○小西
公述人 私ただいま
委員長から御紹介にたりました小西であります。私は現職は今
委員長から言
つていただいたようなことでありますが、
炭鉱生活約三十年、ちようどこの
法案の実体をなしておる
特別鉱害の問題の起ります当時は、明治鉱業株式
会社の専務として、親しくこの問題を体験した一人であります。そいう
立場からも一言申し上げてみたいと思います。
特別鉱害の
被害状況につきましては、ただいままで
被害者代表の
方々から、るる陳述がありましたので、私は一切省略いたします。またこの複雑な問題をわずか二十分や三十分で、すつかり盡すことはとうてい不可能なのであります。勢いきわめて大筋の荒筋だけを申し上げるというようなことになりまするので、お聞きになりましても、いろいろ疑問が起るかもしれませんから、御疑問の点は時間が許しまするならば、あとで十二分に御質疑をお願い申し上げたいと思うのであります。
最初に結論から申し上げますと、私はこの
法案の
成立に賛成いたすものであります。今日
一般鉱害特別鉱害とわけて、いろいろ
論議されておるのでありまするが、本来
特別鉱害というものはないはずのものであります。これはまつたく戦争が残した一つの特産物であります。実にやつかい千万な負債であります。先般親しく
現地を視察していただました
方々は、高松
炭鉱その他におきして、
一般鉱害はどんなものか、
特別鉱害はどいうふうの区別があるのかという点につきましても相当はつきり御認識をいただいたことと思います。
一般鉱害の場合に、
鉱害が起りますれば、その
復旧または賠償は、
加害炭鉱がいたさねばならないのであります。現にまた日々行
つて、賠償なり
復旧なりをいたしつつあるのであります。そういうわけでありますから、
炭鉱では
鉱害防止のためには非常な苦心、
努力をいたしております。きわめて経済的に安く掘り出せるような区域におきましても
鉱害が起るおそれがある所は、みすく掘らない所が相当多いのであります。にもかかわらず日華事変以来
国家は次々とむりな
増産を要求いたしまして、太平洋職に入りますと、軍需官が
炭鉱へ乗り込んで参りまして、そんなところ掘り残す必要はない。そこも掘れ、ここも掘れと、
命令をいたすのであります。もしも
命令通りに掘りませんと、いわゆる軍需
会社法によりまして、重役も業務担当者も解任をされ、あるいは処罰されるのであります。査察使というものが参りまして、これくを
増産せよ、査察使の
命令はすなわち陛下の
命令だというわけでありまして、警察も来れば憲兵も来ます。いろいろの人が参りまして、
増産をむち打つのです。一方割当てられました数量を
出炭いたしませんと、その罰として労務の充足を減らされる、あるいは工員にと
つてはなくてはならない絶対必要なせつけんとか、地下たびの配給を減らされるというようなことなのであります。こんな
強行採炭によ
つて起こりましたさんたんたる
鉱害は、これは
国家が起こさせた
鉱害であります。今申し上げたのが
特別鉱害の実態であります。
従つてこれが賠償は
国家でやれ、こう一応私も存じます。私は加害者の
代表というので、実はお呼び出しを受けたわけでありますけれ
ども、
加害炭鉱という言葉が使われておりますが、加害者はむしろ
国家であ
つて、われわれ
被害炭鉱なのであります。きようは
委員長もいろいろ言葉を使
つておられまするが、
関係炭鉱という言葉々使
つていらつしやるので喜んでおるような次第であります。加害といえば刑法上の加害に通じて何だかおもしろくない感じが伴いまするので、今後は用語は
関係炭鉱と、そうでない
炭鉱というふうにお用いなされることを希望いたします。この点につきましても東條内閣の顧問であつた山下亀三郎君が、査察使としまして朝鮮に参りまして、その帰りに
福岡に立ち寄りまして、何としてもこの戦争遂行に
石炭が出なくてはどうにもならないというので、私と貝島、麻生、大正の各社長、それに中島徳松君を加えまして、五人が特別招集を受けて、いろいろと
増産問題の
論議をいたしたのであります。あるいは
炭価の面から、あるは金融の一面から、資材労力というような方面からいろいろ議論も出たのでありましたが、その際に公害地、これが掘れれば
九州で百万トンくらいの
増産は可能だという話が出たのであります。時の
福岡県知事九州総監の吉田茂氏は――今の総理ではありません。厚生大臣や軍需大臣をやりましたあの吉田氏が、さつそくそいつをやろうじやないかというので、卓を叩いて喜んだのであります。公害地と申すと言葉の上では間違うかもしれませんが、
鉱害防止のために残してある区域で公の字の公害地なんです溜池の下とか、密集家屋の下とか、あるいは鉄橋の下とかいう所です。そこで私
どもはちよつと待
つてください。こういう部面を掘れば、
鉱害は必至だ陥落が必ず来る。そのしりぬぐいは一体だれがや
つてくれるか。こう申しますと、吉田知事は、だから実業家はだめだ、いくさが全勝つが敗けるかというこのせとぎわにな
つておるのにもまだ君らはそろばんをはじいておるのかと言
つてしかるのであります。どつこいそう吉田さん大きな声を出したとて、あんたは知事さんだから辞令一本か電信一本来れば、やめるか、転任するか、免職になるか、それで責任は終るのだ。われわれは
事業をや
つておる。その仕事の結果に対しては、はつきりした責任を負わなければならぬわれわれの
立場だ、そう簡單に片づけられては困る。しつかりした裏づけをしてください。それでなくてはやれませぬ。こういう主張をいたしたのであります。よしそれでは
命令をする。おれか
命令する以上、おれも責任をとるのはもちろんだというようなわけで、そこでたいへんな力み方であ
つたのであります。いまのは一つの話にすぎませんが、
強行採炭の
状態が、どんなふうであつたか、御
想像のつく一端かと思いまして、お話を申し上げたのであります。
終戰後に
行政措置による
配炭公団の
プール制度ができまして、これで一応の
復旧策か立ちましたので、また実行されたので一応の安心を得てお
つたのが、昨年九月限りで打切るという。そこで
被害地の
関係者がいかに困惑しておるか、呻吟しておるかという悲痛の叫びは、先ほど来お聞きでありますから略します。
国家的の見地から見ましても、民生の安定、交通の確保、食料の減産防止など、幾多の重要問題がこの
法案の通過いかんにかかわ
つておるのであります。もしも第六
臨時国会のときのごとく、今度も流産になるようなことがありましたら、この嚴粛な事実に対しまして、まつたく政治はないものだと断言いたします。ただこの決
審議の上に、御
意見がいろいろ出そうな点につきまして、一つ二つかいつまんで所信を申し上げたいと思います。
第一は戰災による
損害無賠償という原則の
関係であります。
法律の專門家でない私は、これに対していろいろのことを申す資格もないし、知識もないのでありますが、
法案のねらいは国土の
復旧という点にあるのである。ですからこの
法案は、個人々々を対象として、個人の賠償をするという趣旨のもとにできたものではないと思うのであります。国土
復旧のためにとられまする施策が。たまたま個人に反射するにすぎない、こういうふうに思うのであります。戰災無賠償の原則には反しないと、私は考えるのであります。
第三は一部の非
加害炭鉱――
一般炭鉱と申しまするか、自分らは全然
関係がないから、この賠償費を負担すべきではない、こう主張しておるようであります。これは反対理由といたしまして、相当有力なものと考えられておるようでございますから、この点につきまして、私の考え方をお話申し上げたいと思うのであります。ただいま申し上げた反対論をなさる
方々も、
特別鉱害復旧の急務という点については、十二分に認められておられるのであります。これは
国家が賠償すべきだ。その走をとるべきだと言われるのであります。
国家がその点わかりまして、全額賠償の策をとるということが実現さる得れば、これまた一つの考えでありまするが、今日の
国家財政におきましては、相当容易でない
現状にあるというふうに、私は
承知いたしておるのであります。私も今山しますように
国家賠償ということは認めておりますけれ
ども、これは本来の建前でありまして、できない相談をいつまでも繰返してや
つてみましたところで、しよせん現実の問題には役に立たないのであります。それよりもむしろ次善の策と存じまするけれ
ども、現実に即した解決策を講ずることが、われわれの急務とするところであります。この点この
法案は、
石炭界の
戰時中からの過去の歴史と仕組みというものを勘案して、非
加害炭鉱にも一部を負担せしめようとしておる、現実に即した
法案と信ずるのであります。
配炭公団による
プール資金制度が、
昭和二十三年四月九日の閣議で決定いたしまして、同年六月より
行政措置として続けられて来た。それが公団
廃止によ
つて取扱われなく
なつた。そこで今度は立法措置によりまして、措置をしようというのが
本案であります。今まで炭業界を、
国家といたしましてはほとんど一本のごとき取扱い方をいたしてり参ました。たとえば
出炭のごときも、需要の面からまず
全国の目標をきめて、各地区別に生産を割当てるという行き方で、その他
炭価の面におきましても、あるいは復興金庫の金融、あるいはその他の金融機関からの金融の措置等につきましても、みな今申しましたように
全国を一本に見て、それを地区にわか
つて、措置をして来るという
制度が根幹とな
つて、ずつと実行して参
つたのであります。この
法案におきましても、やはり問題の根底には
全国一本というような考え方るように、私は解釈いたしおるのであります。自由経済、
石炭自売の今日とな
つても、今できておりますこの
特別鉱害の問題を解決するためには、ただいま申し上げました根本を無視するわけにはいかないというのが、私の所見であります。こういう観点から非
加害炭鉱も、また賠償費の一部を負担するのは当然だ、こう結論いたします。
昨年六月二十九日に、日本
石炭協会の評議員会では、公団
廃止後のこの
プール資金の処置についてどうしたらよいかという打合せをいたしました。そこで
復旧費の三分の二を国庫で負担してもらう、残りの三分の一を
関係炭鉱で負担しよう、こういう決議ができ上
つたのであります。そうしてその決議を
政府関係当局に陳情をいたしたのであります。ところがその
意見はいれられませんで、いろいろの
石炭奨励費によ
つて、この問題を解決しようと種々な研究が続けられたのでありますが、結局のところ、この
法案とな
つて現われて参
つたのであります。今反対の
立場をと
つておる
方々におきましては、この六月二十九日の協会の一致した評議員会の決議があるから、この線で行くべきだということを、主張しておられるようであります。これを金科五條として主張しておられまするが、実はその点につきましては、一昨七日の日本
石炭協会の評議員会におきまして、いろいろと再検討を試みたのであります。しかし六月二十九日当時は、まだ公団
廃止が十月であるか、十一月であるか、あるいは九月であるかわからない、とに
かく近くなくなりそうだ。何とかしてこの
プール資金でやつたことを、継続しなくちやならないんだという観点から、今のような決議ができ上
つたのでありますが、今日までにおきまして、実は一昨七日の日におきましても、その内容についてもその内容について、疑義いろいろ生じ、また客観的な情勢もたいへんかわ
つて来たというようなことで、遂にその線を再確認をするには至らなか
つたのであります。今日なおあくまでも国庫全額賠償を繰返す、あるいは加害炭絋のみで負担しろという論を固執いたしますることは、結局
法案の通過を阻害するという結果になるんじやないかと思います。そこで本
法案の第二十二條の減免規定を無制限に拡げまして、非
加害炭鉱は全然問題なしとするなら、せつ
かくの加害の過去の歴史と仕組みを勘案してできましたところの、
国家的
立場から
石炭産業の意義を認めた本
法案というものは、根本的につぶれてしまいます。加害者だけで負担しろという議論をとるならば、
法案それ自体がまつたく無意味となる。そうなりますと非
加害炭鉱は無負担という論は、修正論のようでありますが、結局は
法案の抹殺論をや
つておるのだ、こう批評した人が昨日あ
つたのでありますが、その評が当るように私も考えるのであります。しかし先刻も申しますように、これらの方方も
特別鉱害復旧の急務と、またこれに対する臨時措置として
法案を必要とすることは、十二分に認めておられるのでありまして、その点は去る七日の打合会でもまつたく一致いたしたのであります。この点特に御留意をお願いしたいと思います。
第三に非
加害炭鉱と
加害炭鉱との、本
法案に対する賛否の
状況が、どうな
つているかと申しますと、
九州におきましては、先刻来
井上公述人その他から話がありましたように、賛成一本にまとま
つております。それらの
公述人のうち、ある者はこの
法案が
成立しますと、自分の損ではあるが、あの悲惨な
被害状況を見ては反対する勇気がないと、こう言
つております。北海道、常磐、宇部三地区のそれぞれの一部には
法案反対の声がありますが、これは私は一部の声と申し上げるのであります。
全国の
出炭トン数から計算いたしますとも七五%の
出炭をしている
炭鉱が
法案に賛成なのであります。特に申し上げますが、北海道におきましては、
石炭協会として本
法案の反対を決議いたした由であります。ところがあえて申し上げます。その後におきまして、北海道にも
炭鉱を持
つておる三井、三菱、明治製菓というような東京支社は、それぞれその本社におきまして
本案の
成立を希望するという最終的の態度を決定いたしておるのであります。また常磐におきましても古河は反対しない、賛成だということを、責任者が言明いたしておるのであります。そこでこれは北海道の中小
炭鉱のうちのある有力者の話でありますが、国庫負担の割合を、公団時代の倍額くらいに増額をしてもらい、その上にこの
法案の
審議会
制度をきわめて民主的にしてもらう、いま一つは減免の規定のごときも、判然と基準を明文化してもらうというようなことになれば、必ずしも反対をするものではないということを、親しく私に言明した人もあるのであります。
最後に
特別鉱害復旧団が、結局公団組織というものが赤字だらけ、失敗だらけの歴史を各種の公団がや
つておるのは御
承知の
通りでありますからもまた今度の
復旧団も何かそんなことはないか、それの運用について懸念はないかというようなことを、再三にわた
つて私に確かめられた議員もあるのであります。私の見解ではこれはまつたく簡單な事務的の処理機関である、所要人員のごときも中央、
地方を通じて、百人足らずで済むくらいの機関だと思います。その点は御懸念無用と存じます。以上積極、消極の両面から一応お話を申し上げたのでありますが、結論的には社会
公共の
立場から民生安定、食糧
増産というような種々の観点から、
法案の通過を念願してやまないものであります。これをも
つて終ります。