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來馬琢道君 中国、九州出張
報告の概要を申上げます。去る
昭和二十四年十二月十七日
東京を出発いたしまして、広島少年院を訪問、院長森明麿氏の注意周到なる案内によりまして十分視察をいたしました。第一学寮、第二学寮は完成しておりますが、第三学寮は建築中でありました。職業補導所は農業部と工作部とに分ち、農耕用として牛馬おのおの一頭、鶏十羽、豚一頭、兎三匹を飼育するというような方法で、なかなか少年
指導の上におきましては注意されてあります。ただ
職員給與が一般の
職員に比べて二、三級低いので、適材を得ることが困難であります。即ち精神的人材がなければこの事業の目的を達成することができないかと、聊か不安に思
つて来ました。
広島高等
裁判所の会議には長官松本静史、
検事長岸本義廣、
地方裁判所判事及び
地方検事正、森加家庭
裁判所長、矢島刑務所長、今西
弁護士会長の諸氏が出席されまして、日鋼
事件、下関騒擾
事件の
報告、及びいわゆる法廷侮辱問題等について
意見の開陳があり、勾留
理由の開示の問題、保釈保証金五百万円の
事件の
説明等を聞きました。勾留状、逮補状の請求却下に関し、及び上訴の問題、青少年保護の問題等について、長時間に亘
つて討議しました。刑務所も視察して、原子爆弾のために家の柱が石ごと一寸五分もそのまま滑り出している実情を見て、この方面についても
相当注意しなければならんと思いました。
岩国少年刑務所、即ち自治学院であります。この少年刑務所の視察も
相当の意義がありましたが、特に山口
地方裁判所岩国下部上席判事白井氏、
検察庁副
検事、柳書
簡易裁判所原田判事、岩国少年刑務所各課長、岩国警察署、玖珂東地区警察署の各員、山口
弁護士会副会長丸茂氏等が出席して、過般かねて與えられたる問題について討議いたしました。刑務所の視察よりもこの会議の方に力が入
つたのは、如何に同
地方の訪問が彼の地の人々に期待されてお
つたかということを知ることができると思います。少年刑務所を出発するときに、その保護せられたる少年がブラスバンドを持ちまして螢の光を演奏して見送
つたときには、誠に涙ぐましい気持を抱いたのでありました。
新光学院に行きまして、これは山口県熊毛郡佐賀村にありまして、土地は潜水学校の跡で残存建物も少しあり、新築の建物も殆んど整
つておりました。まだここもこれから本当にその目的に向
つて進んで行くものだと思いました。
このときに星野
委員が断食をしながら同行され日々に衰弱して行くのを見て、私は見るに忍びませんで、参議院の議長や殊に労働者農民党の黒田代議士その他に向
つて、断食を中止するように言
つて欲しいという電報を打ちました。大変皆さんをお騒がせいたしましたが、同僚といたしまして甚だ心苦しいことがあ
つてからであります。
山口
地方裁判所に参りました。山口
地方裁判所の会議は玉井所長中村
検事正、永江家庭
裁判所判事、少年保護観察所長稲田氏、北村
弁護士会長、各警察署
関係者等も出席して、著名
事件について、或いは下関
事件、職場拠棄の問題、保釈について、青少年
犯罪の問題などにつきまして、いろいろの
報告がありまして討議をいたしました。刑務所を視察し又少年保護観察所の敷地も視察しました。
もつと他の方面を視察するような予定であ
つたのでありますが、時間がないために止めまして、直ちに佐世保の刑務所に参りまして佐世保の刑務所のすべての点について視察いたしました。それから翌日は佐世保臨海寮を視察いたしました。これは海軍の火薬庫の跡でありますので、建物は高層なものであるけれども甚だ暗いので、明るくするのに相力盡力していたようであります。海岸でありますので海員養成の特色があります。発動機船も借用しておるのでありますが、船に乗りまして逃走されては困るというので、漁業その他についてもいろいろ苦心しながら
教育しておるようであります。
佐世保
地方裁判所下部における懇談会には、長崎の
地方裁判所長、現在家庭
裁判所所長石井壽氏、佐世保支部上席判事小田村元彦氏、山田長崎地検次席
検事、佐世保地検支部大坂盛夫氏、佐世保警察署次長、佐世保市助役長崎
弁護士会長吉村氏、佐世保
弁護士津川他一名の両氏、臨海寮の少年院長の大栗道船氏とい
つたような人が出席いたしまして、令状の問題、権利保釈の問題、裁量保釈の問題、上訴に関する件等を討議したしました。家庭
裁判所に専任判事がいないので不便が多いというお話も聞きました。この佐世保の
裁判所の一支部における会議は佐世保だけのことだと思
つておりましたところ、
只今申したように長崎
地方裁判所長も又次席
検事も、
弁護士会長も、一同揃
つて出席さけたので、なかなか予想外の大きな会となりました。併しながらその会議におきましては、
弁護士と判事との間にいろいろな論争にも似た演説がありましたけれども、本院から参りました
関係上私共の地位からそれをなだめまして、言うだけのことを言うて貰
つて、かなり深刻なる討議をいたしましたが円満のうちに閉会したのでありました。
來馬は長崎市におきまして
裁判所等の建物を視観しました。あいにく日曜日でありましたので外観だけを見たのであります。それから星野
委員は単独に下関刑務所を視察し、又宮崎刑務所も視察して来られました。実はそれらにつきましては、私は写真をと
つて参りました。いずれ御
報告にも附加したいと思
つております。その外のことは
報告書に詳しく申上げてあります。
私共の出張中に得ました印象は、各方面で本院からの出張ということに対して非常に和やかに而して又非常に期待していたような気分で、いずれも腹臓なき
意見を述べられてこれを聞けたことは、私共の
法務に精進する上に多大の利益を與えられたと思います。簡単ながら御
報告を終ります。