○佐々木
参議院議員 ただいま議題となりました旧
軍港市
転換法案についてその提案
理由を御
説明申し上げます。
横須賀市、呉市、佐世保市及び舞鶴市の四都市は、御
承知の
通り旧
軍港が置かれ、巨額の国費を費し、また長年月にわたる設営努力により、日本海軍の四大根拠地として終戰時まで発展して参
つたのであります。すなわち一小漁村であ
つた横須賀市は、明治十七年東海鎮守府が置かれて以来、逐年
軍港規模が拡張せられ、市人口三十八万に上る大都市となり、全市すなわち
軍港というように一体として発展し、ために一般産業の興る余地なきままに、市の財政も多額の
国庫助成に負うような状態であ
つたのであります。呉市はもと呉浦を囲んだ半農半漁の村落にすぎなか
つたのでありますが、明治二十三年に第二海軍区鎭守府が開設をみて以来、海軍の諸施設の整備拡充が行われ、戰争中は四十二万の人口を擁する大都市に膨脹したのであります。また佐世保市について申し上げますと、これまた明治二十三年当時人口四千にすぎなか
つた一寒村が、
軍港都市として発足して以来、同様の急激な発展を遂げ、また舞鶴市についても
事情はほぼ同様であります。しかるに今次の大戰が、わが国をほとんど壊滅の状態に陷れて終末を告げるに至りました結果、これらの四都市は一瞬にしてその存在の意義、立市の根底を失
つたと申しても過言ではないのでありまして、その受けた打撃は精神的にもまた経済的にも、他の戰災都市に比較すべくもなく、甚大であ
つたのであります。すなわち、たとえば呉市のごときは、四十二万に上
つた人口が終戰直後十三万に激減し、約四箇年を経過した今日においてもようやく十九万人に過ぎず、他の三市についても
事情はほほ同様であります。また四市いずれも一挙にして工蔽等の職場を失いましたため、新たに依存すべき産業が皆無に近く、おびただしい失業者群を擁して、市民生活はまことに暗澹たるものがあるのであります。市民の中には工員として父祖数代にわたり優秀な技術と経験を持つ者が多数あるのでありまして、それらは何ら活用せられることなく、農耕とか日傭
仕事にその日を送
つています。これは市民として苦痛にたえぬところであるのみならず、国としても大きな
損失と思うのであります。四市のうち特に横須賀市にありましては、基地司令官の積極的なる指導と理解ある措置により、特定の区域における旧軍用施設の転換は、すでに実施を見てはおりますが、そこに立地せる転換事業体は、なお現行国有
財産法に基く国有
財産処理
方法をも
つてしては、その事業は経済的に成立せず、気息えんえんたるものがあるのでありまして、いわんや他の三都市においてははかり知るべきものがあると思われるのであります。また巨大な海軍の軍需品製造設備や港湾施設は、市当局その他
関係方面の努力により、若干工場の誘致を見たものもありますが、その大半は平和産業のため活用せられることなく、遂休のまま放置せられ、特に造般施設は旧軍湾であるのゆえをも
つて、その作業は極度に制限を受け、その転活用をはばんでいるのが現状であります。また右に申し述べました実情からする当然の結果として、四市経営の立ち直りに充つべき課税等の收入もきわめて僅少でありまして、いずれも極度の財政難にあえいでいるのであります。一方においてわが国は新憲法において戰争を永久に放棄し、平和
国家として新しく発足したのでありますから、四市往時の
軍港市としての繁栄を再びとりもどすというがごときは望み得ないことは当然であります。のみならず今日四市の市民の間には、憲法の精神に沿
つて立市以来の
軍港色を市の性格から根本的に拂拭し、平和産業港湾都市として新たに出発したいとの、申さば国の内外に対して都市として嚴粛な平和宣言をしたいとの願望が、力強くみなぎ
つているのであります。さきに広島平和記念都市及び長崎国際文化都市の両特別法によ
つて、わが国の平和と文化に対する念願が世界の共鳴を呼んでいることは、各位御
承知の
通りでありますが、日本が旧四大海軍根拠地を平和都市に転換するということを世界に宣言するということは、平和運動として意義が深いものがあると思うのであります。申すまでもなく、四市の市民は今日市民生活の建直し、市の建設にみずから立ち、みずから助くるの悲壯な決意をも
つて、努力しているのでありますが、よるべき産業がないために、父租数代にわたる工員としての優秀な技術と経験を持ちながら、これを活用できず失業状態にあるのであります。これは市民として苦痛にたえないところであるのみならず、
国家的にも大きな
損失であります。
右に申し述べたような特殊の
事情がありますので、その自力にのみゆだねることなく、
国家としてこの際でき得る限りの有形無形の援助の手を差延べることが、きわめて必要であると痛感されるのであります。本法案は以上申し述べました
趣旨に基きまして、旧
軍港市である四市に平和都市として新しい性格を與え、遊休状態にある旧海軍の諸施設を活用して、産業の振興、港湾の発展に充て、も
つて平和日本の理想逹成に資することを明らかにしますとともに、その建設に対する国の援助を骨子として
規定しようとするものでありまして、その大要を申しますと、この法律は全文八箇條から成り、第一條には右に申し述べました
通りのこの法律の目的をあげ、第二條においてその目的を逹成するための
計画と、事業及びそれと特に重要密接な
関係にある郡市
計画法、または特別都市
計画法との
関係を定めたのであります。第三條におきましては、重要な意義を持つところの転換事業の促進と完成とに対して、国及び
地方公共団体の
関係諸
機関が、できる限りの援助をすべき旨の特別
規定を設け、第四條及び第五條において、国有
財産特に旧軍用
財産の処分についての特別の措置を定めたのであります。すなわち旧軍用の土地施設その他の
財産を拂い下げる場合には、通常は旧軍用
財産の貸付及び譲渡の
特例等に関する法律により、特価の二割以内の減額をした価格で譲渡されるものでありますが、特に本法においてはその割引率を五割以内まで引下げることができ、また代金支拂いの延納期間も三年とな
つているものを、最長十年にまで延納の特約をすることかできることといたし、さらに旧軍用
財産一般につき、国が旧
軍港市転換
計画の実施に寄與するよう、有効適切に処理する義務のあることを示し、
従つて必ずしも時価
拂下げ方針に拘泥せず、必要に応じ一時使用許可
方針を併用する
趣旨を含ましめ、また普通
財産の讓與につき、国有
財産法の
特例を開いております。このように国有
財産、旧軍用
財産の処理讓與に関しまして
特例が設けられておりますので、第六條におきましては、これらの処分の適正妥当を期するため、大蔵省に旧
軍港市国有
財産処理審議会を設け、その
委員の構成については大蔵事務次官、建設事務官、
関係府県知事、旧
軍港市の市長、
関係各省官吏のほかに有力な民間の学識経験者をも加えて、最も実情に適合し権威ある
決定をなさしめんとするものであります。さらに第七條におきましては、本法による転換事業の実施の進捗状況を、事業の執行者は六箇月ごとに建設、大蔵の両大臣に
報告し、内閣総理大臣はこれを国会に
報告いたすこととし、第八條は四市の市長及びその住民は、おのおのその市の平和産業港湾都市建設にあた
つて、不断に活動と協力をしなければならぬ旨の
規定を置いております。なおこの法律は憲法第九十五條に、いわゆる一の
地方公共団体のみに適用される
特例法に
当りますので、則第二項に本法案の国
会議決後、各市において住民投票に付さなければならない旨を明らかにいたしております。
以上が本法案の大要でございます。何とぞ各位におかれましてはその必要性をお認めくだされ、御賛成賜わらんことを切望いたします。
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