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委員外議員(
山本勇造君)
委員長並びに
委員各位の御厚意によりまして、本日当
委員会におきまして、
富裕税のことに関しまして
発言の機会を與えて頂きましたことを非常に感謝いたします。実は
文部委員会といたしましては、前
国会以来
委員立法といたしまして、
文化財保護法というものを立案中でありまして、これはすでに
関係方面の方に送付いたしてありまして、日ならず帰
つて参りますと、やがてこちらに
提出される筈に
なつておるものがございます。その節には又
皆様の御協力を是非お願いいたしたいのでありますけれども、それはそれといたしまして、この
只今我々がや
つておりまする方の
文化財保護法案と、それからこの
委員会に
提出されておりまする
富裕税法案との間には
関係するところがございますので、
文部委員会といたしましては、我々の方の
委員会の
意向を当
大蔵委員会の方に十分に知
つて頂き、
皆様の御理解と御批判に訴えたいこういうふうな
決議を実は
委員会でいたしたのでございます。そういうふうな
決議に基きまして、実は私が
文部委員会を代表いたしまして出席いたしましたようなわけでございます。それでこの
富裕税法案と、それから
文化財法案とどこに関連があるかと申しますと、
富裕税法案の第九條即ち
非課税財産の点についてでございます。この第九條によりまするというともうすでに
皆さん御承知の
通りに、「左に掲げる
財産の
価額は、第
七條の
規定による
課税価格の
計算上
財産の
価額に算入しない。」こういうふうに
規定されてございまして、それが一号、二号、三号と
なつてお
つて、第四号のところには、
国宝であるとか、或いは
史蹟、
名勝、天然記念物、それから
重要美術品というふうなものが
価額に算入されないというものに入
つておりますので、この点我々といたしまして大変結構な
法案であり、有難いと思
つておるのでありますが、それだけなら問題はないのでありますけれども、それの第三項のところにおきまして、今のようなものに対しましても、百万円を超えるものに対しては、これは
課税対象になるということが第三項に出ておりますので実はその点が我々の方としては非常な問題に
なつておるわけでございます。折角こういうふうな
七條の一項で以て
文化財保護を
規定しておりながら、直ぐそのあとで又それを覆すに等しいような項目が入
つておるということは、
保護の
建前からどうも非常に我々憾みに思
つておるのでありまして、当
委員会におかれましてもこれらの点につきましては昨日御
質疑があつたように伺いまして、十分の御
審議があることと存じておりまするけれども、
文部委員会の
意向を是非お聽取りを願いたいと思うのであります。で、大体の
趣旨は
只今の
委員長の御許可を得ましてお手許に差上げてありますプリントの中に書いてございますから、
一つそれを御覧願いたいと思うのでありますがそれを極く簡単に私申述べて見たいと思うのであります。
只今申しましたような
国宝、
重要美術品、或いは
史蹟、
名勝、天然記念物いうようなものは、我が国の文化の象徴であり又その発展の基礎として懸替えのないものだと思うのであります。従いまして、これは
十分保存維持を図らなければならないものでありまするが、そのためには
文化財の
所有者に対しまして、相当の
制限或いは
負担を加え、又さまざまな
義務を課するというようなことに
なつておるのであります。即ちそれらの
所有者は、それが自分の
私有物であるにも拘らず、自由を許されないところの公的な
制限を受けておるのであります。それでありまするからしてそういう
制限を受けておるならば又一面において
公益保全というような
建前から、
保護を加えてやることも当然だと思います。従いまして
富裕税の第九條の第一項で以て、ああいうふうな表し方をいたしておりますのもやはり同じ
精神から出ておるのだと思いますし、我々もその点非常に結構なのでありますが、
只今申しましたように、第三項がありまするために、今の
精神は著しく破壊されておると思うのであります。そこで我々の方といたしましては今の案にありますような、私の方の意見としまして、第三項を抜いて頂きたいと思うのでありますが、それにつきまして二、三点その
理由を申述べて見たいと思うのであります。
勿論
富裕税は
財産税でありますし、又
国宝というふうなものを所有しておるとかいうことはこれは
一つの
財産には相違ないけれども、この
財産は
只今申しました
通り、普通の
財産と違いまして、多くの
制限を加えられておる
財産であります。例えば、
公共のために
皆さんに見せる上から行くと、出品の
義務を負わされておる。或いは又
保存のためには十分な
管理、或いは
維持を図らなければならない、そういうふうな責任があります。或いは又
調査をするというふうなことになりますと、この
調査を拒むことかできないというふうなわけでありまして、普通の
財産のように個人の勝手にはならないところがあるのであります。そういう非常に
制限された
財産であるばかりでなしに、これは又生産的な
財産でもないのでありまして利子もこれからは生れて参りませんし、収益も挙らない。而も逆にそれを
維持するためには、
大分の
維持費がかか
つて来る。こういうふうな
性質のものでございまするから、これに
富裕税をかけて行くということはどうも我々から見ますと、適当でないように思います。
第二点といたしましては、この
富裕税は年々課税されて行くものでありまするからして、そうでありまするというと、個人の
所有者ではこれを終いに持ちこたえられなく
なつて来るのではないか。つまり
保存費の方で
所有者は相当に金がかかる上に、又これを持
つておるというので、年々課税されて行くというものでありますと、家重代の物であ
つても手離さなければならんというような結果に
なつて来ると思うのであります。そういうような結果は、この重要な
文化財というものが転々として動いてしま
つて、
保存をするとか、社会の活用に供するというような上からも、いろいろな欠点が出て来ると思う。こういうふうに考えられるのであります。
第三には、こういうふうな年々課税をされるというのでは堪らないから、この課税を免れたいというよう
なつもりから今度の戰災で焼けてしまつたとか或いは何らかのことでなく
なつてしまつたというようなことで隠蔽する危険が非常にあるのであります。で、税がかからなければこんなことはしないと思いますけれども、こういうふうに年々取られるというようなことになりますと、そういう忌わしいようなことをすることが起らないとも限らないのでありまして、そういうふうでありますと、
文化財の
保護、
保存が十分にできて行かないと思います。
第四番目には、
文化財の
所有者というものか、どういうものが所有しておるかと言いますと大体において国とか、社寺とか、或いは
公共団体というのが多いのでありまして、個人の所有というものは極めて少いのであります。一例を私申上げて見たいと思うのでありますが、この
国宝の
所有者の表を
ちよつと申上げて見ますと、二十四年八月一日現在の表によりますると、
国宝が千九百七十一あるのでございまするが、その中個人の所有は三百一に
なつております。つまり六分の一にも達しないぐらいのものが個人の所有でありまして、六分の五以上が寺社等の所有に
なつているのであります。而もこの個人の所有と申しましても、三百一というのは三百一人の人が持
つているというのではなくて、一人で何点も持
つているものがあるのでありまして、個人の所有は大変に少いのであります。然るにこの寺社であるとか、
公共団体等の持
つているものには、これは税はかからないのでありますが、
〔
理事黒田英雄君退席、
委員長著席〕
個人の方だけこれですとかかるのでありまして、大変に少い個人のものだけ
富裕税がかか
つて、そうして寺社等はかからないというのでありますと、非常にこれは不公平な……大部分を持
つている寺社等にはかからないで、そうして少ししか持
つていない個人の方にはかかるものというのは、非常に不合理ではないか。
それから又第五点といたしましては、全体として見ましても、この方から上る税金というものは極めて微々たるもので、
国宝にいたしましても、今のようなわけで個人が少いのでありまするし、その他のものにおきましても、個人の所有というものは少いのでありまするから、これから上る税金というものは極めて少いので、これが若し免税になりましても、国家の收入に非常な差を生ずるというようなことは毛頭ないのでございますから、一方で、我々の方で
文化財保護法というようなものを作
つている
建前上、又我々が作
つているというよりも、これは国家として、而もそうならなければならないので、
文化財の
保護の
建前から、
一つ第三項を
皆さんのお力によりまして削除して頂ければ非常に有難いと我々は思
つているわけでございます。勿論もう
皆さんの方においてこの問題につきましては十分案があると思うのでありまするが、我々の方の
委員会といたしましては、この点非常に大事に考えましたので特に私が出ましてお願をしているような次第でございまするが、この点については、どうか
一つ皆さんの御理解とそれから御明断とをお願い申上げたいのでございます。