○並木芳雄君 大分
討論が続きましたので、お疲れでございましようから、私は民主党を代表いたしまして、ごく簡單に、希望條件を付して賛成の
討論をいたすものでございます。
本
法案は、昨年以来実に一箇年の長きにわた
つて、
選挙法改正に関する
調査特別
委員会の手によ
つて、われわれ議員がみずから立案をし、みずから審議を重ねて来たものでございます。そういう点におきましては、私たちは、自分の子供を育てるような、あるいは自分の女房と連れ添
つて苦しいところを切り抜けて行くような気持で、何とかよい子供に育てたい、何とかよい家庭をつくろうと努力をして来たものでございますので、ただいまのような
討論を聞きますと何ですか、背負い投げを食つた、非常に人情の薄い人の説いておる
討論のように感じたのでございます。
その包含するところのものは、先刻
委員長から御
報告がありました
通り、今までばらばらにな
つておつたところのものを一本にまとめて、一見してわかりやすい、こういうりつぱな選挙
法案をつくり上げたのでございます。おそらくこれは、私たち議員の手になるところの議員立法といたしましては前古未曽有のものであろうと思いますし、われわれは、立法の府たる議会の新面目を発揮したものと言えると思いますので、あえて自画自讃でありませんけれども、この形式的の
見地から本
法案に賛成するゆえんのものでございます。
もう一つの点は、実質的の点について申し上げたいのでありますが、私たちの立場は、やはり選挙の自由と公正とが理想的には一致すべきものではございますけれども、これも先刻
委員長のお話のありました
通り、なかなか現実には一致いたしません。そこで、自由に対して制限を加えるとともに、選挙を公営に持
つて行くという線が当然出て来つのでございまして、選挙法というものは、おのずから制限法であると言われたのは、まことに真理でございます。
そこで私たちは、自由なる選挙をいうものが、政治意識を高揚し、民主主義を促進するためには、確かにあずか
つて功のあることを十分に認めておりますけれども、やはり公正なる
見地から、金持でも貧乏人でも、顔の売れている人でも新人でも、あらゆる人が公平に選挙権を行使する、あるいは誹選挙権を行使することのできるようにという
見地から、私たちの立場は、やはりある
程度の基本的なものに対する制限もまたやむを得ない。そうして、できるだけこれを公営に持
つて行
つて、お金がかからないところの選挙を断行して行きたい、そこにあつたのでございます。
そういう
見地からいたしますと、今度の
公職選挙法の中にもられましたもろもろの選挙公営というものは、確かに従来のものよりも、さらに竿頭一歩を進めたと申すことができるのであります。先ほどもお話がありました
通り、たとえば無料はがきのみならず、ポスターも国費で
負担する。しかも選挙当日、従来は三町以内に張
つてあつたポスターは、これは候補者の方でみずから撤去しなければならなかつたものを、今度は一町以内に食いとめまして、それを選挙管理
委員会の方で撤去するというふうに改められたようなことも、確かに公営の前進であろうかと思うのであります。ラジオの放送にいたしましても、経歴放送の方はさらに回数をふやしましたし、あるいは選挙公報におきましては、従来字数がわずかに二百字足らずでございましたのを、五百字まではこれを拡大することができる。こういうふうにしたという点も特に取上げてよろしいかと思うのであります。立会演説会におきましては、皆様御存知の
通り、ずいぶん順位が狂
つておりました。一ぺんきまりますと、ある人の後にくつついて行
つて、興味もなく、しかも非常に不利な立会演説が行われましたけれども、これを改めて、抽選によ
つて、そうしてバライエテイに富む立会演説が繰広げられるということに改められたことは、特筆してよいのではないかと思います。
その他あげればきりがありませんが、しかも、これに対する選挙公営の分担金というものは、従来の
通り二万円に食いとめてございます。これはもちろん衆議院議員の選挙の場合でざごいますが、かようにして、私たちはいろいろの例をあげますと、確かに苦しい
財政のもとにおきましても、よくこそこの敗戰治下において、これだけのりつぱな選挙公営というものを断行したということについて、その選挙法の特権にあずかつた
委員の一人として、まことに誇りを感じ、この
法案に賛成せざるを得ないのでございます。
最後に、さればとい
つて、私たちは無條件にこれに賛成することには、なお危險が伴うものでございますので、二つ、三つ特に重要なる点だけについて、私たちの行き方、希望を申し述べさせていただきたいと思います。
その第一は、なお公営はかなり進んだとは言いましても、完全ではないのでございます。たとえば、一番費用のいる自動車、船舶あるいは拡声機、こういうようなものは、やはり自費で
負担しなければならないのでございます。先ほど鈴木議員も、
討論の中に、その点を指摘されましたけれども、やはり選挙費用がかさみ、その大
部分は、別にやみ費用ではありませんけれども、車馬賃、自動車、トラツク、ああいうものが大きいのでありますから、私たちの立場といたしましては、さらに一歩を進めまして、こういうものに対しても選挙公営を徹底して、候補者がほんとうに一文の金もかからないような選挙に持
つて行きたい、こういうふうに考えておるわけでございます。
しかしながら、これを手放しにしておきますと、今度は逆に、選挙公営で供託金が三万円、公営分担金が二万円、わずかに五万円を出しますと、実に今度の全国参議院議員選挙では、二百万円くらいに相当するところの国家の費用を使うことになります。しかも、全国の汽車賃の無料バスが出る、各府県別の無賃乗車券が出る、はがきが五万枚も出る、ポスターは二万枚ある、トラツクのガソリンはあつせんしてくれる、しかも三台は使える、さらにラヂオの放送、新聞の広告、こういつた点をあげますと、もしこれを惡用いたしまして、今までのようなセラーズ・マーケツトからバイヤーズ・マーケツトに移
つて来た今日、これを自分の商売に結びつけたり、あるいは自己宣伝に結びつけたりして、わずか五万円の元手でも
つて、二百万円に相当する宣伝行為をそらないとも限らないのであります。
今度の
予算を見ますと、参議院の選挙に約十億円というものを見積られております。これは定員の約四倍が立候補するということに選挙管理
委員会の方で予定してございますので、かりにそういたしますと、五、六百人でこの十億円という金を割りますと、ただいま申しました二百万円という数字が出てくるのでございます。
従つて、こういう方面におきまして、いかに立候補が基本的人権であるとは申しましても、濫用されましたのでは、これは国家の
財政がつぶれてしまうのであります。池田
大蔵大臣なんかつぶすのはわけないことです。今度六万人くらい立候補するならば、一ぺんに
大蔵大臣は追加
予算を出さなければならない、
大蔵大臣は辞職しなければならないというむじゆんが出て来るのでございます。こういう点につきましては、今後はやはり署名によ
つて、一万人とか五千名とか、そういうものを得て、そうして世論の、民衆の支持によ
つて、りつぱな候補者を立てるというような方法が、十分
考慮されなければならないのでないかと考えているのでございます。
なお選挙区につきましても、先ほどお話がありましたが、私たちの方は、参議院全国区につきましては考究中でございます。衆議院の方では、たとえば全県一区とか五名定員というのは、やや大き過ぎるのではないか。二人または三人—三人を標準として二名または三名くらいの小選挙区制がよいのではないかという
意見もありますので、選挙区の検討は今後続けてや
つて参りたいと思
つているものでございます。
最後に、もう一つだけつけ加えますが、これはとりも直さず、新聞の報道と評論の自由についてでございます。先刻来
討論がありましたが、私たちの立場は、やや別の意味におきまして、今度の新聞の報道と評論の自由に対しては
反対なのでございます。それはもちろん、新聞雑誌の報道も評論も徹底的に自由にしたいとは思います。これはだれも依存はないと思うのでありますけれども、なお現段階におきましては、評論というものを候補者
個人の評論にまで展開、拡大いたしました場合には、相当の混乱を招くのではないかということを私たちは憂えておりますので、報道は自由でよろしい、しかしながら、本来あるところの評論の自由というものは、政党に対する評論、あるいは政策綱領、こういつたものの評論にとどめて、いましばらくは
個人に対する評論を制限して行く方がよいのではないかという
意見なのでございます。
私たちは、新聞協会その他から、この自由を主張される声を、よく聞いているのでございます。従いまして、大新聞あるいは大雑誌、すでに確立されたところのそういうものは、こういつた不公正な評論をするとは、ゆめ思
つておりませんけれども、たまには、こういうものも出て来ます。ここに記録があります。ある大新聞でございますけれども、私たちがこの
公職選挙法案を審議しておりました過程におきまして、今の特別
委員は、自分たちが、この次いかにすれば当選できるかということばかり考えて選挙法を
改正している、一体いつの間に
国会議員はこんな腐つた根性に
なつたんだろう、こういう評論が出ているのであります。いつの間に腐つた根性、こういうことを言いますけれども、この評論の制限ということは、今度の
国会で私たちが初めて持ち出して審議したのではありませんで、従来報道の自由だけは認められているが、評論の自由は認めておらなかつた。私たちは、むしろこれを解除せんとして努力しておつたや
さきに、一体いつの間に
国会議員はこんな腐つた根性に
なつたかという評論すら大新聞に載る現段階でございますので、よもやないとは思いますけれども、やはり評論というものは、ある
程度、選挙に際しては制限をした方がいいのではないかと思うのであります。
特に問題は、にわか新聞あるいは選挙日当の宣伝新聞であろうと思いますので、私たちは、何とかしてこの新聞というものを定義をする、あるいは新聞雑誌というものの定義を與えて、こういうものはよろしい、この定義に入
つて来ないものはいけないというふうにやろうと努力をしたのでございますが、なかなかその定義がむずかしいのでございました。そこで、万やむを得ず、いましばらくの間、
個人に対する評論というものは遠慮してもらいたい、こういう
意見でございます。
なお新聞雑誌の配布の方法でございますけれども、これはぜひ皆さんに、お心にとめておいていただきたいと思います。実は新聞を配ることを業とするという條文がこれにございますけれども、この「業とする」というのは、何もそれによ
つて生計を立てておらなくてもいいという解釈が成り立つのだそうでございます。従いまして、新しい新聞ができた。あるいは機関紙がある。その機関紙を持
つて、販路拡張のために個別にこれを売り歩いて行
つても、これはこの「業とする」のうちへ入
つて違反にならない。あるいはまた、会員組織によ
つて、あるパンフレツトをつくる。新聞を作る。これもやはり違反にならないということでございますので、そういたしますと、選挙に際しては、おそらく機関紙を持つたところ、あるいは普通のにわか新聞、そういつたものが、販路を拡張することに口実をかりて軒並に売り歩いて行くのではないか、あるいは配
つて行くのではないかという弊害が予見せられるのでございます。こういう点は、なお今後の研究課題になると思います。一方において文書、図画というものを嚴重に制限しておいて、候補者の名前一つ書かせないような文書、図画というものにしておいて、一方において、ここでひもが解けている。こういつた点において、私たちは、なおこの
公職選挙法案というものに対しては不十分な点を感じている次第でございます。
従いまして、この
法案は、特別
委員会において続いて検討する。しかして、今度の参議院議員の選挙においては、私たちは皆様とともにこれをよく観察して、改むべき点は、すみやかに選挙の後に改めるということを希望條件といたしまして、私たちの
討論を終る次第でございます。(
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