○田村文吉君 先ず
大蔵大臣にお尋ねいたします。
第五国会におきまして、いわゆるドツジ・ラインに沿うて画期的な本
年度予ざをお立てになり、
インフレ克服を企呼せられまして、幸いに概ねその目的に近付きつつあることに対しましては敬意を表するものでありまするが、当時私共から御警告申上げたような金融の不円滑がますますその度を強め、折角本年三月まで上昇線を辿
つて来た
生産指数も四月以後は六十七、八%の線に停頓するようになりまして、今後来るべき冬季の電力飢饉に際会いたしまして、
生産指数は更に低下、逆転する虞呉があり、
一般産業界の危機を招来するのではないかと危惧されておるのであります。
生産指数並びに
物価指数は停頓しているとは申しながら、それでも昨年に比べますと三割方
生産指数は増加しております。物件は少くも二割以上高くな
つておるのでありますから、事業運転
資金は昨年に比べまして六割以上増加しておる筈でありますのに、日銀の紙幣発行高は、昨年の秋に二千六百億が今年は三千億程度に止まり、昨年末三千五百億であ
つたのが、
大蔵大臣の御理想からすれば、今年は三千六百億程度と承わ
つているのであります。そこで私は、そこに著しい無理が潜んでおると
考えるのであります。余りに
インフレを恐れて、ただ金の面からのみ
経済を抑え付けられるように見えてならないのであります。物の
生産を殖やさないで、ただ国家
財政と金融の緊縮だけで
インフレを止めようといたしましても、それは一時の即効薬にはなりますが、断じて真の健康体にはなり得ないものと信ずるものであります。即今の
金詰りと、やがて来るべき歳末の事業金融に対しまして、どうお
考えにな
つておりまするか。この機会に
国民に表明し、納得、安心させて頂きたいのであります。
次に、
政府は事ごとに
企業の
合理化を唱えておられます。併し
企業の
合理化とは徒らに
人員整理だけを
考えておられるのでありますまいか。戰災に痛められた機械を直したり、もつと高能率の設備を採用したりすることも重要な
合理化であるのであります。併しそれには金が要ります。ところが、こういう長期の金融がなかなか容易でない。只今もお話がありましたが、建前から言えば、興銀がひとりこれを受持つことになるのでありまするが、これでは甚だしい不便、不自由であります。もつと日銀に
市中銀行を経て特に
長期金融の途を開くなり、或いは在来の勧業銀行にも引続いて債券の発行を許すなりして、
中小企業は勿論、目下成績が惡くても、設備の補修
改良によ
つて復活できるようなものに長期の金融を開くお
考えがありませんかどうか。
次に、資産再評価をシヤウプ博士は
勧告をしておられます。
政府はあらゆる法人、個人に対してこれを強制なさるおつもりか。はた又任意にお任せになるおつもりか。尚、評価益に対して六分の課税と申されるのでありまするが、そういたしますると、減価償却をして尚利益あるものでさえも、再評価財産に対して、初
年度において三分の外に、
地方税が一分七五厘、合計約五分弱、二
年度、三
年度においても約三分の課税を受けることになりまして、非常な
負担となるのであります。況んや大多数の
企業において、減価償却をすれば赤字となるような所では致命的の
負担となる虞れがあるのであります。私は再評価益に対する課税は、理論的にその理由を発見するに苦しむのみならず、実際に非常に困難ではないかと思いまするが、
大蔵大臣はどうお
考えにな
つておりまするか。
次に農林大臣に対して次の三つのことをお飼いいたします。
第一に、御管理にな
つておりまする食糧管理特別
会計は、今
年度は四千六百億にも上るのでありまするが、遅かれ早かれ食糧管理を
廃止される時も来るのでありましようが、これを止める時は食糧も大体安定して、
従つて自由価格も下向きとなる時であろうと思います。その場合に手持米の処分をいたしますれば、必ずや莫大の損失を生ずることとなろうかと、心ある者は今から心配しているのであります。幸いに婆心として一笑に附さるるようになれば仕合せでありまするが、最近の、只今も御
説明のありました薪炭需給調節特別
会計におきましてさえ、五十五億の、赤字ではないと仰せになりますが、実際赤字を出した例もあるのでありまするので、單なる取越し苦労ではないと思います。大臣のこれに対する御用意が
如何でありまするか。
第二にお伺いいたしますることは、打ち続く二年間の平年作で、幾らか食糧に対して豊かな感じを持
つているところへ、食糧の輸入が
米国の好意的な
援助によりまして
年度内に五十万トンの増加となり、明
年度は更に三百七十五万トンの輸入が計上されるということを聞いた
国民は、さては待望の三合の配給が成るのか、少くとも甘藷を除いた二合七勺となるのか、いずれにせよ、食生活が闇がなくなるものと、希望的意見を持
つているのでありまするが、大臣は果してどう
考えておられますか、承わりたい。
第三に、食糧の根本問題として、大臣のはつきりした御所信を承わりたいのでありまするが、それは食糧自給自足の
方針如何であります。一方の
考え方によりまするというと、食糧はできるだけ増産することが望ましいが、人口も殖える一方だから、結局は、いつまでた
つても足らない。
従つて足りないものはこれを輸入する。これが代物には国内の製造品を輸出すればいい。生なかのアウタルキー式の
考え方はよくないというのであります。私はこの
考え方には賛成できないのであります。なぜなれば、成る程
日本はすでに
戰争を放棄したのみならず、今後も他国間の
戰争の渦中に入るようなこともありますまい。併しながら世界には未だ冷たい
戰争が行われ、いつ、それが熱つ
戰争に変らないと保証ができないのであります。従いまして万一さようの場合が起れば、海上の交通も困難となり、食糧の輸入も不可能な場合も当然
考えられるのであります。
従つて日本国民の死ぬか生きるかの問題とな
つて、却
つてそれがために
戰争に捲き込まれる虞れも出て来るのであります。これらの最惡の場合を想定いたしまして、私は少くも平年作の場合において、食糧だけは絶対自給自足のできる
方針を立てて置くべきであると思います。殊に現在米
国民多大の犠牲の下に
援助物資として食糧を貰
つている点から
考えても、一日も早く自給自足に移るべきであると
考えます。幸いに
日本は古来瑞穗の国でありまして、決して耕地に事欠かぬのであります。若しそれ、
国民の勤勉に加うるに、更に高度の技術を以て、或いは耕地の
改良、適肥の採用、機械力の応用等に刻々怠るところなければ、たとえ人口が一億になりましても、数年ならずして食糧の自給自足を完成し得るものと私は
考えておるのであります。在来この目的及び
方針が
政府にも
国民にもはつきりしなか
つたのではないかと思うものであります。
政府はよろしく来る
昭和二十八年ぐらいまでを
目標として、食糧の自給自足を必ず達成する国論を纒むべきではないかと思うのでありまするが、農林大臣の確たるお
考えを承わりたいのであります。
次に、通産大臣に対して次の三つの問題についてお尋ねいたします。
その第一は、円為替」ーレトは絶対に変更しないと、
総理大臣も通産大臣も幾たびの機会に
声明されております。私はこの問題に対して意見もありまするが、ここでは素直に
総理の
声明を信頼するものといたしまして、ただその場合、
如何にして
我が国の輸出を振興し、国際貸借の均衡をとり、少しずつでも米
国民の
援助に要する
負担を減少するかが問題であるのであります。そうでなくても中共地区の荒廃、スターリング地区の輸入管理等で、なかなか輸出の振興は困難であ
つたところへ、今度のポンド片その他の切下げであります。
日本が円レートを飽くまでも支持せんとする限り本問題の解決は頗る困難であります。即ちこれが対策として、いつも言われることは、第一に
企業の
合理化による
生産費の切下げ、第二には、いわゆるFOB価格輸出をCIFに変えること、第三には、海外商務員の派遣滯在等であります。然るに第一の
合理化の問題でありまするが、今日のように金融圧迫の状態では、設備機械の
改良など及びも付かず、せいぜい
人員整理で
失業者を
国民が養うぐらいが落ちでありまして、実情は運賃が
上つたり、電力料が
上つたりして、実際コストはむしろ上昇せざるを得ない現況にあるのであります。そこで第二の問題、即ちCIFでありまするが、はつきり言えば、能う限り輸出品は
日本の船で輸送させて貰いたい。せめてシンガポールぐらいまでは
日本の船を使わせて貰いたいのであります。これは勿論連合国の好意ある許可を得なければならないことでありまするが、これによりまして三千万ドルなり五千万ドルの対外勘定がよくなるのであります。又三万人なり五万人なりの
失業者が救われることになるのであります。三度でも五遍でもGHQに懇請されまして、この許可を得られるようにはならないものでありましようか。第三の商務員の海外派遣は、連合国の好意によりまして順調に運んでおるようでありまするが、西
ドイツではすでに二千人程の商売人が海外に出ておるや聞いております。この際、これも人員の増加をして早急に実行されるように懇請されてはどうかと
考えるのであります。併しポンド地区への輸出は、在来の
日本の顧客先でありましたに拘わらず、右申上げましたような実情で、我々の予期する程の成績を收めることは相当困難でありますが、アメリカに対する生糸の輸出は、ここで再検討されてよいのではないでしようか。せめて生糸の五万俵ぐらいを買
つて貰えないものでしようかと思います。成る程ナイロンの発達以来、靴下のごときものには生糸は全然その敵にあらずと聞いておりまるが、最返アメリカで生糸とナイロン、生糸と醋酸絹糸との交織で頗る風味のある織物ができるとも聞いております。幸いにこの
方面に需要が喚起されれば、生糸の輸出は五万俵ぐらいはわけなく消化するのではないかと存じます。この問題もGHQ
援助の下に大いに宣伝隊を派遣いたしまして、「生糸はアメリカへ」の昔に還元することを
考えられるのではないでしようか。
通産大臣に対して、第二の問題をお尋ねいたします。大臣の就任以来、綿布が多量に放出されたことは、たとえ、それが輸出用
滯貨の処分であ
つたにせよ、誠に家庭の気持をよくしたことについて大いに敬意を表する次第でありまするが、尚、私の嘱望するところは、生糸を買
つて頂く代りに、
米国から綿花を十万俵の外に、更に三万俵を内地需要として輸入させて頂き、これに先般協定を得ました羊毛等を合せますなれば、
日本国民一人当り五ポンどの配給は可能となるわけであります。五ポンドは戰前の約半額でありまするが、耐乏
国民の今日といたしましては、先ず以て満足せねばならぬ数量でありまして、これによ
つて少くも衣類の闇はなくなります。私は先に農林大臣に食糧の闇をなくして頂いて、今度は通産大臣に衣料の闇をなくして頂くことを心から熱望するものであります。これによりまして人々は
如何に安堵し、
如何に朗らかになることでありましよう。
通産大臣に対する第三問、これは少少暗い話です。併し是非聞いて頂きたい事柄であります。それは電力に関する問題です。今月の初め
政府の指令に基きまして恐らくは全国の配電会社になされたものと思いまするが、それはランプ・カツトは止めろ、工場電力は午後四時から七時までは数種の
産業を除いて一切停電又は極端な減配にせよとの指令のようでありました。果せるかな我々の家庭は、数日間ランプ・カツトはされましたが、最近では停電がなくなり、銀座街頭のネオンは初めから停電もなく寒空に煌々と照り輝やいておるに拘わらず、工場の或るものは晝夜連続作業であることもお構いなく、四時から八時まで全く仕事にならない節電を強制されておるのであります。今年の十一月は昨年と同様近年稀なる降雨量があ
つたために、節電の結果多分に余る水をそのまま下流に放流してお
つた実例を私はよく承知いたしております。かくて数億か数十億の
日本の富は徒らに空費されたのであります。
産業人である我々は実に見るに忍びず、聞くに堪えないものがあることは、少くも
産業界出身の通産大臣は御了解できることと思います。併し私はこの一事を取上げてこの事
自体を糺明したり、或いは
政府が口に
産業の興隆、輸出の振興を叫びながら、実は
産業が萎靡しようが
失業者が出ようが構わないというような
考えかどうかということを、ここに
議論する時間の余裕は持ちませんが、ただ私の申上げたいことは、現在の電力行政、或いは
経営の主体が、一体
政府にあるのか、はた玉配電会社にあるのか分らない。これが電力の開発が遅れて、いろいろと
経済界に迷惑を掛けたりする根元である。即ち
日本経済復興の癌であります。(
拍手)電力再編成の問題が終戰以来取上げられておるが、多くはとかく過去に囚われた意見から脱却しておらない。歴代の
政府も今日の
政府も腰が切れないのであります。私は
考えますのに、電力の需要は少くとも十年のうちに倍になる。来る七年間に六百万キロの水力の開発が絶対必要である。これなくしては
日本は平和的、文化的に世界に伍する国になり得ないと極言するものであります。そもそも電力事業は、仮にこれを民間
企業に移して見ましても、その事業の性質上、
政府の管理或いは高度の監督なくしては不可能であります。そうすると結局屋上屋ができたり、二頭三頭の蛇ができ上
つて、今日の混乱を繰返すのみであります。そこで、むしろ私は百尺竿頭一歩を進めて、一万キロ以上の電力事業はすべて国家の
資本に移し、これが
経営方法はTVAに倣えべきものであると年来主張して来たものであります。これが実行も現在の発送電外七社の株式を時価を以て買上げたらいいのでありまして、三百億もあ
つたら全株式の取得と借入金の肩代りができると思うのであります。
自由党だからすべての
企業を民営に移すとか、社会党、共産党だからすべての
企業を官業に移すとかいうことは、誠に假見と言わねばならぬのでありまして、要はその時々の
情勢を詳細に検討し、その事業の性質及び能率を彼此参酌して決定せられることが、真に
国民の幸福と人類普遍の真理に到達するゆえんであります。(
拍手)自由を尊ぶアメリカでも、曾ては禁酒法案を実行したこともあります。社会党や共産党が保守反動だと非難する明治三十九年、時の政友会は
日本鉄道の国有を断行しておるのであります。アンドレ・モーロアはこんな皮肉を言
つております。「社会主義に個人主義を対立させたり、
資本主義に共産主義を対立させて
考えるごときは、実に恐るべき思想の貧弱を示すものである。殊に現実がかくも常なく
変化し、複雑を極めており、歴史の進化が人類社会を
一つの系統から他の系統に不断に
変化させているこの時にだ」、こう言
つておるのであります。要は政治は飽くまでも真に
国民の幸福を希う人類愛の政治でなければならぬ。徒らに自由主義とか社会主義とか、或いは中道主義とかに固定した枠から角を出し合
つてお
つては、事物の判断を誤まるのではないかと存ずるものであります。大臣の御
所見を承わりまして私の
質問を終ります。(
拍手)
〔
国務大臣池田勇人君
登壇、
拍手〕