○塚本重藏君
只今議題となりました身体障害者福祉
法案につきまして、
厚生委員会における
審議の
経過並びにその結果を御
報告申上げます。
本
法案は
衆議院の送付案でありますが、これが
原案はかねて本院
厚生委員会において準備いたしたものであります。先ず
本案提出の経緯と
審議の
経過を説明いたします。本院
厚生委員会におきましては、第一回国会以来多数の
請願及び
陳情に表明されておりまする熱烈なる
国民の要望に鑑みて、種種の調査を行い、鋭意適切なる立法措置に努力を傾注し、不断の準備を重ねて参
つたのであります。これに対し、
関係方面の好意と厚生省当局の協力によ
つて成案を得るに至りましたので、
衆議院厚生委員の同調を求め種々協議を重ねまして、十一月二十四日、本院におきましては厚生委員全員外一名、又
衆議院におきましては厚生委員十一名の署名を以て同時に提案いたしたのであります。かくて本院
厚生委員会は十一月二十五日以来連日会議を開くと共に、本
法案の円滑なる成立を期するために、去る十一月二十五、二十六の両日に亘りまして、両院厚生委員の合同審査会を開き、更に十一月三十日
衆議院送付案が付託されましたので、本院運輸委員との連合
委員会を十二月一日及び三日の両日
開催し、
愼重な
審議を重ね、本日の
厚生委員会において
全会一致原案通り可決すべきものと
決定いたした次第であります。
次に本
法案の
提出理由について御説明申上げます。戰後の激動、混乱の中に新
憲法が施行され、新らしい
国家の能勢の下に
国民福祉の諸問題は、生活保護法、兒童福祉法その他各種の社会保險法等により、
国民は何人も健康にして文化的な生活を享受することができまするように整備されつつあるのでありますが、今尚惨澹たる戰禍や業務上の
災害、或いは疾病その他によりまして身体に強度の障害を負い、不慮の災難とは言いながら悲惨な運命に苦しむ人々は、現在凡そ八十万を越えておるのであります。かかる人々に対しまする福祉のための
法律といたしましては、先般制定いたされました国立光明寮設置法及び身体障害者更生指導所設置法の二つの
現行法があるばかりであります。これらはいずれも応急施設の設置法に過ぎませんで、(「簡單」と呼ぶ者あり)いわゆる身体障害者に対する更生援護の根
本法は未だ制定せられなか
つたのであります。よ
つて本案は身体障害者の更生援護に関する基本を定めることといたしたのであります。即ち国、地方公共団会がみずからの義務として身体障害者のために各種の指導援護を行い、一日も早くこれらの人々をその暗い憂鬱な日常生活から引上げて、明るい社会活動の世界に送り出すことが
本案の
目的といたしておる中心点であります。
次にこの
法案の
内容を簡明に説明いたします。第一は、この
法律案におきましては、身体障害者各人の自発的な更生意欲が促進せられることを根本といたして、その更生を助長するために必要なる器具、物品等を交付し、更に周到、適切な訓練を施し、社会的活動能力を発揮させることを主眼とするものであります。従いまして、身体障害者たるの故を以てこれに特別の権利を附與するとか、或いは特別な保護を與えてその一生を国の負担において世話するという、いわゆる特別な保護を
規定するものではないのであります。
第二は、
本法の対象といたしましては、兒童福祉法その他の
関係法をも考慮いたしまして、十八歳以上のいわゆる労働年齢にある者で、盲、聾、唖、肢体不自由等の身体の障害のため、労働能力の損傷されているものであります。又これらの人々に対しまして、すべて強制的に登録せしむるのではなく、
本人の自発的な申請に基きまして、身体障害者手帳を交付し、これに基いて適法の取扱をいたすものであります。
第三は、更生、援護の行政的体系といたしまては、厚生省に中央身体障害者福祉
審議会を置き、又
都道府県には地方福祉
審議会を置き、法の施行機関は
都道府県知事とするものであります。知事の下に数名の身体障害者福祉司を置き、実質的にはこの專門家が個々の身体障害者の指導的な世話をするものでありまして、
市町村長は知事の行政活動に協力するという態勢をと
つているのであります。
第四は、福祉の措置であります。これは一定の
手続によりまして、身体障害者手帳を受けた者に対しましては、或いは義肢、補聽器、車椅子、安全杖等を與え、且つ修理を施し、必要な更生訓練施設や職業安定所等へ紹介し、或いはその他万般の更生相談を行うのであります。更に、障害の程度が重度の者に対しましては、国有鉄道の運賃の減額、煙草小売人
指定の場合の取扱や、公共施設内に売店を設置しようとする者に特別に許可を與える取扱に関すること、更に、盲人その他重度の障害者の製作品は、国及び地方公共団体が一定の
條件の下に買取
つて、これらの人々の福祉増進に資する等であります。尚、煙草小売人
指定や、売店設置や、製品の購買についての特別な
規定を設けましたことは、たとえ義肢を備え、訓練を受けましても、障害のため一般人に伍して経済活動をすることが困難でありまする
ところの重度のハンデイキヤツプがあります者に対しましては、やはりその身体障害者相応の安定した職場に就かしむる用意が必要であるからであります。
第五は、国、
都道府県及び
市町村においては、これらの者に訓練指導を與え、又は各種の福祉に備える施設を設置することができるように
規定いたしました。尚、私人がこれら公共のものと同じような施設を設置することは何ら
差支ないのでありますが、その運営等について監督する必要がありまするので、これを届出制とすることにいたしたのであります。
第六は、この
法律の施行において、予算とか、法的な諸準備のため
昭和二十五年四月一日から施行することにいたしたのであります。
最後に、この
法律の施行に要しまする経費は、一応すべて
都道府県の支弁でありまするが、生活保護法、兒童福祉法等と同じように、一般の行政的経費については二分の一、特殊な行政経費、即ち義肢等の交付に要しまするもの又は施設の運営に要する経費等につきましては十分の八、施設の設置費については二分の一と、それぞれ国庫から負担することを
規定いたしておるのであります。
以上が本
法案の
内容の大要であります。
次に、
委員会の
審議に当りまして論議されました事項のうち主なるもの二三の点について簡單に御
報告申上げます。先ず第一に、本
法案と生活保護法との
関係につきましては、身体障害者の更生に関する部面におきましては、
本法は生活保護法に優先するものであることを明らかにいたされました。第二に、職業補導施設に收容された者の生活扶助については、生活保護法により運用の適切化を期することとな
つたのであります。第三に、国及び地方公共団体の費用分担につきましては、生活保護法と同様な取扱をいたすのであります。第四に、身体障害者の所得税の基礎控除につきましては、大蔵当局の
意見によりますと、シヤウプ勧告に
従つて、第一年目は、盲人にのみ追加控除として一万二千円が認められるのでありますが、他の身体障害者については、最も近い将来にその線に沿うて善処する方途が明らかに示される予定であります。第五は、身体障害者が売店等を設ける等に当りまして必要とする小資本金融につきましては、
国民金融公庫において、現在よりも更に融資の方面が拡充せられることにな
つていることが明らかになりました。
最後に、本
法案第五十條に
規定する介添者がなくては旅行のできない重度の障害者に限り鉄道の運賃を半減する
規定の点であります。この点に関しましては、特に一昨日及び本日の二回に亘り、運輸
委員会と連合
委員会を開き、種々協議を重ねたのでありますが、その重点について申上げますると、申すまでもなく、鉄道運賃の
改正は国有鉄道運賃法の
改正によるべきものであ
つて、たとえ稀な
特例であ
つても他の
法律により制約することは
法律の体系を紛乱することになる。又
本法による
特別規定のごときが先例とな
つて次々と運賃法が
改正せられて行くことは、公共企業体である国鉄の独立採算制を崩壞させる危險がないかという点であります。この点につきましては種々協議を重ねましたが、連合
委員会の
審議を打切りまして、本日午後改めて
厚生委員会を開き、
愼重な
審議をいたしました結果、本
法案は極めて急速に制定を要する状況にあり、且つ
法案の
趣旨に明らかな
通り、障害者福祉に関しまする我が国初めての
国家方針を定める必要上制定するものでありまするから、これを現行国有鉄道運賃法第八條による運輸大臣の裁量に任せるよりも、
法律により
規定することを妥当と認めることに
意見の一致を見ました。
以上、
本案審議の
経過及び結果の大要を御
報告申上げたのでありますが、
本案の
審議に当りましては、不自由な身体障害者
諸君が、多数毎回熱心に傍聽され、又全国各地の盲聾唖者、肢体不自由者から本員に寄せられました葉書、手紙、電報等は夥しい数に達しております。中には不具の子を持つ親兄弟の切々たる願いがあり、盲聾唖兒童からの涙ぐましい訴えがあります。
本法の制定によ
つて前途の苦難が救われるものと大きな希望をかけているものもあります。全国八十万人を数えるこれらの身体障害者が、如何に
本法の成立を然心に待望しているかが知られるのであります。併し
本案は決して身体障害者に十分な満足を與える完全なものではありません。現下の日本の置かれておりまする諸般の事情による多くの制約によりまして、收容訓練中の生活
保障の問題、生業資金の問題、租税の減免及び住宅提供等の問題は、これを他の一般法規に讓らなければならなか
つたのであります。又
本法施行の経費も、
提案者は当初十億円近きものを必要といたしたのでありますが、明二十五年度予算は直接経費僅かに一億余万円であります。従いまして
本法の改善と充実は、国会並びに
政府の今後の努力に待たなければなりませんが、
本法施行に当
つては、
政府は細心の注意と最大の熱意を以て十分の効果を挙げるよう努力を拂われんことを強く希望して置く次第であります。
何とぞ皆様の御
賛成を得て通過せられるように御協力されんことを切にお願い申しまして、御
報告を終る次第であります。(
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