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吉川末次郎君 特に
吉田総理大臣のおいでを願いまして、本
委員会において私が今日
質問いたしたいと思いますことは、去る本月の十一日に
衆議院の本
会議におきまして、一議員の
日本共産党に対する
政府の対策というようなことについての
質問に関しました
政府の
答弁に関してでございます。私の
質問は五
項目に亘るのでありますが、約十五分ばかり大変長い
質問で恐縮でありますが、その五
項目はそれぞれ互いに関連しておりますので、一括して申上げるようにいたしたいと思います。その十一日の
衆議院の
議事録がまだできて来ておりませんから、もつ
ぱら当時における私は
新聞の記事を中心といたしまして申上げる次第であります。
それによりますと
殖田法務総裁の
答弁の
要旨として報道せられておりまするところは、今から数ヶ月前のことでありましたが、私が
参議院の、この
地方行政委員会及び
法務委員会の合同の
委員会が開かれましたときに、
三鷹事件であるとか、或いは平
事件であるとか、その外当時の
共産党がそれに関連しておると
一般に伝えられておりました、それらの
騒擾事件に関しまして、いわゆる
治安閣僚と言われていらつしやいまする
増田官房長官、
殖田法務総裁、
樋貝国務相等の各
大臣に
質問いたしましたときに、
殖田法務総裁が私に
答弁せられましたところと、その
衆議院の
答弁要旨として
新聞に報道せられておりますところのものは、大体同様の
内容のものなのであります。そのときにおいて私はこの
法務総裁の御
答弁を反駁いたしまして、それはどうも承服いたし兼ねるという意思を明らかにしまして、このようではこれらの
治安閣僚の
諸君は、時局を担任するところの任に堪えないものであるとまで実は極言いたしたような次第であります。でありまするからここに改めまして私は直接に
内閣の
首班者でありまするところの
吉田さんに、当時における私の
委員会の
質疑をここに繰返しまして、
吉田総理大臣の御
答弁をこの機会に得たいということが私の目的であります。
その五
項目に亘りまするところの問題の第一点といたしまするところは、
吉田総理大臣の
共産党の
基本精神についてどのような御認識を持
つていらつしやるのかということであります。今日
世界は二つの
世界に分れておると言われておるのでありまして、その一は言うまでもなく
共産主義の
世界であります。でありまするからこの
共産党をどのように我々が見るかということは、現在におけるところの
世界を通ずる最も大きな政治問題と私は言えると思うのであります。そしてこの
共産党の指導原理というのは言うまでもなくそれは
共産主義であります。
共産主義とは即ち
マルクス主義、又は
マルクス、
レーニン主義であると言われておるのであります。
日本共産党も非常に我が党は
共産主義の党であります。
マルクス主義の党であり、
マルクス・
レーニン主義を行動化し、実践化する党であるということをば
平素より声高々と、堂々と天下に
宣言、声明しておられるのであります。若しその
通りでありといたしまするならば、その
共産党の
諸君が言うところの
マルクス主義、又は
マルクス・
レーニン主義を了解することなくしては
共産党の本体も分らない。又今日の
世界の政治も了解することはできないということに必然なると思うのであります。ここに私が何も
マルクス主義或いは
マルクス・
レーニン主義につきまして講釈めいたことを言うことは私の
質問の外でありまして、又賢明なる
吉田総理大臣又この
委員会に御列席の同僚の
委員諸君に対して何等その必要はないところであります。私は思いまするのに
マルクスは十八
世紀の末から十九
世紀におけるところの
産業革命、
商工業の
進歩発展を見まして、このような
資本主義経済の
発展というものは必然にそれが
共産主義社会に進化し、移行するものであると考えたのであります。
資本主義が発達したならば、必然的にそれが
共産主義に変るものでありまするならば、それなら放
つて置いてもよいではないかという理窟も成立つのでありますけれども、
マルクスはその反面におきまして、
共産主義社会を実現するということのためには、万国の労働者団結せよということを、かの有名な歴史的な文書でありまする、
共産党宣言の結句に叫びまして、
世界のプロレタリアは相結んで
革命を決行するということの必要を高調したのであります。ここに
マルクス主義が
資本主義の
進化的発展を重視して行くところの、極めて冷静な現実主義的なリアリステックな進化論的な見方に立
つておりますところの面と、他面において何が何でも
共産主義社会を実現するためには、
革命を決行しなければならんというところの情熱主義的な、ロマンチックな
革命主義的な、このレボリューショナリーな面が
マルクス主義の中に、二つ互いに併存いたしておるということであります。
マルクス主義が持
つておりますこの二つの面の中におきまして、その後の方の
革命主義的な面にウエイトを置いて
発展いたしたものが、
レーニン主義、或いは
マルクス・
レーニン主義と言われているところの本質と考えるのであります。このような
考え方はひとり私ばかりの
考え方でなくして、
世界の多くの社会主義の学者の共通している見方というて間違いないと私としては思
つているものであります。このような
マルクス・
レーニン主義が、ロシア
革命の指導原理となりましたことは、
吉田さんも御
承知の
通りであります。又
世界を通ずるところの
共産党の指導理論であります。今その
共産主義、
マルクス・
レーニン主義の経典であり、バイブルであると言われておりますところのレーニンの書きました「
国家と
革命」というような本を見まするならば、
マルクス・
レーニン主義が暴力
革命を肯定するところの党であり、議会政治を軍に
革命実現のための道具として、大衆への
共産主義の宣伝動員のために利用せんとするに過ぎないものであるということは明白であります。
この
マルクス主義、
マルクス・
レーニン主義の理論的な理解がなくして、若し民自党がただ
共産主義が反対であるというようなことを唱えておりまするといたしましたならば、そうでないことを私は望むものでありますが、それは街にうろうろいたしておりますところの、反動的なごろつき団体のいわゆる反共団体と私は異ならないことになると考えるのであります。ここに先ず私の
質問を展開いたしまする前提といたしまして、この
マルクス主義、
マルクス・
レーニン主義について、国際政治通でいらつしやるところの
吉田内閣総理大臣がどのようにお考えに
なつておるかということを先ず承わりたいと思うのであります。
第二に私は
吉田さんに御
答弁を願いたいと思いますことは、先に申しました
殖田法務総裁の
答弁についてでありますが、
殖田法務総裁は先般のこの
委員会における私の
質問に対しましても、又十一日におけるところの
衆議院本
会議におけるところの
答弁におきましても、
新聞の報道いたしまするところによりまするというと、このように答えていらつしやる、
共産主義対策に対しては、すべての極端分子に対する方策と同じである。即ち思想、言論及び結社の自由は新憲法の規定するところであるから、それについては自由である。併しただ行為が不法行為と
なつたときにおいてのみ初めて処罰されるのである、と述べておられるのであります。当時この
委員会におきましては、私はこのような
答弁は、
殖田法務総裁が教育されて来られた、成文化された法律のみが法であるというところの、法律官僚の形式法律主義の誤謬に陥
つた考え方であ
つて、同時に
共産党の指導原理に対するところの無智を暴露する以外の何ものでもないというように申したのであります。尚そのときに
殖田法務総裁その他の
治安閣僚諸氏よりもその
答弁を聴きまして、遙かにマッカーサー元帥の方が
共産党の本質をよく理解していられる、それは昨年の七月四日、フォーカス・ジュライの米国独立記念日において、マッカーサー元帥が発したところの声明書を挙げてそういうことを言
つたのでありますが、私もそうしたサゼスションに従われたものであるかどうか知りませんけれども、先般の
衆議院の
答弁においては、私の挙げた七月四日のマッカーサー元帥の声明の一節を引用せられているのであります。そのようなことはさて措きまして、考えまするに、
マルクス主義というのは、私が思いまするのに、唯物弁証法において
一つの認識論又は哲学であります。唯物史観におきましては、
一つの社会学の学説であります。その剰余価値論におきましては、
一つの経済学のセオリーであると思います。その
革命論及び
国家論におきましては、
一つの政治理論でありまして、かれこれ相合して
一つの総合的な理論体系を作り上げ、又広汎なる一大フィロゾフイーを私は形造
つているものであると考えるのであります。その唯物弁証法であるとか、唯物史観であるとか、経済理論を
研究いたしたり、これを主張いたしますることは、学者はその中にも幾多の欠陥があるということを指摘いたしているのでありますが、それはさて措きまして、それを
研究し主張するというだけに止まりますならば、それは
殖田法務総裁の言われる
通り、思想学説の自由でありまして、飽くまでも干渉さるべきところの限りでないと私は考えるのであります。問題はその中の政治理論でありますところの、
国家観及び
革命に対するところの
マルクス主義の見解でありまして、それによ
つて立つところの
共産党というものが、
殖田法務総裁の言われるところの学術
研究団体でもなく、又単なる思想団体でもなくして、飽くまでも政権の獲得ということを目標といたして立ておりますところの政党であり、行動実践のための結社であるというところの一事であります。
共産党の目的は
共産主義の実現にあるのでありまして、その手段の如何は敢えて問うところではないのであります。その目的の達成のためには、或るときには嘘も言うでありましよう。或いは隠れ蓑をかぶ
つて自己をカムフラージュするようなこともあるのでありましよう。或いは又ロシア
革命に見られるようなテロリズムを行うというようなこともあるのであります。
共産主義者にありましては、すべての言動はその目的達成のための戦略戦術に過ぎないのでありまして、それは時と場所とに適応いたしまして、千変万化いたすのであります。形式的な法律官僚には、失礼でありまするが、それを理解把握することが困難なのではないかと思うのであります。若し
殖田法務総裁が言われるような、そういう外面に現われたる形式主義的な立場についてのみ
共産党の本質を見ておりまするならば、
日本共産党が出しておりまするところの政策綱領としての印刷物と、我々
日本社会党が出しておりまするところの政策綱領というものを対照して御覧になりまするならば、この二つの政党の間には殆んど異なるところはないのであります。その表面に現われたるところのそうした印刷物上の文言上の
共産党の綱領政策が、
共産党の実態そのものと同一でありまするならば、我々社会党の者は、何も
共産党から別個の政党を組織しているところの必要はないのであります。世の中に、自分は目的達成のためにはテロでもやるものであるというような本質を持
つておりまするところの団体が、合法社会においてその同志を集め、その大衆を傘下に組織化せんとするときに、自分達はその目的達成のためには嘘もつく、テロもやるというようなことをば表面に表すところの馬鹿はないのであります。このように考えて見まするというと、植田
法務総裁の過去における
答弁や、又
衆議院におけるところの
答弁は、余りに浅薄でありまして、余りに形式法律主義的であることによ
つて、重大なる政治的な認識の誤謬をおかしていらつしやるということを私は断定せざるを得ないのでありますが、この私の
考え方についての
内閣の首班としての、
吉田総理大臣の御
答弁が承わりたいことが、私の第二点の
質問要点であります。
第三番目に、右と同一の見地におきまして、
吉田さんは、若し国民中の何者かが、我らはヒツトラー主義の、或いはムッソリーニ主義に
従つて政治行動をなすものであると堂々と公然主張いたしまして、それを旗じるしとして政事結社を組織いたしましたときに、その結社の自由を御承認になるでございましようかどうかということを
総理大臣より併せて御
答弁が願いたいのであります。
第四項として私は
吉田さんにお伺いいたしたいことは、昨今世間には、
日本共産党は解散されるのではないかというような風説が伝わ
つているのであります。私は
日本共産党を解散するのはいい、又悪いというようなことをここに言おうとするものではありません。若しその世間の一部に流布されておりますところの風説のように、
吉田さんは
日本共産党を解散するところの意思を持
つておられるのかどうかということをこの機会におきまして、私は
日本共産党の
諸君、その他の、そのことを憂えていられる国民
諸君と共にこの機会にはつきりと
吉田総理大臣から御
答弁が願いたいと思うのであります。
第五番目に、私が御
質問申上げたいことは、私の考えますのに、
日本におきまして、赤色
革命は必至であると実は考えておるのであります。それは武力蜂起というような物騒な形でその
革命は起るのではなくして、比較的平和的な手段でありまするところの、労働組合のゼネラルストライキの形を通じて、その赤色
革命は行われて来ると思うのであります。
マルクスが明言いたしておりまするように、ゼネストに対抗し得るところの力というものは世の中にないのであります。私は三十年前に一学生としてドイツに滞在いたしましたときに、ドイツの自由主義的な外務
大臣でありましたところのラーテナウが暗殺せられまして、それに対するところの反抗の意思表示として、ドイツの全労働者が全国に亘
つてこのゼネラルストライキを決行いたしました実情を実見いたしたことがあります。又
吉田さんも御
承知のように、ドイツの共和
革命は労働組合のゼネストを通じて行われて、そのためにカイゼルは国外に逃げて行かなければならないようにな
つたのであります。これは共和主義の
革命であり、これは民主主義のためのデモンストレーシヨンのゼネストでありますが、
日本に起
つて来るところのゼネラルストライキを通じての
革命は私は赤色
革命であり、
共産主義革命であると考えるのであります。而も軍隊なく、
警察力の極めて微弱なるところの
日本におきまして、それが今日行われないのは、進駐軍が駐屯いたしているからであると考えるのであります。その進駐軍の力によりまして先般のいわゆる二・一ゼネストは中止せられましたけれど、進駐軍一度
日本を撤退いたしまするならば、このゼネラルストライキは、直ちに私の言うところの
革命に移行するであろうということを考えるのであります。これに対するところの
吉田内閣総理大臣の御見解はどうであるかということが第五点の承わりたい私の
質問であります。その一々につきまして
総理大臣より直接に我々の納得行きまするような明快なる御
答弁を承わりたいと思うのであります。誠意ある御
答弁を承わりたいと思うのであります。
殖田法務総裁につきましては、先に申しましたように、先般の
委員会において私は不信の意を表明いたしました。でありますからこの問題につきましては御
答弁を承わる必要はありませんが、尚
吉田さん以外に、
鈴木労相及び樋貝
警察行政担当の国務相が
吉田さんの御
答弁以外に、尚この際答えたいとお思いになるようなことがありまするならば、
鈴木労働
大臣と樋貝さんの補足的な御
答弁を承
つても結構であります。専ら直接的に
内閣総理大臣より、その五
項目につきまして誠意ある明快なる御
答弁をお願い申したいのであります。