○中曽根
委員 総理大臣に対する最後の私の質疑をいたします。それは講和條約に際してわれわれが何を望むかという問題であります。私が先ほど申し上げましたように、全面講和かとか單独講和かという條約締結の方式が、まず第一に出て来るのではないのであります。その前に
日本人として何を要望肥するかという具体的な
内容が用意されておらなければならぬ。この具体的
内容が貫徹されるのは、全面講和によるのか、單独講和、集団講和、多数講和によるのか、それは第二の問題に出て来るのであります。そこで第一のわれわれの主体的要望をこの際申し上げたいと思うのであります。
その第一は、何とい
つても憲法を守れということであります。四年間
国際関係がいろいろ流れてきた。しかし多少の
国際関係の雲行きの変化によ
つて、
日本人が一旦世界に誓つたところのあの憲法の原則、世界の公理であるあの憲法の原則が、四年間くらいのわずかな風雲によ
つて動かされるということにな
つては、
日本自体の
国際信用にかかわると思うのであります。この憲法の原則を守らしてくれ、言いかえればあの憲法の
内容は、
日本の運命と世界の運命が一つだということから来ておる。その憲法の原則を守らしてくれということが大動脈であります。そこから具体的な講和條約に対する要望を申し上げたいと思うのでありますが、まず領土の問題については、われわれとしては台湾やあるいは朝鮮の問題はカイロ宣言、
ポツダム宣言によ
つて制約されておる。しかし現在か
つて日本の領有であ
つて管理されている所、たとえば沖縄だとかあるいは千島の一部あるいは小笠原あるいは北海道本島の一部の色丹、水晶列島といいますか、これらのか
つて日本が領有し、
ポツダム宣言やあるいはカイロ宣言に
拘束されない
日本近海の周辺の島というものはどうしても
日本に返していただきたい。このことが第一であります。
第二の問題はも千島と樺太は御承知のように
ポツダム宣言、カイロ宣言に
拘束されないヤルタ
協定の問題であります。この問題もやはり
日本の領有する所は
日本の領土である。
従つてこの返還についても
総理大臣の強い御
主張を私は
希望するのであります。
それから第三番目にこの領土の問題で触れたいと思うのでありますが、台湾の問題であります。アメリカは年来の門戸開放機会均等政策によ
つて、台湾に特殊的な軍事的
経済的関係を設定しない、そこでトルーマンは台湾を放棄したというような情報があるだろうと思います。この態度は公平であります。私はそういう公平なことをや
つているから、アメリカはあの道義的な戰争にな
つてあのものすごいような愛国心というものが発散するのだろうと思うのであります。われわれもそういう態度でこの台湾に対する問題をとりたいと思うのでありますが、歴史的に見ても台湾は
経済的に
日本と非常に関係のある所であります。
従つて経済的な交流という問題については、私は台湾に関してはぜひとも特別の考慮を要請されたいと思うのであります。これが第一の領土の問題であります。
第二はおそらくイタリアの講和條約によ
つてもわかるように、
政治條項が問題になります。この
政治條項の問題についてはいろいろな問題があるけれ
ども、特に申し上げたいと思うことは、一つは国内治安維持力の問題であります。現在の警察制度で私は十分とは思わないのであります。戰争前のあの精微な警察制度によ
つても、関東大震災になれば軍隊が出なければ警察は維持できない。警察は軍隊の上におど
つている人形にすぎない。軍隊がない。しかも警察は戰前より弱体にな
つておる。今の十二万五千の警察力で、具体的に九州の一角に暴動が起つた場合には幾ら動員できるかというと、一万五千か二万しかできない。なぜなれば自治体警察で東京・大阪にあるものが一部転用できるだけであ
つて、あとのものは駐在所からひつこ抜いて来なければならぬ。常時移動できるのは一万か一万五千くらい、しかもそれは食糧の補給がついているかという食糧のストックは何もない。配給を受けてかついで行かなければならぬ。これが
講和会議後も残るという状態では絶対に
日本の治安は維持できない。自由にして責任ある
政府というものは、外国の手先にな
つて転覆しようとするものを、
自分で克服できるものが自由にして責任ある
政府である。
従つてそういうような力をぜひとも私は持つようにお願いしたい。
第二の
政治上の問題は、自主独立を何とかしてや
つてもらいたい。全面とか單独とかいう問題以外に、
日本人の主体性を確立するという
意味において、言いかえれば
講和会議後は
日本に対する内政干渉ができるだけなくなるように、内政干渉に関する煩雑なことがなくなるように、私は
希望したいのであります。
その次の
経済條項の問題につきましては、特にお願いいたしたいと思いますのは、人口問題であります。移民の問題であります。もちろんわれわれは人口調節によ
つてみずからもためなければならないことはよく知
つております。しかしそれだけでわれわれは片づくものとは思わない。また移民によ
つて相当多くの人間を外に出せるということも、われわれはそんなに期待しない。しかしこれによ
つて打開し得るものは、
日本が
国際社会に受入れられたといううれしい
感情なのであります。そういうようか
国際社会の一員として快く受入れられるというわずかな証拠でもよいから、移民を一方でも二方でも主万でもよろしい、
国際社会の友情を見せてもらう
意味において、私は移民の問題をぜひ取上げていただきたいと思うのであります。
それから
経済のことに関連してもう一つ申し上げたいと思いますのは、歩の東京軍事裁判によ
つてもわかりますように、文明というものが一切の原動力にな
つておる。東條は文明の敵であるとして、彼は死刑にな
つたのであります。それでありますから、文明を発展させるためにいろいろなことが行われておる。学問の研究も行われておる。あるいはその研究の成果の利用も行われておる。この問題だけは
日本人にも認めてもらいたい。具体的にいえば学問研究の自由であり、科学研究の自由であります。たとえば原子力という問題があります。湯川博士はサイクロトロンがないからアメリカへ行
つて研究するよりしようがない。しかしこの原子力という問題は、国内の医療の問題にしても、食糧の問題にしても利用できる問題である。こういうような科学研究、原子力研究の自由というものを平和
日本にぜひ認めてもらいたい。次には航空機の利用であります。われわれは敗戰国でありますから、航空機の製造や軍事化などということは毛頭
考えない。しかし民間旅客の利用ということだけは敗戰
日本にも認めてもらいたい。これは文明の名において私は認めていただきたいと思うのであります。
そのほかいろいろ申し上げたいことはございますが、特に以上の点は、
日本国民の一人として
総理大臣にお願いいたすのでございます。これらの問題について
総理大臣はいかにお
考えになりますか、御所見を承りたい。