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千田正君 只今より、議題となりましたいわゆる
中共地区在留同胞の
実情に関する
報告を申上げます。
ここに
中共地区と申しまするのは、いわゆる満
洲地区及び旅大
地区を指すものと御了承願います。
在外同胞引揚問題に関する
特別委員会は、第一回
国会以来、引続き今日まで
海外残留同胞の
引揚促進並びに引揚者の援護につきまして、
委員各位の非常なる熱意の下に不断の努力を重ねて参つた次第であります。然るに、現在尚
中共地区におりまするところの我が
残留同胞の引揚は未だ完了を見ない
実情であります。帰国の一日も速かならんことを念願しておりまするところの
留守家族の
心情を思いをいたしますと、誠に心痛の至りでございます。本
特別委員会といたしましては、
留守家族の
心情を体しまして、これが
実現化のためあらゆる方面に折衝して参つたのでありますが、今まで何らの手がかりが得られなかつたのであります。幸いにもこのたび山澄丸にて一千七百三十四名、
高砂丸にて一千百二十七名、合計いたしまして二千八百六十一名の
同胞が母国に帰つて参りました。本
特別委員会におきましては、この帰られました中から七名の方を
証人に選定いたしまして、去る十一月の十六日
国会に御出頭を願いまして、
委員会において
中共地区在留同胞の
実情を聽取いたした次第であります。以上七名の
証人の
報告によりまして明らかにされました
中共地区在留同胞の最近の
実情を簡明且つ率直に申上げまして、一つには
留守家族の方方が抱かれております不要の不安を除去いたしますと共に、他方におきましては、
特別委員会としての今後の
引揚促進に関する貴重な資料ともいたしたいと存ずる次第であります。
留年家族の
方々はもとよりのこと、
国民の知らんとしておりますることは、先ず第一にいわゆる
中共地区には何人ぐらいの
同胞が今尚残留しておるかということと、次にこれらの
残留同胞は一体どのような
生活を送つておるかということと、更に
残留同胞は一体何を最も我々に希望しておるかということになろうかと思います。ここにおいて、私は
証人の証言を素材といたしまして、先ず第一に
残留同胞の数、第二にその
生活様式について、第三にその
方々の要望について、即ち以上の三つの点につきまして御
報告申上げることにいたします。
先ず未
帰還同胞の数の点でありますが、
証人の言葉によりまして、旧買州
地区においては延吉六十名、渾春六百四十名、
和龍二十名、
汪精三十名、圖們四十名、嫩江三十名、
龍井六十名、
開山屯三十名、朝陽川十名、
明月溝三名、瀋陽五千九百二十三名、撫順四百三十名、本
渓湖五名、鞍山七百名、
遼陽十名、長春千二百七十名、吉林千二百名、
蛟河百五十名、
佳木斯三百名、鶴岡千名、大連千六十名、旅順一名、安東千五十名、
牡丹江七百名、
穆稜七十名、仙洞五十名、
東安千五十名、鶏西千三十名、通化百五名、二通溝百二十五名、林口八十名、大栗溝百名、鉄廠子三十名、ハルピン三千三百七十二名、五常五十名、賓州五十名、石硯七十名、その他千八百名、以上を合計いたしますると約二万六千名でございます。この外に全く概残でありまするが、中国人の家庭に入つている婦人、中国人に養われているところの孤兒、及び農村地方に
生活しておりまする
方々を合せて、ほぼ約二万名程度と推定いたして、いわゆる
中共地区の
残留同胞は凡そ四万六千名程度と想豫されるのであります。もとよりこの数字は完全なものではありませんけれども、これか何らかの目安になることは又疑う余地のないところであります。
然らばこれらの人々は現存どのような
生活を過しているであろうかと申しますると、最近におけるこれらの人々の
生活様式に関し明らかにされました点を申上げますと、先ずこれらの人々は第一に中共軍及び政府機関留用者、第二には自由労働者、第三には婦人及び孤兒、第四は炭鉱労働者に分けて御説明申上げます。一の中共軍及び政府機関の留用者でありますが、このうち政府機関の留用者と申しますのは主として生産部門に留用されております者であります。軍留用者は前線の戰闘員として、飛行隊、機関銃隊、
自動車修理或いは運転手或いは看護婦等々でありまして、給與も必ずしも良好とは申せませんけれども、軍属として一応の身分は保障されております。生産部門に留用されておりますところの技術者、労働者も一応その身分は保障されておりまして、技術者の給與は最高で月六万六千円、最低の者で二万四千円程度であります。この金額は凡そ日本の現在の物価から申しますると約十分の一くらいに相当するものと相豫されるのであります。労働者の給與は、その五〇%の者は平均月一万一千円程度であり、本人並びに家族の
生活はどうやら維持されているという程度でありまして、殊に大連
地区におきましては二回に亘る平価の切下げ及び公有化された企業体の生産回復に伴いまして、物価も漸落の傾向を辿りつつありますので、食
生活はどうやら安定の緒に着いたと見受けられまするが、娯楽の面はこれに比べまして概して低調であるという
実情でございます。医療関係留用者は一般的に申しまして比較的厚遇を受けておりまして、
生活は一応安定しておるような状態でございます。併しながらこれらの医療関係留用者、軍並びに政府機関留用者に対しましては、労働保險或いは失業保險等の職業安定方策が確立されておりませんので。食
生活に関しては一応安定は得ておるとはいうものの、
生活上の一抹の不安を拭い去ることはできないというのが現状でございます。二の自由労働者でありますが、東北満
地区の都市には、失業群として、いわゆる難民化しておるところの
同胞が多数散在しておることが
証人の証言によりまして明らかとなりました。ハルピン
地区の日本人移民会がこれらの人々を收容しておりますけれども、これらの
同胞は複雑な
生活を送つている模様であり、その救済は極めて困難の状況に置かれておるという
実情でございます。第三の婦人及び孤兒についてでございまするが、敗戰の混乱から満州
地区全土に亘つて至るところに日本人孤兒が散在しておりまして、彼らはすでに日本語も忘れておるという全く悲惨な状態でありますが、原住民の態度は比較的良好で、中国人でこの日本人孤兒を養つておる者もありまするが、これは必ずしも惡い意味からではなく、日本人種の優秀性を見込んで養育しておると考えられるのであります。併しながら中には、農業
地区におります孤兒は概ね農業の手伝いをいたしておりまして、悲惨な
生活を余儀なくされておるという状況であります。私達の若き
同胞の救済には更に一段と考慮されなければならないと痛感される次第であります。地方、婦人の
生活でありまするが、総じて悲惨な状態に置かれておりまして、中国人と
生活をした者等の中には、四年間養つた食費を拂わなければ還してやらないと、食費を請求されておるような状態で、事実上帰還できないという人もあります。結婚している人も豊かな家庭に嫁しておるという人は殆んど稀で、その多くは普通
生活以下の農民に嫁しておる状態であります。この人々の
生活は極めて惡いと率直に申上げねばなりません。次に四の炭鉱労働者でありますが、炭鉱には病弱者として捕虜になつた者が殆んど大部分炭鉱に向けられまして、現在重労働に従事しておりますけれども、元来が弱兵であつた者が重労働を課せられましたために、大部分胸部疾患に罹つておりまして、非常に困難な境遇に置かれておるという現状であります。
我が
同胞は現在
中共地区において大略右のような
生活を送つておりますが、これらの
同胞のうち母国に帰還を希つておる人は一体どの位の割合でありましようか。
証人の証言を総合して判断いたしますと、大連
地区におきましてはみずから進んで残留を希望している人も相当ございます。又
生活の安定化に伴いまして、帰国したいが、さて帰国してみても果して
生活の安定が得られるかどうかという危惧に駆られまして、しばし残留を希望する人も増加して参つておるのであります。併しながらどうしても帰国したい熱望に駆られておる人々もこれ又相当の数に上つておる
実情であります。大連
地区以外においては概して皆一日も早く帰国を熱望している
実情でございます。併しながら残留者が早く還りたいと念願する一番大きな原因は何かと申しますと、内地におりますところの親戚や故郷の人人がどういう
生活を営んでおるか、又この人達が自分達の身の上をどのように案じておるか、即ちお互いの意思の疏通ができなかつたことにその原因が由来しておりますということは、多くの
証人によりまして明らかになつたところでございますが、この点は極めて重要な点であるかと存じます。即ち日本との交通が解決されましたならば、或る程度この引揚の問題も解決されるのではなかろうかとも思われるのでございます。
中共地区においては最近に至りまして品物を贈つたり贈られたりすることは禁止されておりまするが、葉書及び手紙等による通信は行われるようになりましたので、この点残留者の
生活に何分の潤いを與えましたであろうということは疑う余地はございません。
以上が
中共地区残留同胞の最近の
実情でございまするが、最後に残留者の今希望しておるというものはどういうことかという点につきましては、全
証人盡く通信の強化を訴えておりますことから考えましても、如何にこの通信が引揚問題に重要性を有するかを改めて認識させられるわけでございます。このことについては一
証人が「
牡丹江、ハルピン
地区において、今年二月頃から漸くラジオが聽けるようになりまして、特に三月、四月に行われました
東京の
引揚促進大会、並びに断食の放送、それから尋ね人によるところの放送というもので、残つております日本人はラジオに噛りついて涙を流しながら聽いたという状態です。それ以来希望を少しずつ持つて来るようになりました」という証言を思い合せまするときに、いよいよますますこの通信、なかんずくラジオの重大性及びその必要性を痛感する次第でございます。又でき得れば中国側へ促進に関する代表を派遣して頂きたいという要請もありました。
尚この度の
証人喚問によりまして、山澄、高砂の両船によつて二千八百余名の
方々が帰国を見ましたことは、その蔭にソ連側の厚意と努力のありましたことも明らかになりましたことも、この際御
報告申上げて置きます。
特別委員会といたしましては、以上の
証人喚問によりまして得られました貴重な資料を無認することなく、
留守家族の
方々はもとより、全
国民の御期待に副うべく、今後も
引揚促進問題に全力を捧げますることをお誓いいたしますと共に、簡單でございますが、私の拙ない御
報告を終ります。
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