○北川
委員 過般当
委員会を代表いたしまして
調査いたしましたいわゆる喜連川
事件の中間
報告をいたしたいと思います。
喜連川町は栃木県塩谷郡にある人口一万ぐらいの小さい町でありまするが、由来政争の激しいところであります。この
事件の発端は、喜連川町の公安
委員の深尾法順、手塚鉄平、この両氏を罷免いたしましたのにつきまして、これを不法として栃木県知事に訴願をいたしてその救済を求めたのであります。ところが県知事は法規上の根拠なしとしましてこれを受理しなかつたので、やむなく地方自治庁に陳情いたしたのであります。ところがこれまたその
権限事項にあらずとして受理せられなかつたので、遂にこの
事件の
法律的解釈を当
法務委員会に求めて
参つたのであります。
当
法務委員会におきましては、昨年科学的
捜査問題の
調査以来、自治体
警察と公安
委員会との
関係は、両
制度自体に欠点がありまして、これがために市町村民の受ける被害は非常に大きいものがあることを認めましたのみでなく、この種の
事件は漸次全国的に発生しておりまして、また発生する可能性のあることを認めたのであります。すでに栃木県下におきましては、喜連川、石橋、矢板におきまして発生いたしておるのでありまするが、このうち喜連川
事件を取上げまして
調査究明することと相
なつたのであります。そして松木、石川、上村、私の四
委員が派遣された次第でございます。私たち派遣団は
調査の
目的を次のように定めました。第一に町民に被害があるかどうか、ことに
人権蹂躙の事実がありやいなや、ボス側と
警察官による被害、
犯罪、不正
行為等を町民の側から
調査する。第二には
警察署内の二派対立の原因及びその状況及びその事由を
警察官の不正
行為あるいはボス側の支配力の方面から
調査する。第三は町
会議員、
警察幹部に
犯罪及び不正
行為なきやいなや、ボス側から町
会議員、
警察幹部等に対する裏面からの操縦の事実の有無をも
つて調査する。第四はボスの政治的活動の有無、前述
調査の結果を集約してボスの政治的活動の全貌をまとめ上げ、この際特に追放人物で、旧ボスと言われる笹沼多三郎及び新しいボスに対して着目をする。第五に公安
委員の訴願事項、深尾公安
委員などの罷免の
事情を
調査する、これもボスの町内政治に干渉する一面として
調査する。右の
目的をもちまして、現地派遣団は二月十七日、十八日、十九日の三日間にわたりまして、現地において大草喜連川町長を初め、三十人あまりの方々の
調査を済ませたのであります。
事件の全貌を
一般的に申し上げますと、小さい喜連川町に旧ボスと新ボスとが
対立抗争し、これが自治体
警察署、公安
委員、町
会議員等とそれぞれ気脈を通じ、互いに対立し、そのために町民側は多大の被害や
人権蹂躙を受けております。そして
犯罪は頻発するが、一向に検挙せられないで、町民は晏如として生活を営むことができないという現状にあるということが言えるのであります。
次にその概要を申し上げることにいたします。まず第一は町民の被害状況及び
犯罪の概要であります。一は中里牛乳店ほか一軒の放火
事件、
昭和二十二年一月四日の午前一時ごろ喜連川町の中里一雄方の牛舎一棟が全燒いたしたのであります。同時に牛舎に入
つておりました牛一頭も燒死いたしたのでありまするが、現状は火気のまつたくないところであります。しかも牛舎内には何ものも入れてなかつた。ところが燒か跡を見ますと、わら様のものを牛の下に敷いた形跡があるのであります。笹沼清一の家に雇われておるところの澁江等について
調査いたしましたところが、同人がその火災の数日前に笹沼清一から、牛に硫酸銅を飲ませたら牛は殺すことができるかという奇問を発せられたことがあるのであります。そして笹沼清一と被害者でありますところの中里牛乳店とが平素から非常に仲が惡かつた。部落の人々は異口同音に、あの火災は清一が人を使
つて放火したものであるというようなことをうわさしておるのであります。また
佐藤という牛馬商の家で、
福田某が放火の事実を語つたこともうわさをされておるのであります。この
事件は單なる失火などではなくして、放火の疑いが十分にあるのでありますが、何ゆえかこの
事件はいまだに迷宮入りにな
つておるのであります。このほかに同町の羽黒坪にも数軒の家が燒けまして、しかも原因不明の怪火
事件として、これまた検挙せられておらないのであります。
次に笹沼清一の肥料やみ
取引事件であります。笹沼清一は肥料の配給店を営んでおりまするが、
昭和二十三年八月ごろから十二月ごろまでの間に、硫安約百二十袋のやみ
取引をいたしておる。その超過額は百万円以上に及んでおるとのことであります。この
事件は目下宇都宮の検察庁で取調べ中のものでありまするが、笹沼清一が部落において語るところによると、この
事件は問題にならない、また近く肥料配給統制が廃止されるので、その廃止を待
つて処置されるのだというようなことを口外しておるのであります。部落の人人は笹沼に対する
当局の態度を不審に
思つているとうわさしておるのであります。そのほか同人はやみ清というあだ名を持
つておりまして、町の人々は同人が、常にやみ
行為をしておるといううわさをいたしておるのであります。さらに同人は葉タバコ運搬を請負うておるものでありますが、
昭和二十二年ごろ雇人の澁江、
伊藤の両名を使いまして、專売所から葉タバコ十六俵を盗み出して、それを手巻にするとか、あるいはトラツクに積んで多方面に持ち出したということに相な
つておりまして、澁江証人はこの事実をつぶさに語
つておりまするが、笹沼清一はこれを否認しております。この
事件につきましても何らの
捜査もなされておらないのであります。
次に農地改革における不正
行為でありまするが、ある農地
委員が山林六町歩を農地開放の対象となるということを言いまして、いまに
政府で買い上げられるから早く売つた方がいいと言
つて、安い価格でこれを買いつけて、しかもこれをやみ価格で他に売り渡している事実があります。この種の
事件はこのほかにも、二、三件あるのであります。
次は喜連川町内における窃盗
事件でありまするが、同町は窃盗の非常に多いところでありまして、町内の人々は一日平均一件くらいの窃盗
事件がある。しかしこれはほとんど検挙せられないという現状にありまして、人々は安んじて生活することもできない不安の
状態にあるのであります。
警察の統計では、昨年中八十一万円の被害のうちに六万円が回復しているだけだ。
犯罪の検挙率は三四%という
数字を出しております。しかしこれは
警察官に届け出た
犯罪だけでありまして、部落の町内の人々の言うところによりますと、もつと
犯罪件数も多いと申しておつたのであります。
次は
人権蹂躙の
事件であります。笹沼清一の叔父にあたる笹沼多三郎というのがありますが、同人は
昭和二十二年の夏祭の際に、青年どものかついでおつたみこしで同人方のガラス窓を破つたというような事実がありましたが、その際笹沼多三郎は、年中行事の一つであるところのこのみこしかつぎをやめさせてしまつたというので、青年の中には非常な不平が起
つているのであります。
さらに同町内にある鈴木藤一郎に対しまして、これを町内はぶきと称して、その家の門に、この家の者と交際してはいけないという立札を立て、またその家の父が死亡した際には、この笹沼に気がねをいたしまして、附近の人も会葬をしなかつたという事実もあるのであります。その他町内には各種の
犯罪があるのでありまするが、いずれその点は書面で詳しく御
報告いたしたいと存じます。
次は第二の
警察署内の対立及び闘争であります。昨年七月十二日喜連川自治
警察署の森島署長は、刀劍の横領、すなわち供出されました刀劍を不法に所持しておつたというかどによりまして、銃砲等所持禁止令で検挙せられ、辞職するのやむなきに至つたのであります。そうしてその署長代理として公安
委員は、同署の込山巡査部長を推薦したわけであります。元来同署の込山巡査部長は、同僚の小口巡査部長と非常に仲が惡いのであります。その仲の惡く
なつた原因と申しますると、昨年の二月ごろ東京の人が木炭のやみ
取引をなすために同町に
通りかかつたところが、トラツクがたんぼにはま
つてしまつた。そのために同署員に検挙せられたことがあつたのであります。その際に小口部長はこの
事件につきまして、二万円のわいろをとつたということを即断しまして、込山巡査部長がこれを取調べをなさしめたことがありました。取調べの結果、さような事実が全然なかつたというので、このことから両巡査部長は非常に仲が悪く
なつたわけであります。そうしてこれが署内の内紛を起す原因と相な
つているのであります。森島署長ほ笹沼多三郎と懇意の間柄でありまして、常に同人方に出入しておりました。同署長のあとを受けまして署長代理と
なつた込山巡査部長もまた笹沼多三郎の支持を受けているものと認められるのであります。この署長の刀劍の
事件がありましてから、間もなく公安
委員を
辞任いたしまして、そのあとに
福田、深尾、手塚の三公安
委員が任命されたのであります。この公安
委員は、昨年九月七日に小口巡査部長を署長代理に任命いたしまして、そうして込山巡査部長をやめさした
理由につきましては、
福田公安
委員長は込山部長がやめたいと言い、小口部長が署長代理になりたいというので申請したのだと証言いたしております。小口巡査部長が署長代理と
なつたのでありまするが、小口は笹沼多三郎一家とは仲があまりよくないのであります。込山部長は、間もなく小口部長の排斥を始めたのであります。すなわち署員八名と相談しまして、小口部長の非行をあばいた
陳情書を作成しまして、九名がこれに連署して、町長初め各方面にこれをばらまいて、排斥運動をなしたのであります。しこうして右
陳情書を作成するにあたりましては、九名の者が町長とともに町内の魚義というところで酒を飲みながら作成せられたものであります。そうして昨年十二月十三日の日付で、喜連川町の公安
委員会にあてた書面と相な
つておりますが、自治体
警察署の巡査が九名連署して、署長代理排斥運動をなすこと自体が署内の秩序の紊乱を物語るものであります。これらの内紛が結局は放火
事件も迷宮入りとなり、あるいは頻発するところの窃盗
事件の検挙ができないところの原因のおもなるものと認められるのであります。昨年十二月初めに、各新聞社は一齊に署内の紛争を取上げたのであります。そうして
警察の内紛の背景には町の新旧勢力の対立を指摘し、さらに自治体
警察のあり方についても盛んに論議するように
なつたのであります。一方公安
委員会は、小口を署長代理から二階級進めて署長に推薦せんとしたのでありますが、込山部長外八名の巡査は、小口を署長にするならば、九名は総辞職をするといきまいて、紛争はいよいよ拡大して、遂に十二月十六日町民大会を開いて、小口部長の署長昇格に反対いたしました。翌日十七日には、
福田公安
委員長も
辞任することに相
なつたのであります。なお右町民大会は込山派の者の大会であ
つて、小口部長ら一派の者は参加せなかつたとい
つておるのであります。一方手塚、深尾公安
委員は、大草町長とはから
つて、込山、小口両部長の問を牛耳ることのできる署長を外部から迎えようとしたのであります。これにある警部と某氏が推薦したところの警部を大草町長に話しましたところが、町長はこれはあちらでだめであるからいけないと言
つて断つたという事実もあるのであります。かようなことから署長は推薦はいよいよ暗礁に乗り上げてしまつたのであります。
次いで本年一月十二日緊急町議会を招集しまして、大草町長は劈頭深尾、手塚の公安
委員を罷免し、新たな公安
委員によ
つてこの紛糾している
警察問題を解決したいと提議したのであります。しかしここにもまたいわゆるボスの力が加わ
つていると言われております。十五対三で可決して遂に両
委員を罷免することに相なりたのであります。両
委員はその罷免を拒絶しまして、遂に知事に訴願するということに相
なつたのであります。さらに新たに三人の公安
委員が任命せられまして、本年二月一日には小口部長は署長代理を罷免せられまして、そのかわりに込山部長が再び署長代理に任命せられたのであります。
一方小口部長はその罷免を拒否しまして、小口部長は込山部長その他の巡査の非行を指摘して懲戒処分を求めておりました。現在双方は争いを続けておるのであります。
以上のような次第でありまして、喜連川町には新旧の公安
委員と新旧の署長代理があ
つて、二組の公安
委員と二人の署長代理があるというような悪口まで言われておる現状であります。双方の確執は未解決のまま現在に及んでおるのであります。
第三は町
会議員らの不正
行為であります。
警察の内紛に伴いまして、ボスをとりまく町
会議員が暗躍しまして、農地改革に際して、農地
委員たる町議が不正手段をも
つて山林や開放土地をみずから領得したり、他人に領得せしめた
事件があるのであります。これらの町
会議員はいずれもこれを否認いたしてはおりまするが、
相当嫌疑の濃厚なものがあるのであります。またやみ清とあだ名をせられたとこらのボス笹沼清一が、人を使
つて他派の町
会議員の立候補を妨害したという
事件もありまするが、これは中里という証人がこれを認めております。しかし笹沼はこれを否定しておるのであります。ロボットと言われる大草町長のいすをねら
つて、
大森谷町会
議長が小口巡査部長と画策したという
事件もあります。かような次第で町政もまた混乱の
状態で、これらの
事件も今
調査中でありますので、近くその正邪を決定したいと思うのであります。
第四はボスの政治的活動であります。旧ボスと言われておる笹沼多三郎及びそのおいの笹沼清一は、多年喜連川町の政治や財界に最も大きな勢力を有する者で、肥料、繊維の配給店、葉タバコの運搬業などの重要な職業を占めております。特に多三郎氏は追放人物でありながら、政治的活動をしておるのであります。たとえば新制高校の落成式に出席したり、
加藤助役の行動を難詰したり、小口
警察署長代理に向
つて署長をやめろと勧告したり、あるいは
警察署内の内紛をしずめんとしておる事実もあります。これらの点につきましては
法務府の特審局でも
調査をしておるということでありますから、これらを参照したいと思うのであります。
第五は公安
委員の罷免問題であります。さきにも一言いたしましたように、大草町長は町議会の同意を得て深尾、手塚両公安
委員を罷免いたしたのであります。しかしながら罷免には一定の
理由がなければならない。この罷免された公安
委員両名の非行については、
法律上十分なる根拠を発見することができないのであります。また町議会の同意を得て罷免することに相な
つておりまするが、町議会の同意を得るにあた
つて、十分なる
審議が尽されておらないうらみがあるのであります。罷免せられました両公安
委員は行政裁判を求めてでも争うといきまいております。大体以上のような次第でありまして、最後に
調査団として次のような談を発表したのであります。
今回の
調査により痛感することは、まず第一に町の治安はその自治
警察の手によりては一向保たれていないということ。町には平均毎日一件ぐらいの窃盗
事件等がひんぴんと起きているが、ほとんど検挙されていない。実にひどいことである。喜連川自治署は署内一致協力、この際町の不当勢力あるいは一切の情実等に煩わさるることなく、誠心誠意この治安の維持に邁進しなければならならない。
第二に、
調査項目のうちの町に起きた幾多の不正
事件、
人権蹂躪
事件等につきては、
関係証人の証言が必ずしも一致しない点もあるので、さらに国会において再調、その真否を追究したいと思う。
第三に、町の有力者に関する
事件等にて検挙せられざる者あるいは検挙取調べを受けたが、その処分定まらざる者もあるようであるが、これも十分
調査したい。
第四、ボスの影響力、喜連川の富豪笹沼一家の伝統的
経済並びに
社会的勢力は、町の行政その他の面に今日なお
相当の影響力あることを認む。
以上をも
つて調査の結果の概要の御
報告を終りまするが、証言の食い違い等もありますので、いずれさらに
調査をなし書面をも
つて御
報告いたしたいと存じます。