○菊川
公述人 私、国鉄労働組合の菊川孝夫であります。現在組合の副
委員長をや
つております。
ただいまから
昭和二十五
年度の
予算案につきまして、
意見を述べさせていただきますが、特に私は労働者が、この二十五
年度の
予算がもし国会を通過したならば、こういうふうなことが来るのではないか、あるいは来るであろうということをおそれております点、それからぜひともこういう点を直していただきたい、修正して国会を通過するようにしていただきたいというような希望点等を申し述べさせていただきます。特に私、現在三十五の代表的な組合が集まりまして国会共同闘争
委員会というのを持
つておりますが、ここに集ま
つておる組合の代表的な
意見も、やはりこの二十五
年度の
予算がこのまま通過するようなことがあつたら、こういう事態が必ず来るのじやないかと非常におそれている点が多々ございますので、こういう点について申し上げることにいたしたいと思います。
申すまでもなく、
予算が編成者の意図の
通りに執行されますためには、どうしても
国民の理解と協力が必要な要件だと思います。それを得るためには、やはり第一にどうしても前途に明るい希望を抱かせるものであ
つて、かつそのことがやはり理論的にも、また科学的にも証明されなければならぬと思うのであります。ところがこの
予算案は、われわれから
考えますならば、一部特権階級にと
つて明るい希望を持ち得るかもしれませんけれども、労働者はもちろんのこと、農民にも、
中小企業家にと
つても、きわめて悲観すべき幾多の材料を持
つておると
考えられるのであります。そこで遺憾ながらこのまま通過するようなことがあつたならば、やはりとうてい積極的に協力するということはむずかしいのじやないか、こういうふうに
考えるのであります。
第二に、数字の上では一応
收支のバランスがとられておりまして、大蔵大臣はたびたび健全
財政であると誇示しておられるようでありますけれども、もしこのまま本
予算が国会を通過するようなことがございますならば、本年から来年へかけましておびただしい失業者が出て参りますし、そして農村恐慌もやはりますます深刻にな
つて来るのじやないか、また
中小企業も危機にさらされると思われるのであります。このように
国民の大多数を占める勤労階級の生活を脅かすような
予算は、われわれから
考えますならば、決して健全なものとは言い得ないと思うのであります。もちろん私は敗戰の現実にことさら目をおおおうとするものではありませんけれども、こうした勤労階級の犠牲をでき得る限り最小限度に食いとめて、心から協力して前途に明るい希望を抱いて、苦難の道を切り開いて行くことかできるように、本
予算案が国会において修正されることを強く要望するものであります。
そのまず第一点といたしまして、
価格調整費は二十四年に千七百九十二億円あつたのが、九百億円に減額し、そうしてその差額が減税の方に振り向けられるようでありますけれども、なるほど税金が減少いたしましても、この
調整費の
削減によりまして物価が上
つて来ることになりまして、やはりその負担が勤労階級にかか
つて参り、むしろ今までより以上に大衆負担になる
危險が多いのではないか、かように
考えるのであります。
価格調整費の大幅
削減によりまして物価が値上りをいたしました場合に、当面いたす問題は、三百六十円レートの維持が、問題にな
つて来るのじやないかと思うのでありますが、
政府の方では、この三百六十円レートをあくまでも維持しようとしておられるようであります。そうなりますと、どうしても労働強化だとか、あるいは低賃金
政策というものによ
つて、労働者がこの犠牲を負わなければならぬことになるのじやないか。このことをおそれておるのであります。そうしてこれは勢いのおもむくところ、やはり労働力のダンピングという色彩が濃厚にな
つて参りまして、世界の労働者から猛烈な反対をこうむることになるのじやないか。われわれはこのことを最もおそれ、かつ警戒しておるのであります。それで三百六十円レート維持の困難な條件といたしまして、何とい
つても第一番にはポンドの三割切下げ、この影響をこうむることであります。しかもその三割切り下げたポンド地域におきましても、まだまだドル
不足に悩まされておるということが伝えられております。
第二には
価格調整費の
削減による物価の値上り、このレートを維持することの困難な條件を克服するためには、どうしても
日本の現在の生産設備を近代化し、あろいは操業度を向上するとともに、技術の導入を行わなければならないとわれわれは
考えるのであります。ところが本
予算案には、そのことがほとんど考慮されておらないとわれわれは
考えるのであります。そして一面
金融を通じて集中生産方式をと
つて、これを強化して
行つてコストの切下げをねら
つているという面は、私たちは見のがすことができないと思うのであります。旧臘ロンドンで開催されました国際自由労連に
出席した代表者が帰りまして、その議長報告を聴取したのでありますけれども、そこで感じましたことは、アメリカの労働者はきわめて
日本に同情的であるけれども、イギリスの労働者は非常に猜疑心を持
つておるということを報告しております。それはアメリカの方では技術は世界の水準に比べて、三十年も先に進んでしま
つておるからして、
日本なんかはとうていついて来られないから、援助をしてや
つていいだろうと
考えているのでありますが、イギリスの労働者はやはり保守的であ
つて、特にランカシヤの労働者は宿敵であるところの
日本の紡績業の
復興を非常に警戒しまして、そしてみずからの技術の進歩だとか、設備の近代化によ
つて、これと競争しようという積極性をあまり示さずに、現在のままで
日本に何とか勝とう、こういうふうな、いわゆる市場競争において勝とうというような
考え方から、
日本の
復興ということについて非常に猜疑心を持
つておるということを報告いたしておりました。こうした諸外国の
情勢から判断いたしましても、
日本の産業を近代化するためには、早くこのコースを切りかえなければならぬのではないか。ところがその逆に、金
融資本中心の生産
方針が
考えられている。これは私たちから
考えますならば、
時代錯誤ではないだろうか、かように
考えるのであります。その特に一番著しい例といたしまして、債務
償還費を見ればよくわかるでありますけれども、
政府はこれを説明するにあたりまして、これらの
資金を適当に市中に還元して、
復興その他最も効率よく活用することは、
財政上及び
金融政策上の重要な課題である。こういうふうに説明しておられますけれども、この債務
償還費は
国民が血の出る思いをして納めた税金から大体七百二十三億円、それからアメリカの対日援助見返
資金から五百五十二億円、ほかに八億円、合計いたしまして二百八十四億もの金を、なぜ急いで交付
国債の
償還に充てなければならないのであろうかということを、われわれは了解に苦しむのであります。これなどはよろしく先ほどからも論議されておりましたように、利子と期間の満了したもののみに限定して
償還を行いまして、
あとはやはり国の力が出て来るに
従つて、徐々に
償還するという
方法をと
つて、むしろそういう余裕は失業対策の方へまわしてもらいたい。われわれはさように
考える次第であります。すなわちこの
国債がそのまま拂われるということになりますと、先ほども大坪さんが申されましたように、
国債の所有者は大体においに
銀行でありまして、その中の約半額ぐらいは現金とな
つて銀行の金庫へ入
つて行く。それによ
つて当然
銀行は
国債の利率よりも有利な貸出し利率によ
つてこの金を運用できることは当然でありますけれども、それよりもこの資本の力によ
つて金
融資本が、
日本の産業を左右する支配力を確立するということは、私は見のがすことができないのではないか。現に
銀行は
企業家に対しまして、
金融逼迫の
状態を利用いたしまして、まず金を貸してほしければ
企業整備を行えないということを強く要求しつつあるのでありますが、私最近
わが国でも代表的な自動車工業の生産工場へ参りまして、そこの組合と資本家が対立しております中へ入
つて一応様子を聞いてくれというので、労資双方の立会いの上で聞いたのでありますが、そのときにもそこの常務取締役の説明によりますと、どうしても労働組合の方へ一割の首切りという案を示すか、労働協約の改約案を示すか、あるいは賃金の値下げの案を示さないことには、
銀行から快く金を貸してくれないのだ。金を貸してもらうには、
融資を受けるのには、どうしてもこういう條件を持
つて行かなければならないために、君らのところに持ち出したのだ。こういう団体交渉をや
つておるのであります。これは大きな資本においても随所に見られることではないか。こういうことを
考えましても、どうしても金
融資本家の言う
企業整備というものは、労働者の首切りであつたり、労働強化であつたり、それから労働協約の改約である。特にこれに呼応いたしまして、日経連あたりは、すでに労働協約の改約案はこういうのを労働組合に示せ。それから賃金の値上げについてはもう絶対応じるな、むしろ下げるようにしろとか、人員整理はこういう作戰でやれというふうな、一連の指導を
行つておるのであ
つて、もう全般的な大がかりな資本攻勢は労働者の上にのしかか
つて来ておる、こういうふうな
状態であります。そして
経営者は金
融資本家に迎合いたしまして、反動資本攻勢を展開して来ておるのが、最近におきまする労働問題の特徴でなかろうかと思うのであります。当然こうした金
融資本の擡頭は、巨大産業の増大を誘発することはわか
つておりまして、
中小企業はその下請工場として隷属化することになる。そこにまた
中小企業の賃金の遅欠配、低賃金、首切りが起
つて参
つております。特にわれわれはこれを身近に感じるのであります。私の隣におるこれは戰争中は軍需工場へ出ておつた労働者でありますけれども、最近は下請工場の職工をや
つておるのだが、月に五千円か六千円くらいより收入がない。しかも子供が三人と家内とで扶養家族は四人であるが、晝は工場で働いて夜は内職をや
つておる。それでもどうしても食えなくて、私が給料をもら
つて来るのを待
つてお
つて、米を買うのにそれをまわしておる。何とかして貸してくれというので借りに来ておるようなわけで、もう売る物もなく
なつたので、今着ているふとんを売らなければならないようにな
つているのだと涙を流して言
つておるのだが、しかし私の家庭でもこれを応援することもできないような
状態です。ほんとうに随所にそうした悲劇的な場面が展開しつつある。しかもこの工場はいつ戸を締めるかわからぬというような
状態であるけれども、しかし行かざるを得ない。見切りをつけてどこかほかへ働きに行きたいと思
つておるけれども、どこへ
行つても雇
つてくれるような先がないというふうな
立場に追い詰められておる。しかも子供が三人もある。こういう労働者はもう町の中には幾らもある。こういうふうに
考えるのでありますが、それがなおひどくなるということを
考えますと、まことに慄然とするものがあるのであります。一方また農村におきましても、やはり農民は農村恐慌に戰戰兢々としているのではないか。特に最近におきましては、私たち国鉄の小さい駅、寒村の駅だとかあるいは機関区へ、農村の子弟が別に募集をしなくても履歴書を携えて、私はどういう仕事でもやります。どれだけ時間が長くても働きますから、ぜひとも雇
つてくださいと費
つて履歴書を持
つて押しかけて来ているこれなどは明らかに私は戰災者だとかあるいは引揚者、それから過般の行政整理その他によろ失業者が帰農いたしましたけれども農村はもうこの厖大な過剰人口をかかえ切れなくな
つて、今生活をますます切下げつつあるんだが、もう切下げは限度へ来て、何とか再び戰を求めて都会へ、あるいはそういうふうな小都市へ出て行かなければならぬという
状態へ来ているんじやないか、従いまして今年から来年へかけて、おびただしい失業軒はここからも生れて来る。
昭和初頭におきまして——私車掌をや
つてお
つて東北線に乗務いたしておりましたが、その記憶を新たにするのでありますが、東北線の小駅より乗るお客というものは、たいていが十八、九から二十一、二の娘たちで、東北線で上野駅に吐き出される。そうすると土野駅では悪周旋屋が待ち構えてお
つて、みな淫売窟へ売られて行つたという悲劇がありまして、東京でも東北の娘を救えという大運動が起つたのを、われわれ若いときの記憶を新たにするのでありますが、すでに私の所属いたしております組合の上野支部におきまして、日々見ておりますと、東北線によ
つて上野駅へ吐き出される旅客の中にはそうした色彩を帶びると申しますか、そういうふうに感じられるような娘が、毎日毎日おりて来るということを言
つておるのです。それだけ東北
方面の農村が深刻化しておるんじやないかと
考えておるのであります。ましてや二十五
年度は農地改革がすでに打切られるし、それから農地
予算の減少もございますので、いよいよこれは窮迫化することは明らかでありまして、さらに本年三百七十五万トンに上る輸入食糧が
日本へ入
つて参りますが、これらの圧迫を受けて、いよいよ農村恐慌に拍車を加えんとしておると思うのであります。
かくのごとく労働者は低賃金、遅欠配等の犠牲をこうむり、
中小企業家は倒壊あるいは隷属化へ追い込められて来、農民がやはり農村恐慌にさらされる、一方において金
融資本が瓦大産業と組んで、
日本の
経済を支配する態勢を確立する準備がこの
予算案の随所にぼやりひそんでおる。
従つてわれわれから見ますならば、勤労階級の犠牲によ
つて、資本の蓄積がなされようとしているということが、この
昭和二十五
年度の
予算の本質的な性格でなかろうか、こういうふうに
考えるのであります。
これからの
日本は何と申しましても、人口問題に最も悩まされるんじやないかと存じます。従いまして、今からただちに根本的な対策を樹立しなければならぬと思うのであります。人口問題の解決は、
一つには国内にあり余
つておる労働力を有効適切に活用するということでありますし、第二には海外への平和的進出でありますけれども、まだ講和條約ができておらない現段階におきまして、
日本に残されております——戰争に負けてしま
つて残
つておるただ
一つの資源である労働力を全面的に活用することが、どうしても政治の根底でなければならぬ。そうして
政府は申すに及ばず、国会におきましてもこのことについては一大責任を痛感されまして、この
方針にのつとつた
予算をお組立て願いまして、
国民もこれに協力するという態勢をつく
つて行かなけれなばらぬじやないか、私はさように
考えるのであります。こういう観点に立ちまして二十五
年度の
予算案が編成されることを特に熱望するものであります。
二十五
年度の
予算の公共
事業費を拝見いたしまして
政府はこれによ
つて大体千三百五十三億円の公共
事業費があ
つて、百万人の人間を吸收することかできるというふうに言われておるのでありますが、この千三百五十三億かかりに全部人件費に使われるとすれば、なるほど百万人の人間が吸收できましようけれども、おそらくそのうちの約四割くらいが人件費で、
あとは物件費に使われることになりますと、一人当りかりに全額が人件費に使われましたとするならば、一人一箇月一万円くらいの賃金で雇われることになるのでありますけれども、それが四割ということになりますならば、月四千円か五千円くらいの一人頭の賃金しかもらえない。こういうふうな結果になりますので、やはりわれわれの
考えからいたしますならば、百万人はむりであ
つて、むしろこの公共
事業によ
つて救われる人員は四十万ないし五十万くらいではなかろうか。しかも私が先ほど申し上げましたような、方々から——
中小企業の面から出て来、農村からも出て来る、それから一方また行政整理も計画されるというような風評も飛んでおりますが、その
方面からも失業者が出て来まして、なおデフレ傾向がはなはだしくなるに従いまして、今まで潜在しておつた失業者が、表面に浮び上
つて来るというようないろいろな條件がからみ合いまして、おそらく今年末には五百万人あるいはそれ以上の失業者になるのではないか。そういうことになりますと、大体この公共
事業費のみによ
つて救われるのは、その一割にも満たない数字にしかならない。従いましてまだ公共
事業には、
日本が戰争によ
つて疲弊した面で
復興しなければならぬ
事業がたくさんありますので、そういう
方面にうんとできる限りの
予算を組んで、そうしてこの際にあり余
つておる人間をその力価で働かせる、そうして
日本を
復興するという面に
予算を組まれることを、われわれは特に主張するものであります。そのことは現に働いておる労働者も、町に失業者ができるとその圧迫を受けまして、当然いろいろな犠牲を拂わなければならぬということになるのでありますから、失業者の問題は單に失業しておるという問題でな上に、働く者の全般的な問題として、深刻に
考えておるようなわけでありまして、特にこの
予算案がそのまま通過するということに
なつたならば、それがおびただしい失業者の数になるのではないかということをおそれまして、この
予算案の審議の過程を、どういうふうなかつこうで通過するかと、ただいま真剣な眼を開いて見守
つておるということを十分お
考え願いたいと思うのであります。
次に賃金の問題から本
予算案を検討してみまして明らかなことは、すでに吉田総理もあるいは池田蔵相も繰返して言明しておられます
通りに、ベース改訂は行わないと言
つておられます
関係上、ベース改訂の原資がこの
予算の中に含まれておらないことは明らかであります。私は最近の労働組合の国会共闘の声明その他をとらえまして、増田官房長官あるいは佐藤民自党政調会長さんあたりは、政治闘争の色彩を帶びて来ておるのは、まことに遺憾であるというふうな談話を発表されておるようであります。また二・一ゼネストの禁止命令をもう一ぺん
考えてみようというようことを言われておるよりでありますが、われわれから言いますならば、二・一ゼネストの禁止命令を云々する前に、一九四八年の七月二十二日に出されましたマッカーサー元帥の書簡を、もう一ぺん
政府も国会の議員
各位もよく読み直して、もちろん労働組合もよく読み直して
考え直そうではないかと言いたいところであります。と申しますのは、あの公務員法の改正を示唆する書簡か出されて、ときの公務員制度課長であつたブレイン・フーバー氏は、労働組合と
政府の代表を呼びまして、この書簡に示されている精神はこういうふうであるということを説明されるにあたりまして、
政府は
一つの使用者である。それから公務員はこれに雇われる人間であるけれども。やはりすべてがスポーツマン・シップで行かなければならぬ。かりに
政府はAチームとするならば、労働者の方はBのチームであ
つて、人事院がちようどその中に立つところのアンパイヤーの役目を勤めるものだ。そうして今までだつたら問題が試合で解決しない場合に、争議行為というなぐり合いによ
つて解決しておつたのだけれども、今後はただ試合のみによ
つて解決して、そうしてどうしても判定の困難なときは、セーフであるか、アウトであるかという判決を人事院が下すのだ、向うの連中はよくこういうふうなたとえ、ことを言うが、そういう精神のつと
つてあの公務員法が改正されるのだ。もちろん公共
企業体労働
関係在によ
つて仲裁
委員会が持たれるのもそういう精神によ
つて持たれるのである。
従つて今後はこの人事院を尊重することによ
つて、諸君がそういうなぐり合い、すなわち争議に訴えなくても、それに訴えたより以上に保護されるのであるからということを言
つておりましたし時の
政府の方でもそういう精神に立
つて今後行くのであるからということをわれわれに言明されたのであります。とこるが実際にさあ人事院の方から勧告が出、あるいは仲裁
委員会の裁定が示されてみますと、その
通りにはなかなか実行されなくて、むしろ給與白書というものを
政府の方で発表されまして、これに反駁を加えておられるのであります。なるほどあの白書を見まして一応納得のできる面もないではありません。たとえば物価が値下りをしておるということはよくわかるのでありますけれども、その値下りをしておる物価というものは、労働者にはちよつと手の届かない反物であるとか、あるいはワイシャツであるとか、いいくつであるとか、カバンであるとか、こういうようなものはなるほど値下りをしておるのでありますが、実際目々必要なみそ、しようゆ、あるいは新聞代、電気代、ラジオの聽取料というようなものには、まだ響いて来ておらない。日常生活に必要な度合いの薄いものが値下りを示しつつあるけれども、ほんとうに公定価格的な性格を持
つておるところの、新聞の講読料にいたしましても、汽車賃にいたしましても、まだ値下りはいたしておらない。従いまして実際の生計費の上にはそうこれが影響しないのであります。特にここで申し上げてみたいのは、今まで私たち生計調査をや
つておりますと、今月の赤字は家内の銘他の羽織を売
つて、それによ
つて得た金で赤字を埋めて来たとか、あるいは自分のセビ口を一着売
つて、そうしてそれによ
つて得た金で一月の赤字を埋めて来たとかいう生計費調査が出て来るのでありますが、そういう売る品物は逆に下
つてしま
つて、そうしてもう売ることもできないというふうな結果にな
つて、物価の値下りということによ
つて、そういう笑えぬ打撃——これは決してそのまま高ければよいというわけではありませんか、生活の面においてはそういう点でやりにくい面も出て来いておるということは、率直に認めなければならない。従いまして現在物価は値下りをしておるということは、まだ直接生計費の面には響いて来ておらないということを申し上げたいと思うのであります。従いまして私は率直にあの人事院の勧告をひとついれられまして、今度の
予算案の中に、公務員の給與の問題も、何らか双方の顔の立つように、そうしてやはり実際の生計費の問題とも合うような給與ベースで組まれんことを特にお願いするのであります。そうしてこのことが当然民主主義を守り、法律をみなが理解して喜んで守
つて行くといういい慣行をつけることになるのではないか、かように
考えまして、人事院勧告に従つた給與ペース改訂が、本
予算の編成にあたりまして盛られるように、今度の国会において修正されんことを特に主張するものであります。
次にこの給與問題にかんがみまして、国鉄の裁定の問題について申し上げたいと思うのでありますが、これは昨年国鉄の裁定が衆議院と参議院において議決が食い違いまして、そうして最後にはわれわれの
考え方からいたしますならば、あれは十二月の三日の
状態——再び振出しにもどつたのではないかというふうな
考え方に立
つて、現在東京地裁に提訴いたしまして司法権の発動を仰いでおるようなわけであります。これは近く明らかにされることと思いますが、かりにあの二十四
年度は
予算上、
資金上困難であつたといたしましても、あの裁定の中には明らかに、ベース改訂をするまでは毎月五億円ずつ
支出せよ、
支出して組合に與えるようにしなさいというのが示されておりまして、もしベース改訂がどうしてもできないとするならば、二十五
年度におきまして毎月五億円ずつの、すなわち年額六十億が国鉄
予算の中に組まれることを総裁に対しても要求したのでありますが、これは総裁の方でも
政府の方で許されなかりたからというので、組まれずにそのまま国会に提案されておりますが、ひとつ国会においてこの六十億が組まれるようにしていただきたいということを私は要求するものであります。
次に、私国鉄に属しておりますので、国鉄の
復興予算の面に若干触れてみたいと思うのであります。昨年におきましては
見返り資金の方から百五十億の
復興費が出ておるのでありますが、本年はこれが四十億に減額され、その反対に損益勘定から二百億の
復興費が
支出されることにな
つておるわけでありますが、この損益勘定の面につきましては、特に運賃値上げをしたからこれはそういう余裕が出たのだとおつしやるかもしれませんけれども、最近国鉄の現場を私まわ
つてみまして感じるのは、どこの駅におきましても今増收をはかるために真剣に戰員は取組んでおるのであります。たとえば休暇の日を利用したり、あるいは勤務の時間の余暇を利用して町へ出まして、鉄道の宣伝、旅客の誘致、貨物をなるべく鉄道の方へ出してもらう、そうして今まであまり鉄道に対して理解のなかつた
方面に対しては——今までどうしても鉄道はむずかしいから、あるいは汽車は込むからというので出満
つておつたような、輸送
需要のありそうな面へ向
つて旅客貨物の誘致に出かけまして、そうして收入の
増加をはかろう、こういうふうに真剣に取組みつつあるのであります。また一面機関区
方面へ参りましたならば、石炭をできる限り節約しよう、何とい
つても石炭節約ということは一番重大な、国鉄の
收支に影響する問題でありますために、石炭の節約には真剣に取組みまして、どこの機関区でも、たとい一粒の石炭でもむだにするようなことのないようにしようではないかというスローガンを、それぞれ職場に張り出しまして、今までと
かくルーズに流れつつあつた
経営の面につきまして、
下部までそういう
考え方が滲透して、消費の節約に努めつつあるのであります。こういうふうな努力が蓄積されまして、そうして二百億円の余裕が出るといたしますならば、あの裁定にも明らかに示されておりますように、その一部はやはり待遇改善の面に還元されるのが正しいのではないか、そういうふうな
関係から。私はこの二百億の損益勘定から鉄道の
復興に組まれておる
予算の中から、やはり一部は待遇を改善する
方面へ振向けられるように、
予算を修正されることを特にお願いするようなわけであります。
以上くどくどと申し上げましたが、要しまするにわれわれ労働者といたしまして、労働者的な感覚から申しますならば、どうもこの二十五
年度の
予算案は、一部資本家階級にと
つては非常に朗報であるかもしれぬけれども、労働者にと
つては、あるいは農民にと
つては、
中小企業家にと
つては、このまま通過するようなことがあ
つては——もちろんこれはただ
予算ばかりの責任じやないでしよう。世界的な傾向かもしれません。そして
インフレーシヨンがとまつた場合には、安定恐慌に見舞われることは必然でありますけれども、その見舞われる犠牲というものは、こうした資本の力のない者には深刻に響いて来ますので、失業問題に対処するだけの
予算的な処置を講じられまして、そうして急激にこの安定恐慌の犠牲が勤労階級に振りかか
つて参らないように、ぜひともここで何らかのカンフル注射的な役割を果すのは、やはり国の
予算の力でなかろうか、こういうふうな観点に立ちまして、デフレからデイス
インフレとよく言われておりますが、そういうふうな傾向を蔕びるように、本
予算案が修正されまして、本国会を通過するように析
つてやまないものであります。
以上まことに簡単でございますけれども、われわれが
考えております一番深刻な問題は、何とい
つても労働省は、今年から来年におそらく襲いかか
つて来るのであろう失業問題に、今戰戰兢々としておるということを最後に申し上げまして、私の
意見はこれをもちまして終らせていただきます。御
清聽ありがとうございました。