○
井藤参考人 東京商科大学教授伊藤半彌であります。お招きにあずかりまして、今度の
補正予算を中心に
考えを述べたいと
考えます。
今度の
補正予算というものは、金額から申しますと三百六十三億、非常に少いのであります。しかしながらこれは正式の
予算ではもちろんございませんけれ
ども、最近
政府から来
年度すなわち二十五
年度の
予算の大網が発表になりました。それが六千六百四億円、それでこの
補正予算を問題にいたしまするときには、やはりことし当初
予算、それから二十五
年度の
予算の計画、これをあわせて考慮する必要があると思うのであります。ところが今度
一般会計のほかに特別会計その他の
予算も出ておりますが、
政府においては
予算の純計の公表をしておりません。それでやむを得ず私は
一般会計だけを問題にしたいと思います。
補正予算の経費と歳入、この二つの問題を中心にいたしまして、来
年度の
予算との関連において
意見を述べたいと思います。
まず経費でありますが、これは皆さんにこういうことを申し上げるのは失礼で御案内の通りでございますが、当初
予算が七千四十六億、今度の補正額が三百六十三億でありまして、
昭和二十四
年度の
一般会計
予算合計七千四百十億となるのであります。そこで今度補正額が三百六十三億円、当初
予算が七千四十六億でございますので、その比率を求めますと、わずかに五%であります。当初
予算に対しまして、今度の
補正予算が五%しかふえておらないというので、金額から申しますときわめて小さな問題のようでございますけれ
ども、この五%というものは、いわば氷山が水面より大部分沈んでおりまして、その一部が表面に出たとのと同じような
関係がございまして、
政府の政策がこのわずか五%増しの
補正予算の中にもよく現われておると思うのであります。そこで経費の問題を経費の総額と経費の内容の二つに分けまして、一学校
委員の
立場から
意見を述べさしていただきます。
まず経費の総額につきまして次の三つの特徴を指摘して見たいと思います。まず一番の特徴は、
追加予算といたしまして金額が非常に少いのであります。御案内の通り昨年までは
追加予算の金額が非常に多くて、大体当初
予算よりも多いことが多か
つたが、今度は
追加予算の金額が非常に少い。これは
一つの特徴だと思うのであります。
二番目の特徴でございますが、これは来
年度の
予算の大網と今
年度の
予算を比べますと、相当な経費節減が計画されておる次第であります。今
年度の
予算は今回の
補正予算を加えますと七千四百十億であります。それに対しまして、
政府発表の
昭和二十五年の
予算の大綱の金額を見ますと、もちろんこれは大体の大綱で正式なものでないと思いますが、六千六百四億であります。すなわち
昭和二十四
年度は七千四百億
昭和二十五
年度は六千六百億、差引いたしますと大体八百六億の減少に
なつでおるのであります。もちろんこれは
一般会計だけであります。そこで八百六億の減少ということは、ことしの七千四百億に対する割合を求めますと一一%の減少であります。それで近ごろの
日本の財政の発達を見ますと、一一%
——もちろん
一般会計だけでありまして、特別会計は入
つておりませんので、ちよつと不正確でございますが、一一%の経費節減の計画を立てたということは、大正、
昭和を通じてないことであります。実はきのう私大正、
昭和にかけての決算
予算を見たのでありますが、一一%の削減をやろうとする計画を立てたということは初めてであります。もう少し具体的に数字を申しますと、大正四年、これは決算でありますが、大正四
年度の決算は前
年度に比しますと一〇%、一割の削減であります。それから大正十四年は前
年度に比しますとやはり六%の減少、
昭和に入りまして、
昭和四
年度が前
年度に比しまして四%の減少、
昭和五
年度が前
年度に比しまして一〇%の減少、
昭和六
年度が前
年度に比しまして五%の減少、それ以後は大体ふえております。それで大正四年が前
年度に比して一〇%の減少、
昭和五
年度が一〇%、その他は四%ないし五%、六%という
程度でありますが、来
年度はとも
かく一一%も削減しようとするのでありますからして、相当思い切
つた緊縮計画ではないかと思われるのであります。これが第二点であります。
第三の点は、今度の
補正予算をも加えました
昭和二十四
年度の
予算の、
日本の国民
経済に対する規模との
関係でありますが、
昭和二十四
年度の国民
経済の規模を示すものといたしまして、やはり多くの人が言いまするように国民所得をと
つてみました。この国民所得は今年の九月二十二日安本の発表したものでありまして、
昭和二十四
年度の国民所得は、二兆九千八十三億といわれております。
昭和二十五
年度が三兆九百億といわれております。そこでこの
一般会計と国民所得を割算いたしますと、
昭和二十四
年度は二五%、来
年度昭和二十五
年度は二一%と減
つておるのであります。これは今
年度の経費の総額についての特徴でございますが、これを見て私が感じますことは、非常なる緊縮財政をとろうとしておるということ、そうしてこれによ
つてインフレーシヨンを回避しようとする
努力がなされておること、これは言うまでもなく、その背後にいわゆるドツジ安定計画の方針が貫かれておるということを、数字によ
つて示すものではないかと
考えます。今のは経費の数量の問題であります。
今度は経費の内容の問題でありますが、今のドツジ安定計画が、経費の内容を見ましても現われておるのであります。それで
補正予算額三百六十三億の
増加でありますが、この
増加の内容を見ますと、追加のものが六百八十六億、それから減収分が三百二十二億、差引いたしまして三百六十三億の補正増とな
つたのであります。そこでどういうものが
増加したか、どういうものが減少したか、これを見ますと、やはり今申しましたことがよく現われておるのでありまして、これは申し上げるまでもなく、皆さん御案内のことと思いますので、ごく簡単に申しますと、
増加いたしました分は
公共事業費、
災害復旧費その他、これがふえたということは当然のことだと思います。それから
地方配付金が九十億ふえておりますが、これはシヤウプ勧告などの線に沿
つて少しふやしたのではないかと思うのであります。それから公団への出
資金、これは食糧公団であるとか、肥料公団などの出
資金がふえております。それから特別会計、これは食糧管理特別会計であるとか、薪炭需給調整特別会計などであります。それから鉄道や郵便
事業などの赤字を埋めるそういう特別会計や、
政府機関の損失補填金、これも少しふえておるのであります。そこで
公共事業費、
地方配布金の
増加は別といたしまして、あとの公団の出
資金の
増加、その他特別会計や
政府機関の損失補填金の
増加の内容を見ますと、大体その
一つは官業の赤字を税金その他
一般会計でまかなうという建前、薪炭特別会計の赤字五十四億、これは今政治問題にな
つておることでありまして、私といたしましても一国民といたしまして、内容をもつとはつきり知りたいと思
つておるのでありますが、とに
かくその赤字を税金その他
一般会計によ
つて埋めよう、それから依然として鉄道や郵政
事業の赤字がありますので、これも
一般会計で埋める、すなわち主として税金で埋める。それから公団であるとか食糧管理特別会計の運転
資金、これも借入金によらないで税金その他
一般会計で埋めようとしておるのであります。これなんかも例のドツジ安定計画のきびしい文字通りの遵奉ということが行われておると思うのであります。
今度減少したものは何かと申しますと、おもなものは言うまでもなく価格調整費でありますが、この価格調整費というものは現在では
企業助成金的な性質を持
つておりますので、だんだん時代遅れにな
つております。それでこの価格調整費を二百三十億削減いたしました。これを
政府が期待しておりますように、
企業の
合理化で叫収できればいいのでありますが、
企業の
合理化で全部吸収するのはむずかしいと言われております。そうするとどういたしましても、
一般われわれの生活費が騰貴する。物価が騰貴いたしますために、生活費の騰貴は免れないものと
考えられるのであります。これも安本の計算でありまして外部に発表されたものでありますが、価格調整費
——これはやや古いのでありますが、
政府の原案といわれておる三百四十七億円、これを節約することによ
つて、勤労者の生計にどれだけの
影響があるか、ということを調査したものが配布されております。それを見ますと、勤労者の生活費
支出高一世帯平均月額で三百五十六円生計費がふえる計算にな
つております。もちろんこれは
予算に盛
つてある価格調整費の削減と金額が違いますので、比較にはならぬのでありますけれ
ども、やはり三百円内外の生計費がふえるのじやないかと大ざつぱに私は推定するのであります。
以上述べましたのが
補正予算の経費の内容のおもな点でありますが、こういう
増加及び減少の内容を見ますと、また緊縮
予算でありますドツジ安定計画またシヤウプ勧告などの要素が取入れられておると思うのであります。これが二十四
年度の
補正予算についてでございましたが、二十五
年度の
予算の大綱を見ましても、それと同じ
傾向が現われておるのであります。
私、二十五
年度の
予算大綱として新聞その他に発表されておるもののうちから、金額の多いものをピツク・アツプいたしました。そういたしますと、大体
補正予算でふえておるものと一致するのでございまして、金額の多いものは何かと申しますと、
公共事業費、
地方財政平衡交付金、国債費、債務償還費、こういうようなものが断然金額が多いのであります。それから二十五
年度の
予算で減額がはなはだしいのは、価格調整費であります。すなわち二十四
年度の
補正予算と、二十五
年度の
予算の大綱と大体同じ線の上に乗
つておるということがわかるのであります。
歳出はそれだけにいたしまして、歳入の問題に移りますが、二十四
年度の歳入は当初
予算が七千四十九億、
補正予算が三百六十三億、合計いたしまして
一般会計歳入が七千四百十三億とな
つております。そこで三百六十三億の
補正予算の内訳でございますが、これももう皆さん御案内のことでございますが、前
年度二十三
年度の純剰余金の繰入れが大体二百億、それから雑収入が百四十三億、それから税金としての
増加高が十三億とな
つております。問題は税金の
増加高十三億であります。そこで以下租税の問題について
意見を申し上げさせていただきたいと思います。
租税十三億の
増加の内容を見ますと、法人税その他の自然増数が現在の税法で計算して二百十三億見込まれております。ところが今度
政府が
国会に提出いたしました減税案によりますと、大体二百億減税することにな
つております。自然増数が二百十三億で減税が二百億、差引十三億の
増加とな
つております。問題は減税の内容であります。この減税の内容は、これも申し上げるまでもなく勤労所得税、給与所得税の源泉徴収分の一月から三月までの分を減税する、それから織物消費税を全廃する、清涼飲料税は実質的には多少残るわでありますが、形式的に全廃する、取引高税も全廃する、物品税も軽減する、こういうことにな
つておるのであります。ところでこの減税の内容を見ますと、例のシヤウプ勧告の精神が非常に強く現われておるのであります。もちろん今度の減税は、シヤゥプ勧告の一部だけを取上げたものでありまして、全面的のものではございませんが、このわずか一部の中にもやはり氷山の頭が現われておるのでございまして、シヤウプ勧告の精神がよく出ておると思うのであります。シヤウプ勧告の
一般方針は申すまでもなく直接税中心主義をと
つて、間接税や消費税はできるだけ軽減するわけで、
政府提出の今度の税法の改正案を見ましても、やはり直接税を中心にして、間接税をうんと蔵らすというシヤウプ勧告の線に沿うて行われておるのであります。ところが私はシヤウプ勧告につきまして、一学校
委員といたしまして多くの疑問を持
つております。その疑問としておりますものの二つの点が、今度の
関係あります減税案に使われておるのであります。念のために申し上げておきますが、私はシヤウプ勧告全体を通読いたしまして、まことにりつぱな近代的な勧告案であり、近代的な税制をつくろうとするものであることは言うまでもないのでありまして、私もその点は同感であります。ことにシヤウプ使節団の四箇月にわたる多大の労に対しましては、感謝を惜しむものではございませんが、しかしながら客観的に
一つ一つの案を見ますと。これは必ずしも全面的に賛成し得ないのでありまして、これにに多くの批評の余地があるのではなかろうかと思うのであります。ところが私の多少疑問に思うことが今度の減税の処置にも
関係がありますので、この点について率直に私の
意見を申し上げることをお許し願いたいと思います。
まず第一番の点は、織物消費税の全廃と物品税との
関係であります。御案内の通り
日本では、織物消費税と物品税とは法律が別にな
つておるので別の項目にな
つておりますけれ
ども、織物消費税とい
つても物価にかかる消費税でありまして、両方同じであります。ところがシヤウプ勧告を見ますと、こういうような勧告が出ております。織物消費税は現在四〇%かか
つておりますが、これを全廃せよ。それから物品税のうち、
くつ、はきものでありますが、これは現在二〇%かか
つておるが全廃せよ。その根拠は生活必需品に税金をかけるのはいかんからやめろというのであります。それから物品税のうちの甲種、すなわち宝石などでありますが、これに対して現在一〇〇%の税金がかかか
つております。宝石のような極端なぜいたく品には一〇〇%税金をかけてもよいのだけれ
ども、税金があまり重くなり過ぎると徴税上不便があるので七〇%に下げたらどうか、これがシヤウプ勧告であります。それから乙種、これは写真の機械なんかでありますが、乙種に対して八〇%の物品税がかか
つておりますが、これを六〇%に下げよ、それから
一般法人の
事業用、営業用品物、たとえば計算器をあげておりますが、こういうものは免税にするのがよかろう、こういうものがシヤウプ勧告の織物消費税並びに物品税に関する勧告であります。
これから私の
意見を申し述べさせていただきたいと思うのでありますが、この物品税というものと、織物消費税というものは有機的同一体をなしておるものでありまして、一方を減らすことによ
つて、ほかのものを捨てておいてよいかと申しますと、税金というものは、本来どんな税金でもみな弊害があるものでありまして、減税というものはどんな
方向から見ても減税することがよいのであります。つまりある品物を減税すれば、ほかの方はそのままにしておいてよいかと申しますと、ちよつとそうは言えないのであります。たとえば織物消費税の四〇%を減税にいたします。ところが物品税を見ますと、現在メリヤスには三〇%の税金がかか
つております。織物消費税の四〇%を減税するのだ
つたら、メリヤスはどうか、フエルトはどうかいうことになるのであります。それからまた生活必需品を免税にするのだ
つたら、たとえば歯みがきに対して現在物品税として二〇%の税金がかか
つておるが、これは減らす必要があるのではなかろうか等々いろいろ問題があるのであります。ところが今度の
政府の計画を見ますと、シヤウプ勧告において論ずべくして論じ得なか
つた問題、すなわち物品税と織物消費税その他消費税の不均衡を整備しようとする
努力をいたしまして、シヤウプ勧告にないような減税計画を立てました。私は率直に申しまして、
政府のこの態度には賛成であります。もちろん内容は別であります。なかなかこまかな案が出まして、何を幾らに減らしたとかなんとか書いてありますが、私は一々検討いたしませんでしたので、内容自体についてはいいか悪いかは別としまして、とに
かくシヤウプ勧告案よりもさらに一歩進んで、消費税の減税措置を研究したという点は、私は
シヤウプ勧告案にまさるものと
考えておるのであります。
ところが次の問題、給与所得税の減税でありますが、これに私今申しましたこととは少し
意見が逆になります。給与所得税の一月から三月までの減税でありますが、
政府の今度
国会に提出しております原案は、
シヤウプ勧告案を文字通り忠実にとりまして減税計画を立てたのでございます。これはもちろん給与所得税で、しかも源泉徴収の分だけでありますが、内容につきましては皆さん御案内のことだと思います。あれを見ますと、確かに形式上では減税にな
つております。形の上では減税にな
つておるのでありまして、だれひとり増税にな
つておるものはございません。原稿税率、改正税率によ
つて計算した租税負担高に関する表を見ますと、すべてのものが減税にな
つております。現にシヤウプ勧告におきましても所得税だけについて申しますと、所得税についてはすべての人について減税するので、だれの負担もみんな現在に比べて軽くするのだと
言つております。確かに形式的に見るとそうなるのでありますが、実質的に見ますと私は増税にな
つておる部分があると思うのであります。ことに勤労生活者に対する所得税につきましては、実質的に見て増税にな
つておるものが多いのであります。勤労生活者に対する、たとえば勤労控除が二五%が一〇%に下
つたとかその他につきまして、感じからい
つてどうも下げ方が少いという声はよく聞くのでありますが、数字によ
つて実質的に増税という証明をしたのが割合に少いのであります。そこで私は今日、
シヤウプ勧告案と、今度実施した
政府の原案は、勤労生活者については、実質的に見て増税になるということを、数字によ
つて証明したいと思うのであります。
シヤウプ勧告案ではなぜすべての人について
——勤労者も入れてでありますが、所得税の減税になるかというと、去年と今年の消費の価値が同一であると仮定したからであります。ところが事実は後に申し上げますように、
貨幣価値は同一ではございません。貨幣の価値が同一であれば、累進税でも何でも問題はないのでありますが、
インフレーシヨン社会においてはどうかと申しますと、累進税をかけておる税金でしかも
インフレーシヨンが起りますと、国民の租税負担が自動的に増すのであります。たとえて申しますと、一万円の所得に対して一割の税金がかかる、それから二万円の所得に対して二割の税金がかかると仮定いたします。ところがこの間に物価が二倍にな
つて貨幣の価値が二分の一にな
つた。そうすると一万円の所得の人が二万円の所得階級に入りますので、従来だ
つたならば一割の税金がかか
つてお
つたものが、今度は二割の税金がかかることになるのでありまして、累進税がかけられておる社会、しかも
インフレーシヨンが起
つて税制改革がない場合には、租税負担は自動的に増すのであります。これと同じ
関係が、今度の
シヤウプ勧告案を文字通り採用いたしました制度の中に現われておるのであります。そこで去年と今年の物価の騰貴率を比較いたしますと、
——去年と申しましても、私は二十三年の七月をとりました。なぜ二十三年の七月をと
つたかと申しますと、現行の所得税法が実施されましたのが二十三年の七月であるからであります。それから最近の物価指数は二十四年の九月をとりました。この二つの物価指数は
日本銀行の卸売物価指数をと
つたのでありますが、この二つの物価指数を比べますと、去年の七月に対して今年の九月は一・五倍すなわち五割増にな
つております。またもう
一つ勤労者の賃金指数を見てみますと、これは七大府県の男工労働者賃金指数でございますが、これを去年の七月と今年の八月と比較いたしますと、一八倍、八割ふえております。この賃金の方は
参考のために申し上げたのでありますが、とに
かく物価が五割増しておる。裏から申しますと貨幣の価値が五割減
つたことになる。だから別の見地から申しますと、去年の七月一万円の価値は、現在の価値に直すと一万五千円となるのであります。
従つて去年の一万円の所得に対する租税負担が、今度の改正案の一万五千円の者に対する税率と同じにな
つて、初めて実質的に見て増税でないということになるのであります。ところが今言
つたようにずらして計算いたしますと、実質的に増税ということになります。
政府発表の数字を使
つて申しますと、独身の勤労者で月に一万円の所得の者について去年の七月できた現行税率で計算いたしますと、独身で月給一万円の人に対する現在の税金は、千六百四十五円であります。パーセンテージから申しますと一六・四五%であります。ところが今度の改正案では一万円に対して幾らかというと、税金は千五百五十八円、一五・五八%であります。そういたしますと、去年の七月から行われておる現在の制度と
政府のこの改正案に比べますと、前は一六・四五%今度は一五・五八%でありますので、外観上〇・八七%減税にな
つております。こういう点から申しますと、すべての人について減税にな
つておるのでありますが、私がさつき申しましたような実質計算をいたしますと、増税にな
つております。すなわち具体的に数字を申し上げますと月給一万円の独身者の税率は一六・四五%であります。ところが今度の改正案における一万五千円のところを見ますと、二〇・九四%すなわち一万円の月給は実質的に一万五千円にあたるのでありますから、去年の七月一六・四五%であ
つたものが、今度は二〇・九四%になるのでありますから、差引四・四九%だけ実質的に申しまして、独身の勤労生活者の租税負担がふえているということが言えるのであります。これと同じ計算は夫婦者についても言えます。夫婦者についてどれだけになるかと申しますと、去年の一万円の者に対する税率は一四・九五%、ところが今度の改正案によると、一万五千円の者に対する税率は一八・二七%差引三・三二%の実質的増税であります。それから夫婦と子供一人の場合はどうかというと、去年七月の一万円に対する税金が一三・四五%であ
つたものが、今度の改正案で一万五千円の場合は一五・七七%でありまして、差引二・三二%の増税ということになります。それから夫婦と子供二人の場合はどうかというと、去年の七月の計算で一万円に対する税率一一・九%の者が、今度の
政府案で一方五千円のところを見ますと、一四・三〇%、差引二・三五%依然として増税であります。次に夫婦と子供三人の場合はどうか。去年七月の一万円に対する税率は一〇・四五%でありますが、一万五千円に対する
政府の改正案の税率は一一・三八%で、同じく〇・九三%の増税であります。これが夫婦と子供四人になりますと、実質的に減税になるのでありまして、これが一万円に対して九・九五%、ところが今度の
政府改正案によると、一万五千円に対する税率が九・四五%でありまして、差引〇・五〇%の減ということにな
つております。ここにな
つてやつと名実ともに形式的にも実質的にも減税とな
つておるのであります。私は今一万円のものだけと
つて一万五千円にしてその税率を見たのでありますが、八千円の者を五割増して一万二千円にしても同じ結果が出るのであります。これによ
つてわかることは、扶養家族の数の多いほど、実質的に見て負担が軽くなるということ、そして勤労生活者の負担というものは実質的に見て軽くな
つておらぬのであります。
なぜそうな
つたかという理由でありますが、これは
シヤウプ勧告案において次の二つのことがあるからこうな
つたのであります。すなわち
一つは、勤労所得は現在では二五%の控除が認められていたものが、
シヤウプ勧告案では一割控除に減らしたということであります。もう
一つは、これはあまり人が注意しないことでありますが、非常に重要なことであります。
シヤウプ勧告案においては税率はすべて累進税を減らしております。ところが私は二つの税率を比べてみますと、課税所得十二万円から二十五万円までの税率は、
シヤウプ勧告案も現在
日本で行われている税率も一致するのであります。こういうことがありますために、今言
つたように勤労者の実質的負担が重くな
つておると思うのであります。で私は今度来るべき通常
国会において、税制に関する全面的な改正が行われると思う次第でありますが御
当局においてこの点何とか御留意願いたいと思うのであります。
こういうふうに勤労生活者その他について申しますと、所得税はふえるけれ
ども、そのかわり間接税は減
つているところもあります。また
地方の住民税はふえています。その他価格調整費
廃止後の物価騰貴によ
つて負担を増す、また新給与ベースがそうな
つているか等、いろいろの問題がからんでいるのでありますが、私の申しました問題は所得税だけについて申したのであります。
それから租税の国民所得に対する割合でありますが、この租税の中には専売益金が加えてあります。これは結論を申しますと二十四
年度は二二%であります。もちろんこれは国税だけで
地方税は入
つておりません。これに対して二十五
年度は一八%でありますから、実質的に見まして、国民全体としての国税負担は、二十四
年度の二二%のものが二十五
年度は一八%で、実質的に減ることにな
つておることは事実であります。しかしまた以上二十五
年度について申しましたことは、
政府予算の大綱があの通り実行できるという前提に立
つているのでありまして、あの内容が狂
つて来れば、私の申しましたことの大部分がかわ
つて来るということは申すまでもないことであります。
これをも
つて私の
意見開陳を終ることにいたします。御清聴を感謝いたします。(拍手)