○梨木
委員 それでは
人権擁護に関する
決議案をまず
朗読いたします。
基本的人権が侵すことのできない
権利であることは、
憲法の明記するところである。
しかるに最近政治的な差別待遇が行われ、思想の自由、集会、結社、言論の自由、学問の自由が圧迫されていることは公然たる事実である。
さらに逮捕状のらん用、不当な長期勾留、ごう問による自白の強制、弁護権の制限、客観性なき見込捜査による人権じゆうりん、また検事の予定する供述をしない証人を法廷で偽証罪の現行犯逮捕をするという暴挙まで行
つている。
さらに
犯罪捜査にあたり、検察官、警察官が故意に証拠を隠滅して、重大
事件を政治検挙に利用している。
終戰後、内外の民主勢力によ
つて獲得された
基本的人権がこのように圧迫されていることは、民主国家として再建すべき日本にと
つて悲しむべきことである。
よ
つて政府は、
人権擁護のため、これらの人権じゆうりんの責任者を処罰し、且つ今後絶対にかかる事態をじやく起せしめざるよう
措置すべきである。
右
決議する。
提案の
理由を御
説明いたします。まず
決議案の内容において言
つている事実を指摘したいと思うのであります。政治的な差別待遇が行われている事実、これは第一に最も顯著な事実を一つ
二つ申し述べます。去る七月十九日に発表されました国鉄の従業員の整理にあたりまして、国鉄労働組合の中央闘争
委員は全部で三十五名あつたわけで、ありますが、そのうち共産党員は十二名を占めてお
つたのであります。ところがこの整理にあたりまして、共産党員の十二名は全部解雇されております。そうしていわゆる民同派といわれていた人は一人も首切られておらないのであります。革同派と称せられておつた人は九名中五名が馘首されております。
次に八月十二日に発表された全逓の整理におきましても、中央闘争
委員三十六名中二十九名までが整理されて、そのうち共産党員である中央闘争
委員十六名は、全員解雇の対象にな
つているのであります。
もつとも当局の
説明によりますと、整理の
理由は、こういう人たちは協力的でなかつたというようなことを
理由にあげているのでありますが、これは全然一つの弁解、逃げ口上にすぎないのでありまして、労働組合の役員が組合員の労働條件の改善のために闘うのは当然である。その過程におきまして、当局と協力的であり得ない場面があることは当然であります。もしこういうことでありますならば、組合活動が全然できないことになるのでありまして、これは労働組合を戰争中の産業報
国会のようなものにしてしまうということを意味するのであります。こういうような整理のやり方というものは、これは明らかに政治的な信條、また思想の自由の蹂躙にもなると思うのであります。つまり共産主義的な思想を持
つているということによ
つて、差別的な扱いをしているということの明白な現われであると思うのであります。これが一つ。それからこれはやはり政治的な差別扱いとも関連するし、同時にこれは思想の自由、学問の自由に対する大きな圧迫の現われと見ることができるのでありますが、たとえば人事院の例の公務員の政治活動禁止に関する規則、これなども明らかに国家公務員の政治活動の禁止という形を通じて、実はこれは共産党の党員の政治活動をことさらに禁止することをねらつたものであ
つて、事実この人事院規則ができました後におきまして、共産党のいろいろな活動というものが非常に制約されて来ている。またこれを
理由に強制的に辞職を強要されている事実もあります。これは前会の当
委員会においても、私が人事院総裁に質問したところの事実においても現われておるのであります。国家公務員の政治活動の禁止に関する人事院規則、この規定を見ますと、なるほど政治的な目的と政治的な行為というものをわけております。政治的な目的というものは、特定の
内閣を支持し、あるいは支持しないというような、そういうことなのだ。この目的がなければ、いろいろの政治活動はこの規則の対象にならないというような、こういう観念的なわけ方をしておる。しかしながら政治活動というものは、時の権力に対して賛成するか反対するか、どつちかなのであります。具体的に共産党は今
吉田内閣に反対しておる。だからすべての活動というものは、政治的目的を持つたことになる。従
つてあの人事院規則にきめられておるほとんど広汎なあらゆる政治的活動というものは、全部政治目的を持つたということにな
つて、この人事院規則の対象にな
つて来まして、非常な重い罰則をも
つて抑制されておる。こういうことは戰争中の東條軍閥でもやらなかつたはずなのであります。こういうことが行われておる。そうして結果といたしまして、この人事院規則を利用いたしまして、盛んに政治的圧迫というものが行われておる。職場で壁新聞を張つたということだけで辞職を強要されたり、あるいは共産党員であるということで首切りの対象にすでにあげられておる。新潟大学におきましては、職員組合の
委員長であつた医学部の助教授の三上美樹という人が首切りにな
つておる。同時に副
委員長で、理学部の助教授村川新十郎、さらに理学部の助教授關根榮雄、この三名が新潟大学で首切り解雇をされておる。これはすべて共産党員であります。それから新潟第一師範におきましては横田伊佐秋教授が辞職を勧告されておる。他に看護婦二名、これも共産党員でありますが、辞職を勧告されておる。それから科学博物館におきましては、学術
会議員であり、理学博士である井尻正二氏、これに対しては高瀬文相が二十九日に中井館長を通じて馘首の勧告をしたというのであります。これが馘首されておる。井尻氏は中井館長の言によりましても、博物館の
運営上なくてはならぬ人であるが、共産党員の親玉であるから、これは切らなければならぬということで首を切られておるのであります。こういうことが平然と行われておるのであります。
それからさらに朝鮮人学校の閉鎖、これも政治的な差別扱いであります。それに
大阪府教育
委員会におきましては、教職員の整理基準の中に、特定の政党に入党している者、または入党しておると認められる者、あるいは影響あると認められる者、こういう者を整理基準の一つにあげておるのであります。特定の政党とは言わずもがな、これは共産党を指しておるのであります。こういうことが行われておる。さらに結社の自由の制限に至りましては、たとえば朝鮮人連盟に対する結社禁止のごとき、これは団体等規正令によ
つて解散さしたというのでありますが、たれが見た
つて終戰以来今日まで、あの例の解散まで、朝鮮を日本軍国主義が植民地にして以来というものは、どれだけ日本の支配者たちが朝鮮人に迫害を加えて来たかということは、われわれ自身がよく知
つておる。この日本が敗戰と同時に、朝鮮の諸君が、この長年の日本の軍国主義に対する憎悪から解放された一つの喜びの爆発の過程の中において、どんな騒ぎが起るかも予想もされないような事態が考えられたときに、内地の朝鮮人諸君に一定の組織と秩序と安定性をもたらしたものは、これは朝鮮人連盟ではありませんか。これは日本
政府もその他
地方公共自治団体も認めておるところなのであります。どれだけ日本
政府並びに
地方公共団体に協力して来たか、これは周知の事実であります。なるほど終戰時の混乱において、日本人から見れば目に余るようなこともありました。しかしながら朝鮮人連盟がこれらの人々に、日本の内地でいろいろの紛争や混乱を起さないように秩序と組織を與えて来たというこの功績というものは、否定することはできないと思います。そうして日本の民主化に協力して来ているということも、この団体は民主的な団体であるということも、これは
何人も疑うことができないと思います。これを一片の政令で、暴力的な団体であるということで、あるいは非占領軍的な団体であるということで、行政庁の一認定によ
つてこの結社が禁止されてしまつた。そうしてきのうの新聞によりますと――これは
法務総裁にも伺いたいと思うのでありますが、この団体等規正令は、今後もちよいちよい発動するだろうというようなことを聞くのであります。この団体等規正令というものは、最近におきましては、
国民の民主主義的な常識から言えば、これは実際だれが見ても民主主義的な団体だと思われるものが団体等規正令で解散されるのでありますから、こういう程度のことがちよいちよいやられたのでは、まつたく結社の自由というものは風前のともし火である、ふつと吹きさえすればふつ飛んでしまうような、そういう不安定なものであるというような感じを受ける、そういう事態に今あるのであります。集会の自由のごときも、たとえば前進座が佐賀県におきまして県下を巡業しようとしましたら、前進座の公演には県下の学校
施設を使用してはならない、こういう通告をしておる。せつかく観劇に集まつた人々に解散を命じてしまつた、仕方がないから場所をかえて野外で歌舞伎をやつた、これは一例でありますが、前進座の公演については、
全国的にこういうふうな会場に対する妨害というものが加えられております。これも明らかに集会の自由に対する妨害であります。また私はこの間ある会合へ行きましてびつくりしたのですが、
東京都の條例というものが出ている。その
東京都の條例というもので、消防上の必要があるからというわけで、七日前に集会の届出をして、許可がなければ集会ができないのだ、こういうことをや
つておる。まつたくむちやくちやです。それから例の公安條例のごとき、これは前
国会におきまして、当
法務委員会におきましても問題にな
つたのでありますが、
全国的に公安條例というものが
地方におきまして制定されまして、これによ
つて憲法が保障しているところの集会や結社の自由というものは、だんだんだんだん狭められて行き、これによ
つて基本的な自由というものが抹殺されようとしております。こういう
一般的な政治的な自由、思想、集会、結社、言論、学問の自由というものを抑圧、制限されようとしておる。この傾向の中で最も端的に露骨に現われて来ているのが、
裁判と検察であります。すなわち逮捕状の濫用です。逮捕状は、申し上げるまでもなく
刑事訴訟法におきましては、罪を犯したと疑うに足る相当の
理由がなければ逮捕状の請求もできないし、
裁判官はまたこの逮捕状を発行してはならないのであります。ところがこの逮捕状がみだりに請求され、またみだりに発行されておる。その一番ひどい例というのは例の三鷹
事件におきまして、一番先に逮捕されたところの山本久一君の場合であります。これは御案内のように、三鷹
事件、無人電車の嫌疑者として逮捕されておるのであります。ところが二十日も勾留の後におきまして、全然三鷹
事件に
関係がないということで釈放されておるのであります。あれほど三鷹
事件というものは全日本の関心を呼だ
事件であります。
事件の実際の捜査の過祥を見てみますと、電車がつつ走つた、これは無人電車なのであります。だからどういう原因でこれが発車したかということは、調べて見なければわからぬはずです。調べて見て、これが人為発車であるということがわか
つて、初めてこれには何か
犯罪があるということで、
犯罪の捜査が始まるはずであります。ところが一体これに対して、どれだけ人為発車か自然発車かということで捜査がなされておりますか、七月の十五日午後九時二十三分にこの
事件が起
つて、同夜はほとんど調査は行われておらないのであります。翌七月十六日の十一時からもうすでに電車の解体、復旧工事にとりかか
つております。われわれの情報では、その前はわずかに国鉄当局が調べただけであります。今までの常識から言いまするならば、国鉄で一つの事故が起ると、その事故の原因はどこにあるかという究明のために、三日も五日も一週間も、ひどいのになると一月もかか
つて原因の究明に專門家がとりかか
つておるということを聞いておる。あれほどの大きな事故を起しておきながら、これに対するどんな原因でこの事故が起つたかという調査というものは、ほとんどなされておらない。そしてしかも私の情報によれば、十六日の十八時前に何か東鉄の電車区の方で調べたそうでありますが、その捜査
報告書なるものは、何ゆえか
検察庁の手によ
つて公表がとめられておる。こういう
状態のもとにおいて、逮捕状が山本久一君と飯田君に発行されておるのであります。しかも発行される前に、二名に対して逮捕状が出されたという新聞の号外まで出ているというような事態が起
つている。これは最も明らかな逮捕状の濫用であります。私の聞くところによると、
山口県におきましても、ある争議団を彈圧するために、検事正自身が、自分で逮捕状を書いて、そしてそれによ
つて逮捕したという
事件があつた。これは職権濫用罪で告訴されたのでありますが、
被告人は無罪にな
つております。こういうことも行われておるのであります。
それから不当な長期勾留、これは平
事件におきましても、三鷹
事件におきましても、非常に不当な長期勾留が行われておる。それから拷問による自白の強制、これは三鷹
事件あるいは福島の列車顛覆
事件、こういうものに端的に現われている。今日われわれは拷問というと何かけつたりなぐつたり、そういうことをしなければ拷問でないように考える、しかしながら拷問とはそういうものに限つたわけではないのでありまして、要するに調べる相手方から自分の
希望するような供述を引出すために、精神的なあるいは肉体的な苦痛を與えることが拷問です。この点については三鷹
事件におきましては、すべての被告諸君が公判廷で述べておる。齢四十の飯田君があの公判廷において、いかに検事からひどい脅迫おどかし、そういうものを受けたか、それを切々と涙を流して述べておる。こんなことは芝居でできることじやありません。二十そこそこの若い労働者が涙を流して、この検事の調べ方に憤激を持
つて、拷問の事実を明らかにしている。これは決してなぐつたりけつたりとは言
つておらない。しかしながら、お前は今白状しなければ死刑か無期刑になる、白状すればまあ三年か五年か七年くらいで出られるだろうと、検事が自分で
裁判するようなことを言
つておる。それからもう証拠は全部上
つている、ほかの人はみな陳述している、しないのはお前だけだ、こういうやり方だ。それから親思いの被告だとすると、この親思いであるということを巧みに利用して、お前の親は今病気で非常に困
つている、うんうんうな
つている。こういうことを言
つて、被疑者の心理の弱みにつけ込んで、そしてむりな自白を強要されておるのであります。でありますから、拷問というものは人権思想の発展とともに、民主主義の発展とともに、そういう行動が拷問であるか、これは時代とともにかわるのであります。今日三鷹
事件に加えられたこれらの行動というものは、明らかに拷問であります。独房にせつかくある窓を七分目か八分目まで目隠しすると、部屋の中がまく暗になるでしよう。それは共謀通牒を防止するためにや
つておるのであります。身柄まで拘束している。今日の
基本的人権尊重の建前から言
つて、これほどまでのことをしなければならぬということは、われわれはとうてい肯定することはできません。
弁護権の行使のごときもそうです。検察官は、
憲法上
弁護人と
被告人との面会、
交通を禁止することは絶対にできないことにな
つております。ただ捜査の必要上、ある程度時間を指定することができるという規定を利用いたしまして、検察官の指定のない限り会わしてくれないということで、
弁護人との
交通を妨害しておるのである。松川
事件のごときにおきましては、
被告人は七人かお
つたのでありますが、
弁護人がその
被告人全部に会うのに一週間もかか
つておる。こういうことでどうして弁護権の十分なる行使ができるでありましようか。
それから客観性なき見込み捜査による人権蹂躙――三鷹
事件、松川
事件など明らかにそうです。今日その事実が、公判廷において具体的に現われておる。竹内被告は、自分の単独犯であると言
つておるではないか。それをむりやりに共犯ということでみんなひつぱる。検察官が自由法曹団の弁護士をことさらに、あれは天下の大うそつきだというようなことを言
つて、断らしている。そうして検察官が立会いの上で、
弁護人を竹内被告に
紹介をして、そうして弁護をつけておる。こういう差出がましいことをや
つておる。差出がましいというより、これは実に悪質なやり方です。これは今朝の都下の新聞に出ておるはずであります。ほかの新聞は見ておりませんが、朝日新聞には出ておりました。これは客観性なき見込み捜査をやつたがために、こういうむりをしなければならないことにな
つて来ておるのであります。
それから検事の予定する供述をしない証人を、法廷で偽証罪の現行犯で逮捕する。これは千葉県で行われておる。千葉県におきまして、法廷におきまして偽証罪の現行犯で逮捕されたという事実がある。それから三鷹
事件におきましてもそうです。石川君と金君と二人は、高相
会議に中座した者があるかないかと言われて、中座した者がありませんと言つた。そうすると、お前は偽証罪だと言
つてこれをひつくく
つておる。こういうことが平気で行われることになりましたならば、どうなる。ここに一つの
犯罪があつたとします。たとえば火災が起つたとする。一方その附近に検事からにらまれておる人間がおつたとする。よし、その
機会だとばかりこれをひつぱる。ひつばられて来た嫌疑者が、いや、私は放火などしませんと言
つて、いろいろ自分の無実を証明する証人を出す。すると、その証人を一々、お前は偽証だとして検挙し起訴するということに
なつたら、この嫌疑者はどうして自分の無実を証明する手段がありますか。ないじやありませんか。このことを三鷹
事件の被告諸君は、実際涙を流して訴えているのです。ほんとうの事を言
つても、それは偽証だ偽証だ、それはうそだと言
つて、その証人を全部ひつぱる。おどかしてひどいのになると、十五回もひつぱる。そうして調べて、検事の要求するような供述をしないからというわけで、十五回もひつば
つておる。こんなに証人として呼び出されたら、だれだ
つていやにな
つてしまう。