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政府委員(武藤文雄君) 先ず武生の裁判所放火
事件から御
説明申上げます。
昨年の九月二十日に、武生市にございますところの福井
地方裁判所武生支部、福井
地方検察庁武生支部、この
調査において、
宿直員の小倉事務官補が
宿直中に午前五時頃パチパチという音がして、それで目を覚ましまして庁内を見廻りましたところ、その
地方裁判支部の事務所内が一面に真赤に燃えてお
つた。そこで驚きまして火事だ火事だと騒いで、続いて起きて来ましたところの加藤、高田両
宿直員、それから伊藤判事、これらと一緒に消火に努めましたが、庁舎全部に火が拡がりまして、約一時間で庁舎百坪余、判事の住宅十六坪半、これを焼き、裁判所、検察庁において保管中の
事件記録、証拠品類等を殆んど焼失してしま
つたという
事件でございます。又発火と同時に現場に急行しようとしました消防
自動車は、何者かが途中配電線を切断して妨害してあ
つた。そのために現場に着くのが遅れて防火
活動ができなか
つたという事実がございます。
この
調査は、
国家警察と
自治体警察の共同管轄区域であるというような点、又建物の方で検察庁も
関係しておるというので、
国警、自警、検察庁の三者の共同
調査を
実施することにな
つて、いろいろ原因の
調査に当
つて見ましたところが、失火の疑いは極めて薄い。そこで放火
事件としての捜査を進めて参
つたわけであります。遂に暴力団伊原一派及び和田組の子分の犯行と判明するに至り、これを検挙するに至
つたわけであります。放火の動機といたしましては、この
事件の首謀者の伊原こと手聖煕、これは元朝鮮人連盟の支部員であります。又暴力団の親分でありまして、昨春来傷害、公務執行妨害等で四回検挙されておりますが、検挙後は毎回直ちに保釈で出ております。保釈で出ては又犯罪をや
つて検挙されておるというようなことをや
つてお
つたわけで、審理未済のものが三件も残
つておる。この記録がその裁判所で保管されている
関係から、これを焼いてしま
つて罪を逃がれようと
考えまして、又昨年九月に朝連が解散に
なつたについての反感もあるというような点から、裁判所はその報告の出先機関であるというふうに
考えまして、裁判所に放火してこれを焼こうということを
考えたのであります。そこで同じく新福井新聞という新聞を経営している者で、やはり恐喝で、保釈にな
つておりますところの武田太平という者に相談をして、武田もこれに賛成をし、更に遠縁に当るところの林好視というものに加盟を求めて、これらで事犯を進めて行
つたわけでございます。この林も当時窃盗容疑で、保釈中でありました。自分の裁判記録を盗みに裁判所に侵入したこともあるというようなことでありましたので、直ちにこれに賛成をしてこれに加わ
つたわけであります。そこで親分の伊原は更に子分約八名を
計画に参加させ、更にその子分であるところの卓東守という者でありますが、これは仲間の暴力団の和田一家の子分の山口外三名を加入さしてやりました。犯行は九月二十日午前五時と定めて、そして当日は被疑者が裁判所附近にあるところの伊原方に全員集合して、放火執行班、
連絡班、見張班など担当を決めまして、一方消防
自動車の妨害班を作
つて人を配置する。そうして裁判所に侵入しまして、伊原方から持
つて行
つたところの罐と一升瓶に入れたところの軽油を裁判所の事務室内一面に撒布しました。それが伊原が火のついたものを室内に投げ入れて放火した事犯というわけであります。
又その直後でございます、確か十月の初旬であ
つたと思いますが、今立市の
警察地区につきましても同じような
事件がありました。この犯人は今申上げました林好視でありまして、放火の動機といたしましては、林が今立
警察地区署に窃盗容疑で再三検挙されておるその怨み。それから窃盗
事件に対する証拠を湮滅しようという同機で、この林らが今立地区署に又放火をや
つております。
更に十月十五日に福井刑務所の集団逃走
計画があるという件が起りましたが、これは未遂に終
つております。いろいろ集団して逃走する
計画が進められてお
つたのですが、密告がありましてこれを
防止したのであります。当時はこの事犯も前の放火
事件と
関係があるというふうにいろいろ取沙汰されたのでありますが、真相は直接
関係はありませんし、又やや誇大にいろいろ伝わ
つた状況もありますし、そこで事犯は、かような状況で現在十二名検挙して起訴にな
つておりまして、四名だけ逃走中で、引続き捜査を続けております。
この放火
事件に関連していろいろ暴力団のことが言われておるのでありますが、その間の
事情を若干申上げて見ますと、そこの武生の市警が和田一家の暴力団と非常に腐れ縁があるというようなことが取沙汰されておるのでありますが、その間の
事情を申上げますと、前署長の野邊警視、これは人柄は非常にいい人だ
つた、併し酒が好きで職務に熱心とは言えなか
つたと言われております。市当局とは余り
関係が円満でなく、
警察費の
関係なんかでとかく衝突をしてお
つた事情があるようであります。こうい
つた衝突もあるということでつい段々と職務に対する熱意を失
つて、常に辞意を漏らすというような
事情にあ
つたようであります。現に放火
事件のありました翌日に本人は辞職しております。かような署長でありますので、和田一家の暴力団の横行に対しては、やや熱意を欠き知らん振りをしておるという状況があ
つたようでありますが、さればと言
つて特に親交が深か
つたということはないようであります。かような原因もありましたが、むしろ積極的な原因といたしましては、同市警の
刑事課の方に
刑事課長の重屋警部補という者がおります。この人は比較的
刑事経験も浅いということで、その次席の
巡査部長の言を容れて、
犯罪捜査に和田一家の暴力団を利用してお
つたということがあ
つたようであります。そうい
つた関係で自由に
警察に和田組が出入りするというようなことがあ
つたようであります。例えて見れば和田一家の者が無銭飲食をしたと言
つて、或いは飲食店組合の幹部に暴行傷害を加えた、金を喝取したというような
事件もあ
つたようでありますが、署長としてこういう
事件を積極的に取上げておらなか
つたというようなこともあ
つたようであります。かようなことがありましたところにこの放火
事件が起
つたわけであります。そこで合同捜査
本部において積極的に調べ上げたのでありますが、そうすると調べておりますところの被疑者の中から、いろいろ漏した中に、
事件当夜は
警察の者と一緒に飲んでお
つた。そうして酔つぱら
つて帰
つたから、放火できる筈がないというようなことを被疑者の一人が言を漏したのであります。併しその間の
事情を調べて見たのでありますが、武生市警が、その前に県下で盗難検挙競争をや
つたところが、それで二等賞にな
つておるのであります。そこで署長は部下の労を犒
つて金一封を與え祝宴を開き、更に二次会をしてお
つたところが、和田親分、その子分らがその席上に現われて一緒に酒を飲んだというような事実はあ
つたようであります。又放火
事件の捜査中に、捜査会議の内容がどうも洩れるというようなことがあ
つた。調べて見たところが、市警の或る者がいろいろ
事情を通報してお
つたという状況があ
つたというようなことであります。その間において
警察として余り好ましくないようなことが潜在しておるように窺えます。以上が武生
事件の概要であります。
米子の
事件でありますが、昨年の九月十三日午前三時頃米子市の米子検察庁表玄関から発火いたしまして、鳥取
地方裁判所米子支部、米子簡易裁判所、米子家庭裁判所、鳥取法務局鳥取支部、高坂
地方検察庁米子支部、米子検察庁、これが全部焼けてしま
つた事件が起
つたのであります。そこで火災発生と共に、米子市の
自治体警察では、直ちに現場に赴きまして現場検証をすると共に、捜査
本部をその支部に置いて捜査を開始いたしました。一方鳥取地検検事正以下検察庁の方々も見えて、検証に当
つてお
つたのであります。すると出火点、発火点は鳥取地検米子支部庶務課附近、こういうことに認められましたので、そこを調べますと、電気コンロ二箇、すき焼鍋一箇、弁当三食分を発見した。又発見者の言を総合しますと、火は内の方から出て来た、内部から出て来て、相当広
範囲に一斉に火に
なつたというような
事情から、どうも失火の疑いが濃厚でありますから、これについて捜査を始めたのであります。ただ若干疑わしい点といたしましては、発見人の一人が、初め建物の外部、庇或いは芝生なんかが焼けていたというふうに言
つておるものもあります。又火の気のないところから起
つたんではないかと思われる節もある、それから火の廻りが非常に早か
つたという点から、放火の疑いも
考えられまするので、この方面からも調べている状況であります。現在引き続き捜査中で、これに関しては未だ結論が出ておりません。
次に弘前裁判所の放火
事件であります。これは昨年の暮の十二月三十一日の午前三時、青森
地方裁判所弘前支部から発火をいたしまして、同支部を全焼し、続いて検察庁の、青森
地方検察庁弘前支部に類焼して、午前四時三十分に鎮火しました。これの原因についての捜査を始めたわけであります。当日の
宿直員、それから火の発見者等についていろいろ取調べをしたのであります。当日の
宿直員の同裁判所の雇葛西安治という者の当夜の行動について見ますると、
宿直員でありながら積極的に消火に努めなか
つた、方々うろついたり、又言動の上なんかにおいて不審の点がある、又この葛西という者は、以前業務上横領が発覚して、上司から非常に叱られてお
つたという事実もある、又本人は会計事務を担当してお
つたが、その後こういうような横領
事件があ
つてから左遷されてお
つたというので、反感を持
つてお
つたという事実もありますので、これを逮捕して調べましたところ、犯行を自供しております。で、本人の自供によりますと、
只今申上げたように、業務上横領
事件が発覚して上司から非常に叱られた、そうして左遷をされたということに反感を持
つて、裁判所を焼こうということを
考えて、事務室の書類を集めて自分の机の引出しに詰めて、マツチで火をつけて現場を燃やしたということが分
つたわけであります。
その次は滋賀県の森山町
警察署の出火
事件であります。これは本年の一月七日午前二時二十分の
事件でありまして、滋賀県の森山町
警察署、これは昨年の八月に新築落成したばかであります。それが焼けました。書類等も皆焼いてしま
つた事件であります。これは、当日
宿直の責任者であるところの
巡査部長大田定三、これは午後七時頃からかねて知り合いの料理屋に風呂を貰いに
行つてお
つた、そうすると、やはり同じ署に
勤務しておる今井
巡査も来てお
つたので、その
巡査に対して、
宿直の責任は自分が持つから、今夜は泊まるだけ
泊つて呉れと頼んで、そこで今井
巡査は一緒に風呂に入
つて、それから
宿直室に帰
つて寝たのであります。ところがその後太田
部長、さきに
宿直を頼んだ
巡査部長でありますが、大田
部長は自分の家に帰る途中、食糧公団森山支
部長に会
つて、新年宴会に誘われた、そこで一緒にその土地のカフエーに
行つて、先程
宿直を頼んだ今井
巡査、もう一人の
宿直員の藤岡
巡査、これを呼びまして、公団側の人と、それから女給らと一緒にそこで飲んだわけであります。ところが今井
巡査は、大田
部長から
宿直を引受けているということを思い出しましたので、一旦署に帰りまして炬燵にあた
つた。ところが馴染の女を思い出しましたわけで、炬燵をそのままにして出掛けて
行つて一夜を明かして、その間に焼けてしま
つた、こういうわけであります。失火罪を以て起訴いたしております。今井
巡査その他署長以下の署員の処分はまだ決ま
つていないようであります。公安委員は全部辞職し、後任者が新らしく任務についておる、こういう状況であります。