○
加藤証人 若い人で、捕虜
生活の中で、しかも正しいマルクス主義というものを信じて、そうしてマルクス主義あるいはレーニン主義というものを
日本に広めて、
日本共産党と提携をして、ほんとうの人民
政府を打立てるのだというふうに、われわれも頭が下るほど熱心に勉強した人もたくさんあります。それからわれわれのような中年以下の者と、同じ若い人であ
つても、同じ收容所におりながら、どんなにしてもそれに染まらない者と
——染まるというと語弊がありますが、なぜそれを信じない者と信ずる者との差ができるかという問題です。これは境遇上の立場です。一例を申し上げますとこういうことになる。これはどうもはつきり伝えらないで、非常に誤解を受ける原因になりますから、はつきり言
つておきます。中年以上になりますと、大体からだとか、
年齢とか、昔の階級とか、いろいろな点において、働いていない者がむりに働かされる
関係で、働きたくても働けないのです。それで幾ら腹が減
つても、働いても能率が上らないからパンを買うだけの金をもらえないわけです。それでますます
自分で
自分のからだにむちう
つて、結局倒れてしまうのが現況なんです。ですから現実問題として、幾らりつぱなマルクス主義を信じてお
つても、ヤルクス主義というものを教えられても、それに同化し得ないということは、これは人情の当然です。そこにりつぱなぼたもちがあても、声おりばかりかがされて食わされないものであ
つたな、そのぼたもちを何と考えるかと同じ問題です。今度兵隊の問題ですが、
終戰前後のあの苦しいさ中において、配給の米も食うや食わずにいたときに、
日本の軍隊に入
つても相当つらか
つたでしよう。そこで
ソ連に入
つたときは、やはりわれわれと同じように復讐心に、燃え上
つてお
つたのです。戰争が終
つて何も敵対行為をしないところの兵隊、一般邦人というものを、無法無理に
ソ連にひつぱ
つて、五箇年計画の奴隷的な存在、肉彈にしようとし、牛馬にかえようと、たその行為というものは、これは何人もおおうことができない。それで復讐心が燃え上
つたわけです。復讐心が燃え上
つて、大
部分の捕虜、抑留者というものは自暴自棄にな
つた。そのときは、
ちようど風土病でぱたぱたとやられたときです。精神的にも、肉体的にも荒れ果てた気持、あのときの気持は、まさに鬼気が漂うと言うても過言ではありません。それから一年半が過ぎてから、そろそろ働いているからだに慣れて来たわけです。それで著い者は喜んで特業を覚えました。それからこの若い人で特に仕合せな收容所の
生活をしたという人は、その大
部分が出鉱内の人です。調べて見ればわかります。炭鉱内で働いたのです。地上勤務において、材木をころがし、石をころがし
——もつとわかりやすく言うならば、基礎工事をやりますのに穴を掘りますが、一〇〇%の一人のノルマが八立米です。皆さん、
日本の土方が一メートル四角の土を八時間の労働のうちに八立米はね上げる土方がたくさんありましようか。これは弱かろうと強かろうと、
ちようど六十になる者であろうと二十になる者であろうと、八立米の土を掘らなければ一〇〇彫にならないのです。ですから地上ではどんなにや
つても、よほどの百姓でも、あるいは労働者出身でも、頑強な腕を持
つている
人間以外においては、パンを買
つて食うだけの金をもらえないのです。これが
現状です。しかしながら炭鉱に入りますと、特に
カラカンダの炭鉱はメタン・ガスが猛烈です。マッチを持
つて入
つたら燃えるようなところです。だからマッチを持
つて入
つたら嚴罰に処せられる。タバコももちろんです。それから炭酸ガスがあります。また水がじやぶじやぶとあります。その中へ入
つて行くのです。しかも捕虜、抑留者の入る炭鉱は、
ソ連労務者の第二義的、第三義的なもので、われわれの入
つた炭鉱は、前に落盤で百七十名も死んだ
あとの復旧に使われました。そういうものです。それから非常に條件の惡い
——もぬろんそうでしよう、どこの国でも、
自分の国の
人間を一番よいところにや
つて、捕虜や抑留者というものは憎むべき存在であるとするならば、それを第二義的に使うのが当り前でしよう。これを逆に使いましたならば、まさにこういうような問題は起きないでしよう。それから今度その炭鉱に入りますと
——一〇〇%が普通の事業では、穴を掘
つた場合に十五円から二十円ぐらい、れんが積みの一〇〇%は幾らと、
仕事によ
つて全部金額が違うのです。それで穴を掘
つた場合においては、一〇〇%は大体十五円ぐらいです。左官の一〇〇%は大体二十円、大工の一〇〇%は二十二、三円というものが一〇〇%のノルマの金です。炭鉱は一〇〇%が四十円から五十円であります。それはもちろん危險手当というものがあります。ガス、落盤、水、そういうところで一日お日様も拝まないのです。そういう
関係で、危險手当もついているのです。また炭鉱の中に入りますと、冬は寒さを知らないわけです。夏は暑さを知らないわけです。ですから若い者にと
つては非常に調子よく働けるわけです。そして同じ一〇〇%働いて、片方は十五円か二十円しかもらえないが、その倍ないしは倍以上の金がもらえるのです。しかも
仕事は毎日同じ
仕事です。炭鉱で
仕事がかわ
つたらけがをするだけで同じです。トロに積む者はトロに積む、掘る者は掘る、はつぱをかける者ははつぱをかけるたけ、たから
仕事を楽に覚えるわけでしよう。若いからすぐ覚えるから、能率が上るわけですし、單価がよくて金をたくさんもらう。