヨークの州法におきまして、代表訴訟、只今御指摘の取締役責任を追及する代表訴訟提起する際に、株主担保提供の義務を認めて立法をいたしたのであります。ところがこれは株主の正当な権利行使を阻む不当な立法として喧々囂々の非難を招いたのでございます。そういう関係もございまして、絶対に担保提供の義務免除しなければいけないということを強く要望せられたのでありまして、私共その御意見を斟酌いたしまして、担保提供の義務免除いたしたのであります。その他に特に権利濫用に関しましては、これを制限する規定を置かなかつたのは、実は私共といたしましても、多少規定の上に不十分ではないかと思いまするが、訴訟形式は裁判所を通じて権利を行使するという点と、裁判所が原被両訴の立場を公平に判断して適当な措置を加えられるだろうということに最大の期待を置きまして、別段権利の行使に対して事前にタッチするという方法を採らなかつた次第でございます。
  24. 松井道夫

    ○松井道夫君 今の担保の提供免除の点については、御苦心の程は分りましたけれども、併しながら非常に裁判所に対して信頼を置いておられるに拘わらず、この保証の点、担保の点では裁判所を信用しない。裁判所も諸般の事情……勿論果して権利を濫用するものであるかどうかということは、十分考慮に入れると存じます。又株主の資力というようなことも考慮に入れて、担保を適切に決めるだろうと思うのであります。必ずしもそのために支障が起るといつたようなことは考えられないと思うのであります。アメリカの過去の例が、どういつた程度のものを要求しておるのであるのかその辺は分りませんが……。それからよく民間の声を聞きますと、今の少数株主権を認めるのに、この場合は株主でありますが、株主になつてから例えば六ケ月経たん、或いは三ケ月経たん者、そういつた者に訴を起すことはできないとこにした方がよろしいというような意見が、あると思うのでありますが、そういう要するに会社荒しを防ぐという意味であると思うのでございますが、そういう期間で制限するということは考慮されたかどうか。
  25. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) 株主買取請求権につきましては、請求手続をいたしますのに多少の期間が必要でありまする関係上、具体的に申上げますと、苟くも総会において反対決議をいたしますためには、名義書換期間前の株主でなければならない。登録簿に株主として登録されておらなければならないという点で、一応決議前相種の期間前に株主であるということを要要とするであろうかと思いますが、買取請求につきまして、立法例といたしまして、六ケ月乃至三ケ月前からの株主であることを必要とする例はないのではないかと考えます。又その必要もないのではないかと考えます。ただこの代表訴訟或いは取締役の越権行為の差止という点につきましては、私も十分材料を調べておりませんが、或いはアメリカの州によりまして相当の期間前から株主たりということを要件にしておるところもあるかと考えますが、裁判所の解釈といたしまして、少くとも責任を追及せられる原因たる事実が起きた当時の株主でなければならないという解釈をいたしておる判例は相当あるのではないかと思います。その当時は勿論無縁の人であつて、その後特に取締役責任を追及する目的を以て会社の株を讓受けて株主なつたという人にその権利を認めることが果して適当であるかどうか、或いはそのことが権利の濫用を誘発する結果になるので、そういう株主にまで権利を認める必要はないという判例もあつたかと考えますが、立法上の措置といたしまして、必ず一定期間前からの株主でなければならないという限定を置くことによつて権利の濫用を防ぐという効果があるかどうかという点を私共多少疑問に考えまして、むしろこれはこのままににいたしまして、裁判所の賢明な裁量によりまして適当なる限定をつけられるという方がよろしいのではないかと考えておるのでございます。
  26. 松井道夫

    ○松井道夫君 只今アメリカの判例にそういつたものがあるらしいと、そういつたようなお話でありましたが、そうなればそういういつた取締役行為のあつた当時株主でなかつた者はこの限りでないといつたような規定を置かれれば非常にはつきりして、実際のところ安心するのじやないか、そういう限定方法がいいということになれば、一つの立派な案と思うのですが、裁判所に任せるのも結構でありますが、裁判所で具体的の事情に適合したその判例のでき上るまでには大変な苦労ですから、日数と費用がかかるわけですから、数年の日子とその間における困難があるわけであります。成るべくならばそういうことは立法の措置で解決したらいいと私は思います。  次にお尋ねすることは、大変小さいことで恐縮ですが、二百六十六の第一項第二号に「他ノ取締役ニ対シ金銭ノ貸付ヲ為シタルトキ」とあります。ところがその前の二百六十五條によると「社会ヨリ金銭ノ貸付ヲ受け」とあるので、この二百六十六條の第二号は、今の二百六十五條の「金銭の貸付ヲ受け」、これに当るのじやないかというように考えられております。ところが同じ二百六十六條の四号へ持つて来て「前條ノ取引ヲ為シタルトキ」と、こうあつて、結局二号というものは四号の「前條ノ取引」の中の一部分であつて、特にその二号と四号と分ける必要がないのではないか、尤もその二百六十六條一項の本文の方で、いわゆる二号と四号と分けて書いてあるのですが、いずれにしても二号と四号の関係がどうなるのかというのが、ちよつと疑問があるのじやないかと思います。これは大変小さいことでありますが……。  それからもう一つお尋ねしたいことは、今のこの損害賠償の関係二百六十八條の二の敗訴の株主の損害賠償の関係でありまするが、「株主ガ敗訴シタル場合ニ於テハ悪意アリタルトキニ非ザレバ会社ニ対シ損害賠償ノ責ニ任セズ」とあります。これは以前に説明を受けました会社解散請求をした場合に、不法行為一般原則に任したという説明があつたと思うのでありまするが、その二百六十八條の二の二項の規定は、その関係と較べて制度を異にしておるのではないかと思うのであります。この「悪意アルトキニ非ザレバ会社ニ対シ損害賠償ノ責ニ任ゼズ」、この書き方であると、不法行為が成立する場合でありましても、悪意でなければ損害賠償の責に任ぜずと読めるのであります。悪意ある場合は、或いは重大なる過失あるときも同じでありまするが、大体においてこれは当然の不法行為が成立すると考える、要するに不法な損害を惹起した、自分の行為で不法な行為ができた場合には不法行為が成立するという、進んだ不法行為の議論からすれば、当然悪意あるときに不法行為は成立せんということはないのであります。重大なる過失ある場合も勿論不法行為は成立すると思うのであります。ここに「悪意アリタルトキニ非ザレバ会社に対シ損害賠償ノ責ニ任ゼズ」というこの規定を、更に突込んで御説明を願いたいと思います。
  27. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) 二百六十六條の第一項の二号の「他ノ取締役ニ対シ金銭ノ貸付ヲシタルトキ」と申しまするのは、松井委員の御指摘のように、二百六十五條の「会社ヨリ金銭ノ貸付ヲ受ケ」たる場合に該当いたしますことはその通りでございます。従いましてこの二号は、四号にございまする「前條ノ取引ヲ為シタルトキ」の中に含まれることも、松井委員のお考えの通りでございます。ただ四号の「前條ノ取引ヲ為シタルトキ」と申しますのは、この一切の取引を含みまするし、特に取締役の承認を得ないで取引をする場合もあるかと思いますけれども、とにかく一切の取引から生じた損害額について、会社に対して連帶して責任を負うということになるのに対しまして、二号の「金銭ノ貸付」の場合だけは、その取締役会社に弁済しない金額、その金額について他の取締役が連帶してその責任を負う、その責任の範囲を明確にすると同時に、限定したという意味におきまして、特別な意味を持つわけでございます。  それから二百六十八條の二の第二項は、これ又松井委員の御意見通りでございます。と申しまするのは、正に株主が悪意又は過失によりまして訴を起したという場合には、一般不法行為原則が適用されまして、損害賠償の責任を負う場合もあり得るのでありまするが、この場合におきましても、特にこの「悪意アルタルトキ」に限つて責任を認めるのでありまして、軽過失、重過失の場合にはこの責任がない。言い換れば、苟くも取締役責任を追及して会社のために訴を起すというからには、株主は勇敢でなければならない。若し自分が過失のために敗訴したという場合に、それに対して、会社に対して損害賠償の責任を負わなければならないということにいたしますると、誰も別に自分の利益のためではないわけですから、取締役責任を追及する訴というものは、安んじて起さないだろう。それでは折角取締役の違法行為に対する内部監督として株主責任追及の訴を認めながら、その訴が実質上殆んど空文に帰してしまうというのでは、立案の趣旨が徹底いたしませんが故に、惡意のときに限つて責任を負うということにいたして、一般の不法行為責任に対する特例を定めたわけでございます。
  28. 松井道夫

    ○松井道夫君 それでよく分りましたが、そうすると惡意だけというのは一般の立法例でも珍しいのぢやないかと思うので、やはり重大なる過失も入れた方が、やはり訴を起すのにもそう勇敢であつても困るので、やはり相当の注意を拂つてつて、負けたらそれでいいじやないかというわけにもいかんと思います。重大なる過失を入れた方がいいのじやないかと思いますが、その点どうお考えになりますか。
  29. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) 一般の損害賠償の責任に関しましては、この法律案におきましても、惡意と重大なる過失というものを大体同様に取扱いまして、重大なる過失がある場合は責任を認めておるのでありまするが、責任追及の訴におきましては、これが特に取締役責任を追及するという点で、成るべく株主責任を軽くすることによりまして、訴提起の勇気を與えるとでも申しまするか、勇敢に責任追及をせしむることが、実は取締役の不法行為事前に防ぐことにもなりまするので、重大なる過失というのを省いたのでございます。この点につきましては、私共も従来の取扱から申しましても重大なる過失を入れることが適当ではないかと考えたのですが、結局御了解を得ることができませんで、かような案になつたわけでございます。
  30. 松村眞一郎

    ○松村眞一郎君 累積投票ということの意味が十分に了解しかねるのでありますが、取締役選任を單記でやつた場合には、累積投票は要らないのじやないですか、單記投票の場合……。ここに累積投票を考えておるのは、連記のことを考えておるのじやないのですかね。少数株主は單記であれば必ず保護される、例えば十人の株主がある、そうして多数の方は六人になつておる、少数は四人であるという場合に、二人の取締役であるならば、單記であれば必ずどちらも一人づつ出しうるのであります。單記投票であればですね……。それから三人になれば、その六人の中から二人出して四人の中から一人出す、こういう率になるわけです。始終少数の株主は保護されておる。累積投票は却つて煩瑣になりまして、私は必要ないと思います。累積投票があるために、そこで何か相談をしたり、いろいろなことをしなければならない、そうすると少数の株主が二人であるべきものを、三人出たりするようなことが却つてあるのではないか。多数の方が却つて代表されないということになるのではないかということを私は考えるのですが、元来單記投票であれば、もう多数も少数もそのまま現れるのではないかと思う。取締役選任というのは、必ず連記であるという前提の下にこの規定ができておるのではないかと私は思うのですが、取締役選任というものは、黙つておれば單記ではないのですか。私は今申した例でよくお分りだと思う。十人の株主があつて、そうして取締役二人を選ぶという場合、六人と四人とに分れた場合に、單記の投票をしますれば、六人の人が一人選ぶ、四方の方も、四人の人が皆選びますから一人出ます。六人の人が一人に集中してしまいますから、やはり一人しか出ない。二人に分れてしまつたら出せなくなるが、一人であれば、多数の者は必ず一人は出られる、どうも累積にするという理由が私はちつともないと思つておるのですが、どうですか。これは必ず連記であるという前提の下にできておるのではないのですか。凡そ選挙というものは、單記がもう当然なんですから……。
  31. 佐藤達夫

    政府委員(佐藤達夫君) 取敢えず私からお答えして置きます。この選挙制度の上におきまして、少数代表制度、多数代表制度、いろいろございますが、問題は、結局少数代表制度の問題がこの狙いになつておるわけでございます。御承知のように、只今又御指摘になりましたように、この單記投票制度というものは、一般選挙法の建前から行きますれば、日本独得の制度と言われます少数代表制度ということでありますけれども、今の二人の例をお出しになりますと、そうはつきりしたことにはならないと思いますが、選挙する人の数と選ばれる欠員の数とのバランス関係から言いまして、この累積投票で行く方が、小数代表の目的から行きますれば、單記投票主義よりも一層少数代表の目的を達し得る形であるということは、これは一般選挙制度の方で、定論と申すのはどうかと思いますが、或る程度の常識になつておるように了解しております。アメリカあたりでも、殊にイリノイ州あたりは、少数代表制度として累積投票制度を採つておる有名なステイトでありますが、昔から今日まで、一般会社内部のみならず、地方団体とか、或いは州の選挙ということにもこれが用いられて、有力な少数代表制度というふうに言われておるわけであります。
  32. 松村眞一郎

    ○松村眞一郎君 実際数をお出しになつて示して頂けば、この問題は明瞭なことですが、私の言うことは間違いないと思うのです。多数のものが連合すれば多数が出ることは決まつておるのですから、少数だけが必ず連合するという考え方はおかしいのであつて、少数も連合する。そうすると二派に分れるのであつて、多数はばらばらになつてしまつて、少数のものは累積投票でやれば必ず選ばれるように集まるのだという、そういう論旨は出て来ないと思う。元来、数字の問題ですから、單記の投票でやればこういうことになる、連記の投票でやればこういうことになる、累積投票でやればこういうことになるという、実例を示して頂きたい。理窟の問題ではなく、数字の問題ですから、私は数字の上から、これでは納得できないということを申しておるのです。
  33. 伊藤修

    委員長伊藤修君) 今の松村さんのお尋ねは、この立法の基本が連記を基礎にしてやつておるのか、單記を基礎にしてやつておるのか、明確にして下さいというのです。
  34. 岡咲恕一

    政府委員岡咲恕一君) この立法の基礎は、連記を大体基礎にして考えたと思います。併しこの点私まだ或いは間違つておるかと思いまするので、十分検討いたしまして、この次に明確にお答え申上げます。尚投票の方法によりましてどういう結果になるかという問題は、松村委員の御要求もございまするし、必要かと考えまするので、数字を明らかにいたしましてお答え申上げたいと思います。  それからこの累積投票は、大体佐藤法制意見長官からお答え申しましたように、一般に少数代表を選出するという点で認められた制度であることは申すまでもないのでございまするが、松村委員のお説のように、大多数も仮に少数と同様に団結いたしまするならば、御指摘のように、單記の場合と或いは同様の結果を得るのではないかと思います。併し多数の団結ということが、非常な大きな企業におきましては困難であるという点におきまして、少数が団結する場合には、容易に自己の代表者を送り得るという累積投票の方法は、実際の上では相当の意義を持つのではないか、又お説のように、若し多数が漫然として総会に臨み、少数が非常に十分の連絡をとつて意思をまとめまして、投票いたしまするというと、少数の方が却つて結果として、多数を支配するという結果の起ることも、これも又数字の上からも証明し得ることかと存じまするが、要するに少数の代表者を取締役として選出し得るという点におきましては、恐らくこの累積投票が一番効果的ではないかと、かように考えております。
  35. 松村眞一郎

    ○松村眞一郎君 これは選挙の議論になりますが、若し累積投票がそういうものであるならば、国会の選挙にこれをやるべき筈だと私は思う。国会の選挙というものは、一番大事なことなんでありますから……。少数代表のために累積投票がよいものであるということが定論であるならば、選挙法に先ず採用していなければならんと私は思う。採用してないところを見ますというと、これらは恐らく株式会社だけの現象ではないかと思う。その上に株式会社というものは、元来資本の数で争うべきものでありますから、お互に連絡をとるかと何とかいうような問題じやないので、金の数で勢力を示してそれでよいのですから、それであれば、端的に多数の人が多数の役員を出すというようなことは当然のことなんです。併し私が申しましたごとく、少数であつても定員の一人くらい出し得る、少数であつても、これは出し得るのでありますから、何も無視していない。單記であれば、少数というものは必ず出られるのです。どうも私は了解できないのです。それが選挙として非常に公平なものであるならば、一般の選挙にも取入れなければならん。資本の集積でありますから、これはもう算盤ではじいて行けば一番よいのです。株式会社の役員に選任に、いろいろな術策を弄して当選するようなやり方は私はよくないと思う。もう少し端的に示してよいと思う。資本の集積であるということで考えるならば、少数のものは、普通ならば当選することができないのだが、累積投票であるために、自分の投票が累加する。多数の方がばらばらになつて出て来るということであれば、それは資本の数を代表しておるものではないと思う。むしろいろいろな術策の結果であるということになつて株式会社営業の経営というものを資本の数によつて尊重しなければならんという経済的の原則を打破しておるお考えではないかと思うのです。そういう点でどうも私は了解しかねるのでありますから、数字で又説明して下さい。それで結構です。
  36. 伊藤修

    委員長伊藤修君) それでは、その点何か実例を一つ設けて御説明願います。  本日はこに程度にいたします。月曜に、午後から開会することにいたします。    午後二時五十九分散会  出席者は左の通り。    委員長     伊藤  修君    理事            鬼丸 義齊君            岡部  常君            宮城タマヨ君    委員            大野 幸一君            松井 道夫君            松村眞一郎君   政府委員    法制意見長官  佐藤 達夫君    検     事    (法制意見総務    室第一局長)  岡咲 恕一君