○木村禧八郎君 私は無所属懇談会を代表いたしまして
質問いたします。
第一に、いわゆる十五ケ月
予算編成の基本にな
つております三つの問題について御
質問申上げたいと思うのであります。その第一は、
我が国経済の
現状に対する
政府の認識、第二は、
我が国経済の見通し、第三は、
政府施策の根本
方針、この三つについて先ずお尋ねいたしたいと思うのであります。これについては
総理大臣、
池田大蔵大臣、安本長官からの御
答弁を願いたいと思うのであります。
第一に、
我が国経済の
現状の認識につきましては、
政府は安定していると言い、反対の方は安定していないと言い、論争は繰返されておりますから、私はこの論争を再びここで繰返そうとは思いません。私の問わんといるところは、
政府の安定という言葉自体については必ずしも反対ではないのでありまして、問題は、一体
政府の安定というその内容がどういうものであるか、内容の問題、又この安定がどういうものによ
つて、もたらされておるか、そのいう点が問題であると思うのです。そこで安定の内容については、私は二つ問題があると思うのです。その一つは、何が安定しておるのか、又何によ
つて安定されておるのか、これが一つの問題であると思うのです。それでは何が安定しておるかと言えば、安定しておるのは大銀行と大
企業であります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)例えば本
年度予算において、
政府は
政府出資として
復興金融金庫債券三百億円を大銀行に償還しました。又見返資金の中から六百二十億円を償還する。これが大銀行に返
つて行
つて、復金債券を運用しておれば、利廻りはたかだか五分程度、これが現金に償還され、その現金は我我から
税金を取
つて償還する。その現金は銀行に行けば少くとも一割以上には廻るのであります。而も続々と国債償還という形によ
つて、銀行の持
つておる国債、復金債券、そういうものを償還する。そうすれば銀行が安定しておるのは当然であります。而もその大銀行と結んでおる大会社は、それによ
つて最近金に困
つておらない。大会社の
金融は安定しておる。安定しておるのは大銀行及び、大会社であります。(
拍手)
それでは何によ
つてそういう安定をもたらされておるかと言えば、ここに一つの綴り方、いわゆる作文がございます。これは東京都の小学校の四年生の書いた、鈴木助三郎君という人の作文であります。これは「あさかわくん」と題した綴り方ですが、これを読みますと、
あさかわくにはお母さんがいなくて、お父さんは、くつみがきやさんでした。あさかわくんと、五つくらいなちいさいいもうとと、うちでま
つているのです。あさかわくんのお父さんは、ときどき、ちびちやんをつれて、学校へきて、あさかわくんやぼくたちをまどからみていました。いつでもくつみがきのはこをも
つていました。かえりには三人でおうちへかえりました。きよ年のふゆ、あさかわくんのお父さんは死んでしまいました。あさかわくんは、すつかりやせてげんきがありませんでした。それからあさかわくんが学校へこなくな
つたので、ぼくがあそびに行
つたら、いなかのしらないおばさんがいました。ちびちやんが「兄ちやんは死んじや
つたよ」とい
つたので、ぼくはびつくりして、つまんないのでかえ
つてきました。それからぼくはあさかわくんちへいかなくなりました。いつかお友だちにきいたら、ちびちやんも死んでしま
つたそうです。どうしてみんな死んじや
つたのかしら、かわいそうだなあ。
これが失業靴磨き屋さんの
生活の
状態なんであります。こういう多くの
失業者を出し、そうして
大衆の
生活が窮乏化し、又中小業者の整理破綻が行われ、そうして
大衆の購買力が減退して、
滯貨が非常に多くな
つておる。こういう犠牲において大銀行、大
企業は安定しておる。(
拍手)これが安定の内容であります。(「そうだ」と呼ぶ者あり)安定についてはここが問題にな
つておるのであります。これを以てして
政府はこの安定は好ましい安定と
考えられるか。
政府の言う今の安定はこういう内容であります。(「よく聞いておけ」と呼ぶ者あり)
もう一つ安定の内容について問題があります。安定と
言つておりますが、如何にもみじめな安定なんであります。
昭和十一年に比較しまして生産は大体六割であります。人口は当時より二千万人殖えております。そうすると人口を勘案すると生産は
昭和十一年の五割程度であります。極めて低い水準で安定しておるのであります。安定と言えば安定であります。このようにみすぼらしい安定でよろしいのでありましようか。このように貧弱な安定、これを以て
政府は満足されておるのでありましようか。好ましい安定と
考えられますか。ドツジ・ラインによるところの安定は、これは通貨面からの安定
措置を講じたに過ぎない。マネー・スタビリゼーシヨンをや
つたに過ぎないのであります。そういう
措置をや
つたから通貨は殖えない。物価は上らない。これはそういう
措置なんです。そういう
措置の結果どういうことが起
つたか、どういう内容のものが起
つたかが問題なんであります。
政府の安定
措置としてや
つた通貨は殖えない、物価は上らないということは、それは自然にはならない。自然にそうな
つたのではなくして、そういう
対策を施した。これはドツジ氏の
政策です。その結果どういうことが起
つたかが問題です。その内容が今
申上げましたように、大資本、大銀行、大
企業の安定であ
つて、而も非常に広汎な
大衆の犠牲においてこれが行われている。而もその安定の水準たるや、事変前の五割程度の極めてみすぼらしい安定の水準である。こういうような安定を以て
政府は真の安定と言えると思えましようか。ブルジヨア
経済学でも、近代のケインズあたりの
経済学は、エンプロイメント即ち雇用を伴わないところの安定はない。(
拍手)こういうように
言つております。
失業者をうんと出したところの安定というものは、近代のブルジヨア
経済学でも安定ではないと
言つております。(「
恐慌だ」と呼ぶ者あり)ケインズの雇用理論はこれを明らかに示していると思います。この点について、私はもう一度内容につきまして、こういうものを
政府は果して好ましい安定て見ているのかどうか。
総理大臣、
大蔵大臣、安本長官の御見解を承わりたいのであります。
次に
経済の見通しについて、
大蔵大臣はこの
予算は来
年度までの
経済の見通しの上に立
つて作られている、こう申されておりますが、その見通しを明らかにして頂きたい。どういう見通しでございますか。私は、これから来
年度に亘る
経済の見通しは、デフレがや
つて来るという見通しであります。これについて
大蔵大臣はどうお
考えであるか。私は、デフレ要因として、この
補正予算においてすら非常にデフレ要因があると思います。例えば
食糧管理特別会計の百七十億の繰入、
貿易計画におきまして
輸入超過が五千五百万ドル増加した、これもデフレの要因であると思います。それから復金の回收が
政府当初の七十億程度が二百十九億程度殖えております。而もその金は何ら使われておらない。鉄道会計への融資が殖えておる。
一般会計からの繰入が殖えておる。又一ドル三百六十円、これは確かに円高であります。そういうデフレ要因がある。而もドツジ・ラインは決してデイスインフレのラインではないのでありまして、
大蔵大臣もすでに認められている
通り、超
均衡予算ということはデフレ
政策なのであります。辻に
大蔵大臣は
予算演説において注目すべき言葉を述べておられた。それは物価を安定しつつ更にこの物価を引上げる方向に持
つて行きたいと述べております。これは私はデフレの方向に持
つて行く、こういうお
考えではないかと思うのであります。又伝えられるところによりますと、ドツジ公使の
意見としては、賃金水準を官庁の低い給與ベースにこれを鞘寄せさして行
つて、全体の賃金を下げる方向に持
つて行く、これがドツジ・ラインである、こういうように伝えられております。この点について
政府は、民間給與を低い官庁の給與ベースにこれを持
つて行く
方針であるかどうか。鈴木労働
大臣の
意見をお伺いいたしたいのであります。更にこの際、鈴木労働
大臣が衆議院の本
会議で社会党の水谷氏に対して、水谷氏が実質賃金は下
つているということに対して、鈴木労働
大臣は実質賃金は八月にな
つて上
つている、こういうことを答えられておりますが、これは私は甚だ詭弁であると思うのです。と申しますのは、八月にな
つてから
政府が実質賃金を計算する場合の
基礎になる消費者物価指数の算定方式を変えておるのであります。これまではフイツシヤー式によ
つてCPIを計算してお
つたのをラスパイル式に変えておる。CPIは、フイツシヤー式によりますと、本年一月の指数が四七〇・九であ
つたものが、本年七月にはこれが五〇一・四に殖えるのです。これがラスパイル式で計算いたしますと、本年一月の一三二・四が、本年七月には一三二・八にしかならない。CPIが非常に下るのです。非常に低く
なつたCPIで賃金を割りますから、実質賃金は余り下らないか、或いは上るわけです。こういう実質賃金の算定方式を
政府は八月において変えておる。それを以て実質賃金が上
つておる、統計を見て上
つておるというのは、これは私は欺瞞であろうと思うのです。更に又賃金の内容を見ましても、遅配欠配というものが含まれておらない。こういう賃金統計を以て実質賃金が上
つておるとか、下
つていないというのは、私はこれはごまかしであると思うのです。もう少し正確に科学的に答えて頂きたいのであります。これを併せて労働
大臣に御
答弁を煩わしたいのであります。
それから第三の、今後の
政府の根本
施策について特に
吉田首相にお伺いしたいのでございますが、それは先程も述べましたように、
日本の
経済は極めてみじめな
状態にある。事変前に比べて五割程度の
生産水準、
生活水準、これを今後
生産水準、
生活水準を高めて行くためには、どういう
経済政策をと
つて行
つたらよろしいか。吉田内閣の
方針は自由
経済方式である。これはあらゆる面に現われております。価格差
補給金、これを
撤廃して行くのも、
自由価格によ
つて経済の合理性が貫かれて行くという、こういう
政策である。又いわゆるローガン方式、この
貿易方式も自由
経済方式であります。
財政と
金融を分離したのも自由
金融である。この自由
経済方式を以て、この低い
生産水準の
日本をこれから高めて行くために、そういう
政策を以てこれはや
つて行けるかどうか。いろいろな破綻が私は生じて来るのではないかと思うのです。この点について確信があるのかどうか。特に
補給金を
削減した場合、
補給金を今後どんどん
削減した場合、
日本の
鉄鋼とか、ソーダ、こういうものが潰れてしま
つたならば、あとは外国からこれを買えばいい、こういうのであるかどうか。
日本の産業構造について稻垣
通産大臣はどういうお
考えであるか。この点についてお伺い
申上げたいと思うのです。
次に、この
国会召集の眼目であり、
国民が非常に注目しております
減税の問題についてお伺いしたい。税の專門家である
大蔵大臣は、税の
軽減には二つの面があるということは御存じであると思う。一つは、税法上の
減税、もう一つは、実質上の
減税であります。
政府がここに二百億
減税されるというのは、これは税法上の
減税である。実質的な
減税ではありません。実質的には、この
予算において、むしろ当初
予算よりも十三億一千万円の
増税にな
つております。而もシヤウプ勧告によれば
勤労所得税は千三百九十六億になる計算であります。これに対して
政府は当初の千二百億の
勤労所得税を、大体このシヤウプ勧告案の線まで
自然増收として増加しております。ところが
申告納税においては、シヤウプ勧告案によれば、二千七百十四億円の
申告納税の額にならなければならないのを、
政府は当初
予算千九百億を逆に千七百億に減らしておる。自然
減收として減らしておる。何故
勤労所得については
自然増收を認め、何故
申告納税についてはシャウプ勧告案とは逆に自然
減收としてこれを減らしておるのか。
勤労所得においては、勤労階級においては
増税であります。この点についてお尋ねしたい。
更に次に
金融政策についてお伺いしたい。その第一は、
財政と
金融を分離した結果、
金融が民間の市中の大銀行の手に委ねられた。従
つて金融の社会性、公共性を高めなければならないということは、
大蔵大臣も主張されたところであります。その結果として
日本銀行にポリシー・ボード、
政策委員会が設けられた。ところがポリシーボード、これが著しく非民主的であると思う。八月一日の金利引下げに際しまして、一万田
日本銀行総裁及びこのポリシー、ボードの委員は金利引下げに反対したそうである。反対の
意向である。そうして大蔵省及び有力筋の強硬な主張によ
つて漸く金利を引下げた。而も金利の引下げの率は極めて低いのである。シヤウプ税制勧告においても、
日本において預金の利息と貸出の利息がこのように著しく開いておる、こういう国はないということを
言つております。もつと預金の利子を引上げ、貸出の利息を引下げるべきである。こういうことを勧告しておりますが、この
政策委員会、ポリシー・ボードはそういうことをや
つておりません。むしろこれは反対しておる。
金融の民主化に逆行しておる。(「その
通り」と呼ぶ者あり)
第二に、
金融についてお伺いしたいのは、
政府は
租税及び貯蓄の形で沢山の金を吸收しながら、これを遊金、アイドル資金としてこれを抱えてお
つて運用していない額が相当の額に上
つております。これが
財政面だけでなく、
金融面から、著しく金詰り、デフレを強化しておるのである。例えば見返資金におきまして、最近の見返資金の金額は約八百二十億たま
つておる。そのうち民間に貸してあるのは飯野海運及び
日本窒素の約四億、その残りは更に鉄道、通信に対して百六十億程度運用し、あとは四百億程度米穀証券に運用しておる。これは
日本銀行に持
つておる米穀証券を買うだけであ
つて、
日本銀行と
政府の間のキヤツチボールに過ぎない。
国民から見返物資を売
つて吸い上げた金が八百二十億ある。それが運用されていないのです。米穀証券以外に非常に多額の、二百十六億のアイドル資金があ
つて、何にも使われていない。こんな不
経済な無駄なことはないと思う。更に又復金であります。復金においては二百十九億円の回收がありますが、これも何にも使われておらない。又預金部資金も八億も現金があ
つても、これも使われておらない。こういうふうな遊金が沢山ある。このアイドル資金を
政府はどうして運用しないのか。これは著しく不
経済で、而もデフレを非常に強化しておると思う。この点についての
大蔵大臣のお
考えを伺いたいと思います。
更に、円価
対策その他について御
質問申上げたいのですが、時間が参りましたので、これは委員会において
質問いたすことにいたしまして、(「やれやれ」と呼ぶ者あり)私の
質問を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣吉田茂君
登壇、
拍手〕