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岡咲政府委員 きわめてごもつとものお尋ねでございまして、深く敬意を表する次第でございます。このたびの
法律案におきまして、私
どもは特に苦心いたしたと申しますか、苦慮いたしました点は、正当な
株主の
権利を保障すると同時に、惡意ある不当な
株主の
権利行使をいかにして抑制するかという問題でございます。
現行法におきましては、ただいま御指摘のように、原告に担保提供義務を認めるということによりまして、
訴え提起を濫用せられるということを防ぐという措置を講じておることは御指摘の
通りでございますが、担保提供をいたさせますことによりまして、被告たる
会社あるいは
取締役の訴訟費用、あるいは損害賠償の
請求について一つの保障が與えられるという作用がありますと同時に、原告の濫訴を防ぎ得るという効果があることと
考えられますが、無資力な
株主に対して、事実上
訴え提起の
機会を奪うきわめて危險な圧制的な効果を生ずる、少くとも民主主義的な
法律体系のもとにおきましては極力廃止しなければならないような、非常な遺憾な結果が生ずるということもこれまたおおうことのできない事実であろうかと
考えます。
アメリカにおきましても、ただいま御指摘の代表訴訟は多少濫用せられる傾きがあると見えまして、一九四四年のニユーヨークのゼネラル・コーポレーション・ローの
改正によりまして、原告が社外株と申しますか、
発行済み総株数とは多少意味が違いますが、いわゆるアウト・スタンディング・シェアーズの五%以上の
株主であるか、あるいは原告の有する
株式が、市場価格五万ドル以上の
株式である場合のほかは、訴訟費用に対して担保を提供する義務を原告に命ずる
規定を設けたのでございます。これはニューヨークの商工会議所の
提案によりまして、さような
規定を設けた次第でございまして、他の州におきましても、この
規定にならいまして、担保提供義務を認めた州法もございますが、この担保提供義務を
規定いたしましたニューヨーク州法は、
学界及び
一般から、きわめてデーンジャラスなオプレッショナル・アンド・ディスクリミネートリーなキャラクターを持
つておるものとして、非常な論議を招いたのでございます。さような経緯がありまして、少くとも
日本のあるべき新しい姿としての
株式会社におきましては、正当なる
権利の主張が、財乏しいがために許されないといつたような立法をとどめますことは、いかにも遺憾と
考えまして、御指摘のように担保提供に関する
規定は、全部削除いたした次第であります。しかしこれは先ほ
ども申し上げましたように、一方においては惡意のある
株主に
権利濫用の
機会を與えるという効果もまたこれは否定し得ないのでありますが、これは結局裁判所に
訴えを提起するのでありまして、裁判所は公正なる判断によりまして、その
権利行使を必ず適法に判断せられると、私
どもは期待いたすわけでございます。この点のみならず、新憲法下における諸般の立法を見まするのに、法の支配というものが強く
要請されるのでありまして、その法の支配は、究極するところ裁判所による司法作用によりまして担保されるのでありまして、
権利濫用がそのままに放擲されることは絶対ございませんで、結局その
権利濫用は裁判所において阻止される。そうして正しい
権利主張のみがそこで認められるということになりますので、多少の不自由なり、あるいは不便を生ずる場合もあろうかとは思いますが、究極においては、法の支配というものを実現するということが許されるわけでございますので、そのことを
考えれば、担保提供義務を排除いたすことはさほど危險なことではない。かように
考えたわけでございます。
次に裁判所の裁量による
請求棄却の
規定を削除いたした点でございまするが、これは裁判所におけるさような公正賢明なる判断あるいは裁量権を否定する趣旨におきましてこの
規定を削除いたしたわけではありませんで、裁判所は諸般の
事情を明察せられまして法規の適当なる解釈によりまして、きわめて軽微なる瑕疵を
理由とするような主張、事案全体から見ますとまつたく
理由のない主張であります場合には、裁判所は解釈問題として適当に措置せられる道はもとより残されているわけでございますから、
現行法にありまするような、きわめて法規の解釈の範囲を逸脱して、裁判所があたかも事案に対する自由裁量権を持つかのごとき印象を與える百七條の
規定を不適当と認めて、これを削除いたした次第でございます。