○高瀬国務大臣 職業
教育が非常に重要だということについては、ま
つたく私も同感であります。私は元来が商科大学におりましてそういう実業
教育方面に、もつぱら携わ
つた人間でありますから、特にそれを重要視する
考えを持
つております。ただ新しい
学校制度、いわゆる六・三・三という
内容におきまして、以前の
学校制度と比べて職業
教育が軽視されておるかどうかということになりますと、私は理論的には軽視されておらない、むしろ一層重要視されて来ておると言
つてよかろうと思う。これはもとの普通の中学等では、職業科というような学科はありせんで、職業的な
教育はほとんどやらなか
つた、商業
学校、工業
学校、農業
学校でもつばらこれをやりました。今度の
新制中学では職業科というのがありまして、今まで中学ではやらなか
つた職業に関する、ごく常識的なことではありますけれども、それを相当やることにな
つております。それから今度は六・三・三のシニアのハイスクールの問題になりますと、今まで商業
学校、工業
学校、農業
学校としてや
つてお
つたものに当るわけでありますが、これが
お話になりましたように、
地方によりますと総合的な高等
学校という
制度にかえられまして、
一つの高等
学校の中に普通科、工業科、商業科、農業科と、いうふうにわけられておるところが非常に多い。アメリカの
制度としましては、大部分がそういう
制度にな
つておる。アメリカでも、大都会には特殊な独立した商業、工業、農業の高等
学校もあるようでありますけれども、一般的に見ますと、やはり高等
学校は総合制でも
つて、その中に普通科、工業科、商業科というものがあるというふうにな
つておるようでございます。そういうようなところから、日本では今まで普通の
中学校、それから工業
学校、農業
学校、商業
学校と、それぞれ独立して発達して来たものを、総合化ようという
考えが一方
指導する方面にありまして、それで総合が相当進行したわけであります。ですから、
制度そのものとしては、これからアメリカと同じように職業
教育を理論的にはしつかりや
つて行けるはずです。ところが、実際にそういうふうに
なつで来た場合に、今までや
つてお
つたと同じ程度あるいはそれ以上に職業
教育がハイスクールの上でも
つて十分やれるかと申しますと、私は日本では困難ではないかということを感じておる。たびたび、農業
学校や工業
学校は総合化されるけれども、あれがいいのかと
質問されるのでありますが、私は日本の今までの
学校発達の歴史、それから日本の今日のいろいろな
実情から
考えますと、職業
教育を日本で発達させるためには、なるべく総合化しない方がいい、こういう
考えを持
つておる。ですから、できるだけ総合化しないように、そして今まで発達して来た農業
学校、商業
学校、工業
学校をやはり独立のままでや
つて行くべきであるという
考えをも
つて、始終お答えをしておるわけであります。ただ
地方の小さな町などになりますと、独立して普通の高等
学校、工業
学校、商業
学校を、それぞれ全部持つということが、施設及び
予算の
関係からい
つて非常に困難な状況にあることは、事実であります。だからそういう
地方の小さな都市でありましたならば、十分の徹底した職業
教育は、あるいは困難かもしれないけれども、総合制でもそういうことをやる方がよかう。しかし大都会においては、
財政上十分施設もできるのでありますから、独立して行く方がいいということを言
つております。そういう点について、
文部省に
地方から照会があれば、私はいつもそういう返事をしております。この問題は、実は
地方で六・三の施設とも関連して総合が実行されておるところが非常に多い。つまり今までの
中学校、商業
学校、工業
学校というのは、五年制であ
つたわけです。これが今度はハイスクールのシニアになりますと三年になる。だから教室があくわけだ。これは
新制中学の方に貸してやるべきだ、讓
つてやるべきだというところから、なるべく総合してしま
つた方が、施設をあけるのに都合がいいというようなところから、相当強力に奨励されたと思います。そういう点で
地方的にやむを得ない
事情もあ
つたかもしれませんけれども、私は
教育の
立場からいえば、やはり日本としては独立の農業
学校、商業
学校として行く方がいい、つまり新しい
制度からいいますと商業高等
学校、農業高等
学校で行くべきだ。それではなせ日本でそういうふうで、アメリカではそうでなくてもうまく行くのかということを
考えてみますと、これはやはり今までの
考え方から行きますと、
一つは、日本の国民の
考え方が、どうも中学へ行く者の方が上品だし、そうして何だか尊敬される。商業
学校とか農業
学校へ行く方の者は、何だか品が悪いし、そうして一段下だというふうな感じがまだ日本には多いと思うのであります。ですから、これを総合して
一つにしてしまいますと、どうしても普通科という方が非常に勢力を得て発展をして行
つて、商業、農業という方は圧倒されまして非常に小さくな
つてしまう。
教育の上から力がなくなると同時に、
予算の上でも、そういう場合にはやはり普通科の方に重点が置かれまして、農業、商業の方の
予算がどうしても少くなり、十分の施設もできなくなる。生徒の感じから行きましても、普通科に行
つている者は、おれたちはこれから大学へ行くんだという気持でや
つて行く、それから商業、工業科にいる者は、もうこれでおれたちは終るのだということで非常に卑屈な
考えを持ちやすいというようなこともある。アメリカは、そういうところが非常に少いのだろうと思う。大学へ行く者がみんな偉いので、いくら実力があ
つても中等
学校で終る人間は偉くないんだというような感じは多分アメリカにはないのだろうと思う。日本では、悲しいかなまだそういう傾向が強い。そういう
実情と関連しまして、私は総合化した場合には、どうしても農業、商業は衰えてしまうという
考えを持
つておるわけです。それで
お話のありました
予算の問題は、そういう
学校の中における職業
教育という問題でなくて、一般に職業
教育を奨励し推進して行くという
意味の
予算の問題だろうと思います。その点は確かに今度の
予算では、はなはだ不十分であります。
文部省としては、もつとそういう
学校の経費以外の点での職業
教育奨励発展のための
予算を、ぜひとも必要とするということで
考えていたのでありますが、
財政の都合上、今年度ははなはだ少く
なつたというわけであります。ですから、今後は
お話のありましたように、
文部省は職業
教育の重要、性は、むろん十分に認めておりますから、そういう
意味での職業
教育奨励のための
予算は、できるだけ増額計上するために努力して行きたい、そう
考えております。