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高橋(一)
政府委員 それでは五十万円という
金額を
考えました経過をまず御
説明いたしたいと思います。死刑の執行の場合の
補償金を五十万円以下といたしましたのは、結局その
程度をも
つて相当であるというふうに御
説明するほかはないのでありますが、このような結論に達しますまでの
考え方といたしまして、死刑の執行をした後無罪に
なつた例は、現在までもございません。将来もこのようなことは実はあ
つてはならないわけでありますが、このような場合につきましては、
裁判所が具体的な場合に応じて
決定するところに一任するという現行法がありますけれ
ども、そういう
考え方に合理性があるのではないかということも
考えられますが、こういう場合にもやはり
最高限度を定めるべきであるという有力なる
意見がございまして、いろいろ資料によりまして調査をいたしたのでありますが、現実に死刑の執行を受ける者の年齢、家族
関係、その他あらゆる
事情が千差万別でありますために、統計的に幾らを相当とするかということを示すことが不可能であることが、実はわか
つたのであります。結局
社会通念によ
つてきめなければならないというふうにな
つたのであります。その際に私
どもの
考えましたことは、まず
刑事補償は不法行為に基く
損害賠償ではないのでありますから、生命の侵害に基く
損害賠償の前例をも
つて、この場合の
金額をきめる基準にすることは適当ではないということであります。生命の侵害につきまして、
故意または
過失があればその責任は重大でありまして、
精神的、物質的の全損害を賠償すべきことはもちろんであります。死刑の執行につきましても、公務員に
故意または
過失があるならば、国は
国家賠償法によ
つて全損害を賠償いたします。
刑事補償はそれとは違いまして、公務員には一応
過失がない場合を
前提としておるのでありまして、
故意、
過失がある場合と同一に
考えることは理論的でないばかりでなく、その必要もないと
考えるのであります。それからホフマン式計算
方法ということがよく言われるのでありますが、これは生命侵害による物質的損害算定の
方法でありまして、純粹の慰藉料の算定には実は利用ができません。現在毎月赤字続きの生活をしておる者にとりましては、ホフマン式計算
方法を用いますと、実に奇妙なことでありますが、損害がゼロにな
つて出て来るというようなことがあるのであります。以上のことを十分に
考えました上で、一応参考とするために、生命侵害の場合の
損害賠償額場を計算してみました結果、次のような数字を得たのであります。計算の
前提として必要なのは年齢別の
收入でありますが、これは総理府統計局の調査によりますところの昭和二十三年十月の六大産業分類別年齢階級別一人当り一箇月現金給與額によるものといたしまして——それ以外に適当な年齢別の
收入調査が見当らなか
つたのでありますが、これによりますと、二十歳の者は三千八百九十四円、三十歳の者は七千八十円、四十歳の者は九千三百九十円、五十歳の者は九千七百九十八円という数字が出て参
つたのであります。ホフマン式ではこれから所得税を差引き、さらに一人分の生計費を控除するのでありますが、生計費は経済安定本部統計課の調査によりますところの、昭和二十三年十月の東京における生計費を一世帶当り人員四・五人で除して得た一人当りの生計費、二千六百十二円というものを使
つて計算してみたのであります。所得税は二十歳の者については一割五分、その他の者につきましては二割といたしまして、その結果ホフマン式によ
つて計算してみますと、二十歳の者は十八万八千百二十四円、三十歳の者が七十五万二千九百八十九円、四十歳の者が百三万百七十六円、五十歳の者が八十七万四千一二百一五円という数字を得たのであります。以上がホフマン式計算によりますところの結果でございますが、そのほかに慰藉料が加わ
つて全損害となるのでございます。しかしこの計算にはいろいろの推定の不正確な数字が基礎とな
つておりますので、その点最初に申し上げたように、非常に考慮を要するのではないかというふうに
考えておるのであります。さらにこれを
故意、
過失のない場合に引直しますことは、とうてい数字的に不可能なわけでありまして、最後はやはり最初に申し述べた
通り、大体の達観と申しますか、そういうことで
金額をきめざるを得ないことに
なつたわけであります。先ほどの御
質問の
趣旨に多少はずれておるかもしれませんが、五十万円という
金額は、以上のような
考え方を経て定めたようなわけであります。