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小杉参議院議員 先ほど
川上貫一議員からお
手紙をいただいたのでございますが、それには現在のように
青少年のために十分な娯楽やその他のことに
注意を拂われずに放任されているときに、いたずらにこうした法的な
禁止法が出るということは、かえ
つて内訌させるもので、罪人をつくることになり、現状に適応しないことと思うので、反対いたさねばなりません、こういう
手紙でございまして、これはほとんどの方がおつしやる
言葉でございます。それにつきまして、私はこの問題の今日までの歴史を聞いていただきたい。そうして経過、それから
対策を皆が求めていらつしやいますので、その
対策も聞いていただきたいと思うのでございます。
このたびは
参議院の
厚生委員長の
塚本委員、
姫井委員が最も力を入れまして、
参議院議員二十二名によ
つて提案されました
青少年飲酒防止法案は、昭和二十五年四月七日に
参議院を通過いたしました。昭和三年に一度衆議院も通過いたしております。私はあすから議員でありませんので、再び皆様にお目にもかかれず、またこの
法案の立案された
理由、経過、
対策について本聞いていただく
機会がないかもしれぬと思いますので、十分ばかり聞いておいていただきたいと思います。そもそも人体と社会国家経済及び後世に及ぼす
飲料としての
アルコール害を取上げることにな
つたのは「わずか十九世紀の中頃でありますが、この
青少年飲酒防止法案を取上げることにな
つたのは、
大正十三年、今から二十七年前新潟に開かれた全国
禁酒大会のときであります。新潟で私は二十五歳案と、食糧に関する点で、個人的の余談のことでありますがちよつと聞いていただきたいと思います。二十七年前、私
ども同志の間では、しきりに、もし日米戰わが食糧はどうするか、飛行機によればわが日本は一週間で燒きつくせるという、
アルコールは
飲料ではない、燃料である。破壊は早いが、復興は長引くなどと聞きました。私は少女
時代に日清戰争の切り合い、殺し合いの幻燈を見てから、非戰論者でありましたことと、また半世紀以前の話ではありますが、夫は学生
時代から英米の哲学、神学博士方に日本語を教えておりまして、多数の英米人を
知つておりましたことと、私も数名の先生に教えられましたことがありますので、英米人の親切や愛は、私
どものように親子の間に至るまで、折算的の愛でも、親切でもない点を
知つて、その人となりを二人は非常に尊敬しておりましたので、あのような人々に手向い、刃向いをしたくないと思い、この戰わじの声の消え去らんことを願
つておりました。しかしながら、もしも敵を知らず、おのれを知らず後で申せばエチオピヤ対イタリー式の戰争とでもなれば、まず先立つものは食糧だと思いまして、二十五歳
禁酒法では手ぬるい、この際食糧確保のため絶対
禁酒法案として
提案すべきだと主張いたしたのでありました。ところが政府、軍閥、
飲酒家の反対で、とうていこれは通過はむずかしいということで、二十五歳
禁酒法として提出することに決定したものであります。それから二十五歳
禁酒法または青年
禁酒法として、
禁酒同盟から提出すること二十数回、
青少年禁酒法として
小杉イ子個人提出二回で、二十七年目の今日に至
つたものであります。第一回国会には、衆参議員三百十五名の原案賛成を得て、厚生
委員会で
審議にかからんとするが早いか、時の厚生大臣は、もしこの
法案が通過すれば、
取締りが困難である、予算がないし、反対すると間接にはつきり言わしめました。その時私は、まだ
審議にもかからぬ先に、反対と申さるることは、これは民主主義政治
方法でありますかと申しました。もちろん私
ども同志は、このような
法律を作ることは必要のないアメリカや中国の子供にも、笑われるであろうことが
考えられますので、まず教育、宗教の力によ
つてその
酒害を
知つてもらうことだと思い、わずかの同志ではありましたが、あらゆる
方法で宣伝を続けること三十三年でありますが、ときには、自分の金で自分が飲むのが何が惡いのだ、いらぬせわだと申し、踏まれたり、けられたり、啖唾を吐きかけられたり、やつとくめんした金でつく
つたビラを踏みにじられたものであります。それでも何らの効果もなく、今では
青少年が、身分不相応に高い酒代ほしさに犯す
犯罪は、表面に現われただけでも、昨年度は八歳から二十五歳までの者が、全国で二十五万六百六十一件、昭和十一年の約六倍で、
青少年の九人に一人の割で、このうち強盗、窃盗が十七万五千六百件で、強盗の件数は大人の二倍、傷害は二万三千七百件で、大人より五千件多く、しかも十三歳
未満の学童が二千三百件犯していることには、戰慄を催さざるを得ないのであります。しかし取締る
法律があればこそ、殺人、強盗、窃盗、賭博等も現在の数で食いとめられているわけで、もしこの
法律がなければ、底しれぬほど
犯罪は出現するだろうと思います。またそれに
相当する
罰則があれば、人の言うことはきかぬ者でも、
法律と申せば心を緊張させて、自然指導もしやすいのであります。この
法案の立案の初めは、故泉二新熊大審院長は、
犯罪の原因は、ほとんどが酒だと申され、また東大教授故片山國嘉法医博士は、学生の不良の根源をつくと、必ずそこに酒があると申され、また京大教授故松浦有志太郎医学博士は、惡性遺伝病、特に
精神病、性病の原因は、ほとんど酒だと申され、また社会衞生の権威大平得三医学博士は、たえず
酒害を教えておられます。また大阪弁護士会長故林龍太郎法学士は、金とひまにあかせて、本を読んで読んで読み盡したが、つまりのはては社会、国家、家庭の平和は、酒を排するにあることを知
つたと申され、その他專門学者、
酒害体験者の大多数によ
つて立案されたものであります。すなわち
理由は、生理学上から心理学、優生学上から見て、心身の完成は二十五歳以後であるが、
飲酒の習慣は、十七歳から二十五歳までが最も多いので、
飲酒の習慣を未然に
防止すべきである。また二十歳から二十五歳の間は
結婚、分娩、種族保存上最も重要な期間で、特に胚種細胞に及ぼす直接的、間接的
影響、中でも
精神病、性病、
犯罪其他の劣惡な遺伝的原因を除かねばならぬと申し、二十五歳
未満者の
飲酒防止法案とな
つたものであります。ここで
取締りのできぬ
法律は不用だと申す人もありますが、一方には文明国の母たちの持つような強い母性愛と
法律をも
つて、自然にこの
法律が消えるまでに努めねばならぬと思うのであります。その
対策の一つといたしまして、労働中の休みのとき、勉強に疲れたときのための野球場や水泳場等を設置し、ボート等を作り、楽器等を持たせること、映画、演劇類の観覧券、割引券の配布または大池などの種々の魚類を釣らせ、釣り過ぎれば売らせて楽しい收獲とさせること、家でできるものは金を立てかえ合
つて、豚ややぎを自分の物として飼わせ、肉や乳の値段を下落させ、十分に食用ともさせて、結核予防の一つともすることであります。また性病毒を知る展示会も催す等々で、これには愛と指導と
法律によらねば、身心は完成されないと思います。どうかよろしく御
審議くださいますようお願いいたします。