○西崎
政府委員 図書館法案の大綱について御
説明申し上げます。
第五国会において制定されました社法
教育法の中におきまして、図書館に関しては特に一條を設け、第九條において「図書館及び博物館は、
社会教育のための機関とする。」「図書館及び博物館に関し必要な事項は、別に法律をも
つて定める」と規定されております。元来
社会教育法は、
社会教育に関する総合法でありますので、図書館に関する規定も入れるべきであつたのでありますが、図書館
職員の問題、図書館設置基準の問題、さらに図書館設置義務制の是非、
財政的援助の限度等、研究すべき根本問題が未解決でありましたので、別に單独法を制定することにし、ただ
社会教育法においては、図書館も
社会教育のための機関であることを注意的に明らかにしたのであります。
爾来
文部省におきましては、さきに来朝された米国
教育使節団の図書館に関する報告の趣旨を尊重し、さらに社団法人日本図書館協会を中心として、図書館界の
要望も入れ、鋭意研究に努めまして現下の
事情に適合した法案の立案をはか
つて参つたのであります。まずこの
図書館法案を立案するにあたりまして、特に考慮いたしました二、三の点について申し述べます。
第一に、この法案は、
社会教育法の趣旨に基きまして、図書館の設置及び運営に関する必要な事項を定めたいと
考えたのであります。元来
社会教育は、国民相互の間において行われる自主的な
自己教育活動でありまして国及び
地方公共団体は、その活動が自主的に活発にな
つて国民
教養の水準が、おのずから高まるように、側面より助長奨励する役割を持つのであります。そこで問題になりますのは、
地方公共団体に図書館設置の義務を課すかどうかということでありますが、
地方財政の
現状よりしまして、過大な
負担を課することはできないことでありますし、さらに国庫としましても、目下義務
教育の充実に努力すべき段階でありまして、十分の補助金を支出することはできませんので、義務設置というのではなく、
地方の自主性によ
つて実情に即応して図書館を設置することにしたのであります。この法案においては、かかる見地より、
地方公共団体が図書館を設置する際において、特に必要とする事項について規定したのであります。
第二は、図書館の新しい時代におけるあり方を明らかにした点であります。すなわち第三條において図書館奉仕の観念を明らかにし、具体的にその行うべき事項を列記したのであります。従来わが国における図書館を見ますと、真に国民に奉仕すべき機能において、必ずしも十分でなかつたのであります。本法案において、特に新しい図書館のあり方を明示し、強く
一般公衆の利用に資する活動面を強調し、動く図書館として、真に
社会教育機関としての任務を果し得るように規定いたしたのであります。
第三としては、図書館の
職員制度の確立をはかつたことであります。従来わが国の図書館事業の不振の原因の一つとして、
職員制度の不備をあげることができます。すなわち図書館「運営は、高度の專門的知識と技能を必要とするにかかわらず、これに必要な資格等の明確な規定を欠いていたため、すぐれた人材を吸收することもできず、基礎的修練を経ないしろうとによ
つて図書館が運営される傾向が強かつたのであります。この点にかんがみまして、この法案におきましては、特に図書館
職員について明確な規定を設けたのであります。
第四としまして、私立図書館は、従来わが国図書館活動において、非常に大きな貢献をいたして参りました。今後においても、ますますその発達を期待するのでありますが、法律的な拘束は、できるだけ避けまして、私立図書館が真にその特色を発揮して、自主的に自由に活動し得るようにしたのであります。
次に、各章別にわた
つて簡単に要点を申し述べたいと思います。
第一章は総則でありますが、第二條において、この法律における図書館を定義して、図書、記録その他必要な資料を收集し、整理し、保存して、
一般公衆の利用に供し、その
教養、
調査研究、レクリエーシヨン等に資することを目的とする施設で、
地方公共団体または民法第三十四條の規定による法人の設置するものといたしました。
従つて、この法律にいう図書館は、
社会教育機関として、
一般公衆の利用に供することを内容とする公開図書館について規定するものでありまして、会社、団体等において、一部社員または会員等の研究のために設けられた図書施設はこれに含まれないのであります。また
学校の図書館や図書室も、別個の機能を持
つていますので、この法律ではこれを除くことにいたしたのであります。個人の設置する図書館は、
財政的その他個人的な偶発的
條件に支配され、きわめて消長がはげしいので、図書館の公共性から
考えまして、遺憾の点が多い。この点を
考えまして、この法律では図書館として扱わないで、図書館同種施設といたしたのであります。
従つてこの法律において図書館とは、
地方公共団体の設置する公立図書館と、民法第三十四條の法人の設置する私立図書館の二つであります。
次に第三條において、先ほど述べました図書館の新しいあり方を規定し、かなり詳細にその行うべき事業を列記してあります。そのおもなるものは、図書館資料の收集整備、図書館利用者に対する指導、相談、図書館相互における協力その他種々の集会の開催等の事業であります。
第四條から第六條において、図書館
職員に関する規定があります。図書館に関する專門的
職員は、これを司書または司書補といたし、司書については
原則として
大学卒業
程度の
一般的
教養を考慮し、司書補については高等
学校卒業
程度を基礎として、これに対して専門的
研修を必要な資格
條件としたのであります。文部大臣は
教育学部または
学芸学部を有する
大学に
講習を委嘱し得ることにいたし、これに必要な事項は省令で規定することにいたしました。これによ
つて図書館の活動の基礎
條件であります人的整備をはか
つて参りたいと思います。
第二章は公立図書館であります。公立図書館に関するおもなる規定の一つは、館長その他の
職員に関するものであります。第十三條第三項に、特に館長の任務の重要性にかんがみまして、館長となる者についての資格要件を規定しています。すなわち国から補助金を受ける図書館の館長となる者は、司書となる資格を有する者であるとともに、これらの図書館のうち都道
府県または五大都市の設置する図書館にありては三年以上、五大都市以外の都市の図書館にあ
つては一年以上それぞれ図書館
職員としての実務の経験を有することを
條件としたのであります。これは図書館事務の特殊性によるものでありまして、館長として実際に即する適切な運営を行うための必要
條件と
考えるのであります。
第十四條は、図書館協議会に関する規定であります第これは図書館の運営に住民の
意見なりが十分に反映し得るようにするためであります。この見地から
委員の選考の範囲も、広く土地の住民の輿論を結集し得るよう、第十五條にその範囲を規定したのであります。
次は、公立図書館の基準について第十八條において規定しています。「文部大臣は、図書館の健全な発達を図るために、公立図書館の設置及び運営上望ましい基準を定め、これを
教育委員会に提示するとともに
一般公衆に対して示すものとする」とあります。図書館の基準は、今後図書館を整備し、その組織を充実する上に、きわめて重要な事項であります。しかし基準の決定は、恒定的なものでなく、あくまで現実に即し、また
地方の
財政事情にも拘束されますが、基準は
現状よりも一歩前進すべきものであります。その
意味におきまして、文部大臣はその時期において、各般の
事情を勘案し、公立図書館の設置及び運営上から見て、望ましいと思わるる基準を定めることにしたのであります。
わが国の図館書の
現状を見ますとき、図書館令によ
つて設置認可されたものが、公私立をあわせて総数千五百五十館であります。そのうち、公立のものは正確に言いまして千三百八十六館であります。しかも図書館運営上の通念として、最低限度三千冊の蔵書は絶対に必要でありますが、これを越えるものはわずかに公立図書館において二百二十九館を数えるにすぎないのでありますし、普及の実際について見ても、わが国の全市町村のわずかに一二%にしか設置せられていない
実情であります。この点から基準の設定は幾多の研究すべき課題を持
つていますので、愼重
検討の上定めるつもりであります。第十九條は国から補助金を受けるために必要な公立図書館の設置及び運営上の最低基準を、
文部省令で定めることに規定しております。
第二十條は、公立図書館に国庫より補助その他必要な援助を行い得ることにいたしております。本案によ
つて、
予算の定めるところに従い補助金を交付し得る場合は、第十九條の公立図書館に関する最低基準を越えた場合でありまして、その交付は、公民館の場合と同じように、図書館を設置する
地方公共団体が支出した前年度における図書館に備えつける図書館資料に要する
経費等の精算額を勘案して行うものといたしたのであります。
なお、第十七條において、公立図書館は、入館料その他図書館資料の利用に対するいかなる対価をも徴収してはならないことを規定し、図書館の公共性とその公開性を強調しております。
社会教育法第四條においても、
地方公共団体は、積極的に
社会教育施設の設置及び運営をなすべきことを規定しています。しかも、その利用は市町村民の貧富等によ
つて制約を受けることのないようにすることは、図書館の本旨よりして当然であるといわねばなりません。
今後においても、
政府は
あとうる限り補助その他必要な援助を行うことによ
つて地方公共団体の
負担を軽減し、公開図書館の実をあげたいと期しています。
第三章は、私立図書館に関するものでありますが。法人の設置する図書館につきましては、あらかじめその旨を都道
府県教育委員会に届けさせることにしています。しかし、前に述べまし引ように、私立図書館については、文部大臣及び都道
府県教育委員会は、その求めに応じて必要な專門的、技術的指導、助言を行うことができることにいたしておりますが、私立図書館の独自性を尊重して、これに対して
政府及び
地方公共団体が、みだりに統制干渉すること等のないようにいたしたいと思います。
なお、この法律では、図書館として扱えないもので、図書館と同種の施設があるわけで、これら図書館同種施設は、何人も設置することができますが、これらに対しても、指導助言が與えられるようにいたしましました。
附則におきましては、館長、司書及び司書補の資格について、五年間の経過規定を設けまして、現在の図書館
職員が継続して勤務し得るように、十分むりのないようにいたすつもりでございます。
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以上が本法案の要旨であります。