○青柳一郎君 ただいま
議題となりました
生活保護法案について、厚生委員会における審議の経過並びに結果の大要を御
報告申し上げます。
生活保護制度、すなわち
国民の最低生活を保障する公共の扶助制度は、いかなる形の社会保障制度においても、その基礎の
一つであります。現在生活保護法が、
昭和二十一年十月一日施行以来今日に至るまで、公共、の扶助に関する根本法として果して来た重大かつ効果的なる役割については、あらためて申すまでもないところであります。しかしながら、現行法の慈惠的、恩惠的色彩を一掃いたさなければ社会保障制度の基礎たるを得ないのであります。さらにまた、わが国現下の情勢は、本制度による保護を要する人々の数の増加が予想せらるるのでありまして、この際本制度を急速に整備強化することが必要とな
つて参
つたのであります。特に昨年以来、本院においてきわめて緊要な問題として取上げられました未亡人対策あるいは遺族援護の
問題等の審議を通じて、本制度の
欠陥がしばしば指摘せられ、第五
国会において、満場一致をも
つて可決せられました遺族援護に関する決議においても、本制度の拡充強化が強く要望せられたのであります。さらに昨年一月現
内閣によ
つて設置せられました社会保障制度審議会は、去る九月、
内閣総理大臣に対して、現行の生活保護制度の改善強化に関する勧告を行うに至
つたのであります。これらの要請に応じ、現行の生活保護制度を廃止し、新たに憲法第二十五條の定める理念にふさわしい、
国民が権利として保護を要求し得る生活保護制度を樹立せんとするのが、
政府の本法案
提出の理由であります。
次に本法案の内容のおもなる点を申しまますれば、第一は、生活保護の制度を憲法第二十五條の
規定に盛られた
国民の生存権保障の理念を具現するにふさわしいものとしたことであります。もとより、現行の制度のもとにおいても、この
法律による保護は国の責務として行われる建前をと
つているのではありますが、今回の改正においては、第一章総則におきまして、
国民は一定の要件のもとにこの
法律による保証を当然に受ける権利がある旨を明らかにいたしますると同時に、第二章保護の原則、第三章保護の種類及び範囲、第五章保護の方法等にいて、この
法律によ
つて行われる保護の内容を新たにすベて
法律に明らかに
規定することにより、その恩惠的色彩の一掃を期しておるのであります。さらに、
国民がこの
法律による保護を受ける権利のあることが明らかにされる以上、当然これに対応して、
国民の側から見てその権利の実現がはばまれたとする場合には、この権利を主張し得る道の開けるベきは申すまでもないところであります。よ
つて、都道府県知事及び厚生大臣に対する不服申立ての制度を新たに確立することといたしておるのであります。
第二は、この
法律の実施には、市町村長のもとに有給專門の
職員たる社会福祉主事を置き、民生委員はこれに協力するものたることを明らかにしたことであります。民生委員の関與により、生活保護制度が
国民にきわめて親しみやすいものとな
つており、民生委員の数十年に及ぶ功績は高く評価されるべきでありますが、他面、真の
責任者にあらざる者にあまりに多く依存することは、法の執行における公の
責任をあいまいにするきらいがあるというので、民生委員と社会福祉主事との両者の
責任区分を明確にするとともに、両者の協力体制を今後も緊密に維持することとしておるのであります。
第三に、現行の生活扶助、生業扶助、医療扶助、出産扶助、葬祭扶助の五種類の扶助のほかに教育扶助及び住宅扶助の制度を創設したことであります。現行制度のもとにおきましては、生活扶助を現に受けている人々でなければ、その子弟の義務教育に要する経費、家賃及び住宅補修費等を支給せられないのでありますが、今後は生活扶助を受けておらぬ人でも、そのために生活に困る人々には、この二種類の扶助を單独に受け得る近が開かれるのであります。
第四に、医療
機関について指定制度を設け、
監査制度を実施することといたしたことであります。生活保護に要する経費は、昨二十四年度は百十五億円、本年度は百五十億以上に上るのでありますが、昨年度においては、医療扶助に要した費用はこの総額の約四五%に達しておりますので、今回の改正におきましては、医療
機関の指定制を確立するとともに、その診療方針及び診療報酬は社会
保險のそれに準ずるものたることを明らかにし、あわせてその請求を
監査し得る道を開き、濫診濫療なからしめるようにいたしておるのであります。
この生活保護制度は、厚生委員会における最も重要なる
議題の
一つとして、第一
国会以来機会あるごとに、その
運営、実施の面について、あらゆる角度からの検討が盡されて参
つたのでありますが、三月二十二日、本法案が厚生委員会に付託せられて以来、ほとんど連日委員を開催し、きわめて熱心なる審議が行われたのであります。
以下、おもなる質疑応答の内容を申しますれば、まず第一に、社会保障制度審議会の生活保護制度の改善教化に関する勧告の内容はどの程度本法案に取入れられているかとの
質問に対しては、従来市町村長の補助
機関であ
つた民生委員を協力
機関に変更した点及び保護に要する経費の都道府県及び市町村の負担を現行
通りおのおの一割ずつにすえ置いた二点を除いてはことごとく勧告を採用しているとの答弁でありました。
第二に、生活困難に陷る
原因としては失業が相当重要な因子をなしている。が、本法案では失
業者に対していかに考えているかとの
質問に対しては、失業すればだだちに生活困難に陷るものではなく、現に各種の失業対策が講ぜられている、これらの失業対策によ
つてもなお最低限度の生活を維持することができない者に対してのみ初めて本法案の保護が行われるとの答弁でありました。
第三に、本法の保護は無差別平等を建前としておるが、各種のハンデイキヤツプを有する者、特に未亡人母子世帶は本法案では救われないではないかとの
質問に対しては、いわゆる無差別平等の原則は本制度の保護に対する機会均等の意味であるが、従来この原則が誤解されて、法の運用があまりに機械的に流れる傾向があるため、今回特に必要な即応の原則を掲げて、要保護者の実情に即し最も有効適切な保護を行わねばならないことを明らかにしている、現在生活保護法によ
つて保護を受けている者は約百六十万人、世帶数にして五十万に近いのであるが、このうち婦人世帶主は実にその約六六%、ことに子供を有し、病気の夫をかかえ、不具廃疾者を擁している婦人世帶主がその四八%を越える状況であり、本制度は婦人の福祉のためのものともいえるのである、新たに教育扶助及び住宅扶助を創設して、いまだ満足な金額ではないが、未亡人母子家庭の最大の
関心事である遺兒の教育と住居の問題の解決をはか
つたほか、法の実施面においても、未亡人母子の福祉増進については十分考慮しているとの答弁がありました。
第四に、本法案により保障される最低限度の生活の内容は健康で文化的たるべきことが明記されているが、その基準をいかなるところに置くか、この基準を決定するためには特別の審議
機関を設置する必要はないか、なお現在の基準をも
つて健康で文化的な生活水準が維持できると考えるかとの
質問に対しては、その基準は決して固定的なものではなく、敗戰後の国力、社会、経済の諸情勢を考慮して社会通念上妥当なるように決定せらるベきものであ
つて、生活扶助の基準において飲食費の占める割合は、従前の八二ないし八三%から現在七五%に上昇している、理想的立場から見れば現状をも
つて決して満足すべきものとは考えていないが、他の一般
国民の生活水準との振合いをも考慮する必要があり、諸般の
事情を参酌して、あとう限り保証内容の向上に努力している、またいかなる基準を用うべきかについては社会保障制度審議会における
調査研究の結果を期待しておるとの答弁でありました。
第五に、最も論議の集中いたしました問題として、現行法では、生活保護の実施を適正ならしめるとともに、これを
国民に親しみやすいものたらしめる意味において、民生委員を市町村長の補助
機関として強力に保護事務に關與せしめておるが、本法案が民生委員を協力
機関に変更したことは、せつかく社会奉仕の立場から進んで保護の実施に当りつつある民主委員の積極的熱意を冷却し、ひいては保護事務の円滑適正なる
運営に支障を生ずるのではないかとの
質問に対しては、ここ数年来の経験に徴すれば、当然公の
責任においてなさるべき
仕事までも民生委員の負担とな
つている実情で、その負担が次第に加重せられておる結果、遂には社会奉仕者というその本来の使命の遂行までが阻害されるおそれが出て参
つたので、今回これをその本来の姿に復帰させ、社会奉仕者たるにふさわしい姿において活動させるとともに、保護り実施は名実ともに市町村長の公の
責任たることを明確にしようとするのである、もちろん民生委員の努力なくしては保護事務の円滑妥当な実施は期せられない、民生委員には、要保護者の発見、その生活
状態の
調査、保護の決定または実施に関し意見を開陳すること等は将来も従来
通りや
つてもらうのである、これを要するに、名誉職の社会奉仕者たる性質より見て適当と認められる範囲において進んで民生委員の協力を求めるよう十分
措置するとの答弁がありました。
次に、本制度における医療扶助の診療方針及び診療報酬は
国民健康保険の例によるを原則としているが、
国民健康
保險の診療内容等は市町村によ
つて区々であるから、本法案の診療方針及び診療報酬は、むしろ健康
保險の例によ
つて全国一本とする方がよいではないかとの
質問に対しては、公的扶助の理念からるれば、
国民健康
保險のごとく地域的扶助共済の観念に基く
保險給付の例による方が適当と認めるものであ
つて、これは現行そのつままであるとの答弁がありました。
次に、生活保護は国の
責任をも
つて実施すべきものであるから、これに要する費用は当然国庫が金額を負担するか、または国の負担額をもつと引上ぐべきではないかとの
質問に対しては、地方負担の軽減については社会保障制度審議会の勧告もあるが、シヤウプ勧告に基く税制改革によ
つて、地方自治体確立のために地方の財源が豊富になる
関係上、都道府県、市町村がおのおの一割の保護費の負担をする能力が十分にあると思われるのと、他面、目下地方行政
調査委員
会議において検討中の中央・地方間の事務の配分調整に応じて生活保護事務の負担区分の訂正を行わねばならなくなるから、今回は一応その推移を見るため現行の負担区分を変更しなか
つたとの答弁がありました。
以上のほか、社会保障制度との
関係、各種扶助の具体的内容、いわゆるボーダー・ライン階級の保護対策、保護施設、管理者の権限、社会福祉主事の性格、扶助義務者の範囲等に関して熱心なる質疑応答が繰返されたのでありますが、これらの詳細については速記録について御
承知願いたいと存じます。
なお本法案の重要性にかんがみ広く一般の世論を聴取するため、四月一日公聴会を開き、全日本民生委員連盟会長原奏一氏外十名の公述人から、あらゆる角度よりの意見を聽取して、愼重審議を重ねた次第であります。
かくて、十九日質疑を打切りましたところ、青柳委員より次の
修正案が
提出せられたのであります。その第一は、第五十
一條第二項として、医療
機関の指定取消しの場合に、取消処分を受けた者に対して弁明の機会を與える
規定を設けようとするものであります。第二は、第五十三條第三項として、都道府県知事が診療報酬の額を決定するにあた
つては、権威ある
機関の意見を聞くべき旨の
規定を設けようとするものであります。第三は、第七十二條第一項中の施設を補足せんとするものであり、第四は、第八十四條第二項として、違反行為の場合、いわゆる両罰主義をと
つて、行為者のみならず、その行為者を使用する者をも処罰する
規定を設けるものであります。第五は、附則第一項中の施行期間を五月一日に改めるものであり、第六は、附則第八項として、社会
保險診療報酬支拂基金法の一部を改正する
規定を置くものであります。
次いで討論に入ましたところ、自由党を代表して青柳委員より、生活扶助を初め各種扶助基準の合理的引上げ、民生委員の活動の積極化、
国民健康
保險の充実強化、地方負担の軽減について希望し、社会保障制度の
一つの礎石たる公的扶助制度がまずここに確立せられ、社会保障制度樹立のために一歩を進めることを喜んで本法案に
賛成の意見を開陳いたしました。次いで日本社会党を代表して岡委員よりは、第一、生活扶助額を実情に即して引上げること、第二、母子家庭の実際に即して教育扶助額を引上げ、あわせて育英資金制度を拡充すること、第三、地方負担の軽減をははること、第四、ボーダー・ラインの人々に対する生活保障して生活資金供給の金庫を設置すること、第五、十分なる失業対策を講ずること、第六、人口問題を無為に放任すべからざること、第七、社会保障制度の実現を促進すること、この希望意見を述べて
賛成の討論があり、さらに日本共産党を代表して苅田委員よりは、第一、生活保護の基準が低く、本法案は欺瞞的である、第二、民生委員の活動を制限し、保護が官僚化する等の理由をも
つて、
修正案を除く本法案に全面的に反対する旨の意見が述べられたのであります。
次いで討論を終結し、まず
修正案の部分について採決に入りましたところ、
修正案は満場一致をも
つて可決すべきものと決せられ、次いで原案の他の部分について採決いたしましたところ、多数をも
つて原案
通り可決すべきものと決せられた次第であります。
以上御
報告申上げます。(拍手)