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証人(
武藤喜一郎君)
証人武藤は
ソ連に入りまして当初犯罪的被疑者としましてウラル、中央アジヤ方面に主として犯罪容疑者を多く集めましたところの
ラーゲルに変転
收容移動させられたのであります。後
ハバロフスクの将官
ラーゲルに
收容され、最終船を以て
帰還したのであります。この間多くの曾ての友人或いは部下というような者が前歴の
関係上犯罪容疑者として同一箇所に
收容されておるというこの事実、こういう方面から刑の執行を受け、犯罪容疑を以て取調べられておるこの
状況及び
証人自身も審問を受け、被疑者として尋問を受け、或いは
証人として相当多数の回数身を以て体験したという意味から、今の問題についてお答えをする次第であります。
但し
ソ連当局は何の某を如何なる
理由によ
つて調べている。何の某を如何なる犯罪によ
つて監獄に入れたということは何ら私共にこれを示しておりません。従
つて彼は如何なる
理由によ
つて、如何なる法律の根拠によ
つて処断されたのであるかということにつきましては意見をする限りではありません。存じないところであります。従
つて現在受刑者の者はどういう事情において処分されたろうという人の噂を聞き、
自分の推定であるということを予め御承知を願いたいと思います。
ソ連におきまして多く、いわゆる戰犯としまして取調べを受け、或いは刑執行の本質はどうなのであるかと申しますと、昨年の暮ラヂオ等によりまして世界に
発表されました、いわゆる細菌戰に関する犯罪、これは内容は申す必要はありません。それ以外におきましては諜報、いろいろな情報
関係、謀略
関係、それから
ソ連の利益を侵害したいわゆる反ソ的な行為、その他戰鬪若しくは勤務中における非人道的な行為、こういうような点につきまして相当深刻に調べられたのであります。特に
ソ連憲法に明示してあるごとく、外国の情報を蒐集するスパイ行為を行う、社会的な利益を侵害する、国家を危うくするというような見地におきまして、
敗戰前の行為、即ち
昭和二十年の八月ソ軍が進駐以前におきまして国境方面に主として重点的に行使された
日本軍の
ソ連に対する諜報的な行為は勿論のこと、更に今共和国になり、民主国家として新たに成立しました中国の利益を侵害した共通的な行為、こういう点については非常なる力を以て深刻な
調査があ
つたのであります。総論を述べまして、次に細論的に申します。先ず
憲兵関係でありますが、
憲兵関係が單に国内治安維持上行うところの、いわゆる当時用いておりました滿洲国の成立を根本的において阻止するごとき反滿或いは抗日というような分子に対する彈圧行為、更に
ソ連方面から滿洲国方面に侵入しまして、
ソ連の諜者に対するいわゆる防諜的な
憲兵の行為、そういう方面については本当深刻な
調査を行な
つたのであります。更に又
憲兵がかくのごとき諜者を通じて逆に
ソ連方面に対して情報を蒐集をしたのではないかどうかというような意味における諜報的な行為、これも深刻な尋問を行な
つたようであります。更に鉄道警護軍というのがあります。これは軍に編成になる前までは鉄道警護総隊という純然たる滿洲国鉄道の護衛機関であります。この警察機関についてもほぼ
憲兵と同様な内容を持つ
調査が行われたのであります。更に一般の警察につきましても、警察の本質上治安維持に関する業務は勿論のこと、更に特に防諜的な立場において警察が如何なる活動をしておるかということ、更に滿洲国の警察機関は、場所によりましてはいわゆる保安局という特殊な機関を二元的に行な
つております。この保安局勤務については
あとで述べます特務機関と同様に、極めて深刻な尋問があ
つたように想像されます。
次に
日本軍
関係に亘るのでありますが、即ち特務機関、及び終戰間際に編成中でありました特別警備隊、この活動、こういうことについても可なり……可なりではありません。特務機関のごときは最も深刻な徹底したる尋問が行われたように聞いております。但しこれは私自身が
余り関係がありませんから、他人の言を総合してのお答えであります。それから一般軍隊、いわゆる作戰軍方面については、軍で行いますところの対外的な情報、或いは飛行隊において行いまする飛行情報、こういうことにつきましても痛烈なる尋問が行われたように聞いております。これが刑事問題、戰犯事件として最も主要なる内容を占め、又これに触れた者がいわゆる裁判を受け、更に刑の執行中に属し、或いは又これに至らなくても、こういう方面に
関係した人が多く容疑者として
残つておるのであります。そこで然らばどういうような結果に現れたかと申しますと、私は初め現地におきましては一般の人と同じように
收容されておりましたが、
最後に将官
ラーゲルに来た結果、こういうことを総合的に判断しますと、現在将官級において
残つておる人、これははつきり申上げます。即ち
日本関係において軍司令官、参謀長等について、
日本関係において直接
ソ連の情報行為をや
つてソ連の利益を侵害したという意味において
残つておる人約十二名、これはすでに新聞等において
発表せられたものと思いますから、一々氏名は申上げません。それから
あと十七名の人、これは将官が十四名、将官でなくして滿洲国の純然たる文官に属する人、これが三名、計十七名が
残つております。これは鉄警軍が六名、
日本の
憲兵として、後滿洲国の憲
兵隊に入
つております齋藤という人です。この人、更に滿洲団の要職にありました武部、古海、司法
関係にあ
つた飯守、こういうような人、これも詳細につきましては新聞等で御承知のことと思います。こういうような人は主として中国
関係において関連性があるという見地におきまして、十七名の者と二十名の者に分離された
状況において、後
收容されたということを伝え聞くのであります。こういう意味におきまして
残つておる将官三十七名は、特務機関長であ
つたか、或いは軍司令官であ
つたか、鉄警軍の司令官、或いは鉄警軍の參謀長というような人、
日本の
憲兵の要職にあ
つた人、そういうような人を除いた
あとの人は解放軍方面と交戰をし、或いはノモンハン等において作戰行動を行い、如何なる事情であ
つたか知りませんけれども、こういうような
関係の人が、大体
残つておるのであります。こういうような人を犯罪容疑者として、そういう人をピラミツドの頂点に置きまして、その下部機関が大体
残つておると、
調査中にもよく言
つたことでありますが、我々は犯罪部隊という
一つの枠内に閉じ籠められたならば、なかなか大事だと、一連托生にその枠内において処断をされるということを、かれこれ言
つてお
つたのであります。従いまして、鉄警軍のごときは、軍司令官が、たとえ任期が二ケ月であ
つたとしても、軍司令官が二人、或いはその他の幕僚全部
残つております。これはいわゆる犯罪部隊であ
つたとしたならば、犯罪部隊としての
一つの性格を持
つておるのではないか。特務機関のごときは、仮に犯罪部隊というのがあ
つたとすれば、そういう枠内に入
つておるのではないか。何となれば、特務機関のごときは、小使に至るまでも、運転手に至るまでも、残らず戰犯人として
收容されておるということを聞くのであります。警察におきましても、北満方面において敢闘した警察官は、下の、いわゆる
日本で申しますと、巡査級に至るまでも
收容されておるということを聞くのであります。かくのごとき枠を以て、大体取調を受け、或いは処刑をされたのではないかという推定を下すのであります。個々の
人間につきましては、一々申しませんが、具体的に申しますと、憲
兵隊長級の大
部分の人、
憲兵の特高勤務にあ
つた幹部、警察で申しますと、警務庁長であ
つた者、或いはそういう前歴を持
つた人の大
部分、警察の特務課長であ
つた者の相当数、警保軍の、今申しましたように、将官以外の必要な情報
関係にな
つた幹部の大部、こういう人はまだ帰ることができず彼の地におるのであります。その一々の氏名につきましては、省略さして頂きます。今の問題について、何か不足の点がありますでしようか。