○国務
大臣(森幸太郎君) これは重大な問題であります。私は今日の農村が決して落着いておるとは
考えておりません。併し恐慌
という言葉を殊に農民組合の方々がお使いになります。又新聞記者諸君などにお目にかかりましても、農村は恐慌が来ておる
ということを非常に叫ばれるのであります。どういう
程度のことを恐慌と
考えておられるのでありますか、私は……、農村が落着く
ということを目標として政策を立てて行かなければならんのであります。ところが恐慌々々と言うて宣伝
というか、
余りにやかましく言うことは、農村自体が、これは恐慌が来るのではないか
というような取越し苦労と言うか、心配をし過ぎてしまう
ということを第一私は惧れるのであります。
食糧の危機到来する
ということを叫んだがためにますます
食糧を危機に追い込んだ過去の実績がありますが、今日はインフレで参りました
日本の経済を、一時これを転換さす
というように国の政策をそこに持
つて来まして、御
承知の
予算の建前からすべての組織がそこに向いて来たのでありますから、ひとり農村だけではないのであります。これはもう中小工業のものも、或いは労働者も月給取も、今までのようなインフレ時代のふかふかしてお
つた時代とは現に違
つて来ております。で農村恐慌と過去の歴史を
考えて見ますると、商売しなければ馬鹿だ、月給取をせなければ馬鹿だ、百姓しておる奴は馬鹿だと、こういうふうに農村を顧みずして段々と商工に走
つて行くと、農村は今に荒廃に帰してしまう
というような時代が来てはこれは本当の農村恐慌であります。今日はあらゆる階級が経済の切替転換によりまして、
相当な
程度において平均的な苦痛を嘗めているのであります。決して農村だけが苦しい。他のものだけは楽だ
という時代ではないのであります。それでありますから、これは商工業としては中小工業に対して
考えて行かなければなりませんが、農村に対してはここで恐慌だ恐慌だ
というこの心配を増さずして、落着かす
ということに
考えて行かなければならん。それでありますから、私は恐慌
という言葉を使いたくないのであります。然らばどうするか、それは抛って置けばますますその生活が苦しくな
つて来るのでありますから、そこに対策を立てて行かなければならん。殊に金融問題のごときは
農業協同組合を作りまして漸く二年後であります。殊に
農業会の資産を受取るのに金がない。五十億の金がなければこの資産が受取れない。そしてその
農業協同組合の実態を調べますと、いろいろな売れもしないような農機具等を非常に抱き込んで到底これを始末しようがない
というような
農業協同組合もあるのであります。而も農地は担保力がありませんから金融に行詰るのは土台当然であります。
従つてこの金融面につきましては、さような浮動担保では仕方がないので、しつかり落着いた担保によ
つて、できるだけの金融を
考えよう。この間もどのぐらいの担保力があるか
というと三十五億そこそこだ
という話でありましたが、何
というても金のことであるから、しつかりした担保力を
示して、これを中金の方から十分廻すように
政府としても金融の
方面からそういうふうな方向に行くより途がないと
考えますが、この現在の農村
といたしましては今まで非常に金がだぶついてお
つた。だぶついてお
つて物を買う癖がついておる。ところがもう金がなくな
つてしま
つて、もう闇の流通が少くな
つて参りましたから、金の收入が少くな
つて来た。そうして金の使い癖がまだ残
つておる。そこでどうも農村はいけないいけない
という声が出て来るのであります。そこでどうしてもこれは課税の
方面についても勿論税制の
方面から
考えて行かなければなりません。又農産物の
価格につきましても、今後これを或る
程度に維持して、そうして再
生産のできるように制度を持
つて行かなければなりません。又
生産の
方面においてはできるだけこれを増強するように指導力によりまして、技術の改良、滲透を図り、そうして
増産を図
つて行く
という、あらゆる角度からこの農村に対しての政策を持
つて行く
ということは、これは当然の仕事でありまして、恐慌々々と威しつけて見たところが、それに対しての対策を
考えなければ駄目でありますから、私はできるだけ農村の気持を落着けさせて、そうして行くことが今日採るべきことでなると思いますので、
余り恐慌々々
という言葉を使うことは私はいけないことであるとかように
考えておるのであります。農村におきましても、今日の金語り等につきまして、今後に対して
相当これは自覚をされました。その自覚されたことが協同組合の貯金の面に相れて来ております。殊に東北
方面においてその貯金が殖えて来ております。近畿
方面がまだ非常に心配せられるようでありまするが、中金の帳簿から眺めて見ましても、今までのように
農家が金を粗末にしない。金を大事にしだしておる
という形勢が確かに現れて来ましたことは、ここに農村が落着いて来たのではないか
ということを
考えるのでありますが、この体制を助長いたしまして、農村を落着けさすようにあらゆる政策を持
つて行きたいと、かように
考えておるのでありまして、決して今日農村はいい、楽である
ということは毛頭
考えておりません。ただいけないいけないと、
余り恐慌の念を駆り立てる
ということは決して農村のためにいいことではないとかように
考えるから、私は恐慌々々と言われる程の恐慌は今日農村だけにあるのではない
ということを申上げておるわけでありまして、決して農村が商工業に比較して楽である
というような安全的な、安心的な
考え方は私は持
つておるわけではないのであります。何とかここで食い止めて行かなければならん
というところに政策を持
つておることを御了承を願いたいのであります。