○
証人(
清水董三君) それではこれから
中共地区の
実情について私の知
つておりまする
情報を総合しまして
お話したいと思います。ただそれが非常に局限されました範囲の
情報で、
新聞雑誌の外は時々
香港方面から参ります
中国の
友人に直接聞いた話であります。私が眼でみたものではありませんので
材料は極めて乏しいのでありますが、それを総合して
お話申上げたいと思うのであります。
只今委員長から
お話がありました
通り、
中国共産党の勢力は今殆ど全支那を掌握しまして、今日
中国の中で僅かにチベット、
台湾、
海南島、これだけを残してその他は大
部分中共政権の
支配下に入
つてしま
つた状態であります。一体この
中共政権の
基礎はどうであるか、ということから
申上げたいと思います。
中共政権が非常に鞏固なものであるか、非常に弱体なものであるか、或いは当分持つものであるか、或いは間もなく潰れてしまうものであるかというようなことをここに検討しても見たいと思います。で
中共政権の
基礎がどうであるかということを
考える場合には、先ず以てその
対立関係にある
国民党がどうであるかというとを
考えるのが、
一つ中共政権の
基礎を
考える
材料かと思います。
国民党は現在
敗残の兵を
台湾と
海南島それから
舟山列島の数個の島においておりますが、大体
台湾には二十万以上三十万近い
軍隊がおるように思われます。これは陸軍、
海軍、
空軍も合せまして二十万乃至三十万ぐらいの兵力が未だ
台湾に残
つておる。それから
海南島には
広東と広西の
部隊が恐らく十万
程度は残
つておるだろうと想像されます。その他
舟山列島辺りにおりまする
軍隊を会せましても先ず四十万乃至五十万ぐらいにな
つておるのであります。その他奥地に
敗残兵が土匪、匪賊というような形にな
つてゲリラ戰をや
つておるのがあります。これは
反共救国軍というような名前を付けて
ゲリラ戰をや
つておるようであります。これが確たる数がはつきり分りませんが、やはり二十万か三十万ぐらいはおるでありましよう。併しこの
ゲリラ部隊は
中共軍に対して大きなことはできない、問題にならないと思うのです。今一番問題なのは
台湾であります。
海南島の方はすでに前から
中共系の
軍隊がおりましてその後も
中共から侵入しております。この
海南島の
中共に占領されるのも遠くない将来であろうと想像される。後へ
残つたのは
台湾だけでありますが、
台湾は
蒋介石が直系の
部隊、それから最も信頼する
役人を配置しまして、
最後の
牙城として防備に懸命な
努力を拂
つておるようであります。特に
蒋介石派にと
つて有利なのは
空軍と
海軍とを持
つておる、
飛行機なぞも恐らく三四百はあるではないかと
考えられます。それから
軍艦及び船舶数十艘をあすこに保留してある。この
台湾の
空軍と
海軍は
中共が占領しておりまする
上海とは或いは福川、廈門という海港を封鎖しておりまして、
飛行機は更に例えば
上海、
南京間の鉄道を破壊するとか、いろいろ
中共の
軍事基地を爆撃するとかいうことをや
つておるようであります、これは
相当中共にと
つては痛いのであります。併しながら
大勢を
考えてみますると、如何に
蒋介石初め
国民党の
幹部が
台湾でや
つて見ましても再び復活して
中共政権を打ち倒すというようなことは、不可能であると
考えられます。もう
大勢は如何ともすべからず、
台湾の陥落も結局は時間の問題、勿論中京としましても、
台湾攻撃というのはなかなか容易ではありません、
中共の方には
台湾の
国民党に匹敵するような
空軍と
海軍がありません。その点極めて困難でありますけれども、併し
考えてみますると
国民党側は
軍隊の士気が衰えております、これはすでに
南京上海が落ちる前からのことでありまして、昨年以来の
国民党と
共産党の
戰争を見てみますると揚子江の南では殆ど
戰争らしい
戰争をや
つておりません、
漢口から
広東を攻略する場合などでも、
予想外に
国民党の逃げ足が早くて
中共軍も
予想外に早く進撃したくらいであります。でありまするから
海軍などもいつ何時
中共の方に寝返りをうつかも知れないというので、成るべく
台湾では
軍艦を外に出さないように努めておるくらいであります、うつかり
軍艦を出すとその
軍艦が
共産党のほうに行
つてしま
つて帰
つて来ないという心配がある。近頃は成るべく
空軍や
海軍の
家族を
台湾に呼び寄せて、その
家族を人質に取
つておいて本人が逃亡するのを防ごうというようなことを
考えておるくらいであります。
飛行機にしましてもうつかり
飛行機を飛ばしますと
中共の方に行
つてしま
つて、その飛行場で着陸をして
中共に降参する、
飛行機ごと向うに行
つてしまうというような危險も感ぜられるくらいであります。そういう
状態でありまするから、
中共の
攻撃が本格的に開始されまして、たとえ小さな船でも
台湾に乘りつける、或いは
台湾の
内部から宣伝を始めるということになれば、この
台湾の保持ということも困難になる、いつまでも
台湾を持ち耐え、或いは
台湾から更に反撃をするというようなことはちよつと不可能だと思われます。
台湾海峽は丁度二月から三月頃までは波が非常に高いものでありますから、まだ
攻撃は始ま
つておりません、併し恐らくは春から夏にかけて
台湾攻撃をやるんじやないかと想像されます。ともかく
国民党が今
最後の
牙城と頼んでおる
台湾もそういう
状態で、到底これは持ち耐えることができないというふうに見た方がいいじやないかと私は
考えております。そういう工合で、この点から見ましても
中共の
政府というものはなかなか強固である。
第二は
中共政府それ自身の
内部の問題でありますが、今のところ昨年以来着々
中央政府、
地方政府の機構を整備しまして、その
組織から申しましても
命令系統或いは
人事問題等もなかなか
嚴重に、そして極めて
組織を緊密にや
つております。
政府のいわゆる
民衆集中制と申しますか、
相当よく行届いておりまして、
中央の
命令が末端にまで及ぶという、この
中共独特の
組織力は
相当な成果を挙げております。そして
共産党の
政治局がそれを支配して採配を振
つて政治をや
つておる、その
政府の
中央と
地方との
関係なども今のところまだ破綻はどこにも見えておりません。それから
軍隊でありまするが、
軍隊の
訓練は
中共が従来とも力を盡してお
つた問題でありまして、
軍隊は常に
教育をや
つております、必ず
軍隊にはその後に
政治部隊が付いておりまして、始終
政治訓練を
軍隊に注ぎ込んでおります。
従つて将校は勿論のこと一兵卒に至まで
中共の
主義、
方針というようなものをだんだん頭に入れられている。その
軍隊の
内部にもまだこれという弱点を表面化しておりません。
行政面におきましても
軍隊の
方面におきましても
中共の
監視は
相当に
嚴重でありまして、
苟くも中央の
方針に反するようなことがありますと直にそれが分かる、そうして上司に報告されるという、非常に
内部の偵察が行届いておるそうであります。
内部から謀叛を企てたり叛乱を起すというようなことは非常にむずかしい、そういう
状態で、
行政面、
軍隊面共なかなかしつかりと固めておるというのが現状であります。
殊にこの場合に眼につくことは、
中共の
政権におきましては従来
中国に見られましたような
道閥、道教の閥或いは
自分の
親戚縁者を引入れるという
閨閥と、或いは同じ学校の同窓だけの者を採用するあの
学閥とか、そういう
道閥、
閨閥、
学閥というような閥というものを非常に排撃しまして、
役人、
軍人の
任免黜陟もそういう重大な情実をできる限り排除する、こういう
人事行政を採
つております。これも
政府及び
軍隊の
規律を
相当嚴格にしておる
一つの要素にな
つておるのであります。
その次には
軍隊はすでに
正規兵三百五十万と号しておりいまするが、私も恐らくこれは実際の数に近いだろう、或いはもつと多いかも知れないとさえ思うのでありますが、とにかく三百五十万という
軍隊を今日持
つております。
武力におきましてももはや
中国にはこれに匹敵するものはありません。曾て
蒋介石は四百五十万程の
軍隊を持
つてお
つたのでありますが、今日は主格転倒して
中共軍が三百五十万、
蒋介石の
軍隊が約五十万というふうにな
つてしまいました。こういう三百五十万の
武力を持
つておるということになりますると、
中共政権というものはこの
武力の点から見ましても容易ならない力を蓄えておるわけであります。それから
毛澤東以下の
幹部連中の間には
国際派と申しますかソ連の
方面に非常に接近した者と、
民族派と申しますか
中国の
民族主義を強く主張する派と二派あ
つて、これが軋轢しておるというようなことをよく
外部で観察する人がありますが、これとても現在まだそういうような表面化したことは出ておりません。私もこの
幹部の中には
思想的に違
つたものを持
つておる者があると思います。例えば
毛澤東とか
周恩來とかいうような人に対して、
李立三とか或いは劉少奇とかいうような人の
思想は多少違うかとも
考えております。けれども現在のところ別段これが対立して相争う、その結果
中共内部が分裂するというようなことはまだ
考えられない、そういうような欠陥は今表面化しておりません。大体においてやはり
幹部は一致して今後の
中共の発展に
努力していると見た方が間違いがないと思うのであります。
以上
申上げところを以て見ましても、この
中共政権というものが近く崩壊するということは
考えられない、私はこれは当分はこの
政権は継続するものである、
内部からも
外部からもこれを押し倒す、或いは崩壊するということは今のところはまだ見えておりません。
従つて中共政権の
基礎はどうかと申しますと、私はこれは
相当に鞏固なものであるこれは当分継続する
可能性があるというふうに見るのが公平な
見方ではないかと
考えられるのであります。勿論
中国にもいろいろな
見方をする人があります。今申しましたように、現に
台湾にはまだ
国民党が頑張
つております。
国民党でなくても
中共でもないという
中間階級の人もおります、その人達の
見方はそれぞれに違
つております。
私は丁度去年の暮に
中国の
友人から
出版物を三
册貰つたのでありますが、一册は
中共の方にいる人から
貰つた「新
中国の誕生」という本であります。これをみますると、
中共が進出して、来てから以来の
中国は非常に新しく非常に発展しつつある。今までの
蒋介石政権のやり方は非常な
罪惡を残し、その惡いことは曾ての
日本以上であ
つた、それから汪兆銘以上であ
つた、それが今日においては
農村も
工業地帶も日に日に新たに進歩しつつある。これを読んで見ますると実に
中共治下の
生活というものが天国のように書いてある。もう一册の
台湾の方の
友人が呉れた
パンフレットを見ますと、
反共という言葉を謳
つてあります、これには
共産地区というものは実に、もう独裁で個人の自由は奪われ、
税金は非常に高い、もう
人民は奴隷の
生活をしてもう今にも耐えられない、必ずこれは直ぐに潰れる、こういうことを書いてあります。これは両極端のことを書いてある。ところが最近又
香港からの
友人から貰いました
パンフレットを見ますと、これ又非常に面白い、
国民党なんというものはもう駄目である、ああいう
腐敗はもう当然である、ところが
中共も下手をすると駄目だ、都会の
方面でも
失業者が町に溢れている、
農村を見ると前よりももつとひどい
税金を取られて
農民が反抗の
運動をお越しつつある、今の
状態でいくと必ず
中共も段々駄目になる、こういうふうに書いてある。こういう三種類の人物が
中国にはおる。この前の
中共の
方面の非常に
中国が見違えるようによくな
つたということも少し行き過ぎでありますし、又
共産党など問題にならないという
国民党側のこれも我田引水が多過ぎると思うのです。ただ最も注目すべきは、私が
最後に
申上げました、この
国民党側でもない、
中共でもない
中国の
知識階級の人間がいろいろ苦悶しているということ、この世の中にいわゆる第三党と申しますのがどうも今はつきりとどういう
組織をなしているというような形はできていないようであります、ただ何となく漠然と
中国の、主に
知識層でありますが、いわゆる
インテリ階級の問に批判的な態度を以て
中共の将来を見守
つているという分子が少からずおるということだけは事実であります。この
連中の力というものは別に大した
武力があるわけじやありませんし、政治的の
組織を持
つておるわけじやありませんし、ただそういう気持だけでありまするから、今日到底問題にはなりませんけれども、併し将来時局の進展と共にこういう第三党、つまり中間的な立場からものを見ようという
連中の作り出す
世論というものは場合によ
つたならば
相当な
影響を及ぼすものではないかというふうに
考えております。併し今のところこれは大した力はありませんから政治的には問題になりませんけれども、ただそういう
思想の芽がはやくも
中国に萠えつつあるということだけを我々は
考えて置けばいいと思うのであります。
以上申しましたように
中共政権というものは
相当鞏固な地盤を築いてしま
つているというふうな
考えで私はおりますが、然らば一体今後どうなるかという将来のことについて少し検討してみたいと思うのであります。
中共政権の優れた点というのをここに上げることができますが、それは先ず
役人の
官紀、
規律、それから
軍隊の
規律、これが非常に
嚴正なことであります、これは
中国としは非常に珍しい現象であります。
中国では
役人になりますと大体賄賂を取る、或いは金を儲けるということが殆んどもう当り前のようなことにな
つて今日まで参りました。それから
軍隊というものは人のものを只取る、徴発は自由というような習慣にな
つてお
つたことは御
承知の
通りであります。ところが
中共におきましては
役人の
汚職事件というようなものを殆ど聞いておりません。
軍隊にしましても
人民の物を取らないという
規律が
相当嚴重に守られております。例えば
上海を昨年占領しましたときなぞにも
中共の
軍隊が食うや食わずの行軍をして
上海へ着いたときには殆ど腹が減
つて倒れるばかりであ
つた。
一般の
市民は非常に同情してお茶を出したり食物を出したりしたのでありますけれども、
中共の
軍隊は頑としてそれを受け付けない、
人民の物をただ貰うということはもう絶対にしないというので
上海市民も非常に驚いたという挿話が伝えられております。それから物を買いましても決して余分の物は受取らない、こういう
役人軍人の
規律が非常に正しい。これは勿論
教育の点もありましようけれども、
監視が付いている、
役人なぞはちよつと変な金でも取れば直ぐに分かるような仕掛けにな
つている、そういう
監視が
嚴重であるということからも来ておると思うのでありますが、いずれにしましてもその結果において
官紀、
軍紀が非常に
嚴重である、この点は従来
中国に見られなか
つた点であります。殊に
国民党と比べて見ますると雲泥の相違がある。
国民党は
終戰直後からもう
人民の物は取り放題というようなことで非常に信用を害しました。
国民党がこれ程脆く敗れたのは、その第一の
原因は
役人と
軍人の
腐敗であると
言つても
差支ないと思うくらひいどい
状態でありましたが、それに反してこの
中共の
官紀と
軍紀の
嚴正なことはこれ又
中国にも稀なくらいに厳重であります。これは確かに私は
中共の
一般の
民衆に與える大きな
影響だと思います。こういう
官紀、
軍紀の
嚴正さをいつまでも持ち耐えられれば
中共政権というものは
相当に発展するのではないか。又それに反して段々これが
腐敗堕落して行けばやはり又
国民党の二の舞を演ずるのでありまするから、
中共政権の将来の運命を予測する場合には、一番今
中共の優れた
官紀と
軍紀の
嚴正なのがどの
程度に維持されて行くかということを見るということも
一つの方法じやないかと
考えられます。
ところが
中共政権に課せられた今後の問題は非常に大きいのであります、恐らくはこの問題で
中共政権というものが興るか、或いは倒れるかということになるだろうと思われます。それは
国民経済生活を安定させることができるかどうか、又それより進んで立遅れた
中国の産業を復興することができるかどうか。
農業国から
工業国へと段々躍進するということができるかどうか、将来のことは別問題としまして、今現実に
中国の困窮した
一般大衆の
生活を、安定せしめるかせしめないかによ
つて中共の今後の興廃が決せられる。
国民党が倒れて
中共が進出したというのはこれは決して三
民主義がどうとか、マルクス・
レーニン主義がどうとかいうようなそんなイデオロギーじやないのであります。
大衆から言わせますと彼の
終戰後に起
つた惡性インフレ、
惡性も
惡性お話にならない程な
インフレによ
つて物価の
騰貴、それから
交通の杜絶による
物資の交流の断絶、そうしてもう
農民は勿論のこと、
商工業もすべてが困り抜いて、それがこの
国民党が敗退し
共産党が進出した一番大きな
原因だと
考えなければならない。問題はこの
生活問題であります。御
承知のように
中国の人口の八割を占める
農民は大した
教育も受けていないのでありまするから、先ず以て
無学文盲といつてもいいかも知れません。最も簡單に
考えるのは
自分達が困る
政府は歓迎しない、
自分達を救
つて呉れる
政府を歓迎する、これが一番
中国の
一般大衆の率直なる
考えであります。何しろ八年間に亘りますところの
日本との
戰いにおいて、あらゆる
方面、
生産設備も或いは
交通も破壊され、その挙句又
中共と
国民政府軍との
戰いで、又それに劣らない程の破壊を蒙
つたのであります。
食糧は足りない、
物資は出廻らない、貿易は杜絶する、
物価は
騰貴する、この
中国の
一般大衆の
生活というものはこれはもう惨怛たるものであります、これを何とか早く楽になりたい、この苦しみから
拔けたいというのが
中国一般大衆の念願であります。こういう環境が
中国の
国民党敗退、
中共進出にな
つた大きな
基礎をなしている、こう
考えられるのであります。そこで
中共がいよいよ
政権を取
つた今日、果してこの
中国の非常に困窮した
国民の
生活を救済することができるかどうか、これがこの
中共の今後の将来を決する問題であります。
中共が今日先も申しましたように
軍隊は三百五十万を持
つておるのであります、その上に
戰争をどんどんや
つております、この
軍費が容易じやありません、
歳出の凡そ四割程というものはこの
軍費にとられちまう、この
軍隊の喰べる
食糧だけでも容易じやありません。その上に
行政公務員は
家族まで合わせますと九百万も今
養つている、
中国全体でありますから九百万ぐらいになりましよう。三百万という
軍隊を養い九百万もの
公務員を養う、それだけでもこれは大した金であります。この経費はどこから取るか、結局においては
一般大衆即ち
農民の
負担になる。
税金を取
つているのでありますが、今日は
税金でなく穀物を取
つております。場合によりますと、その一年間の収穫を皆持
つて行かれるというようなことすらもある、
税金の額というものは殖えればとて減ることは先ずない。昨年
中共の
財政当局の言明によりますると当分
農民の
税金は減額することは不可能だと
言つております。その上に
戰争の献金、それから最近では
あとで申しますが、
財政上の
赤字を補填するために国債を発行しておりますが、
公債の
強制募集等もや
つております。
国民の
負担は
相当今日重いのであります。最近
北支の方の
農民は「
蒋介石萬税、
毛澤東萬々税」という歌を唱
つております。萬歳の歳の代りに税が当てられているのです。
中国の音では歳と税とは同じ発音で「ワン・スェ」であります。
蒋介石のときは萬の
税金がかか
つたが
毛澤東になると萬々の
税金がかか
つた、つまり
国民党のときよりももつと
中共にな
つてから
税金が重くな
つた、こういうことを歌に唱うようになりました。この
中国の
一般大衆はなかなかこういう歌をすぐ作ります、これはなかなか馬鹿にならない、
新聞にも出ないし何にも出ませんけれども、口から口へ伝わる歌というのが
一つの
世論でありましよう。この前或いは
申上げたかと思いますが、例えば
終戰のときに
上海で「抗
戰八年飯が食えた、
終戰二ケ月飯が食えない」こういう歌がはや
つておりました、これはやはり
国民党に対する
一つの不信を現わしております。「
蒋介石萬税、
毛澤東萬々税」というのも、どうも
中共にな
つても一向
税金は下らない、うかうかすると
蒋介石よりももつと
税金を取られるのだというふうなことを素朴に唱
つているのであります。
この
経済問題には
中共も非常に頭を悩ましておりまして、一生懸命に何とか
インフレを抑止して
財政経済の
基礎を安定させよう、昨年末に決定しました一九五〇年度の予算で、大体
米ドルに直しまして
歳出が十七億
米ドルぐらいであります、これも極力
赤字をなくすということで苦心しておるようであります。それにしましても約
米ドルにしまして六億ドル
位収入が足りないのであります。この足りない分は三分の一を
公債で
あとの三分の二は
銀行券の発行でやろう、依然としてこの
インフレは止まないという
状態でありす。併し前の
国民党の時代に比べますと余程この
インフレはよくな
つて参りました。
中共が進出する前の
物価の
騰貴というものはとても話にならない
状態でありまして朝
騰貴して又晩に
騰貴する、一日のうち二回商品の値段をつけ変えるという
状態でありました。
中共になりましてからそれ程のことはありませんが依然としてやはり
物価の
騰貴というものは止まない。さつき申しましたように三百万も四百万もの
軍隊をいつまでも
養つてお
つたのでは
中国の
経済の復活はおぼつかないというので、これも苦心惨怛して
台湾、
海南島、
西蔵などの
解放を完了すればできるだけ早くこの
軍隊の復員を
考えている。又復員しない前でも
軍隊が余暇のあるときは畠へ出て田を作るなり或いは開墾するなり、或いは工場に
行つて機械を動かすなりして
生産運動、
増産運動にこれを使おうという計画を発表しております。つまり
中共としましても
経済問題には一番頭を使
つておる、又これが最も困難な問題だというふうに自覚をしております。
従つてこの正月の元旦に
政府の発表しましたものを見ましても、もう今年は
生産の年である、あらゆる力を
生産の復興に集中しなければならないということを強調して、今申しましたように
軍隊すらも
生産面に使おうというふうに
考えている。
ついでですから
申上げますが一九五〇年にはどういうことをしようと
考えているかと申しますと四つの目標を
考えております。第一には今年中には
中国全体の
解放を完成する、つまり
台湾と
西蔵と
海南島を占領して全
中国の
統一大業を完成する、これが今年の
予定の第一であります。第二は
生産を励行する、
生産回復には最大の
努力を拂わなければならない。そうして綿花にしましてもその他の農産物にしましても糧食にしましても、大体の
予定数量を揚げてこれだけは是非増産するということを謳
つております。
財政もできる限り
赤字を克服して均衡の取れた
財政にする、さつき申しましたように
軍隊もこれを
経済の回復建設の促進の方向に参加せしめる、こういう
生産回復というものが第二。第三はこの
解放された地区の土地改革に着手してこれを完成する、現在
中共地区の土地改革は満州、
北支は一段落終了しまして、中支から南支、これがまだ手がついておりません。中支において減息、減租と申しまして小作料と利子の引下げということを先ず実行しております。これを更に丁度
日本でやりましたような土地改革まで持
つて行く、華中華南もこれをやるというのが今年中の目標であります。第四の目標は
中国とソ連及び各民主国家との団結を強化する。これが今年の目標であります。この中でも特に必要であり最も詳しく書いてあるのは第二の
生産増強、
生産復興の問題でありまして、これが
中国国内におきましては
中共政権の興廃を決するというふうに
考えて
差支えないし、又
中共政府それ自体も国内
経済問題を最も重んじておるようであります。又それだけに困難が伴
つておるというふうに
考えられます。
そこで
中共はどういう方法で
経済の安定なり或いは
経済の復興なりを一体や
つて行くのか。御
承知の
通りに
中共が進出しましてから、外国との貿易は表面上杜絶しまして今は主として
香港との間に貿易が行われている、その他の国においてもちよいちよいありまするけれども勿論昔のようなわけには参りません、非常な輸入輸出共に激減であります。それからその上に先刻申しましたように
台湾から
飛行機、
軍艦等によ
つて海港を封鎖されましてこれが貿易に
相当な打撃を與えております。で
上海なども昨年の暮れにあちらへ行
つて見ました
友人の話を聞きますと、もう店には殆んど商品らしい商品はない、あの有名な
上海の各デパートなどでも今は野菜を売
つたり米を売
つたりしている、こういう実に憐れな
状態であるということを
言つておりました。今日公けに貿易の道が開かれておるのは満州を通じてのソ連との貿易であります。満州からは大豆その他の
食糧をソ連に持
つて行
つております、ソ連からはそれの見返りとして綿布とか雑貨とか或いは多少の機械とかいいうものが入
つておりますけれども果してそれだけで
中国の
経済建設ができるかどうか。尤も
中共当局は、ソ連でも曾てはそういう非常な困苦欠乏に耐えて今日のような建設をや
つて来たのだ、
中国でもそれができない筈はないと
言つて、
台湾の封鎖が非常に激しい昨年の秋から冬の頃は頻りに自給自足の
経済樹立ということを宣伝して、
上海なども遊んでいる人間はどんどん田舎に帰れ、そうして人工を半分に減すというような案まで立てたのであります。併し
考えてみますると
中国はそういう人間を養う所がもう今日はない。現在でも
失業者の数というものは、私は恐らく何千万もおるだろうと思います。顯在潜在両方合せますると何千万という
失業者がいる。
農村に行
つても働く所がない、都会には勿論職はない。これ以上
国民が耐乏
生活をするということは要するに餓死をするということであります。
中国の
大衆の
生活の
程度の低いことはこれはご
承知の
通りでありまして、都会でも
農村でももう餓死をする一歩手前という人間が非常に沢山おるのであります。こういう
大衆に更に又耐乏
生活ということは、今後五年も十年もその耐乏
生活をするということは、果して可能か不可能か、可能だとしても、必ずそうすればその
失業者群は匪賊になり或いは流れて流民と申しますか、
中国によくそうゆうもう住むに家のない人間があちらこちら流浪して歩くという流民、これが賊にな
つて流賊となりますが、こういう流民が殖え匪賊が殖えるというと、社会の治安が乱れる、社会の治安が乱れるとこれを取締るために
軍隊の数を殖やす、その軍備に又金が掛かる、ますます
経済生活は苦しくなる、そうすればそれに附け込んで、さつき申しました第三党のような、
知識階級の間に起る
一つの反
政府運動というものが、段々こういう
失業者などを煽動し或いは
組織化して更に又革命を起すということは、これは
中国の歴史に何回も繰返されておることであります。それをどういうふうにして
中共が切抜けるか、ここ一、二年まあ
中共に言わせますと
台湾、
海南島、
西蔵を
解放して、その後に今年一杯にはもう本格的な建設に入らなければならんということを
言つております。今年から来年段々二、三年と経つうちに如何なる方法でこの困窮したところの
中国の
民衆の
生活を
中共が救うことができるか、これが
中共の将来を卜する唯一の問題だと私は
考える。これは私ばかりでなくて
中国の人も恐らくそういう
考えを持
つておる。こういうふうに
考えられるのであります。
最後に
中共とソ連の
関係を
申上げてみたいと思うのでありますが、その前にどうしても私共の頭に入れておかなければならないことは、
中国人
一般の対外感情であります。一言にして申しますと
中国の
一般国民は親米つまりアメリカに非常に親しむという感情は持
つておらないようであります。それは私共が現地において
終戰後に重慶の人にも会いましたしいろいろなひとに会いましたが、これはもうすべてアメリカに対して好感情を持
つていない人達でした。
中共あたりが非常にアメリカを世界の帝国
主義の権化のごとく
攻撃しております。併しこういう
中共の宣伝がなくても私は
中国人にはそれ自体に反米の空気が
相当強いように見受けられました。これは過去一世紀に亘
つて散々外国から圧迫されそうして今日においても依然として外国に頭が上らない、政治
方面においても
経済方面においても、とにかく世界から取残されてそうしていわゆる後進国という名前で呼ばれている
中国人から見ますると、外国に対する感じというものは我々
日本人と又違
つた感じを持
つております、いわゆる排外
思想であります。孫文の革命当時それから近くは
蒋介石の北伐当時においても一番猛烈であ
つたのはこの排外
運動であります。例の
香港の封鎖なんというものは一年間も続いたのであります。あれは大正十四年であります、一年間も
広東と
香港との
経済絶交をや
つてお
つたのであります。それから
漢口、九江、武昌などのイギリスの租界を暴民がこれを暴力で奪い取るというような
事件も起
つております
南京事件はすでに御
承知の
通りであります。この排外
運動というものは、
一つはときの革命を起こしている
連中が士気を鼓舞するためにも行いましようし、又
国民の喝采を拍するためにも起すでありましようが、ともかくもそういう外国に強く当る、更に進んで外国の勢力を駆逐するという
考え方は、これはもう十分長い間養われた
中国国民の
一つの感情である。これは
中国ばかりではなくて凡そアジアの民族の普遍的な
一つの感情で、曾て英国が強か
つたときにはそれが英国に向い、フランスが強ければフランスに向う、今日はアメリカが西欧諸国のチャンピオンとして現われておるという
状態においてアメリカに楯つくという
考え方は、
民族主義の高揚しつつあるアジア民族の間にはこれは普遍的な
一つの感情だと思うのであります。
中国人から見ますと何かアメリカという国は我々アジア民族を又もう一度殖民地にでもするというような勢で、その財力と
武力を提げてのしかか
つて来ておるのではないかという疑惑を持
つているのかもしれません。
日本なんぞも下手をするとその仲間入りをして又我々の所に来て侵略をするのではないかという疑惑を持つことも当然であります。こういう反帝国
主義運動、
民族主義の高揚しているこのアジア民族に対して、尤も今力になるのはソ連の主張するところの反帝国
運動、
中共としましてはこれは勿論
中共が生れたときからマルクス・
レーニン主義で立
つている、今更マルクス・
レーニン主義を捨てるということはできません、これはもう一枚看板であります。そういう点からい
つても当然でありますけれども、今申しましたような
中国人全体の感情から見ましても
中共は反米親ソ、ソ連と共にソに向
つて一辺倒、つまりソ連側に付くという政策をはつきりと揚げておりますし、又私は当分そういう態勢で行くだろうと
考えております。この点においてアジアにおけるアメリカの立場というものは非常に微妙であります。余程上手にやらないとその間隙にソ連から利用されるという点が非常に多いのじやないか。と申しますのは、
中国人はソ連から今まで余りまだひどい侵略を受けた経験を持
つておりません、この百年以来の外冦においては相手は必ず英国でありフランスであり或いはアメリカであり
日本である。政治
経済共済に西欧諸国が
中国を圧迫したというふうに印象付けられている。ソ連はちよいちよいシベリヤの方から満州の方に侵入しましたけれども満州というところは多少
中国本部とは違いまして、元来満州は長城を以て限られた、なんと申しますか、
中国から申しますと
一つの植民地のような地位であります。ソ連が非常に危険な国だとは先ず
一般の常識からい
つて考えておらない。むしろ
自分たちを圧迫しまた今後も圧迫されると思うのは西欧のアメリカなりそういう国であると
考えておる。従
つて中共それ自体は勿論のことその
国民全体の感情から
考えてみても、
中共というものはソ連と友好
関係を結んで行くという政策は今後も
相当長くと
つて行くのじやないかと
考えます。殊に
中共辺りから
考えますと、アメリカという国は何か
自分の敵であるところの
蒋介石を援けてどうも刄向
つて来る、早くいえば当面の敵打というふうにも
考えられる、そのアメリカが極東においてどんどん進撃して来るような態勢を整えられると、これは困
つたものである、而もアメリカが
日本と一緒にな
つて我々を叩きに来られたのではやりきれない、こういう気持がないわけではあるまいと思われます。そういう点からいいましてもソ連と適当に手を握
つてそうして
自分たちの安全を図るということは当然
中共としては
考えるだろうと思われます。併しながら若し調子に乘
つてソ連が露骨に
中国の主権なり領土なりを実際に侵略して来るとするならば、私はソ連は必ず失敗する、
中共それ自体も失敗する。この
中共が如何にマルクス・
レーニン主義を奉ずるところの国体であるとしましても、
中国一般の
国民に申訳のないような主権領土をソ連から取られるというようなこと、これをまで肯んずるということはありません。若しあるとすればそれは
中共の失敗であり又ソ連の失敗である。でソ連もこの点は余程用心をしておるのと見えまして、最近大連の方から帰
つて来た人の話を聞きますと例えば満州におきましてもソ連人は非常に
中国人に対して感情を害しないように
努力しておるそうであります。私共若い頃によくハルピンあたりでその当時のロシア人がまるで
中国人をも人間扱いもしない乱暴な態度を見ている、如何にもこれでは
中国人が腹を立てるのも無理はないと思
つたのでありますが、最近話を聞きますると非常に丁寧に
中国人に対しては取扱う、苟くも反感を起さないようにソ連人が努めている、又その結果大分対ソ感情もよくな
つたということも聞いております。私はさもあるべきことと
考えるのであります。
従つて外交及び軍事、
経済あらゆる
方面に
中共はソ連と友好
関係を結んで進むには違いないけれども、それには限度がある。今言
つたような何といいましてもこの
民族主義の高揚しているところの
中国で、それに反するような行動を取ればそれはソ連も
中共も必ず失敗する。その限度というものは極めて微妙なところに私は動いておるのではないかとそういうふうに
考えております。
従つて今度の
毛澤東がソ連に参りましていろいろ協議したその内情も、そういう大きな線では
中共とソ連との友好
関係を更に強化するということは、これは当然そういう話が出たろうと思いますが、その反面
中共としましても又ソ連としましても、
中国の
国民の反感を買うようなことは極力これを避けるということに
努力するんじやないかというふうに私は想像しております。よく
新聞などに伝えられまするところによりますると、アメリカあたりの
新聞記者などが、
中共は
中国の統一を終
つたならば更に東南アジアとか或いは各
方面に侵撃するだろうというような観測をするものがあるようでありまするけれども、私はそれとは反対であります。若し
中共が図に乘
つて対外てきにいこれからいろいろな工作を進めるというようなことをやれば、もう
中共の将来というものは殆ど見るに堪えないものである、
中共はさつきも言いました
通りに国内の建設がもう焦眉の急であります、これに失敗すれば
中共そのものが失敗する、また
中国そのものが非常な酷い目に遭う。
中共としましてはそんな対外問題に頭を使う、或いは兵隊を使うような暇はないのでありまして、恐らく
中共としましては極力国内の
経済復興に
努力をするというのが今後の態度であろう。勿論国防上外から
攻撃に対する防禦ということは常に
考えましよう、その
関係においては外交においても軍事においても国防上のいろいろな措置はとりましようけれども、国政の中心は何といいましても国内の
経済建設に
努力を注ぐ、若し注がないならば
中共はもう命脈はない、この点よく
中共当局は知
つておることだろうと思います。それから又東南アジアに対しましても、東南アジアには約七、八百万の華僑がおりまして、その華僑が
政府に協力するかしないかによ
つて中国の
経済建設にも大きな
影響があります。
従つてこの華僑に対する工作という面においては
相当に政治的な手を打つだろう、或いは外向的な手を打つだろうと思います。併しながら
中共軍がどんどんマレー、ビルマにも出掛けて行くというような單純な軍事行動はこれは取らないであろう、華僑工作に必要な限度の外交工作、政治工作はどうしてもやるに違いない、併し
一般に
考えているように
中共がこの勢力をかりてどんどんアジアを席巻するというようなことを若しやるとするならば、それは非常な馬鹿な話でありまして
中共の
幹部たる者は恐らくはそういう愚はいたすまいというふうに私は
考えるのであります。
いずれにしましても今後の
中共の問題というのは、
中国国内の
経済の安定或いはその復興問題に成功するかしないか、その必要によ
つて外交をどうするかということもさらに
一つの問題とな
つて来るのでありまして、まあさつき
申上げましたように、諸外国との貿易を全部断ち切
つてソ連との一方の貿易だけで果して
中国の
経済建設ができるかどうか、できないとすれば然らばどういう手を打つか、あらゆる問題は
中国国内の
経済建設から出発する、又こうゆうふうに向わなければ
中共の将来というものはないものと
考えなければならんというふうに私は感じております。
大体私の
申上げたいことは以上で盡きたのであります。少し雑駁な話でありましてどうかと思いますが、私の言わんとするところは大体において以上の
お話で終
つたのであります。(拍手)