○辻寛一君 ただいま一括議題となりました
電波法案、
放送法案及び
電波監理委員会設置法案に関し、電気通信
委員会における審議の経過並びに結果を御報告申し上げます。
まず三法案制定の理由について御説明いたします。現在、電波
行政に関する
法律といたしましては、大正四年の制定にかかる無線電信法が施行されておるりでありますが、御
承知の
通り、科学技術、なかんずく無線技術の分野は、輓近きわめて顕著な進歩を遂げたのでありまして、これに伴
つて国家、
社会の各方面におきまする電波
利用の状況も、ほとんど昔日に比し一変するに至りました結果、大正初期の
法律をも
つてしては、もはや今日の電波
行政を規律することは不可能と相な
つたのであります。加うるに、現行法におきましては、舞線電波及び無線電話は
政府がこれを管掌することを原則とし、特定の場合例外的に民間における施設が認あられるという建前をと
つておらのでありますが、新憲法の
もとにおきましては、本来
国民のものである電波は、政応たると民間たるとを問わす、公共の福祉を増進するために、これを最も能率的に
利用するもののために公平にその門戸を開放すべきものであり、特に放送の分野におきましては、この精神よりいたしまして、現在の社団法人
日本放送協会の独占を排し、一般民間放送のためにも電波
利用の道を開くべきであるとの輿論が高ま
つて参りました。さらに現行無線電信法は、一面において電波
監督行政の
規定であるとともに、他面また国営に公衆電気通信事業
経営に関する
規定をも包含しており、
行政組織といたしましても、事業官庁たる電気通信省が同時に電波
監督官庁と相な
つておるのでありますが、法体系を合理化し、
行政の公正を期する上からは、法規的にも
行政組織上にも、
監督行政と事業
行政を截然分離することが適当であると申さねばなりません。その他、昨年
わが国が加入いたしました国際電気通信條約に基く国内法制の
整備、新憲法の要請による従前の命令委任事項の整理等諸般の必要を生じ、これらは、現行法令の部分的改正によ
つては、とうていその目的を達することができませんので、
政府はここに現行無線電信法を廃止し、あらためて電波
行政今日の
実情に適応する新
法律を制定する意図の
もとに、この三法案を
提出したものであります。
次に、法案の内容につき主要な点を申し上げます。
電波法案に九章百十六箇條及び附則よりなる
法律案でありまして、その内容は、放送をも含めた無線局の免許、無線
設置、無線従事者、無線局の運用、
監督、聽聞及び訴訟、罰則等、電波
行政を事務、技術の両面から規律する電波の基本法ともいうべきものでありますが、
日本的内容に関しましては、現行の取扱いに著しい変更を加えようとするのではありません。ただ特に注目すべき点は、この方針案におきまして、新たに十七個條にわたる聽聞に関する
規定を設けておることてありまして、すなわち電波管理
委員会規則を制定しようとするとき、電波官理
委員会の処分に対する
異議の申立があ
つたとき等の場合、電波管理
委員会におきましては、審理官をして利害
関係者、参考人等の出頭を求めて、裁判手続に
類似した聽聞手続を行わしめ、その調書及び意見書に基いて事案の決定を行う旨の
規定並びにこの聽聞手続と訴訟手続との
関係に関する
規定を置いておるのであります。
次に
放送法案は四章五十八箇條及び附則よりな
つておりまして、その内容は、放送に関する総則的
規定、
日本放送協会に関する
規定、協会以外の一般放送事業者に関する
規定及び罰則
規定であります。
御
承知のごとく、
わが国の放送事業は、大正十三年逓信
大臣の認可の
もとに設立されました社団法人
東京放送局によ
つて開始され、引続き名古屋及び大阪にも放送局が設立されたのでありますが、大正十五年に至
つて、これら三放送局が統合されて現在の社団法人
日本放送協会が段立されまして以降は、ま
つたくその独占
経営の
もとに今日に至
つておるのであります。しかるに、今日
放送法案の
規定により、この社団法人
日本放送協会は解放いたし、新たに特殊法人たる
日本放送協会が設立されるのでありますが、
電波法案の
規定によれば、
提案理由御説明の際に申し述べました電波解放の原則に従いまして、この
日本放送協会のほかに、一般人もまた一定の條件を具備し、電波監理
委員会の免許を受くるにおいては、民間企業として放送事業を
経営し得ることと相なるのでありまして、このことは、
わが国放送事業史における雨期的変革と申しても過言でないと存ずるものであります。
しかして、
日本放送協会の放送事業と、一般民間の放送事業とを、
放送法案の
規定により比較検討いたしまするに、前者は、公共の福祉のために、あまねく
日本全国において受信できるように放送を行うことを目的といたし、場合によ
つては
政府の命令を受けて国際放送をも行う任務を持
つておりまする
関係上、中波受信機を
設置した者から受信料を徴収する権利を有するほか、放送債権の発行、所得税及び法人税の免除、土地收用法の適用用各種の特権を付與されておりますが、その反面、電波監理
委員会による一般的
監督のほか、
会計につき
会計検査院の検査を受け、さらに收支
予算、事業
計画、
資金計画、放送設備の讓渡等につき、
政府機関を経て国会の
承認もしくは
同意を得ることを必要とし、業務報告書並びに貸借対照表その他の計算書類を
政府を経由して国会へ
提出する等厳重なる
国家監督に服する義務を負うております。また協会が徴収する受信料は国費がこれを定めまするほか、協会に他人の営業に関する広告の放送を行うことを禁ぜられておるのであります。これに反し、一般民間放送事業におきましては、その経費は主として広告放送による收入によ
つてまかなわれる建前にな
つておるのでありまして協会に與えられているような特権もほとんどないかわりに、協会が受けているような
監督も制約もなく、免許條件の範囲内で最も自由潤達にその事業を
経営し得ることにな
つておるのであります。
しかしながら、ここに留意すべきは、元来放送事業は、新聞とともに、あるいはそれ以上に近代における強力なる宣伝の具でありまして、その
社会民心に與える政治、
文化、経済上の影響は、よきにせよ、あしきにせよ、すこぶる強力なるものがあるのであります。加うるにこの事業は、協会放送たると民間放送たるを問わず、ひとしく元来
国民全体のものである電波の
利用によ
つて成り立つものであり、電波にその本来の性質よりいたしまして、地域的にはきわめて限られた数しか使用し得ないものでありまする
関係上、これが使用の免許を受けることは、それ自体
国家よりする大きな特権の付與であります。従
つて、協会放送と民間放送との間には前申し述べたような差別は存しまするものの、双方ともひとしく高度の公共性を要求される事業でありまして、これが
経営は、いずれの場合も公共の福祉に適応するようになされなければなりません。この精神を明らかにするため、
放送法案は、その第一條に、放送が
国民に最大限に普及されること、放送の不備不党、真実及び自律を
保障すること、放送が健全なる民主主義の発達に資するようにすることの三大原則を揚げて、この法案の目的を明らかにしておるのであります。
しかしながら、他方放題送、それが強力な宣伝の具であるがゆえに、一層表現の自由を確保されなければなりません。かりて
わが国において、軍閥、官僚が放送をその手中に握
つて国民に対する虚妄なる宣伝の
手段に使
つたやり方は、将来断じてこれを再演せしむべきではありません。
放送法案におきましては、このいわゆる放送の自由を
保障するために、第三條に、放送番組は
法律に定める権限に基く場合でなければ、何人からも干渉され、または規律されることがしない旨を
規定しております。
この
法律によ
つて設立さるべき
日本放送協会の目的、業務、組織等は、
放送法案に、第七條から第五十條にわたり詳細に
規定されておりますが、そのうち協会の組織、構成を要約して出し上げますれば、協会の経費方針を決定し、業務の
運営を
指導統制する権限と
責任とは、八名の
委員と協会会長をも
つて構成される
経営委員会の握るところでありまして、
経営委員会委員は、
文化、科学、産業その他の分野が公平に代表されるような考慮の
もとに、有、識経験者のうちから
内閣総理
大臣が両議院の
同意を得て任命することにな
つております。しかして、協会の業務の執行は、
経営委員会の任命する会長、
経営委員会の
同意を得て会長の任命する副会長及び理事がこれに当り、ほかに
経営委員会の任命する監事があ
つて業務の監査に任ずるのであります。なお現在の社団法人
日本放送協会は、新しい
日本放送協会成立と同時に解散し、その一切の権利業務は新協会において
承認することに附則において
規定されております。
以上、
放送法案の大要につき御説明申したのでありますが、最後に
電波監理委員会設置法案は、電波
監督苦
行政機関として新たに
設置さるべき電波監理
委員会の組織、権限を定める二十箇條及び附則よりなる
法律案であります。すなわち、総理府の外局として電波監理
委員会を設け、これに現在電気通信省の所管とな
つている電波及び放送に関する
監督行政を移管、所掌せしめんとするものでありますが、この
行政が特に公平性、不備不党性及び政策の恒久性を強く要望せられていうことにかんがみ、
行政機関の形態として
委員会制をとることとし、その構成員たる
委員長及び六名の
委員は、公共の福祉に関し公正な判断をすることがてき、広い経験と知識を有する者のうもから
内閣総理
大臣が両議院の
同意を得て任命し、かつ
委員は毎年一名づつ交代することにな
つております。電波監理
委員会には、事務局として電波監理長官を長とする電波監理総局、並びに前に申し述べました聴聞を行うための審理官五名以内を置くのであります。
以上をもちまして三法案の内容の概略に関する御説明を終
つたのでありますが、申すまでもなく、これら三法案は、
わが国の電波
行政及び放送事業の将来を左右すべき重大案件でありまするので、電気通信
委員会におきましては、昨年十二月二十二日及び二十三日法案の付託を受けまして以来、十数回にわたる
会議を開きましたほか、
電波監理委員会設置法案につき
内閣委員会と、
放送法案につき文部
委員会と連合審査を行い、さらに
放送法案について二日間、他の二法案について一日間の公聴会を開催、三十一名による公述人から意見を徴し、その他本件に関する請願、陳請、意見書、新聞論調等各方面の意見はことごとくこれを考慮の中に取入れ、あらゆる角度から慎重審議を重ねたのでありす。従
つて、
委員会における
政府との間の質疑応答もきわめて精細かつ多岐にわた
つておりまして一々御紹介申し上げることは、とうてい時間の許すところでございませんので、これらに関しましてはすべて
会議録によ
つて御
承知願うこととし、ここでは單に、
委員会において根本的な問題として最も議論の焦点とな
つたものは、
わが国放送事業
経営形態を協会放送、民間放送の二本建とすることの可否、民間放送の助長育成の方途、協会に対する
国家監督の
方法及び受信料法定の適否、電波監理
委員会と
内閣との
関係の
問題等であ
つたことを申し添えるにとどめたいと存じます。
さて
委員会は、本月四日に至り、ようやく三法案に対する質疑を終了いたしたのでありますが、この約三箇月にわたりまする審議の結果、
委員多数の意見といたしまして、
電波法案及び
放送法案に関し若干の点において
政府提出原案に修正を加えることが必要であるとの結論に達し、昨七日の
委員会席上、
電波法案については
自由党、
日本社会党、民主党、
国民協同党及び
農民協同党の、また
放送法案については
自由党、民主党、
国民協同党及び
農民協同党の各党所属
委員の協同
提案として、両法案に対する、修正案が
提出され、
自由党の高塩三郎君がこれが
趣旨の説明に当られたのであります。以下、右修正案の内容に関し概略を御説明申し上げたいと存じます。
まず
放送法案に対する修正案は、本則二十二箇條、附則三項にわたる修正でありますが、そのうち主として立法技術の理由によるものを除き、重要な修正点のみについて申し上げます。
第四條第一項は訂正放送に関する
規定でありまして、原案によれば、放送事業者が事実でない事項の放送をした場合、この事項に関する本人または直接
関係人から請求があれば、事業者は請求を受けた日から二日以内に訂正取消しり放送をするか、または本人等に弁明の放送をさせなければならないことにな
つているのでありますが、この
規定は実行上種々の障害を惹起するおそれがありますので、修正案におきましては、訂正の請求は権利の侵害を受けた場合に限ること、請求の期間を放送のあ
つた日から二週間以内とすること、請求を受けた事業者は遅滞なくその放送の真偽につき
調査すること、
調査の結果真実でないことが判明したときは、その日から二日以内に訂正取消しの放送をすること、本人等の弁明放送は認めないことの五点にわたる修正を加えたのであります。
第九條は
日本放送協会の業務に関する
規定でありますが、修正案は、第一項第四号の協会の研究活動の範囲を拡張して放送番組に関するものを加え、第二項第四、五、六の各号と第五項に関し協会の業務範囲を明確にいたしました。
第十六條第一項につきましては、放送と教育との密接なる
関係にかんがみ、
経営委員会委員選任の基礎分野に、
文化、科学、産業と並んで教育を加えることといたしたのであります。
第三十二條第二項に、協会が徴収する受信料は月額三十五円とする旨の
規定でありますが、この金額は現行のものをそのまま踏襲したにすぎませんので、原案に盛られている受信料法定の
趣旨を貫くため、修正案におきましてはこの
規定を削除し、新たに第三十七條に一項を追加して、受信料の月額は、国会が同條の
規定により協会の收支
予算を
承認するごとによ
つてこれを定める旨を
規定するとともに、附則に一項を設け、国会が受信料の額を定めるまでは、その月額を三十五円とする旨の経過
規定を置くことにいたしたのであります。
第四十四條は協会の放送番組編集上の準則でありまして、その第三項にいわゆるラジオ・コードに相当する
規定でありますが、諸般の角度から検討の結果、修正案におきましては、公安を害しないこと、政治的に公平であること、報道は事実を曲げないですること、意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすることの四原則をも
つて規律することが最も適当であるとして、原案に対し所要の修正を施したものであります。なおこれとともに、前申し述べました
通り、放送事業は民間放送といえども高度の公共性を帶びるものでありますから、協会放送に対して要求されるこのラジオ・コードは、民間放送に対してもまた要求さるべきものであるとの見解に立
つて、修正案は第五十二條の次に一條を設け、前述の四原則を一般放送事業者に準用することにいたしました。
第五十條に関する修正は、協会解散の場合、残余財産は国に帰属することといたしまして、第四十八條の
規定による免税の根拠を設けたものであります。
次に
電波法案に対する修正案は、本則十六箇條、附則六項にわた
つておりますが、その多くは立法技術上の理由に基く修正でありますので御説明を省略し、重要なるもののみについて申し上げることといたします。
第四十五條第三項は無線従事者
国家試験の免除に関する
規定でありますが、修正案は免除の條件の緩和をはかるとともに、場合によ
つては
試験の全部を免除することができることと、たし、第五十條第一項、船舶無線電信局の通信長の資格條件についても、
実情にかんがみ若干緩和する修正を行
つたのであります。
第七十一條は、電波監理
委員会が公益上の必要により無線局の周波数または空中線電力の指定を変更する場合の
規定でありますが、原案によりますれば、この変更は、当該無線局の目的の遂行に支障を及ぼさず、かつ無線設備の変更を要しないか、軽微な変更にとどまる場合に限られており、
規定の運用上支障を生ずることが予想されますので、修正案は所要の修正を加えるとともに、変更によ
つて生じた損失は国が補償することとし、これに関する
規定を追加いたしました。
第七十六條は無線局の運用の停止、制限及び免許の取消しに関する
規定でありますが、原案においては、これらの処分をなす場合を電波法またはこれに基く命令、処分に違反したときに限
つておりまするのを、放送法
関係の違反の場合をも含めることに修正いたしました。
その他第百十二條、第百十三條の刑罰
規定の一部の修正によりまして刑罰の軽減をはかり、附則に一項を加えまして、電波法施行後三年間、特定の近海区域においては、第二級無線通信士が主任として国際通信に従事し得る旨の経過
規定を設くる等の修正を行いましたほか、附則第一項の施行期日を、公布の日から起算して三十日を経過した日と改めたのであります。この施行期日の修正は、法案審議の状況及び公布後の実施準備期間を考慮したものでありますが、放送法及び電波監理
委員会設置法の施行期日はいずれも電波法施行期日と一致するようにな
つておりますことを念のため申し上げておきます。
以上、両法案に対する修正案の御説明を経
つたのでありますが、
委員会は同じく七日討論を行い、まず民主党を代表して川崎秀二君は、電波放送両法案に対する修正案及び修正部分を除く原案並びに
電波監理委員会設置法案に対し
賛成の意を、共産党を代表して江崎一治君に反対の意見を、
国民協同党を代表して今井耕君及び
自由党を代表して中村純一君はいずれも
賛成の意見を述べられたのであります。次いで
日本社会党を代表して受田新吉君は、
電波法案に対する修正案、同じく修正部分を除く原案並びに
電波監理委員会設置法案に対し
賛成の意見を、
放送法案に対する修正案及び原案に対して反対の意見を述べられ、引続き
委員会は採決に入り、
電波法案に対する修正案、同じく修正部分を除く原案、
放送法案に対する修正案、同じく修正部分を除く原案、
電波監理委員会設置法案の順序をも
つて賛否を諮りましたところ、いずれも大多数をも
つてこれを可決いたした次第であります。
これをも
つて御報告を終ります。(
拍手)