○圖司安正君 ただいま
議題となりました
東北振興——その範囲は、北方の寒冷積雪地帶、單作地帶をも含めて広く解釈するのでありますが、
東北振興に関する
決議案について、各党各派の
関係議員を代表いたしまして、その
趣旨を弁明いたします。
まず案文を朗読いたします。
東北振興に関する決議
東北地方(新潟県を含む。)は他地方に比して産業、経済、文化その他各般にわたりすこぶる後進的な地位にある。その因
つて来たる
原因は、降積雪が長期間にわたる等自然の悪條件も大きいが、更に
政府の施策がすべて画一的若しくは中央偏重的であ
つて、東北の自然と人心に合致しないところに最も重大な
原因がある。わが国経済が国際経済に復帰せんとする今日、
政府は、東北地方の現状を注視し、
日本経済興隆の一環として、本地方の産業振興を図るため、速やかに左記の施策を講ずべきである。
一 災害復旧費、
土地改良費、道路改修費、河川港湾構築費、学校建築費をはじめ公共事業費については国庫補助率を高めるとともに前渡金又は適実な
方法で
政府支拂の時期を失せざるの
措置を講ずること。
二 税制改革については降積雪期間における收入減と防雪、除雪、保温等の支出増とを充分に調査し、必要
経費の算定基準を明確化するとともに税率の
軽減その他の特別
措置を法制化すること。
三 地方財政平衡交付金制度を創設するについては、長きにわたる官民各界の中央さく取によ
つて疲弊困ぱいせる地方財政の実状にかんがみ、
政府が吸い上げる財政收入よりも少くない金額を、平衡交付金として配付するの
措置を講ずること。
四
昭和二十一
年度以降二十三
年度までの国税收入は、独り仙台財務局だけがいわゆる徴收目標額の一二〇%乃至一三〇%の実績なるについては、その一〇〇%を超過せる部分について付するか又は
昭和二十四
年度以降の減税額に充当するの
措置を講ずること。
五 未開発資源、観光資源等を積極的に開発して速やかに
東北振興の恒久対策を樹立実行すること。
右決議する。
第一は、東北地方は一年一作、すなわち單作地帶であるばかりでなく、風水害、旱害、凍害、冷害、雪害と災害の種類が多く、かつその頻発の度も高いのであります。
従つて、土木工事でも建築工事でも、不必要と思わるる個所が一番大切なのであ
つて、手数をかけ、頑丈につくり、それだけよけいな
経費がかかります。しかも、維持費や修理費がこれまた莫大であるばかりでなく、十一月から翌年の四月までは、寒冷や積雪のために工事ができませんので、工事はすべて十一月中に切り上げねばなりません。
従つて、全国一律の補助率では、工事量は三分の二にも充たず、それだけに、災害はさらに災害を重ねて、拔き差しならぬ結果になるのであります。この際補助率を高むるとともに、
政府支拂いは前渡金か、さもなくば分割拂いをも
つて繰上げ支給の道を開くこそ緊急事なのであります。
第二は、
シヤウプ勧告に基きまして、画期的税声改革が行われようとしておるのでありますが、東北地方の税率だけは、特別に税法の中に、明確に三分の一を減ずる旨の例外
規定をせよというのであります。御承知のごとく、今日の税法には、職業別や所得階軒別の考慮はなされていますが、地域別の考慮は全然なされておりません。税法ではありませんが、前国会において、議員立法として、
政府の
反対まで押し切
つて成立させた石炭、寒冷地手当を官吏に支給する
法律は、この
趣旨の
一つの現われでありますが、実は
農民や商工
業者には、いまだ何らの
措置も講ぜられておりません。これでは明らかに不公平であります。しかも、冬期の降積雪のため、健康経済にと
つて、一メートル以下は一二%、一メートル以上二メートル以下は一五%、二メートル以上三メートル以下は二〇%、三メートル以上は二五%の失費があるとは、農林省積雪地方
農村経済調査所の調査発表するところであります。この数字は、経済帳簿に記入して、明らかに
家計費の上に現われたものでありますが、それよりもなお單作地帶であるという莫大な損失は、苗代半作、取入れ半作等の俚言に徴しても十分に察知できるのであります。大蔵省は、それらの事情は課税調査に際して十分に考慮すると言われますが、もしそうとするならば、むしろ大蔵省が内部でこつそり手心を加えるよりも、税法の表に出して、はつきり税率を
軽減した方が、より政治的な効果があるばかりでなく、末端税務署においても、法規に
従つて徴税すればいいのであ
つて、考慮したとかしないとかい
つて、
農民あるいは商工
業者といざこざを起さずに済むのであります。(
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第三は、地方財政平衡交付金の問題でありますが、従来東北地方は、中央
政府及び中央の資本家から、白河以北一山百文の待遇を受けて参りました。たとえば、国有林收入のごときは年々一億円に近い、もしくはそれ以上の純益を献上して、他の管内の損失まで補
つて来たのであります。米しかり、木炭しかり、電気しかり、
国民経済、
国民生活に必要な基礎物質は、基礎物質なるのゆえをも
つて、不当な廉価で搾取され来つたことは、今日きわめて明らかな事実であります。しかるに、中央からの交付金または配当すべき利益は、二階から目薬の程度にとどまるのでありまして、おそらくは、どこの県の財政を見ても、中央に吸い上げられる国費
関係だけでも、国庫より交付される配付金、補助金等の総額の約二割か三割は多いでありましよう。そもそも地方配付税制度は、貧弱なる地方団体の救済を目的とする制度なるにかかわらず、結果は人口稠密な都会地を潤す制度と化し去
つてしまいました。財政が貧弱であればあるほど、国家の委任事務は地方団体の固有事務を圧迫し、やがては税の強化とな
つて、住民を塗炭の苦に泣かしむるに至るのであります。この際
政府は、直接、間接東北から吸い上げる財政收入よりも少くない金額を平衡交付金の配布基準の中に織り込んで、東北の財政を救済することの急務が痛感されるのであります。(
拍手)
第四は、最近最も大きな社会問題を巻き起している、いわゆる
税金旋風の問題でありますが、大蔵省発表の表に明らかなように、仙台財務局だけが、いつも第一位の好成績で、徴收目標額の一二〇%ないし二二〇%を示していることは、一体何を物語るでありましようか。おそらくは、正直にして純朴な東北人は、東北とごまの油はしぼればしぼるほど出るものなり、とのたとえのように、税務署のなすがままにまかせているがためでありましよう。しかも、われわれの実地調査によれば、今日の税務署員は、二十五歳以下の者が七、八十パーセント、二年以下の経験の者がこれまた七、八十パーセントであ
つて、そこにいろいろと、いざこざの耐えないものがあるやに推察されます。ともあれ、問題は、農林省のごとき、
超過供出米を三倍の値段で買い、報奬物資をくれるということもなく、ただ取りつぱなしの
税金のことですから、きわめて公平なる
措置としては、この際一〇〇%を超ゆる額だけは還付するか、それが手続上めんどうで、できなければ、本
年度以降の減税額に織り込むことの当然であることを強調するのであります。(
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第五は、
東北振興に関する恒久対策の樹立実行の問題でありますが、このことに関しては、
昭和八年の大凶作後、内閣に設置された
東北振興調査会の答申によ
つて、昨年の満鉄にならい、東北興業及び
東北振興電力の二会社をつくりましたが、かんじんの首脳部に官僚の古手をも
つて任命したるがゆえに、興業の方は半身不随となり、電力の方は
政府に統合されてしま
つたのであります。しかしながら、東北にいまだに眠
つている木材、石炭、亜炭、鉄、銅、硫化鉱、陶土、農産物、畜産物、海水産物その他の産業資源や電力資源等に、これを開発すれば、国土培養、経済復興には大きく寄與貢献し得るものであります。さらに十和田、朝日及び出羽、三山、磐梯、吾妻等は、わが国の北方地帶のすぐれた景観を世界に紹介する上にも見のがしてはならない観光資源であります。要するに、
東北振興方策については、原敬内閣以来、あるいは東北調査会、雪害対策調査会、
東北振興調査会等、相当の努力を拂
つて来られたにもかかわらず、いまだ有終の美果を收め得なか
つたのは、アメリカのTVAのごとき
厖大な構想と、思い切
つて根本的、恒久的施策を強力に推進するの力がなかつたからであります。
最後に強調いたしたいことは、文明は北進するという世界の常識であります。資源と人口とのアンバランスを最大の苦悩とするわが国の將来に残された唯一のホープは、東北以外にはないではありませんか。しかるに、東北を現在のごとき原始産業のままに放置して、いたずらに採取の対象となすがごときは、国家の一大損失でなくて何でありましよう。玉みがかざれば光なし、一日一刻も早く、
政府は
東北振興の総合国策について、責任をも
つて万遺憾なきを期せられんことを切に要望してやみません。(
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