○丸山
委員 ただいま議題となりました癩
療養所内の療養
状況及び秩序に関する実地調査のため、に、去る七日から四日間、草津の癩
療養所楽泉園へおもむきまして、調査いたしましたその結果を御報告申し上げます。
この調査の最初の動機となりましたのは、去る一月十六日同
療養所におきまして、患者撲殺の不祥事を惹起いたしましたために、それの原因及び将来これをいかに防止するかということの対策を樹立する目的でございまして、私と田中重彌君と
岡良一君と三名が行き、なお專門員の
引地亮太郎君、調査主事の神田洗君を同行いたしました。なお
厚生省から玉村技官の御同行を願いまして、調査の
方法は、療養の実況に関しますことは
療養所におきます医師と看護婦その他の職員の活動
状況、及び患者から直接にその
状況を聽取し、並びに
施設を視察いたしました。なおこの不祥事件に関しましては、同じくこれらの方々からそのときの
状況を承り、なお前橋
地方検察庁中之條支部、国家
地方警察群馬県吾妻地区警察署、草津町の自治警察署におきまして、その職員、副検事、及び革津町公安
委員長を喚問いたしまして、事情を聽取したわけでございます。詳しいことは報告書にございますから、時間の
関係上省略いたしますが、大体の結論を申し上げたいと思います。
まず療養の
状況につきましては、
関係職場員は所長の指導のもとに、誠意と
責任を持
つて療養の実をあげるよう努力しております。この努力を万全ならしむるために、まだなお欠陥があると
考えますので、
政府は特に次のような改善を、なすべきであると
考えるのであります。すなわち従前行われていなか
つたプロミンの注射療法が盛んに行われるようになりました結果、医師、看護婦はその注射の施行のためのみならず、副作用に対する処置のために、
業務は急速に加重せられております。しかるに本園においては、医師の定員が九名であるのに対して、現在六名しかおりません。看護婦は定員三十一名に対して二十一名しかおらないのであります。しかもプロミンの注射は、これは朝夕分割注射をすることが最も望ましいのでありますが、人手が足りないために、これを一日一回しか注射しておらないのが現状であります。この医療要員の不足のため、医療効率の減退を来しておる実情であります。ゆえに少くとも医師は十名、看護婦は病床二十に対して一名になるように、要員の充足をなさなければならぬと
考えて参
つたのであります。なおそのほか研究設備を充実し、研究費及び図書費を増額するのほか、その勤務の
状況によりまして特殊の勤務手当、あるいは寒冷地手当、勤務地手当、不健康
業務加算等についても、その実態に即するように特別の考慮が拂われなければならぬと
考えるのであります。御
承知のごとく、寒冷地手当のごときは、県別にきま
つておりますので、群馬県は長野県よりも低率にな
つております。しかるに草津は高原であります
関係上、常に冬は零下の温度を保
つておりまして、最低気温は零下十数度に達する
状況であります。しかるに寒冷地手当は、長野県の六割に比し、群馬県は二割である
状況であります。その他寒冷地でありますために被服、寝具、燃料等についても、その費用が当然増額せられなければならぬと
考えるのであります。
次に現在の患者の慰安費は月に二百円ずつ
給與してあります。これはその病気の性質上、はなはだ衣服が汚染することが多いのでありまして、石鹸その他を購入するのにもことを欠き、また周囲の社会と離れて生活しております
関係上、新聞、雑誌等を要求する者が多く、あるいは詩歌、俳句等によ
つてみずから慰めようとしておりますが、その雑誌、紙等を購入することができない
状況にありますので、これは四百円
程度に増額する必要があると
考えるのであります。
次にこの土地は火山灰地帶でございまして、ことに雪も多く、また結氷することが非常に多いために、その土質が霜柱で持ち上げられまして、それが解けますときには、道路は非常に悪くなるのであります。そのためにトラツクの車輪は埋まり、深きみぞをつくり、健康者といえどもこれを歩行するのには非常に困難な
状況にあります。ましてこの病者は、手足の不自由な患者が多いために、治療を受けるために治療室へ行くのにも困難を感ずる道路の
状況なのであります。この上に主要な道路はこれを鋪装し、あるいは整備し、冬期の除雪等においても適当な措置を講じなければならぬと
考えておるのであります。
次にこのたびの不祥事件に関する秩序の問題に触れます。御
承知のごとく癩の予防法には、第四條ノニに「国立癩
療養所及前條ノ
療養所ノ長ハ命令ノ定ムル所二依り入所患者二対シ必要ナル懲戒又ハ検束ヲ加フルコトヲ得」同じく癩予防法施行規則第五條ノニに「
療養所ノ長ハ入所患者二対シ左ノ懲戒又ハ検束ヲ加フルコトヲ得、一 譴責、二 三十日以内の謹愼、三 (削除)四 三十日以内ノ監禁、第一項第四号ノ監禁ニ付テハ情状二依リ其ノ期間ヲニ箇月マテ延長スルコトヲ得」こういうような規定がありますにかかわらず、
昭和二十二年に、これらの処置を所長が加えるということは人権蹂躪であるというような見解から、この條文は空文に化しておるのであります。従いまして園長は自主的な保全措置を講ずることができなか
つたということが、この事件の原因であると
考えられるのであります。また事件が発生いたしまして以来、矢島園長は終始陣頭に立
つて職員を指揮し、職員もまたこれに一致協力して事件処理に万全を期し、手落ちがなか
つたものと私どもには見られたのであります。今次不祥事件の発端ともいうべき被害者中岡哲夫その他の兇暴なる言動については、楽泉園より警察署に連絡し、警察官を派遣して調査しておるにかかわらず、草津町警察署おいては、事前に一適当な防犯的措置を講じなか
つたのであります。事件発生の当夜におきましても、警察官が園から派遣依頼を電話で受理してから現場到達まで、わずか三キロの道に二時間半を費し、その現場到着後においてもなお警官の面前において、撲殺が行われたのであります。事件に
関係しておる患者は目下自粛自戒しておりますので、ただちに今後不祥なる事件が続発する危険はないように
考えられました。しかしかくのごとき事態が起らないために、将来に備えるためには、次の対策が必要であろうと
考えております。
まず第一として、本園の周囲にさくをめぐらし、患者が自由に外出できないようにしなければならないと
考えるのであります。
第二は該
療養所入所患者に対する懲戒検束の執行については、本事件発生後
昭和三十五年二月二十七日
厚生省医務局長及び公衆衛生局長連名をも
つて、管下
施設に通牒されたのでありますが、所長の懲戒権は一応
回復したことにはな
つておりますが、所長の行う監禁処分は憲法違反であるという見解が強いために、最高検察庁及び
法務府等においても、これに対する明確なる解釈を加え、即刻これを管下の
施設に通牒を発し、徹底させなければならないと
考えるのであります。
次に
療養所内にあります監禁室は、採光、換気、濕度、保温等に留意して、民主的な
施設にすみやかに改造する必要があると
考えるのであります。これは現在使用しておりません過去にありました監禁室を直接に見まして、その設備があまりに不良でございまして、これでは人権蹂躪問題を起すのもむりからぬのではないかというふうに感じられたのであります。これを改造いたしまして、代用刑務所として、ある法的な措置が今後講ぜられなければならぬと
考えるのであります。もちろんこの場合その収容しております者に対しての治療は、
療養所長がこれを行う。しかも監視は警察官においてこれを行わなければならぬと
考えるのであります。
次に万人は法の前には平等であるという原則に立
つて、司法権の発動は、癩患者に対しても仮借なく同様に
適用せられなければならないと
考えるのであります。従
つて必要なる取調べ、拘束等は、躊躇することなく行われなければなりません。その結果、起訴せられ、あるいは成規の判決を受けた者は、刑務所に収容されなければならないはずであります。しかるに現在その設備がないのであります。そのため今までの癩思者の犯罪者は、あるいは行刑猶予になりますか、その他の
方法をも
つて、事実刑の執行が行われておらなか
つたのであります。これが癩患者をして、あたかも特権があるかのごとく、いかなる犯罪を犯しても自分たちは刑に処せられることがないという観念を與えましたために、かくのごとき事態が起
つたものと
考えられますがゆえに、癩
療養所に隣接して特別なる刑務所を一、二箇所に設置をしなければならないと
考えるものであります。しかもその刑務所内の療養は、
療養所長がこれをなすべきであります。
次に四として、刑を終
つた者、あるいは刑に付するには及ばないが、教化を必要とする者に対しては、特別なる教化
施設を持
つておるところの
療養所を別につくるべきであろうと
考えるのであります。
次に五といたしまして、本園においては相当数の朝鮮人の癩患者を収容しております。この朝鮮人癩患者は、その風俗習慣が日本人と異なり、言語の理解が不十分であるために、しばしば意思の疏通を欠くことがあるのであります。そのために
療養所の運営に支障なしとしませんので、これは本人たちの希望もございますので、なるべく早くこれを本国である朝鮮に送り返すような処置が講ぜられなければならぬと
考えるのであります。
なお詳しく申し上げるといろいろございますが、これをも
つて概略の御報告といたします。なお御質問がございますれば、
資料は非常にたくさんここにございますから、お答えいたします。