○
加藤参考人 国鉄労働組合の
加藤でございます。ただいまからこの
委員会において
意見を求められました
事柄について私の
見解を申し述べさしていただきます。
最初に、私は今次
仲裁裁定書がこのような形のもとに
国会の
審議にかけられますことについては、納得いたしかねるものでありまして、その意味から、本日のお呼出しには応ずべきではないという
意見が、
組合の中で相当強く主張されたのであります。私も理論的にはそれに賛成でございましたが、しかし実際問題として考えます場合に、
委員会が開かれておりますことから考えまして出席いたしましたような次第でございます、
政府がこのように二度までも、
法規裁量をなすべを
事柄につきまして、
自由裁量をいたしておりまする
行政上の
違法行為について、私
どもは
行政訴訟を提起して、あくまでその
責任を追究したいと考えておることを冒頭に申し上げたいのであります。
話の順序といたしまして、私は
最初に
組合側の
考え方を申し述べておきたいと思います。私
どもの
要求は、終始一貫、
合法性の上に立
つて主張して参
つたのでありますが、その要点は、かいつまんで次のようなものであります。
第一番目に、
法律的根拠としては、私からあらためて申し上げるまでもなく、
仲裁委員会の制度は、
罷業権行使にかわる
労働争議の
平和的解決の方法として選ばれたものでありまして、単に
組合側にのみ
運動の幅を狭めるものであ
つてはならない。
使用者側に対しても
拘束力を持つものでありまして、
公労法第十七条第二項並びに第三十五条、第三十六条の各
条項においても、その
立法精神を知ることができるのであります。すなわち
公労法第三十五条は、
使用者側に対しても
裁定に服すべき
原則を
規定しております。その
均衡の上に立
つて、平和的に
争議を
解決しようとするものでございます。しかるに
政府が同条第二項と
日鉄法並びに
昭和二十五
年度予算総則をたてに、
組合側の
要求を拒否しようとしておるのは、明らかに
公労法の
精神に違反し、かつまた十六
原則の第四項、第五項の
精神を蹂躙するものであると考えるのであります。
公労法第三十五条第二項制定の
趣旨は、
組合側の
要求が万一不当のものであ
つて、
企業の運営を阻害し、機能を破壊する場合を予想してつくられたものと私
どもは聞いております。
従つて特異なる事例に対する
例外的適用条項であります。しかるに
政府がこれを、あらゆる
組合側の
要求に刈して同項を発動して片手落ち的にと申しますか、片務的に
債務を拒否することは、みずから
平和的解決を放棄しようとする、
基本的戦略の上に立
つておるものといわざるを得ないのであります。
公企業の
労働関係は、一切をあげて
公労法に
規定すべきであ
つて、
公労法以上の
法的拘束力を、他の
法律や政令に與えてはならないと私は考えます。
政府が
日鉄法において
債務処理の
責任を不明確にし、あまつさえ、
予算総則において
給與総額を制限することは、
公労法に対する
自己否定であ
つてて、
法律の
効力については
立法機関みずからの
責任において、その
権威を守るべきであるにもかかわりませず、
さきの
国会が制定せられました
公労法を、次の
国会において
日鉄法を改正して、その
法律的効力を減殺するということは、
民主憲法下における
民主議会の
権威を、みずから失墜するものといわざるを得ないと思うのであります。
私
どもの
裁定に対する
法律的態度は、
東京地方裁判所の
判決によ
つて確立された次の三
原則を堅持して参るものであります。
第一には、
予算上または
資金上可能か不可能かは客観的にきまる。第二に、
大蔵大臣の
予算の移用または
流用の
承認は、
裁定の履行に関する限り、
法規裁量行為である。第三に、
裁定と同時に
法的規範効力は発生いたしまして、
議会の不
承認は、
法的規範効力に影響を及ぼすものでなく、単に
債務を履行できない
状態となるにすぎない。このように解釈をいたしております。
次に
経済的根拠といたしましては、
争議解決のかぎは
国鉄予算中において、
組合側の
要求が
資金的、
予算的に可能であるかいなかの点に置かれておるのおりますが、われわれは可能であることを絶対に確信しておるものであります。すなわち第一番に、
人件費の
割合は
企業を破壊するものではございません。かりに
仲裁案を全面的に
承認したといたしますならば、
人件費が
国鉄予算中に占める
割合は四二%にしかすぎないのであります。簡単に式をあげて御
説明申し上げますならば、五百五十四億割る一千三百十九億、これは〇・四二となり、この四二%という
人件費比率は、過去二十年間にわたりまして、
国鉄予算中において妥当とされ、かつ
民間鉄道会社においても
均衡比率として認められて来た五〇%の
比率よりも低い
割合であ
つて、
運輸業におけるこの
比率が、
企業そのものの破壊にならないことを実証して余りがあるものと思われるのであります。
従つて政府が主張いたしまするごとく、
公労法第三十五条第二項による
予算上不可能とは断定しがたいものでありまして、客観的に判断いたしますれば、可能であるという結論に到達するのであります。
〔
倉石委員長退席、
稻田委員長着席〕
ベース改訂の
要求に
妥当性を與えるものは、その
生産性であると率直に認めます。
賃金べ一スは、その
企業における
生産性とマッチすべきものであることは、昨年一月の
労資協議会におきまして、高
能率高賃金を
マーケット代将が強調された点でございます。
国鉄職員の
生産性を示す
人トン・
キロは、
昭和五年ないし八年ごろにおきましては、
年平均で百五十七万
人トン・
キロでございました。
昭和二十四
年度においては
大量減員にもかかわらず、確実なる推計によれば百八十八万
人トン・
キロと予想されております。一一九%約百二十パーセントの
高率を示しているのであります。
一般工業生産指数が七〇ないし八〇%を示しているに比較いたしまして、はるかに上まわる
生産性を示しているのであります。しかるに
平均賃金は、
昭和二十四年十月全産業が九千百一円、
交通業九千八百三円を示し、
国鉄の
仲裁賃金の八千二百円に比して、一〇ないし二〇%
高率を示しているのであります。
従つて高能率高賃金の
原則からい
つても、
賃金安定の、
原則からい
つても、われわれの
要求は無視さるべきではなく、かつ
仲裁裁定によります
人件費増加の
総額は、
国鉄予算の
総額のわく内において、支出可能であることが実証されているのでありますから、
資金上不可能とは決して言えないのであります。むしろ
ベース引上げこそ、
国鉄再建に必要欠くことのできない
労働意欲向上の
一つの
要案であると考えるのであります。
第三に
政治的根拠といたしまして、現
自由党内閣の
労働政策は、騒ぐものには與え、平和的に
解決を希望するものには抑圧をも
つてこたえるという、力の
政治を行わんとする
代表的標本であると考えるのであります。このような
労働政策は、必然的に
労働運動をして、
平和的解決から、力による
解決への、
非合法的地下潜行の方向に追いやる結果を招来するものであると、確信いたすものであります。その
企業内で
解決し得る問題を、ことさらに
政治問題化し、
仲裁委員会で平和的に
解決し得るものを、好んで
政治問題化し、
労働運動を
革命的運動に挑発するものであるといわざるを得ないのであります。その結果は、単に労働問題のみならず、
一般社会の治安すら不安に追い込む結果となるでありましよう。この
政治的責任は、一切
吉田民自党内閣が負うべきものであると私は考えております。また
専売裁定を
承認した
政府が、同じ
仲裁委員会の
裁定でありながら、
国鉄の
裁定を拒否しようとしているので、われわれはあくまでも
政府の
責任を追究するものであります。
民主国家において
法律は平等に適用さるべきであろうということを、強調したいのであります。
以上の
見解から第一、第二の
裁定を通じまして
公社当局と
組合側との間にいかなる
債権債務があるか
——このような言葉を使いますことは、私は非常にいやでありますけれ
ども、一応
債権債務と申し上げますが、第一次
裁定の残額として、これを
東京地方裁判所の
判決文より拾
つてみますと、ただちに支払いを命ぜられた分は三億二百四十三万七千円でありまして、
予算上出すことの可能に
なつだときに支払うべき宣命ぜられた分は、二十六億九千二百五十六万三千円であります。次に第二次
裁定の分でありまするが、べース・アップに要する
金額は約七十億円であります。
実質賃金切下げ復元に要する
金額は約六十億円でありまして、両
裁定書を合算いたしまして、私は
組合側は
当局に対し約百五十六億の
債権を有しておると考えておるのであります。
そこで私共は三月十五日第二次
仲裁裁定書を受領いたしますや、ただちに
国鉄当局に対し
団体交渉開始を申し入れまして
仲裁裁定の
実現方について
交渉を
行つたのであります。そのときの
態度は、日一日と悪化して来る
労資間の
紛争を、できるだけ早急に、しかも合理的に
解決せんがための誠意以外に何ものもなか
つたのであります。しかしながら第一次
裁定第一項のいわゆる三億円については、
総裁が二十四
年度末
決算見込みの上、大よそこの額に相当する余剰金ありとして支給を決意し、
運輸、
大蔵両
大臣の
承認を求めましたところ、
費目流用は認められないとの一言で、これが拒絶せられたのであります。しかし私
どもはこの問題につきましては、
政府及び
公社が、どのように抗弁しようとも、来る四月十九日の東京地裁の
判決において強制処分が認められるものと考えておりますので、これによ
つて処理して参りたいと考えております。別の残額二十六億につきましては、控訴中の問題でありますので、最高裁判所の最終決定を見た上で処理したいと申しておりますので、不満ではあるが、その時期まで待とうというのが、
組合側の偽わらざる
態度でございます。第二次
裁定第一項の
ベース・アップにつきましては、
加賀山総裁は、この
裁定書を受取られますや、ただちに
予算措置を講ずるよう
政府に要請した模様であります。しかるに
政府はドツジ・ラインと公務員
給與との対比上と称し、これを拒絶したかに承
つております。私はこの
政府のいうドツジ・ラインなるものは、よくわからないのであります。私
どもの了解するところでは、このドツジ・ラインはインフレの収束のため
——均衡予算を堅持して、ディス・インフレのための処置であつたと思
つております。しかるにわが国の現状は、今や完全にデフレの様相を呈しておりますし、ドツジ氏の声明の本旨が、
政府のいうがごとき硬直狭隘なものでないという証拠は、ドツジ声明後昨年一月二一十七日、占領軍の最高
責任者の一人であるマーケット少将が
労資協議会において、輸出品生産の増大こそ、生活水準向上の必要
条件として緊要であると強調されまして、同時に
賃金ストツプ令のごとき印象を與えられた
賃金原則につきましても、生産能率の向上と、その結果たる生産の増大が実証されたときに、初めて労働
給與の
増加は妥当であると説示されているのであります。私
どもはこのことによりまして、先に例示いたしましたことから、われわれの
要求が、ドツジ・ライン違反でないことを立証し得ると思うものであります。私
どもは先の例とかわりました例を、簡単に最もわかりやすく御
説明申し上げますならば、こういう例も引くことができるのであります。すなわち一九四八
年度におきましては、
国鉄は
従業員六十万人を持
つて、一億二千万
トンを輸送いたしました。一人
当りの負担量は二百
トンということになります。昨年七月
行政整理の結果、
従事員は五十万人に減少したにもかかわらず、一億三千五百万
トンを輸送いたしました。一人
当りの負担量は二百七十
トンということになりまして、三〇%の生産増強ということができます。この実績より見て、現在の
給與ベースの改正及び公正なボーナス制度に対する私
どもの
要求が、十二分に妥当であることを確信するものであります。しかもなおこの上ともわれわれの積極的な経営への協力によ
つて、
国鉄事業の歳出の減少と歳入の
増加がもたらされる点を考えますとき、特にしかりであります。さらに皆様は合理的増給は、購買力と国内商業市場の維持を助ける重要な要素であることを、御深慮願いたいのであります。
さらに第二次
裁定第二項については、その
内容はおおむね第一次
裁定の一
——三月についてなされました月額五億に相当するものでありまして、この点は疑義のないところであります。しかるに遺憾ながら現状においては、これを並行して実施をしなければならぬのに、第二項のみを実施するやの議論が行われておるようであります。しかもその所要額は、
公社総裁は四十億内外と称、しかもこれに対して
組合側が全面的に同意いたしておるやのことがいわれておりますが、私
どもが了解しましたのは、
ベース・アップと同時に行われます場合の現金
給與の
部分は、第二項に関する限り、その程度でよろしかろうと申し述べたにすぎないのであります。いろいろ申し述べて参りましたが、
国鉄労組といたしましては、第一次
裁定がようやく三分の一程度の履行を見ましただけで、残余は実質上放棄されたようなかつこうにな
つておりますところへ、第二次
裁定が出されてからずでに一箇月近くなりましても、何ら固ま
つて参りませず、不安と申しますか、焦慮と申しますか、
組合員の中には、もはや合法
運動は限界に来れりと、職場の空気はきわめて険悪とな
つて参りまして、統制に苦慮いたしておるのが実情でございます。この険悪にな
つて参りました空気の中には、生活上の不安が第一でありますことは論をまちませぬが、公分法に対する不信の比重が漸次拡大して参りましたことを、私指導者の一人として憂慮しておるのであります。ようやく緒についた民主的
労働運動、すなわち法を守り、守らせる
労働運動方式では、物事は
解決せぬ、やはり力と力の争いでなければならぬというふうに転換いたしますならば、講和条約締結を目前にして、日本全体の不幸、これに過ぐるものはないのであります。万一委員各位の中に、私や星加など、一応戦後外国に出たこともあるし、根からの合法
運動主義者がいちから、大したことになるまいなどと、甘いお考えをなさる方がありましたら、たいへんな誤りでありまして、私も最近ではもはや統制し得ない段階に参
つておる。
従つて無
責任のようでありまするが、本
委員会の委員各位の御決定のみが、
国鉄労働組合を、いな日本の労働
組合運動の浮沈を決するものとの認識を持
つて、問題をたれもが納得するように御決定いただきたいと思う次第であります。
結論として、問題の
解決はマッカーサー元帥と吉田首相の手中にあると存ずるのであります。私は事態の推移を憂慮いたしまして、数次吉田首相に会見を申し出ましたが、首相はいまだに私を不遑の輩と考えておると見え、会見に応じません。三月十六日私は意を決し、別紙の請願書を持参し、マ元帥に直渡しせんといたしましたが、これまたバンカー大佐に阻されて、果すことができませんでした。一方
組合といたしましては、すでに先ほど申し上げましたように、合法斗争の限界来れりとして、
国鉄労組はいかにあるべきかということを、輿論に問うておるのであります。この輿論の帰趨に従いまして、私
どもは
組合員全体の投票を得まして、そうして
公労法を蹂躙した
政府に合法的手段をも
つて対抗して行きたい、このように考えておるのであります。できるならば、このような険悪な事態をすみやかに
解決するために、本
委員会において御善処をお願いしたいということを再度申し上げます。
以上最後の結論としては、はなはだ意に満たないところもありますが、多くを申し上げませんけれ
ども、私
どもの苦痛を御賢察の上、ぜひ第二次
裁定の早急実現について、すみやかなる御決定をいただくようお願いする次第であります。