○中曽根
委員 私は民主党を代表いたしまして、本補正
予算案に対して反対の意を表するものであります。補正
予算案は單なる
数字でありますが、これをささえているところの財政政策そのものを、われわれはまず検討しなければならないので、まず
池田財政政策の点より私は論及したいと思うのであります。
池田大蔵大臣は、四月の議会におきまして、二十四年度
予算を提出した際に確信をも
つて日本経済は苦しいけれ
ども好転するということを言われました。私はその野心的な試みに対しては敬意を惜しまなか
つたのでありますが、はたして
池田財政約九箇月に渡る功罪というものは、私をして言わしめれば、成功四割、失敗六割であると断定するのであります。
池田大蔵大臣の施政のねらいはどこにあ
つたかというと、それは三百六十円レート、六千三百ベース、その他の一連の基準をも
つて、ロンシューム・インフレーションを押える、あるいは
国民生活水準をある程度に押えて、それによ
つて輸出力をしぼり出して、その輸出力によ
つてさらに生活水準の上昇を期待するというところにあ
つたと思うのであります。しかし、なるほど輸出力はやや出て来た。出て来たそれらのものが順調に輸出され、あるいは国内市場にさばかれていたというならば、それは成功と言える。しかし出て来たものが国内に一千億の滯貨にな
つて、輸出はそう進渉はしておらないのです。しかもそのような
国民経済のしぼり方をや
つた反面、そこに犠牲が出て来ているかというと、
池田財政の主眼点は、この貧弱な日本に対して、資本主義の冷酷無情なる原則を押しつけようとするところにあ
つた。そこで資本主義の弱点にあるところの農村と中小企業と勤労者に、これらの重圧が一挙に振りかか
つて来たのであります。しかもそういうような一種のゆがみを持
つた日本の経済の構想のままに、時たまたまここにローガン構想なるものが現れて来た。このゆがみのままに日本経済は国際経済に接触し、突入しようとしている。しかしこのゆがみを直さないで、言いかえれば中産階級以下の重圧のままに、ここに突入するというところに、
池田財政の最もその
責任を追及されなければならないところがあるのであります。ただいまわれわれが調べた資料によ
つても、現在の状況はどうであるかといえば、滯貨は約一千億、毎月当りの不渡りは五十億から六十億に及び、月一万の不渡りが流れておるという話であります。のみならず、一般企業界においても売掛金はおそらく六百億から九百億に及ぶといわれている。しかもそういう中にあ
つて農村はどういう生活をしているかといえば、先ほど不信任案を提出された森悪政によりまして、低米価、あるいは非常な課税の重圧、あるいは供出の過重、あるいは食確法による強圧、こういうものを依然として受けている。また一面においては、勤労者は六千三百円ベースの重圧のもとに呻吟している。しかも一般中小工業の購買力はどうであるかといえば、ほとんど購買力は下
つている。中小企業にあ
つては、一面においては大企業より大いにたたかれている。それと同時に、金詰まりのために購買力が窒息しているという二重の重圧を受けていることにな
つているのであります。そういうような国際的にも国内的にも経済の状態が非常に重大な危局に
なつたときに、吉田
内閣のや
つている政策は何であるかといえば、国策の基本を決めることではない、めくら経済をそのままや
つておる。言いかえれば、今まで統制を継続して来たそれが、自由に放任された。その結果は材木は余る。余るけれ
ども家は建たない。いもは氾濫する。物
はつく
つた、しかし輸出はできない。国内市場の開拓も商業機能の増進ということもできておらない。暗夜行路経済というものがここに現れておる。その中にあ
つてしからば何をや
つておるかといえば、いわく米券制度、いわくタバコの民営、いわく国鉄の電化会社、一連の党略的な統制をや
つておる制度であります。こういうような国策の大木を忘れた現
内閣の態度に対して、われわれは断固として反対せざるを得ないのであります。
さてしからばそういう経済情勢の中にあ
つて、われわれが何を主張するかといえば、私は人を責める前にわれわれの立場をここに
説明したいと思うのであります。それは
大蔵大臣御存じのように、あなたはこの荒廃した日本経済に資本主義の温床を今整備されようとしておる。それはある程度正しい態度であると私は判定するのです。しかしこの荒廃してしかも非常に中産階級以下が没落している、そういう世の中にあ
つて、アメリカ流そのままの資本主義の原則を適用するのはむりです。それをそのままやることに私はむりがあると思う。
もう一つは資本が非常に貧困である世の中にあ
つて、依然として重要な意味を持つのは、国家がやるある程度の財政投資、あるいは
金融操作の面であります。この点についてもわれわれの期待するようなものはない。われわれが主張するのはやはり現在のような日本にあ
つては、あえて明治時代のあの商船隊を建造したり、八幡製鉄所をつく
つた、ああいうようなことをやれと言わない。しかしながら、国家の果たす機能というものは、そうとう大なるものがあるということを私らは認識しておる。結局それは資本主義的な計画経済をやれということである。この長期計画を樹立して
関係方面と完全なる吻合のもとに、いろいろな援助やあるいは日本の自立性の限界というものを明確にきめて行かなければならぬ。ということ
はつまり有効需要を振起して、それが国際的にも輸出振興の面で打開する。あるいは国内的には国内市場の伸張という面でこれを打開しなければならない。そのためには商業機能、たとえば問屋というものの強化が行われねばならない。そこで最後に社会保障、あるいは社会政策というものが勇断にここに用意されなければならないと思うのであります。
しかしそういうような態度は、現
内閣の政策においては伺うことができないのであります。われわれが現
内閣に対して最も要求したいと思うことは、まず第一は援助の時期と
限度というものを明確にされたい、そのことであります。吉田
内閣は日本
国民の支持を受けて成立した
内閣であるけれ
ども、ほかの
内閣をイエス・マンと言
つた。しかし現在の
内閣はさらに大なるオー・イエス・マンであると言われておる。われわれの期待とはるかにこれは違うのであります。特に講和条約問題について吉田総理の触れられたことは、いずれも仮定的な問題については答えられないということであ
つて、吉田総理はここで私の
質問に対して、日本
国民の要望は聞きいれられるであろう、こう言
つておる。しかしながら議会におけるわれわれの論議というものに対して、総理
大臣の信念を披瀝するのは当然のことであります。しかるにそういう態度がない。もう一つわれわれが懸念しなければならないのは、国際市場を開拓するためには、どうしてもわれわれの貿易というものは、アジアに向けられなければなりません。そういう観点から見ても、われわれの周辺の民族に対して刺激的な政策をとることは、避けなければならないわけであります。一つの日本と、一つの條約と、一つのアジアというものがわれわれの主張でなければならない。しかるに最近中華民国あるいは朝鮮に対して、やや刺激的な政策をと
つておる。これはアジア百年の計のためにとるべきものではない。国際市場の開拓のためにも、われわれは強く叫ばなければならないと思うのであります。その次にわれわれが追究しなければならないのは、日本経済自立の基準というものが明確にされておらないことであります。三百六十円レート、あるいは六千三百円ベース等を基準にしてやられるのでありますが、しかし一体どの程度まで合理化したならば、日本経済は合理化したと言えるのか。企業家にと
つてもどの程度まで合理化をしていいかという目途が、実際
はついていない。しかもわれわれがこの
委員会において、来年度の
国民所得あるいは来年度の企業活動、工業
生産指数、こういうものについて、われわれが大いに
質問したのでありますけれ
ども、青木安本長官からは何ら
答弁を得ることができなか
つた。このことはわれわれとしては、実に重大な問題なのであ
つて、現在程度の購買力というものは、日本の自立水準を補うだけの購買力ではありません。日本の自立水準を補う以下の購買力である。この程度で低迷してお
つては、絶対に日本の自立はできない。それをいかに自立すべきかを実は聞きたか
つた。これに対する
政府の態度は用意されておらなか
つた。現在御承知のように
内閣は低賃
金融なんかをや
つておる。しかしながら現在や
つておる低賃
金融というものは、潜在的には非常に不健全なものをおおうておる。なぜなれば大企業に滞貨
金融をや
つておるが、そのことは他面において
生産過剰を続ける、こういうおそれがある。のみならず来年度における有効需要の振起というものを予想して企業は
生産を続け、低賃
金融を受けて来年度においては有効需要の回復がなければ、銀行も企業も一挙につぶれるおそれがあるのであります。こういう問題について明確な構想も発見できない。
政府は五箇年計画を放棄した。二箇年計画はできておるということであります。現
内閣は計画経済という言葉はきらいで、二箇年の経済表なるものをつく
つている。こういうような程度の考え方では、われわれは納得することができないのであります。
その次にわれわれが特に
内閣の
責任を追究したいのは、
国民経済の合理化循環計画というものができておらない。言いかえれば四月行われた
池田対策というものは、日本経済はインフレであたたま
つている。このあたたま
つているのを冷蔵庫に入れて凍結した。凍結すればかならず萎縮する。日本経済は現に萎縮しておる。石炭四千七百万トンは三千四、五百万トンに落ちようとしておる。萎縮した結果毛細管に血が、流れない。中小企業や、農村、勤労者に血が流れないで困
つておる。この毛細管の血をいかに流すか。合理的な自立化といかに回復するかということが最も重大な問題である。これらの問題についても、
政府の対策というものは明瞭に伺うことができないのであります。
その次にわれわれが
政府に対して追究したいことは、現在の
内閣のや
つておる政策というものは、安定と言
つておるけれ
ども、安定ではない。停滞であります。安定というものは合理的循環ができて、国際的にもはしご段がとれるという段階にあ
つたならば安定であろう。しかも今のようなゆがみを持
つた国際経済に突入して、縮小された状態においては停滞しておるにすぎない。それを安定と考えるのは甘いのであります。
特にわれわれが心配をいたしますのは、このような停滞しておる状態では、次に来るべき拡大再
生産にどういうふうにして飛躍して伸びていくか。上昇の契機がどこあるかということであります。しかしその上昇の契機について大事な点をしておる、たとえば長期資金という問題、本年度は四月の議会では
池田大蔵大臣は、約一千百億円から四百億円程度と言われたが、現在見返資金が多分に出たとしても、わずかに八百億円から九百億円くらいしか長期資金というものは出ないのであります。
もう一つの例をと
つてみれば、造船資金についてもそうである。外国に対抗してわれわれが商船隊を建造すれば、ある程度国家的な保護助長政策がなければとうてい対抗できない。そういうものに対する財政的な
措置も見受けることができない。あるいは企業の合理化についても、今や
つておる大企業の合理化というものは、能率の悪い工場をたたくとか、首切りをやるとか、下請けをたたくという程度の合理化であ
つて、企業技術の改善とか、近代化というものは行われていない。これでは次の段階に飛躍をして拡大再
生産への契機というものを踏み出すことはできない。これは停滞であります。これを安定と考えるところに大きな矛盾があるわけであります。
最後にわれわれが最も心配しなければならない問題は、農業政策の問題であります。私はこの場所で
森農林大臣にも
質問をいたしましたが、この間の日英通商
協定によ
つてもわかるように日本の貿易は今や太平洋の向う岸から東南アジアの方に大転回をしている。われわれは彼らに対して機械とか雑貨とか化学製品を売る。彼らから来るものは何であるか。工業原料、鉱産物かしからざれば農業
生産物であるのであります。大部分は農産物にな
つて返
つて来るのであります。しかも国際小麦
協定に加入するということでありますが、来年度においては二千万石の食糧を外国から輸入するの段階にな
つておるのである。そういうようにして国際的な重圧は農業にひしひしと迫
つて来ておる。
従つて当然現
内閣においては、農業政策に対する基本方策というものが、確立されておらなければならないのであります。たとえばアメリカがや
つておるところの農業調整法であるとか、あるいは前にわれわれがや
つたところの米穀管理法であるとか、そのほか一連の国内農業保護に関する政策が用意されなければならないのであります。
政府の構想も樹立されなければならない。そういうものに対する何らの関心もない。依然として自由放任主義がここに歴然として現れておるのであ
つて、かくのごとき農業政策はどこに出てきておるかといえば、たとえば米券制度であるとか、あるいは農民に対する強い割当であるとか、いもの統制の撤廃、大悪法である食糧確保臨時
措置法の改悪であるとか、こういう面に出てきておる。のみならず最も重大なる農業
金融に対する
措置も何らないのであります。
以上のように根本的に財政政策に誤りがある。さらにこの
予算面にそれがいかに出て来ているかといえば、簡単に申し上げれば、まず第一に公共事業費八十五億円
——一千億円の要求に対してわずかに八十五億円である。その次に六・三制が十五億円、この間の文部
大臣の
説明によれば、六十億円だ
つたが、それよりも四十五億円足りないところの十五億しか出していない。また配布税に至
つては九十億円である、しかしその九十億円のうち、たとえば中央機関に対する返還金その他を差引けば、実際に入るものは四十億円しかない。こういう欺瞞もある。
さらに追究さるべきは
薪炭需給特別会計の
赤字五十四億円の問題であります。この
会計に対してはわれわれは全面的に反対せんとするものであります。御承知のようにこの
会計は
清算も確定していない。この中には官吏の汚職であるとか、
業者の不正
行為であるとか、いろいろな不正不当なことが織り込まれている。それを
清算しないうちにこの
予算に計上するということは、
国民にと
つてゆゆしい大事であると言わなければならぬのであります。われわれは
生産者に対する
支拂金二十四億円は、もちろん支出してもらうべきものであると思うが、しかしそれ以外の問題については、次の議会に上程せらるべきものであ
つて、このような本国会に提出する
政府の心境を、はなはだ疑うものなのであります。
その次に問題にしなければならぬのは、食糧管理
特別会計の百七十億円であります。御承知のようにこの
会計はインヴェントリー・ファイナンスというものであ
つて、配給公団から国庫に回収されて入
つて来るものである。これは運転資金ですから、当然
経過的にまかなわるべきものであ
つて、日本銀行の借
入金によ
つてでも決してこれはインフレにならない。この百七十億円を税金から出すということが、いかにデフレを促進しているかということを、われわれはここに注目しなければならないのであります。
その次に失業対策費であるが、われわれが昨日あげた
数字でわかるように、日本農村で一年間に二百五十万人の人間が移動している。あるいは工業その他で大体百数十万人の人間が失業している。そういう人間に対する失業対策費がわずかに八億五千万円、この程度では絶対に足りないのであります。
その次に問題にすべきは公団出資金四十二億円であります。公団については、抽選公団その他いろいろの公団の堕落不正
事件が摘発されているのであります。この不正の疑いのあるところに対して、またのめのめと四十二億円出すということについては、われわれは絶対に反対であります。その理非曲直を明らかにしてから、これらの金は繰入れらるべきだと思います。
その次に問題としなければならぬのは、いわゆる租税の軽減である。もちろん軽減に対してはわれわれは賛成である。しかしシャウプ勧告ですら認めたところの
——たとえば農民、中小企
業者等に対する勤労控除十五%、十月から三箇月分、これすら認めていない。先ほど申し上げましたように、こういう
措置は、資本主義の冷酷無情な原則をここに裏づけようという考えであり、中産階級以下を圧迫すべき政策である。ほかのもののためにこれを犠牲にするという政策がここに出て来ているのであ
つて、これ等の政策に対して、われわれは断固として反対せんとするものである。その次にはいわゆる租税の自然増二百十三億である。結局差引き十三億円の増税にな
つておるが、か
つて大蔵大臣が言明されているように、五百十七億円の租税滞納がある。今年だけでも百八十三億円の滞納がある。この大きな滞納をかかえてお
つて、さらに十三億円の増税を断行するということについては、われわれはま
つたく反対であります。このようなことが行われたならば、いかに
国民が吉田
内閣を恨むか、あと六箇月たてば歴然として現れて来るのである。バイブルを見ると、取税人と罪人が天国へ入ることは、ラクダが針のめどを通るよりもむずかしいと書いてあるが、
池田大蔵大臣は減税を公約しながら、さらに増税をやらんとしている。そういう詐欺政策をやるようでは、死んでもとうてい天国なんかは行けない。あなた方はうそを言
つたから、えんま様に舌を抜かれるのが関の山であるということを申し上げる。
その次に問題にしなければならぬのは、復金納付金の五十億円であります。復興
金融金庫の回収金というものは、当然産業投資に向けらるべきものであ
つて、これもまたデフレの大きな要素であります。
以上今次の
政府の補正の内容というものは、われわれがか
つて四月修正案を出したものにやや近接して来ているが、しかしやや近接しているだけであ
つて、われわれが期待したものには、はるかに遠いのであります。以上のような財政政策を持ち、以上のような
数字が出て来たこの補正
予算に対しては、われわれは全面的に反対の意を表するものであります。(拍手)