○
木村(忠)
政府委員 生活保護法の全面的な
改正を
国会へ提案いたしまする
予定をもちまして、先般来準備をいたしておりましたが、大体その成案を得まして、ただいま
関係方面の
了解を得るように
手続をいたしておる途中でございます。従いまして一応その
内容は大体確定いたしておると申し上げていいようなものでございまするけれども、まだ
関係方面におきまして、若干御意見があるようでございまするから、あるいは二、三
内容がかわ
つて来るかもしれないということを御
了解の上お聞き取り願いたいと思います。
今回の
生活保護法の全面的な
改正をいたしました大きな
理由は、
生活保護法は戰争の終りました前にありましたところの
各種の
救済保護に関する
法律を統合いたしまして、新しい
考え方のもとに、
国民の
最低生活を
保障することにしようということでできた
法律なのでございまするけれども、何分にも
終戰後の
混乱の際にできました
法律でありますので、その後
施行せられました
憲法等に照し合せましても、その
内容におきまして、なお遺憾の点が多々ございました。その
関係からこの
法律の全面的な
改正は、できるだけ早くしなければならないというような
情勢に迫られてお
つたわけでございます。すなわち現在におきましては、あらゆる法令上の
規定の中で、
国民の
権利義務に
関係いたしまするようなことは、細大漏らさず
法律に
規定いたしまして、これを
政令、
省令等に委譲しない。つまり
法律を見ますれば、大体その
法律が目ざしておりますところのものが明らかになるというのが、その
趣旨なのでございますけれども、
憲法制定前の
法律でありまする
関係上、重要なる諸
規定を
政令以下に讓
つておりまして、そのために
解釈等におきましてあいまいな点がありましたし、また従来の
救済とい
つたような面が、十分拂拭しきれないというような
状態にあ
つたわけであります。
社会保障制度の
一つの
部分といたしましての法的の
制度といたしましては、不十分な点が多々あ
つたわけであります。これらの点をできるだけ直しまして、現在の
情勢に即応するように
改正いたしたいと
考えておるような次第でございます。この問題につきましては、
政府当局におきましても、久しく
研究を電ねて
練つてお
つたのでありますが、先般
社会保障制度審議会におきまして、
社会保障制度の
一環として
公的保障制度というものを御検討に相なりまして、そのために
生活保護を
改善強化する必要があるというので、これにつきましての
改善方策の要綱を御可決に相
なつた次第でございます。爾後
当局といたしましては、この勧告の線に従いまして、この
法律の
全面改正を企図いたしまして、
関係方面とも密接なる連絡を保ちつつ
改正案を
練つて参りまして、ようやくその結論を得て、この
国会に提案することが大体できるというところまで参
つたような次第であります。
そこで次にこの
法律におきまして
改正いたそうといたしておりまする
要点を申し上げてみたいと思います。
この
法律の
改正案におきましては、第一に
憲法第三十
五條に対応いたしまして、
社会保障制度の
一環としての
最低生活の
保障、そのために
最低生活を営むことのできない事情にあります者に対しまして、その
権利として
保護を要求することができる。またそれに対応して、国としてはこれに対して
保護を與えなければならないという
関係を明らかにいたしたのであります。このことは
保護を受けます者の
権利、これに対します国、
公共団体の
義務というような
関係を明らかにいたしますと同時に、
保護を受ける者の側におきますところの
義務をも明らかにいたすことにいたしたのでありまして、この点従来の国から受けます單なる利益であるというような
考え方から、数歩前進いたしたものと言
つてさしつかえないのであります。この点がこの
法律の
改正案の一番大きな、また重要な点でございます。この点はこの
法律案の全部にわたりまして、その
規定が盛られておるようなわけであります。これは第一章
総則、第二章
保護の
原則、第八章の被
保護者の
権利及び
義務、第十章の
保護費の
規定、返還の
規定の間に、その点を明らかにする
規定を多々入れてあるのであります。たとえば、この
法律案の第
二條におきまして、すべて
国民は、この
法律の定める
要件を満たす限り、この
法律による
保護を平等に受けることができるという基本的な
規定を設けまして、その
内容としまして第三條でも
つて「この
法律により
保障される
最低限度の
生活は、健康で文化的な
生活水準を
維持することができるものでなければならない」という
規定を設けておりまするし、また第十九條におきまして「
市町村長は、要
保護者に対して、この
法律に定めるところにより、
保護を決定し、且つ、
実施しなければならない」という
規定を設けております。さらに第五十六條におきまして「被
保護者は、正当な
理由がなければ、既に決定された
保護を、不利益に変更されることがない」という
規定を設けてあります。なお第六十九條におきまして「国、
都道府県及び
市町村は、この
法律の
施行に要する必要にして十分な費用を予算に計上しなければならない」とい
つたように、非常に事こまかに、この
保護を受けることが
国民の
権利であ
つて、
一定の
要件を満たしまする限りにおきましては、この
保護を要求することができるということにいたした
趣旨を明らかにいたしておるのでございます。従いまして先ほど申し上げました
通りに、この
権利を持ちまする以上は、これに対しまして、その
義務をも明らかにしなければならないというところからいたしまして、
法案の第八章におきましては、被
保護者の
権利及び
義務という
規定を第五十六條から六十三條まで設けまして、ここに
各種の
権利のほかに、第六十條以降の
義務を負わせる、かようにいたしております。つまり
権利義務の
関係を明確化するということは、この
法律の中の
一つの大きな目標でございます。
これに伴いまして、第二の点といたしまして、
保護者の
保護を受けるにつきまして、その処分に不服がありまする場合におきまするところの不服を申し立てる
制度を、
法律上確定いたしたことが、この
法律改正の第二の
要点でございます。この
不服申立の
規定は、
法案の第九章第六十四條から第六十
八條までの間に、この
規定が設けてあるのであります。従前におきましては、
生活保護法の
施行細則におきまして、
一つの
事務上の
手続といたしまして、不服の
申立に類する
制度を昨年の春から設けておるのでございます。これは従来の
考え方を一応一倒する一歩であ
つたのでございまするが、これを今回におきましては、
権利関係を明らかにいたしまする当然の帰結といたしまして、不服の
申立制度を
法律上明らかにいたすことにいたしたのでございます。
次は
保護の
方法といたしまして、従来は
生活扶助、
医療扶助、
助産扶助、
生業扶助、
葬祭扶助、この五つの
保護の
種類と相
なつてお
つたのでございまするが、今回
教育扶助、
住宅扶助という二つを
生活扶助の中から切り離しまして、新たなる
保護の
種類としてあげまして、これらの従来きわめて弱か
つた扶助制度を強くいたすことにいたしたいと存じたのであります。従来も
生活扶助の
基準といたしましては、その中に
住宅に必要なる
経費、並びに
義務教育を受けるに必要なる
経費というものを、
生活扶助の
基準額の中に計上いたしておりまして、これらの点に遺憾のないようにいたすように努力いたして参
つたのでありまするけれども、何を申しましても、従来
飲食物というものがきわめて大きな分野を占めておりまして、その点に重点を置かれておりました
関係上、遺憾ながら
教育、
住宅等の点におきましては、十分ならざるものがございましたので、これを独立の
扶助の
種類といたしまして、その
内容を充実いたすことができるようにいたした次第であります。
第四の点は、
保護施設に対しまするところの
監督の
強化でございます。従来も
保護施設につきましては、この
監督の
規定がなか
つたわけではないのでございまするが、
生活保護法によりまする
保護が、これを
施設に收容いたしまして
保護する場合におきまして、その
施設が公のものでありましようとも、民間のものでありましようとも、いずれにいたしましても、その收容いたしまして行いまするところの具体的な
保護が適正でないということがありましたならば、この
保護法の精神を生かすことができない。特に
施設に收容いたしました場合におきましては、居宅の場合とは異
つた制約がございますので、この
保護施設というものに対しましては、特に嚴正なる
監督をいたしまして、
保護の
目的達成に遺憾なきを期する必要があると存ずるのであります。従いまして第六章の
保護施設の章におきまして、
保護施設の
内容を明らかにいたしますると同時に、
保護施設の
設置につきましての
手続を詳細に
規定いたしまして、これによりまして十分なる
監督をいたすことにいたしたような次第であります。特に
都道府県、
市町村とい
つたような
公共団体の持
つておりまするところの
施設以外の
保護施設につきましては、
監督規定を特に嚴重にいたしたのでありまして、その点は
法案の第四十條から四十
一條、四十
二條というところにその
規定が設けられておるのであります。特に
保護施設につきましては、その
施設の
設置は
公益法人に限ることにいたしまして、その
公益法人につきましても、
保護施設になるためには、その
財的基礎が確実でありまして、しかも
政府の方針に従つに
保護の
実施ができるものに限るということにいたすために、その
設置の認可につきましての
手続を詳細にいたしますると同時に、爾後の
監督の
規定が設けられたようなわけでございます。
次はその
保護を
実施いたしまする
機関といたしまして、従来の
補助機関の
関係を
改正いたしまして、従来この
保護の
実施は
市町村長がいたすことに
なつておりました。この
市町村長の行いまするところの
保護の
事務を補助する
機関といたしまして、
民生委員法に定める
民生委員が、この
補助機関となることを
規定いたしてお
つたのでございます。しかしながら
公的保護の
実施につきましては、あくまでも公の
機関がその
責任のもとにこれを
実施するのが当然でありまして、その間にその
責任を回避するようなものが介存するということは適当でないというところから、
生活保護の
実施の
機関が
市町村長の
責任であるということを明らかにいたしますると同時に、
市町村長はその
責任を途行いたしまするため、
專任の
有給の
事務職員を置きまして、その
事務職員が
一定の
資格を持ち、その者は
一定の
資格を持
つて市町村の
事務に当らなければならないということにいたしまして、
有給の
專任の
職員が
市町村長の手足と
なつて十分に活動いたしまして、
保護の
実施に遺憾なきを期するということにいたしたのであります。ただ
有給の
專任の
職員をもちましては十分に行き得ない、かゆいところに手が届かないとい
つたうらみがないとは申されませんので、これに対します
協力機関といたしまして、
民生委員法に定めるところの
民生委員をこれに協力せしめることにいたしたのでございます。この点は
法案の第三十
一條及び第二十三條におきまして
規定いたしたようなわけでございます。
次は
医療機関に対する
監督の
制度でございます。
生活保護法の
保護費の中で、非常に大きな
部分を占めますものは
医療扶助でございます。現在の
医療扶助の金額は、
生活保護法の
保護費の四割を超えるというような
状態になりつつあるのでござ、まして、これが逐次増加の傾向にあるわけであります。これはその
保護の性質からいたしまして、必ずしも喜ぶべきこととは言えないのではありますけれども、実際の
医療の
状況を見ますと、
健康保險の
医療、あるいは自費でも
つて行います
医療と比較いたしまして、その
内容が非常に高く
なつておる。これは
各種の
医療機関によりまして調べますと、そういうような
状態がないこともないとい
つたような
状況でございますし、
健康保険におきますると同様に
医療機関に対しますところの
監督、監査と申しますか、その
規定を設けたのであります。これは
法案の第五十三條というところに、
医療費の
審査の
規定を設けたような次第でございます。これに関連いたしまして、第五十四條の
報告徴收の
規定が設けられてございます。
次は
生活保護法の
保護費の
支弁に関連しまして、
施設に入
つております者の
保護費が、その入
つた人の元の
居住地の
市町村長の負担または
支弁と
なつておりました従来の
規定によりますと、この
支拂いが非常に遅れる、またきわめて不確実であるとい
つたような
状況からいたじまして、
施設のない
市町村におきまするところの、
施設に入らなければならない要
保護者に対します
保護に欠くるところができるとい
つたような
関係から、これに対する繰替
支弁の
規定を設けまして、その点において遺憾のないようにいたしました。この点は
法案第七十
二條にその
規定を設けたのでございます。
以上申し上げましたところの七つの
事項のほかに、従来
政令以下で
規定してあるました
各種の
規定を
法律に掲げまずと同時に、その
内容におきましても若干の
改善を行
つてございます。例をあげて申しますれば、第三章の
保護の
種類及び
範囲という点におきまして、従来の
法案におきましては、
保護の
種類というものは
法律に
規定いたしましたけれども、
保護の
程度及び
方法は
勅令でこれを定めるということに
規定いたしてございまして、その
内容につきましては、
政令以下を見なければ明らかでないとい
つたようなことに
なつておるのでありますが、
保護におきまして、
最低限度與えるものはどういうものであるかという点を、
法律上明らかにいたしました。
法案の第十
二條、第十三條、第十四條、第十
五條、第十六條、第十七條、第十
八條というのは
各種の
扶助の
内容、
範囲を明らかに
規定しております。なおその
実施の
方法につきましては、
法案の第十九條以下に
規定しますと同時に、その
方法については第五章
保護の
方法という章を設けまして、第三十條から第三十七條までの間に詳細なる
規定を設けたようなわけであります。これらの点は従来
勅令以下に譲られてお
つた規定でございます。こういうようなものを
法律に
規定いたしまして、
法律によりまして、その
権利の
内容を明確化することにいたしたような次第であります。
大体以上申し上げましたような点におきまして、その
改正をいたしたものでございますが、この
法案におきまして特に重要な点は、第一章の
総則と第二章の
保護の
原則でございまして、ここに書いてありますようた、この
保護は
国民の
権利でありまして、無差別平等にこれを受けさせるということが第
二條にございます。それから
保護の
程度は、健康で文化的な
生活水準を
維持することができるものである、ということを明らかにいたしました。なお従来におきましては、もとの
生活保護法の第
二條及び第三條におきまして、第
二條に特にこの
保護をしない場合を
規定いたしたのであります。従来は「左の各号の一に該当する者には、この
法律による
保護は、これをなさない。一
能力があるにかかはらず、
勤労の意思のない者、
勤労を怠る者その他生計の
維持に努めない者。二素行不良な者」これらの者につきましては、この
法律による
保護はしないという
規定を設けたのでありますが、こういう積極的に
保護をしないという
規定を不明確なる
内容のものといたしまする結果から、合理的な、
保護を必要とします者が
保護を受け得ないとい
つたような実態がある
状況にかんがみまして、これらの点をこういう積極的な
規定をやめまして、そのかわりにこの
法律案におきましては、この
法律に定める
要件を満たす限り必ず
保護を受けることができるという
規定をいたしますと同時に、ただこの
法律にあります
保護は、
国民の
最後のよりどこであるという点を明らかにいたしますために、第四條におきまして、
保護の
補完性——この
生活保護による
保護が
最後の補足的なものであるということを明らかにいたしたような次第であります。この点は今度の
法案においては「
保護は、
生活に困窮する者が、その利用し得る
資産、
能力その他あらゆるものを、その
最低限度の
生活の
維持のために活用することを
要件として行われる。2民法(明治二十九年
法律第八十九号)に定める
扶養義務者の
扶養及び他の
法律に定める
扶助は、すべてこの
法律による
保護に優先して行われるものとする。」という
規定を設けてこれにかえたようなわけでありまして、これによりまして、とにかく
保護を受けられないようなことがないように考慮いたしたわけであります。
大体以上がこの
生活保護法の
改正案でございまして、もし必要がございますれば、逐條的に御
説明申し上げることにしまして、一応これをもちまして、私の
説明を終りたいと思います。