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公述人(青木一已君)
全国指導農業協同組合連合会の青木であります。いろいろ御
意見が出ておるようでありますが、私は協同組合の角度乃至立場から、
地方税、なかんずく
附加価値税について御
意見を申上げて見たいとこう思うわけでございます。
その前に一言申上げて置きたいのは、お手許へも行
つておるかも分りませんが、
新税法による農協の税
負担というのの終いから三枚目に、農業協同組合のみならず、全体の協同組合の
課税の経過であります。これはもうすでに御承知の
通りでありますが、協同組合といたしましては、明治三十三年にいわゆる産業組合法というものが発布にな
つて来ておりまして、産業組合という形で協同組合が発展して来ておるわけでございます。そのときにはその法律の中に、「産業組合二八、
所得税、営業
收益税及
営業税ヲ課セス」、ということで
税金は全部かか
つて来ておらなか
つたのであります。それが
昭和十一年まで続いたわけであります。ところで十一年になりまするというと、確か廣田内閣のときだと思いまするが、組合
課税が問題になりまして、国の財政も相当要るということで、協同組合にも
課税したらどうかという案が立案されたわけでありますが、併しこれは相当農民、或いは
労働者の反対によりまして、それは否決にな
つたのであります。ところで
昭和十三年になりまするというと、御承知の
通り日華事変の戰争遂行過程におきまして、臨時的な
措置といたしまして、組合の剰余金に対して特別
法人税というものをかけるということに
なつたわけでありますが、そのときの附則の中には、「本法ニ依ル特別
法人税ノ賦課ハ支那事変終了ノ年ノ翌年十二月三十一日迄ニ終了スル事業年度分限リトス」とこういう條件が附いてお
つたわけであります。ところで十八年になりまして、太平洋戰争になりまするというと、その附則というものが取られてしま
つたわけであります。ところでそれで参
つたわけでありますが、
昭和二十二年に農業協同組合法が公布になりまして、そのときには農業協同組合法の確か四條でありまするけれども、第十三條第一項の規定により出資をさせる組合には
所得税及び
法人税を課さない「
地方公共団体は、組合に対して営業権を課することができない。」とこういうように規定されて来てお
つたわけであります。
従つて協同組合を組織しておりまする農業者、或いは
労働者にいたしましても、生活協同組合を作るということで、そのときには戰時的な、臨時的な立法
措置ということで大体
課税は受けて来たんだ、又当然出すべきものは出して来たんだ、併し戰争が経
つたならば戰争に協力いたしましたところのいろいろな施設なり、
措置というものは撤廃されるから、こういう法文が入ることによ
つて撤廃されるのだと、これから平和になるのだと、こういう気持を一時持
つてお
つたわけであります。ところが二十三年度の税制改革では、特別
法人税という法律で一応かか
つてお
つたわけでありますが、それが撤廃されまして、一般
法人税になるという形が探られて来ました。それからその他の税、例えば取引高税、或いは事業税というようなものも同じようにかかるという形になりましたが、併しそこには差等を設けて、
法人税は一般は百分の三十五というやつが百分の二十五に、事業税は百分の十五、一般はそうでありますが、組合は百分の十と、こういう形にな
つて、そこに差等が設けられてお
つたわけでありますが、今度は、今度の税制改正では全然差等が設けられておらんということであります。そこで組織しておりまする農業者なり、殊に役職員でありまするが、戰時的にやられた臨時
措置というものが却
つて強化されて来る。これは戰争に協力されたいろいろな
措置というものが解体される方向にあるのに、これだけは却
つて強化された。これは一体どうしたことであろうというような気持というものが、これは
国税、
地方税全体に対しまして持
つておるということだけを
一つ一番初めに申上げて置きたい、こういうように思うわけであります。
そこで一番問題になりまするのが
附加価値税の問題であるわけであります。で
結論から、協同組合の角度から申上げまするというと、これは協同組合の組織乃至経営というものが、
附加価値税がかかるということによ
つてこれは根本的に改変される。そうして協同組合という性格というものを失う危險性があるのではなかろうかということが強く懸念されて来ておるわけであります。でその
理由の
一つでありまするが、どういうことかと申しますると、第一にはこれは組合法の第七條にもはつきりと出ておるわけでありまするが、協同組合はその行う事業によ
つて、その組合員及び組合会員のため最大の奉仕をすることを目的とし、営利を目的としてその事業を行な
つてはならないということがはつきり出してあるわけであります。
従つて協同組合の運営乃至経営というものは、これは奉仕的なものであります。それの裏腹となるものでありますが、これは
経済事業外に、教育情報の提供とか、或いは農業技術の普及とか、そういうような非
経済事業も行な
つておる。或いは農村文化生活の向上というようなこと、団体協約をするとかというような、收入のないような事業も行な
つておるわけであります。そういう事業も奉仕的な経営をするということでありまするから、組合法には賦課金も取り得ることにな
つておる。取
つておる組合もあるわけでありますが、取らない組合も相当あるわけであります。そういうことによりまして、組合員に対する奉仕、サービスをして行こうという動きが非常に強くあるわけであります。ところが今度は
附加価値税がかか
つて参るということになりまするというと、できるだけその
附加価値税というものは、これは
転嫁したらいいだろうという話でありまするが、組合の建前といたしましては
転嫁しない。できるだけ組合員には
負担をかけん、こういう形として出して行きたいわけであります。そうしますると組合自体で賄いたいということになりまするというと、甚だ骨の折れることが出て来るわけでありまして、やはり奉仕的な経営というものが営利的な経営へと、できるだけ收入を多くしよう、人件費を少くしてできるだけその他の收入を挙げてしまおうというような、一般の
会社と同じような経営的な性格、動きというものが出る可能性というものが非常に強いということを申上げておるわけであります。
それから第二点でありまするが、申上げて置きたいのは、協同組合という組織でありますが、これはお客さんというものと、それから組合を作り上げております組織者というものとが一致しておる組織であるわけであります。
従つてどういうことかと申しまするというと、協同組合の経営規模というものは、法律によ
つて限定されておるということであります。どんなに努力をしても、これはお客さんというものは、協同組合の組合員以外にはお客さんは殖やさない、殖やして行けないということ、こういう組織であります。殊に協同組合は、協同組合が行な
つておりまする事業を直接利用しようということで結合されにおりまする、そういう団体でありまするから、
従つてお互いにその事業を利用しようということで、区域は制限されて来ておるわけであります。そういたしまするというと、経営規模というものはこれは大きくできないわけであります。如何に大きくしようと思
つてもできない。ただ組合法では員外利用というものを五分の一というものを認めておりまするが、それ以上は罰則があ
つてできないという形であります。ところが大体
附加価値税の一番かかります基準は人件費であります。ところで人件費というものを見て見ますとどうかということでありまするが、これはもう経営学者の誰もが言うところでありますが、経営規模というものが小さい程人件費の占める
割合というものは大きいわけであります。協同組合だけにこれを取
つて見ましても、
一つの例でありますが、全体の運用資金二百二十三万円を動かしておる組合であります。そこでは人件費が総経費のうちのどれだけかか
つておるかと申しますと、六四%かか
つております。ところがそれが連帯資金が非常に大きくなりまして、四千七十七万円という、これは
一つの例でありますが、そのくらい動かしております組合を取
つて見ますと、人件費がどのくらいかかるかというと、総経費のなかで三一%ということであります。これは経営規模によ
つて協同組合
内部でも人件費の占める
割合には非常に差があるわけであります。これは一般の企業経営の中に協同組合が入
つておるわけでありますが、その経営規模の差から人件費の占める
割合に非常に差があるという形であります。経営規模が大きくなれば
割合附加価値税の
負担が少くなるわけでありますが、その人件費の占める
割合が多いというと、
附加価値税の圧力が非常にかかる、而も協同組合は経営規模を大きくしていかんという組織であります。そこへ
附加価値税がかか
つて来るという形が出て来ますというと、経営規模を何とか大きくしよう、事業分量も高めようという形が起
つて来るわけであります。
従つて員外需要、員外を相手にして事業をする。法律では止められておりますが、それをや
つて行かなければならんということで協同組合の組織が破壊されるという懸念が多分に包蔵されておるという気がするのであります。
それからいま
一つありますが、これは協同組合という組織はやはり組合員の組織であるわけであります。
従つて付加
価値税を
転嫁できないということは先程も申上げた
通りであります。それから大体組合員が農民なり或いは
労働者なり勤労者であります。
従つてその
経済状態というものは近藤博士もおつしや
つておりました
通り、或いは船田さんもおつしや
つておりました
通りであります。そういう状態のところにはできるだけ
経済的な圧力をかけないようにという努力をいたしておるのでありますから、その立場からも
転嫁されるようなそういう
税金は
一つかけて貰わない方がいいのじやないかという
考え方が性格の上から当然起
つて来るわけでありますが、そういう状態にあるということを申上げて置きたいわけであります。
それからもう
一つ申上げて置きたいのは、これは可なりGHQ、ESSとも
意見が対立いたしまして、或いは大蔵省とも
意見が対立するところでありますが、協同組合は、殊に農業協同組合は農業経営の一環という
考え方をして行く必要があるだろう、こういうことであります。法律の中には農業には
税金をかけないという形が出ておるわけであります。ところが協同組合では今の種苗も、共同の苗圃も経営するということもあります。或いは共同で脱穀機の使用ということもあります。或いは共同で病虫害の駆除をしようというようなこともあるわけであります。これは個人が農業経営の一環としてやりますことを共同でやるということであります。個人でや
つた場合にはこれは
附加価値税はかからない、併し協同組合で共同でしなければ生きて行けない、農業経営がや
つて行けないとい
つて、共同でするとそこに
税金がかかるという形も起
つて来るわけであります。これは法律上は一個の
法人として認められておりますので、
法人だからかけたらいいじやないかという一般の
法人と同じ、同趣旨でかけるという
考え方を果して行
つた方がいいのか、或いは農業者の今の農業経営の一環という
考え方をされるかどうかというようなことが
考えさせられる点であるわけであります。そんなふうに
考えるわけであります。そういうような観点からいたしまして協同組合の性格を変更しないという観点から
考えますると、
附加価値税をかけることは可なり疑点があるのじやないかというような
議論が相当強く出ておるわけであります。
それからその次に
固定資産税と
市町村民税でありまするが、これも一体協同組合というものの性格からどう
考えて行
つたらいいか、法律では確かに協同組合というものは私
法人ということで出て来ておるわけであります。私的な性格が非常に強いのであります。併しながら実際に村へ行
つて見て見ますると、村單位にできておる。而もその区域内の農民は全部加入しておる、或いは農業者外も準組合員として入
つておるというようなことにな
つていますというと、実際の村人の気持、それから実際の動きというものはどういう形かと申しますと、これは、行政は
市町村の役場で、教育は村の学校でと、それから産業
経済は村の組合で、村の組合という
考え方が非常に強いのであります。そうして役員になる方も、
市町村長や助役をおやりになるのと同じように、何か公職というような
考え方も非常に強く出て来て、可なり公
法人的な性格というものが現実には出て来ておるわけであります。そこら辺から
考えて見ますというと、可なり
考え方としてはやはり一般の
会社などと同じように
税金をかけて行
つた方がいいか、或いは別の
考え方を持
つた方がいいのか相当御考慮を願う必要があるのじやないかということであります。これは一応の
理窟でありまするが、今度は実際の面から見まして、それが具体的にどういうふうになるかということでありまするが、一応そこに出ておりまする
新税法による農協の税
負担というものを見て見まするというと、
法人は一応抜きにいたしまして、附加価直税を見ますると、大体一応算定したのでありまするが、單位の組合で約七億二千五百万円、それから連合会を入れますると三億二千万円でありまするから、約十億四百五十七万円見当になるということであります。この
数字でありまするが、これが一体従来の事業税とどういうふうになるかということでありまするが、次の頁の附としてありますところの事業税と
附加価値税との比較ということであります。これを見まするというと、
結論からそこへ出してありまするが、農協では事業税に対しましては五一・二一倍になる、それから生活協同組合では五一・八〇倍になる、それから農業協同組合では三倍になるということであります。参考にそこに出ておりまするが、これは
国税庁の御調査だと思いまするが、物品販売業は〇・六六、鑄物業は〇・六九、電気製造業、これは非常にかか
つておりますが、約四倍になります。メリヤスは二・〇三、印刷業は〇・九三、運輸業でありますがこれが〇・六七、事業税に比較いたしまして減
つて来ておるという形でありますが、それが協同組合になりますると相当殖えて来ておるということであります。これは協同組合が
全国的の
利益を挙げておらんということからこういう形が出て来るだろうというように思うわけであります。午前中
公述人の井藤さんでありますか、あれは取引高税とプラスして
考えないといけないということでありますが、その
通りだと私も思
つておるわけであります。併し協同組合といたしましては御承知の
通りでありまするが、取引高税につきましては取扱いまする品物によりますと負税が相当されてお
つたのであります。米、大麦、裸麦、小麦、甘藷、馬鈴薯、雑穀の取次、製造加工その他ずつと出ておりまするが、可なり取扱
つております品物については取引高税が免税にな
つております。ところが今度はそういうこと如何に拘わらずあの附加
価値に対してかけるという形でありまするから可なりになるわけであります。大体一倍半見当、或いはもう少し上るかとこう思いまするが、そういう形が出て来るということを申上げて置きたいのであります。
それからその次に
固定資産税でありまするが、現在これは農業協同組合だけでありまするが、持
つておりまする
固定資産というものが帳簿価格約百二十二億ばかりあるわけであります。そこでこれがこのままの
評価でかけられれば約二億一千三百万円見当で済むわけであります。併し今度は
時価で行くという形になりまするというと、二十一億、ここでは最低がまあ十倍とかなり戰時中戰前に持
つておりました施設が大部分でありますから、そういたしまするというと、そういうような二十億以上になるという形が出るわけなんであります。
それから
市町村税でありまするが、村民税でありまするが、これはあの
事務所ごとにかけるという形が出ておりまするから、
従つて支所なり出張所を持
つておりますというと皆かけられるという形になる。これも今の
一つの方針として今の便益を受けるという
考え方をして行きまするというと、支所なり出張所を持
つておるということでなくて、
考え方といたしましては一
法人として
一つかけるという
考え方の方が妥当ではないのか。これは大きな
影響力は持ちませんけれども、
考え方としてはそういう
考え方ができるでなかろうかと思うわけであります。そこで附といたしまして附と書いてありまする一、ニでありまするが、そういうような
課税の結果が大体どんなことになるだろうかということでありまするが、詳しい
数字ではありませんけれども、農協全体を見てみまするというと、剰余金は約三億七千万円見当、損失金は全部で約一億九千八百万円見当、そこに持
つて参りまして
附加価値税が單協だけで約七億、それから
固定資産税が一応現在の
固定資産の十倍という
評価がされますというと二十一億、それから
市町村民税が約五千七百五十万円見当、こういうような
数字でこれを御覧になれば大体の
影響力が分るであろう。
それから次の頁におきましては総税額中におきまするところのこれは農協だけではありません。生活協同組合、漁業協同組合、そういうものの
負担しまする
税金のパーセントは一応出て来るという形で
附加価値税は大体全体の中の二・七九%くらい、
固定資産税は四・四%見当、それから
市町村民税が一・一%見当というような
数字が出て来るわけであります。でそういう形になりまするというと、一応刻下の社会政策的の意味での協同組合の経営というものが破綻になるのじやないか。殊に現在のような
経済情勢から申しまするというと、相当な
税金だけで打撃を受ける。
経済情勢で受けてお
つて又受ける。一体これで以て協同組合が今後のまあ農民の
一つの組織として農民の
経済恐慌の対策の組織として果してや
つて行けるかどうか、可なり大きな問題として
考えさせられておるわけであります。そこでこれをまあ世界的と申しますとどうかと思いますが、国際的な動きとして
一つの例で申しますと、今の資料の中の一番最後でありますが、インドのラクノーというところで昨年でありますけれども、あの国際連合の中の農業
関係の集まりであります。そこで東南アジアの農業協同組合の、これは
関係者の今の集まりがあ
つたわけであります。GHQからNRSのクーパーさんが御出席になり、それから青野さんという通訳も御出席にな
つて討議に参加されたわけでありますが、そこに書いてありまする中の三番目であります。「協同組合に対してはその発展をたすけ、農産物の生産をたすけるために原則として免税さるべきである。」というような意向というものが相当強く出ておるわけであります。従来協同組合に対しましては、大体非
課税という原則が守られて来てお
つたわけでありますが、戰時中になりまして各国とも
税金はかけて来ておる。併し戰争が経
つて、そうしてこれから貧乏になる、窮迫になりました農民なり
労働者というものが、これが更生して行こうという段階になりますというと、やはり協同組合は社会政策的の意味を以て、
一つ非
課税という原則がとられて行こうという兆しというものはこういうところに出て来ておる。こういうふうにも見受けられるわけであります。そんなような観点から非常に厚かましいと思
つたわけでありますが、あのいろいろ税に対して要求も申上げた次第でありますけれども、そういうような情勢にな
つておるということを
一つ御参考までに申上げる次第であります。