○
公述人(萬仲余所治君) 大変奇妙な名前をいたしておりますので、名前から申上げますが、マンチュウヨソジと申します。北海道
炭鉱汽船株式会社の常務取締役をいたしております。兼ねて夕張鉱業所の所長をいたしております。尚本日は
炭鉱汽船会社の役員としてお呼び出しに與
つておりますが、私北海道
石炭協会の会長もいたしております。今日申上げますることは、
炭鉱汽船会社の役員として申上げるのではございますが、それがそつくり北海道
石炭協会の会長としての発言としてお取り下す
つても差支ない内容を申上げます。
先刻来
被害者代表の
方々五人の
方々の
お話を承りましたが、この二十六年間、北海道の山の中で
生活をいたしておりますが、
九州の
炭鉱へは一遍も伺つたことがございません。併しながら北海道の山の中の
炭鉱でも、第三者に
損害を與えるか、
自分の持物に
損害を與えるかの相違はありますけれども、形の上に現れた
鉱害に類するものは
相当にあります。ありまするが故に、その
被害状況が如何に悲惨なものであるか、如何に社会問題を構成する内容を持
つておるかということは、或る
程度承知いたしておるつもりであります。只今いろいろ
お話がありました実情を承りまして、誠に
鉱害、特に
戰時中に特別な
條件の下に行われた採掘によ
つて起つた
鉱害というものは、一日も早く
復旧せねばならんということには全く同感でございます。然るにも拘わりませず、この
法案をそのまま通過することに反対せざるを得ないことを誠に遺憾に存じます。只今から反対の理由を申上げます。
先ずその先に申上げたいことは、先刻どなたかの御発言の中にもありましたが、この
法案に対して
炭鉱業者の一部に、或いは我利々々的な自己の
利害ばかりを
考えるような
意味合で反対をしておる者があるかも知れんというような
お話でございました。かも知れんとおつしやいますから、私も真顔にな
つては申上げませんけれども、若しあるとおつしやるならば、私の方からは真顔にな
つて申上げねばならんのであります。逆に申しますと、私共の方から申しますと、やつらは不都合である、この社会問題をどうするか、やつらが反対しておるためにこの
法案が通過しないということによ
つて、重大なる社会問題ができるんである、彼らは実に不都合だというかのごとき言説がどこかに行われておるかも知れませんことによ
つて、私共が
相当に誤解を受けておるということを甚だ遺憾に存ずるものであります。私共は
特別鉱害の一日も早く
復旧されねばならんということについては少しも
異議を挟みません。先刻も申しました通りであります。併しながらこの
法案の中に盛られておる
特別鉱害の
復旧費の
負担方法について
異議があるのであります。この点において修正されない限りは、私共はこの
法案に反対せざるを得ないのであります。この点が我々の求めるような修正がされるならば、一日も早く通過せんことを望むものであります。先刻も
お話がありましたように、大体この
特別鉱害というものは、
法案の三條に載
つていますように、大東亜戰争中に起つた
鉱害であ
つて、
自分で
自分の計算の下に操業する際には決してやらないという、
国家の非常要請によ
つてやつた
鉱害であ
つて、而も特急に早く
復旧せねばならぬものであるということでありまして、この
責任たるや
国家自体が
負担しなければならぬということは最もはつきりしていることであります。この点は、県知事さんもおつしや
つていらつしやいました。併しながら諸般のいろいろな問題があるから、理屈は理屈としてその通り行かないということをおつしや
つていらつしやいます。それもその通りであります。併しながら、先刻も県知事さんがおつしや
つていらつしやつたように、
戰時補償は
打切られておる。その職時
補償というものと、この
鉱害がそれに当るかどうかという点については私共
相当の疑問を持
つておる。
相当どころか、これは当らんと私は
考えておるのでありますが、そういう点でいま少し、時期的にはうんと早くやらにやいかんけれども、この問題はもつともつと検討を要すると
考えておるのであります。で、先刻も申しましたように、理屈からいえば
国家の
責任である、併し
国家はそれをどうしても全部
負担することができないというような事柄があるということも
考えまして、我々
炭鉱業者は昨年の六月、やがて
配炭公団もなくなりはしなやか、又統制もやがて撤廃されるようになるだろう、その一部はすでに撤廃されたというときに、私共が集まりまして、それまで統制された
炭価の一部に入
つておつたこの
特別鉱害の
復旧費用をどうしようということを協議しました結果、理屈は飽くまで
政府負担然るべし、併しながらどうしても
政府が全額
負担できない場合も
考えて、六月二十九日に
関係官庁に陳情いたしております。日本
石炭協会の名によ
つて陳情しております。その陳情の中には、万止むを得ないときには三分の三を
国家で御
負担願いたい、残る三分の一は
関係炭鉱で
負担止むを得ませんということを申上げておるのであります。この
関係炭鉱と申しますのは、この議場でいろいろ言われております
加害炭鉱であります。昨日も話しておつたのでありますが、
加害炭鉱、非
加害炭鉱ということは非常に不穏当な言葉である。
加害という言葉はそれ自体すぐに何かそこに
加害者の
責任ということが
考えられるけれども、
加害というべきでない。私は
関係炭鉱、無
関係炭鉱とこう称しております。今申しましたように、六月二十九日に我々
石炭業者、日本全体の
石炭業者が一本にな
つて、何とかして頂かなければならん、早くや
つて頂かなければならん、そのためには、理屈を言えば
国家負担も然るべしではあるけれども、どうにもならん場合を
考えた場合には、
自分のところで起つた事故である以上、万止むを得ませんから、理屈は合わんけれども、
関係炭鉱において三分の一は
負担止むを得ませんということを申し出ておるのであります。ここにおいて
配炭公団がなくなることが明瞭になりました後、九月九日に更に再陳情をいたしまして、六月二十九日付でこういう陳情はいたしておりますけれども、早く一つや
つて下さいということを申しておるのであります。私はそれ故に、
九州は
負担然るべし、北海道は
負担然るべからず、こういう理屈を言うためでもなんでもありません。先刻からも、北海道は
負担しなくてもいいのだ、
九州は
負担せねばならんというような理屈を言うやつがおるということも仰つしやつたわけでありますが、私共はそれ故に、
九州負担然るべし、北海道は
負担すべきでないというようなことではありません。
国家全額
負担然るべし、併し万止むを得ない便法としては、目分のところで起つた事故であるから、止むを得ないが、理屈には合わんけれども、
関係炭鉱で三分の一は
負担しましようということがお互いの間で了解されたのであります。こういう根本
原則に基いて、
政府がこの
法案を立案されれば問題はもつと簡單に、もつと早く
解決したと思うのであります。どうして我々の陳情をお取上げにならなかつたか、どうして我々の陳情の線に副つた
解決方法をお取りにならなかつたかということ心問題の第一点があるのであります。そうでありますから、
法案が出ますと問題が全然別個なものにな
つて来るということも
考えられるのであります。併し
業者側においては、この陳情の趣旨というものは今以て変
つておりません。本
法案が提案されましてから
臨時議会において、何回かいろいろな場面において立案当局の方の御
説明を承
つております。私自身も承つたのもあります。聞いたのもありますか、御
説明の一つに、これは
配炭公団があつたときに、
炭価の一部に盛られてお
つて、これが消費者に転嫁されておつたという、このやり方と同じ趣旨である、統制はなく
なつたのだけれども、同じ趣旨で生産
業者は一体
負担するものを、これを各消費者に転嫁されたらいいのだ。それと同じ趣旨であるというような
説明がなされております。これは或いはそういうふうに見えるかも知れません。統制のあつた時代における
炭価なるものと、統制が外された
自由経済時代における
炭価なるものとが、如何なる
状態にあるか、如何なる
状態の下に取り決められるかということを
考えますれば、一顧の値もない理論であると思います。
第二番目には、相互扶助の
精神によ
つてお互いに持つたらいいじやないかという
議論があります。法律を離れた理論でありますれば、相互
負担ということもいろいろな面で
考えなければならん面も出ましようが、苟くも一国の法律として決めるという際の相互扶助論というものは、ここに限度があります。私は先刻も申しましたように、この
責任は
政府にあるんだ、
政府が全額
負担然るべしである。
政府は全額
負担に力められたと思います。力めた結果できなかつた。できなかつたが故にいろいろの方法も
考えたのかも知れませんけれども、最も易き方法として、全
炭鉱業者負担然るべし、その
議論は相互扶助論であるということで若しあつたとすれば、でないことを希望するのでありますが、若しあつたとすれば、そういうふうな簡便な方法を法律で決めて、而も強制徴收の方法、罰則の適用というようなものがくつついているというようなやり方が、若し今後行われるならば、私共は重大な、由々しき問題であると
考えております。新憲法下民主
国家の
国民として、我々は若しそういうことが軽々に行われるならば余程
考えなければならんと思
つております。更に先刻も
お話がありましたが、私はこれは申上げたくないのでありますけれども、戰争が段々進むに
従つて、北海道の
石炭は余り役に立たなく
なつた、
九州、
山口に非常に強化された、それ故に北海道は楽をしたのだから、片方に重荷のかかつた所へ幾らか相互扶助の
精神を出していいんじやないかということもその御
議論にあつたように思いますが、これは私へ何も
九州の
方々を攻撃する
意味でも何でもありませんけれども、これは実情をよく申述べたいと思います。私は先刻も申しましたように北海道にずつと住んでおつたのでありまするが、途中十一年ばかり東京の本社に勤めましたけれども、昭和十八年の六月更めて夕張鉱業所の副所長として赴任しまして、それからずつと北海道におりまする十九年に樺太の
石炭、北海道の釧路の
石炭というものが軍需
関係のいろいろな理由によりまして止められることになりまして、その労働者の大部分が
九州に移り、一部は北海道の同系の会社に移る、機械、施設その他は北海道の同系会社に移る、
九州に一部行つたかも知れません、ということが行われました。それはもうなく
なつた。なく
なつたんじやありません。操業を中止したのであります。ですから、その
石炭は出ておりません。けれども、その北海道における
炭鉱の
石炭は相変らず増産をいたしでおつたのであります、終戰に至るまで同じ
程度の増産をしておつたのであります。私現に夕張鉱業所の副所長をしておりまして、その
状況は具さに知
つております。ちつとも外に比べて手を弛めたとかなんということはないのであります。それじやどうして片方に
鉱害が起るかという問題になりますが、これは北海道の
炭鉱と
九州の
炭鉱、
山口の一部の
炭鉱の
状況が違うのであります。何れこれは学識経験の方もありますから御
説明があるかと思いますが、
條件が違う。こういう戰時といろいうことがなくても、
九州には
鉱害というものが附たりにあるもので、北海道、東北の
炭鉱は、如何に非常増産をや
つても、少しも
戰時中……今後非常に北海道が人口増加し、又都市が増加しまして、炭山の天頂までも都市ができるというようなことがありますれば別でありますが、少くとも現在まで、殊に
戰時中に如何なる非常増産をやろうとも、たまにはみずからの社宅を害したか、みずからの施設を害することがあ
つても、みずからで修繕しております。第三者に
被害を蒙むらしむというようなことは絶対に出て来ない。出て来なかつたのであります。この点が齟齬しているんです。ですから、こういうものを
特別鉱害の山元で
負担しろというのではありませんが、そういうふうに
状況が違う。お互いに十分に努力し合つたのであります。お前のところは弛めて楽をしたということはないのであります。私は現場にお
つて、終戰直後働いておつた人間として申上げて置きたいと思います。何もこれは
九州を誹謗するという
意味でも何でもないことは只今申上げた通りであります。そういう
意味合におきまして、私は北海道は
負担すべからず、
九州は
負担すべしという
議論を一つもしておるのではありません。全額
国家負担然るべし、併し万止むを得ない時には地元で極く僅かのものを出しても差支ないということが我々の間で取決められておりますから、その
程度における
負担をなさ
つても止むを得ないのじやないかと、こう申上げておるので、その点を誤解のないようにして頂きたいと思います。そういう
意味で私はこの
負担は、少くとも我々の方から申しますれば、北海道
負担すべからず、
九州負担すべしということは、逆に申しますと、他の府県に重点がかかるということでなくて、そのギヤツプは
政府が
負担すべし、
政府がそれだけ努力しなければならんということを申したいのであります。
以上
公述を終ります。