○森国務大臣
農業政策というものは、今驚天動地の目新らしきものが発見されるものでもないのでありまして従来
農業政策というものが各般の問題に総合的に計画されておるのであります。その政策をどの点に中心を置いて行くかということが問題でありまして、しかも現在の
日本の情勢は、御
承知の
通り予算編成すら
日本みずからの力によ
つてその大綱がきまらないという状態において自主的な根本的な
農業政策を、樹立してこれを推進するということは、なかなか容易ならざることと
考えるのであります。われわれはこの狭い郷土を持ちまして、いかにしてこの多数の
農業者が生活の基準を高めて行くかということが問題であります。一面においては、
日本の食糧が海外より輸入されてまかな
つておるという
現状から見まして、この食糧の確保ということを主として取上げなければならないのであります。この食糧増産ということと、
農業者の生活基準を高めて行くという面とは、おのずから
考え方をかえて行かなければならぬと思うのであります。ただ食糧を増産すれば、それだけ
農業者の生活が高ま
つて行くということには結論されないのであります。われわれは今、
日本の場合は、何をおいてもこの食糧の自給率を高めて、海外依存を少くするということは、将来講和條約の結ばれた場合におきましても、その問題が第一に
考えられて行くのでありますから、従来とてもと
つて参りました食糧増産の道を、一層強化して行かなければならぬと思うのであります。
日本の
農業政策の将来といたしましては、局限されたる角度において、増加し行く人口をどういうようにしてまかな
つて行くかということと、この
農業に従事しておる国民の生活基準を高めて行くということを、取上げて行かなければならぬと思うのであります。増産の面におきましては、北海道のごときまだまだ増産の余地がありますので、
政府におきましては、特に北海道の
耕地の開拓、食糧の増産について力を入れておるわけでありますが、
日本の今日の
事情は、申し上げるまでもなく年々歳々風水害に見舞われるのでありまして、昔といえ
ども大風、大雨がなか
つたとは思われぬのでありますが、いかにも近年の風水害のはなはだしさということは、結局戰争の余波を受けた国土の荒廃ということが第一に数え上げられますので、われわれは耕作の安全性から
考えましても、また国土の安全性から言いましても、治山治水ということに一番骨を折
つて、そうしてわずかくらいな大風、わずかくらいの大雨にも
被害がないように国土を守るということを、根本的に立てて行かなければならぬと思うのであります。
なお次の問題といたしまして、
農業経営の問題でありますが、今後世界の食糧が——むろん一縮一張ありましよう。今は非常に潤沢でありますけれ
ども、またどういうふうに世界の食糧
事情が悪くな
つて来るかもわかりませんが、とにもかくにも現在では世界の食糧
事情はいいのであります。いいのであるが、今はこういう国が閉じられてお
つて、自主的な貿易がないのでありまして、アメリカから食糧をもら
つておるという
事情でありますから、みずからの
考えをみずから延ばすということはわれわれ容易な事柄ではありませんが、将来におきまして、世界の食糧と
日本の農産物の生産が対立して行くということを
考える場合に、どうして
日本の農産物を市場において優位な位置を占めさすかということでありまして、現在では外国の食糧が
日本の食糧よりは高いのでありますが、もしこれが
日本の農産物より
価格が下るということに
なつた場合において、はたして
日本の食糧が今の形でなしに——今はガリオアとして来るのでありますけれ
ども、今の形でなしに、どんどん外国から食糧が輸入されるというような場合を想像いたしますときに、昔のように関税政策ということが行われればともかくも、今後はそういうこともなかなかむずかしい
事情があろうと
考えますので、
日本の農産物は海外の農産物の
価格というものを
考えて今後
考えて行かなければならぬと思うのであります。それにしましても、現在の生産費をできるだけ低めて行くということは、いずれの時代でも必要でありまして、外国の農産物の
価格が高いから
日本の農産物の生産費も上
つてもいいということは
考えられないのでありまして、どういう
事情のもとにおいても、その生産費を切り詰めて行く、生産原価を安くして行くということは
努力しなければならぬと思うのであります。それにしましては、まだまだ
日本の
農業協同組合ができて間もないことでありますが、これから協同組合の健全なる発達を指導いたしまして、協同組合の力によ
つて、
農業者が真にみずから生きる道を進めて行くと同時に、耕作の上におきましても、品種の改良あるいは栽培法の
改善、あるいは肥料等、また
農業経営の組織の上においてこれを有畜化し、あるいは工業化して、
農業経営が楽に行けるような政策をと
つて行くということでなければならぬと思うのであります。今ただちに驚天動地のような新しい
農業政策を立てるということは、今日の
日本の
事情におきましては
考えてもでき得ないことでありますので、私は一日も早くそういう時期に達するということを望むと同時に、こういう現段階におきましても、みずから
農業経営の上において、そういう気持をも
つて各般の指導をして行くということにしたいと
考えているわけであります。