○羽仁五郎君 御
承知のように本月十二日に、オーストラリアの
外務大臣エヴアツト氏が公式の声明を以て、
日本の
吉田首相は明らかに
日本が曾て侵略国として国際連合諸
国民に言い難き苦痛を與えたことを忘れていると指摘をいたしました。我々は
日本からの脅威の恐怖のない将来の保障を要求すると声明いたしております。
日本全
国民の待望する講和
会議を前にして、
日本に対して重大な
発言権を持
つておりますオーストラリアの
外務大臣のこの公式声明に対して、それを誤解とするならば、
日本の
吉田首相兼外相は、公式声明を以てその誤解を解く必要をお認めにならないのかどうか。本日この議場において、私は
日本国民の代表として、
日本国民の大多数は決して
日本の過去の侵略主義の罪惡を忘れてはいない、
従つて将来において
日本は、二度と広び決して、国内においても、国際においても、人民の基本的人権を侵害し残酷の脅威を與えることなき保障を確立しようとしているものであることを、公式に声明しなければならないと
考えるものであります。(
拍手)
基本的人権の尊重に誠意を欠くことは暴政の第一歩であり、
戰争の第一歩であると、アメリカの大統領トルーマンが本年十月二十四日国連本部の定礎式において声明しております。そうして、この国連本部のコーナー・ストーンの下には、国際連合憲章と共に、一九四八年十二月十日国連の採択いたしました世界人権宣言が納められておるのであります。基本的人権の尊重、ここに
日本の国内の民主化の第一歩があり、
日本が国際平和に対し、又講和
会議を前にして、みずから姿勢を正さねばならない最高の條件があることを我我は自覚しておりますが、
政府はこのことをどの程度まで自覚しておられるのか。基本的人権は尊重する、併しそこには公共の福祉の制限があると
政府は絶えず言
つておられますが、(「その
通り」と呼ぶ者あり)曾て
日本の旧憲法が、人権を尊重するが、それは
法律の範囲内においてであると言
つていたことと、現在の
政府、法務、検察、警察当局の態度は、果して本質的に改革されておるのでありましようか。基本的人権と公共の福祉とは、同じレベルのものではない。基本的人権は最高のレベルのものであ
つて、公共の福祉はそれより下つたレベルのものであることは、本院において、憲法の專門家でもある淺井人事院総裁が私の
質問に対して明言したところのものであるのみならず、公理であります。さればこそトルーマンも、基本的人権の尊重に実質的に誠意を欠くことは暴政の初めであり、侵略
戰争の第一歩であると声明しているのであ
つて、その際、彼は決して公共の福祉による制限というような二次的の問題を以て第一義の問題を曖昧にしてはいないのであります。公共の福祉の制限はホルムス判事が明らかにしていたように、必ず明白且つ限前の危險の事実についてのみ
法律によ
つて許されるのに止まるのであ
つて、
一般に第一義的に許されることではないのであります。
従つて政府当局の主観的裁量によ
つて行われるようなことは断じて許されないわけであります。先頃地方において、警防団が盗賊を捕えようとして一人の女性を殺してし
まつたような事実があり、又最近
東京都の教育委員長が事務局員を殴打した。然る後に、びんたは愛の拳であるとか、或いは
日本の軍隊は、びんたによ
つて強く
なつたのだとかいうようなことを言
つておる。その外、公共の福祉であるとか、或いはいろいろな口実を、名義を以て、基本的人権を踏みにじる風が、特に権力を持
つている者の間に絶えないことは、何人も遺憾とするところであります。現
政府当局が、依然として基本的人権の尊重が第一義であることを曖昧にし、基本的人権は尊重するが、公共の福祉によ
つて制限されるというようなことを以て、事実上において、ややもすれば基本的人権の尊重の誠意に欠けているのではないかという疑惑を、国内においても国際的にも増大するならば、この一点を以てしても、現
政府は
日本民主化の時局担当においても、国際平和、対日講和の問題の担当者としても、その資格のないものであると言わなければなりません。(
拍手)
首相並びに
法務総裁は、共に、曾て人権蹂躪の悲惨をみずから体験しておられるのであります。又本院議員の間にも、曾て無法なる当局の人権蹂躪の言い難い苦痛を受けた事実があります。一朝にして天下の名士の人権が踏みにじられるのではありません。
日本国民の誰であれ、一人でも人権蹂躪が行われるならば、やがて
日本国民のすべての、何人の人権も蹂躪され得るに至るのであります。(「よく聞いて置け」と呼ぶ者あり)国家のためとか公共の福祉とかいうことが基本的人権の蹂躪に利用されることの如何に恐るべきものであるかということを、
法務総裁も自覚しておられると思う。基本的人権が尊重されて、然る後に初めて公共の福祉ということも可能なのであります。基本的人権が踏みにじられるならば、公共の福祉は成立たないのであります。基本的人権の蹂躪こそ最大の公共の秩序の破壤であります。
法務総裁並びに樋貝国務相は、人権尊重に関し当局の全員の認識を一新し、国内並びに国際の疑惑を一掃するために、現在人権蹂躪の疑惑の存する事実について、形式的ではなく、取扱上の注意などに止まらず、良心的に深く堀り下げて嚴正な調査を行い、今後人権蹂躪は言うまでもなく、これに類する残酷を根絶する決意を表明せられる
意思はおありにならないのか。法務府人権擁護局発行の月報「人権」本年一月一日第四号にも記されているように、昨
年度において法務府は、警視庁並びに検察当局に向
つて、帝銀事件被疑者平澤貞通君に対する逮捕、留置、取調、その
新聞発表等につき、人権擁護上遺憾とする点を指摘して、注意を喚起するために
勧告書を送
つておられる。又法務府人権擁護局は、
東京高等検察庁検事長に向
つて、昨年八月茨城県の或る製作所労働組合に対し、警察当局が逮捕状の執行に当り、違法に警察力を行使し、多数組合員に暴行し、傷害を負わした事件につき調査の結果、検察当局がこの真相の究明について手を盡されるのが相当であること、及び本件を通じ如何にせばかかる残酷を避け得たかということを検討し、将来の執務の資に供せられたいという意見を書を発しておられる。かくのごとき人権擁護局の尊敬すべき努力に対して、検察当局はどの程度に反省したのか、そうしてかくのごとき事実がその後減少しているということを、
法務総裁又樋貝国務相は、
国会を通じ、国内及び国際の信頼の回復のために、事実に基して明らかにする必要があるとはお
考えにならないか。平澤貞通君に対する人権尊重の不完全は、最近に至
つても世論の指摘するところとな
つているではありませんか。「何人も有罪と決定されるまでは、無罪と推定される権利を有する」と、世界人権宣言にもかくのごとく明記されております。(「その
通り」と呼ぶ者あり)マツカーサー司令官の推薦した世界人権宣言の趣旨の徹底、ポツダム宣言、又
日本労働組合に関する極東十六原則の趣旨と共に、
政府はこれらの徹底に如何なる努力と実績とを示されているのか。三鷹事件について
法務総裁は先日、本議場において、人権蹂躪とみなすべきものはないように言われたが、形式的にではなく実質的に、現在の検察当局、又警察の態度に問題がないとなさるのでありましようか。曾て帝人事件に当
つて三土忠造君等に対する検事の怒号的取調が問題となりましたが、現在警察、又検察当局において、被疑者の人格を尊重しない怒号的取調が行われていないでありましようか。刑訴法第三十九條において、被疑者が弁護人と立会人なくして接見する自由を第一義的に保障しているに拘わらず、検察官が捜査のための必要があるときに限
つて、その時と場所とを指定することができるという二次的の規定を、第一主義的に解釈し、弁護届のとき接見を行わしめた後、事実上においては被疑者が弁護人と接見する自由を有名無実ならしめ、刑訴法同條の條文の最後に、この時と場所との指定は、被疑者の防禦権を不当に制限するようなものであ
つてはならないと、特に明記しておる趣旨を徹底させていない事実が、三鷹事件についてもあるではありませんか。自白の強要が許されない、默秘権を尊重しなければならない、証拠によらなければならないという新らしい憲法又刑訴法を、検事、検察及び警察は心から確信しているかどうか。本年八月十六日読売
新聞紙上の座談会において、
東京地検次席検事が総司令部法務局のマイアス君から、新刑訴法に対して非難をしているようだが、それは不当であると批判され、默秘権を育てなければならないと指摘されていたではありませんか。自白をしないでもいいのだ、認定で死刑になるというようなことを言
つて被疑者に恐怖心を與え、事実上において自白を強要している事実が三鷹事件においてなかつたかどうか。逮捕状が出ないうちに逮捕したと発表した事実がなかつたかどうか。形式的の
答弁を求めているのではありません。
法務総裁又は樋貝国務相は、真実
日本の検察又警察が過去の残酷を脱却して、人権の尊重の方向に向うことを要求し、過去の残酷を如何なる
意味においても残存することを許さないという決意を明らかにする
意思はないか。人権蹂躪根絶のために絶えず調査し、処置しておられるかどうか。
世界の対
日感情は決して至る所好転しているのではないことは、一昨々日
衆議院外務委員会において
首相が述べられた
通りであります。朝連解散問題のごときも、朝日
新聞でさえ当局に反省を求めておりましたし、朝鮮人学校閉鎖については、駐日韓国代表がこの件につき、
日本政府から朝鮮代表部に、又総司令部シーボルト外交部長に何ら事前の通告もなかつたことを指摘し、朝鮮人学校は朝鮮代表部に引渡さるべきであると要求し、今回のような事件は両国間の関係の将来にと
つて遺憾としているのであります。大阪で発行されている国際
新聞のごときは、本月三日の紙上に、これらは日韓合併の再版の第一頁を
意味するのかと難詰しておりますが、
政府は何ら反省しようとしていないのであります。
広島市における警察官の学校配属の事実は、本月十三日毎日
新聞を初め世論の批判と疑惑とを受けつつあり、又最近名古屋において刑事が生徒を通じて教師の動靜を探
つているというようなことについて、愛知教育会会長が、警察
政治の再現は嚴に戒めなければならないとしております。神聖なる教育の場所に警察を介在させることが、
日本の教育の民主化にと
つても、警察の本分の嚴守にと
つても、望ましいことであるか望ましくないことであるか。文教及び警察の行政の最高責任者の
答弁を求めます。
最後に私は
結論として
首相に
質問する。
政府はこの際、国内又は国際の疑惑を一掃し、基本的人権の尊重を最高原則として声明し、これに背くがごときことは暴政の第一歩、侵略
戰争の第一歩として今後根絶すべく、嚴正な調査と処置とを国内
国民及び国際世界に向
つて誓約すべきであるとは
考えられないかどうか。(
拍手)
〔
国務大臣殖田俊吉君
登壇、
拍手〕