○内村清次君 私は日本社会党を代表いたしまして、
昭和二十四年度補正予算に対する
反対の討論をするものであります。
この度の補正予算は、
政府の説明によりますると、シヤウプ勧告による二百億の減税を行うために物価と運賃等を再調整し、併せて災害復旧等の緊急止むを得ない支出を補正すると申しておられますが、併し事実は遺憾ながら二百億の減税は、地方において二百十三億の自然増收という名目の下に増徴を伴うものでありまして、而も予算全体が著しくデフレを促進し、勤労大衆の犠牲の上に編成せられておるものであると断ぜざるを得ないのであります。
即ち
反対の第一点は、
政府は円の維持という名目の下に、設備資金も出さずに合理化の徹底を行うと言われておるのでありますが、これは労働者の首切りの徹底を意味するものでありまして、更に貿易の打開策にいたしましても、ただローガン方式による自由貿易に期待をかけておられるだけであります。併しこれは自主的な輸出振興ではなくて、
反対に自由貿易方式によるところの輸入中心主義でありまして、結局は国内において不景気と国内産業の萎縮という結果となり、国外商品の輸入氾濫となりまして、農業恐慌さえも予想せられるものであります。かような国内産業を萎縮せしめるところのデフレ政策を以ていたしましては、日本経済は安定も復興も到底望み得ないのであります。この基本的な点におきまして、この度の補正予算につきましては
反対を表明するのであります。この点が第一点であります。
政府は公共事業費百六億が有効需要を起すと答えておられますが、これは本年度の災害復旧の緊急工事と新制中学校舍の建築費若干の支出でありまして、国民経済の再生産循環に直接の有効需要となつておるものではありませずして、目下のデフレ不況に悩んでおります現状におきましては、全く燒石に水と断ぜるを得ないのであります。又更に却つて一般予算より百七十億の食糧管理特別会計支出が認められてありまするが、これが更にデフレ傾向を深めるものであります。この百七十億は本来食糧運転資金でありまして、将来の償還は、確実に行われるのでありまするからして、これは当然日銀の借入金から当面賄うべきであるのが至当でありまするが、補正予算におきましてはこれを限りある税收入の中から賄つているのであります。これを日銀借入金で賄いましたならば、実に百七十億の財源が浮ぶことになりまして、公務員の給與ベースの改訂も更に又減税も十分に行われるものであります。然るに
政府は逆に百七十億も国民所得を国庫に吸收しようとするところの拙劣な方法をとつているのであります。このようなデフレ促進の予算案でありまする点が
反対の第二点であります。
第三の
反対理由といたしましては、一方では減税二百億をやつておりながら、他方におきましては二百十三億の租税及び印紙收入の自然増を名目といたしまして、そうして国民の租税から増徴しているのであります。殊に重要な点といたしましては勤労者の
所得税であります。源泉分は却つて九十二億の増徴を示しているという点であります。更に又減税の方法につきましても、
政府はシヤウプ案よりも多く減税したと称しておりまするが、その実はシヤウプ勧告案通りの減税すらしておらないのでありまして、即ちシヤウプ勧告案によりますると、
所得税の暫定的な軽減は本年の十月からとなつているのを、すべて来年一月からと延ばされている点であります。更に
中小企業者や農民の申告納税分は一月分以降からさえ見積られていないのであります。又間接税の軽減につきましても、限りある貴重な減税の財源が、全く勤労大衆に縁なき第一類、第二類の高級品を三〇%も軽減をして、貴重な財源を浪費するがごとき愚かな方法を敢てしておらるるのであります。更にこの減税の財源は主として価格調整費の削減に求められておられまするが、この補給金の削減によりまして公債の値上りは生計費へのはね返りとなりまして、結局は再び国民大衆の負担を加重して来るということになるのであります。かかる欺瞞的な減税方法に対しまして社会党は
反対をいたすものであります。徹底したところの大衆
課税の軽減を社会党は要求するものであります。
理由の第四点は、補正予算の基礎でありまするところの物価と賃金、米価などがおのおの矛盾しておりまして、そのしわ寄せがすべて勤労大衆の上に蔽い被されて来ているという点であります。即ち基本計数の点につきましても、価格調整費の削減による公債の値上りを初めといたしまして、米価は一一%、貨物運賃は八十%、電力料金は三〇%以上、家賃は三倍、ガス料金が八〇%、郵便料金が四七%、これらの生活に重要な諸
経費が吊り上つて参りまして、いわゆる
所得税におきましても月八千円台の独身者で僅かに八十円、二・五人で二百三十円の軽減、間接税におきましても高級文化品、日用品の若干が軽減されるだけでありまして、勤労大衆の生計費が
政府の言われるような一人当り月三百円というような軽減はどうしても考えられないのであります。まして勤労
所得税が差引九十二億の増徴となります点から考えまして、年末調整の激しさを想像いたしますると、実質賃金の充実などは到底考えられないと思うのであります。特に低賃金政策はこの度の公務員給與ベースの改訂拒否におきまして全く露骨に現われておりまして、先の国鉄調停案を拒否し、更に人事院の勧告案も抑圧せんとするところのこの
政府の態度につきましては、これは全く法を考えないところの違法行為であると断ぜざるを得ないのであります。CPIが去年の七月より三七%も上昇している現在、この給與ベースの改訂は当然補正予算に予算化して来なければならないものであると私は思うのでありまするが、こういう点が少しも
政府においてされておらないのであります。このような政策は実に農民に対しまするところの低米価政策においても現われておりまして、
政府はみずから
設置いたしましたところの米価
審議会の最低米価の答申すらも一方的に拒否しまして、独断的に四千二百五円のこの米価を強要しております。世界的農作物の過剩から来るところの我が国の農業政策の転換期にも拘わらず、何ら具体策もなく、且つ又この度は公正なる供出補正に対してさえも徒らに責任を他に転嫁して、知事会議の要求すら蹂躙して、その上、供出後の自由販売の公約も放棄して、あの惡法食確法を無理押しに通過せしめんとする森農政に対しましては、国会のみならず、全耕作農民が挙げて忿懣の的であるということを、ここに申上げて置きたいのであります。
理由の第五点は、労働大臣の誇大しておりますところの答弁にも拘わらず、失業対策は何ら確立されておらないのであります。この度の補正予算と本予算の支出額を合計いたしまして、年度内の計算にいたしまして失業対策費は僅かに計十六億でありまするが、これを
政府案通り一人当り一日百七十二円、月五千円ペースといたしまして、年間僅かに三万人足らずの救済費しかないのであります。然るに
政府の計算によりますると、失業者が百七十万人より二百万であると申されております。私共は
政府の統計から見まして約四百万と見ておるのでありますけれどもが、とにかく数百万の失業者に対しまして、約三万人の救済に過ぎないことは驚くべき悲惨な状態であります。更に又失業保險につきましても、本予算と補正予算と合計いたしますと二十九億でありまするが、これを仮に失業者数を
政府統計のごとく二百万といたしますと、一人当り月僅かに二百四十円の給付しかできません。それも僅か六ケ月間の給付であります。今後のデフレ不況を考えて見ますと、給付金の切れた失業者の生活苦は誠に思い半ばに過ぎるものがあります。全くみずからの責任でもなく、過失によるものでもない、盡く吉田内閣の残酷なるデフレ政策の犠牲となりました数百万の失業者に対しまして、更に又増大するであろうところの、この失業者に対しまして、建設的な就職の道も開かずに無慙に街頭に放り出すということは、実に憲法第二十五條の「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」という生活権の侵害であり、更に又第二十七條「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負う。」というところの勤労権の否定でありまして、重大なる
政府の責任問題であると断ぜざるを得ないのであります。(拍手)社会党はこれに対しまして、全面的なデフレ転換と、英国のビーバリツジ案にも比すべきところの完全な社会保障制度の確立の要求をするものであります。
理由の第六点といたしまして、薪炭特別会計五十四億の赤字についての不正を追及いたしたいのであります。即ち新聞、国会におきまして周知のごとく、行方不明になりましたところの薪炭十四億に上る不正については、すでに検察当局の調査において見受けられました通りでありまして、而も本件は目下清算中であります。若し
政府の責任におきまして支拂うといたしましたならば、生産者支拂分に止めて、他は一切清算の終了後において予算化するのが当然であると思います。これに対して
政府は未だ確たる態度も責任もとらずに、国民の疑惑のまま五十四億の支出が国会の責任において支出せられるということは、我々は断乎として容認することができないのであります。
以上述べました六つの理由、即ちデフレ恐慌を深めて経済再建の基礎を縮小せしめる点、欺瞞的な減税であつて、却つて十三億の増收が見込まれている点、勤労大衆の犠牲の上の米価、賃金、物価の基礎体系が相互に矛盾しておるという点、失業対策の不完全、特に給與ベース改訂や失業対策の欠如等においては、憲法初め国家公務員法、人事院規則を無視したる点、薪炭特別会計のごとく、不正せも含んだ補正予算であるという、この以上の理由に基きまして、日本社会党は
政府の提出いたしました二十四年度補正予算に
反対を表明するものであります。(拍手)