○林(百)
委員 日本共産党を代表しまして、
所得税法の臨時特例に関する
法律案には反対、それから
物品税法の一部を改正する
法律案にはやはり反対、織物消費税並びに取引高税を廃止する
法律案には賛成の意を表したいと思うのであります。
そこで反対の理由を簡明に申し上げますと、このたび吉田
内閣のかねやたいこの宣伝であつたところの減税なるものは、ようやく二百億の減税という結果をわれわれの前に示したのでありますが、この減税の柱となるものが三つあると思うのであります。この三つの柱のもとにこのたびの吉田
内閣の減税なるものが出たと思うのであります。一つは給與所得の百四十九億の自然増、いわゆる増徴、それから第二には法人税の大体
本年度見込額の倍であるところの二百二十七億の増徴、第三には申告税がこれも当初
見込みよりは少くなりまして、千七百億しか大体
收入見込みがないというのでありますが、これは十月末までにはようやく三百九十九億、約四百億しかとれていない。すなわち二割一分しかまだとれていない。十一月から三月までの五箇月間にはさらにこの申告税は、実に従来の上半期の三倍半の千三百億に近いものをとらなければならない。この申告税は文字
通り深刻なる影響を国民に及ぼすものと思うのであります。そこでこの吉田
内閣の二百億減税なるものを見ますと、実はこの二百億の減税の陰には、かかる苛酷な三つの條件が付されておるのでありまして、これは一片のパンを国民に與えながら、実は猛烈な下剤がこの陰に含まれておるという結果になると思うのであります。ここで私たちはこのたびの減税に対する三つの柱、いわゆる勤労所得税の百四十九億の自然増、法人税の二百二十七億の自然増、それから申告税の上年期分の約三倍半に近いものを下年期でどこかで取上げるという、この三つの條件はまつたくわずか二百億の減税という條件にはかえがたいところの苛酷な條件で、これを人民大衆に與えるということのもとに私たちは反対するのであります。
まず第一に勤労所得の百四十九億の増徴の問題でありますが、
政府は
日本の勤労階級は実質的にも名目的にも賃金の内容は向上し、生活は安定の一途をたどり、まことに御同慶の至りであるということを、各大臣が本
会議場で述べておるのでありますが、実際われわれの調査で、たとえば国会の統計要提によ
つても、
日本の勤労階級の実質的な賃金はこの一月には四六であつたものが、六月には四〇に減
つておるのであります。そのことは同時に
補給金の廃止に基く
物価高、あるいは電気代の三割値上げ、ガス代の五割値上げ、
主要食糧の一割値上げ、貨物運賃の値上げ等によ
つて、われわれは実質賃金の低下の傾向は、今年の下半期においてもやまないというように見ておるのであります。ところが問題はその実質賃金の低下のみではなくして、名目賃金ですらすでに切り下げられようとしておるのであります。これは日経連が各経営者へ出した通達を見ますと、次の方針が決定されておる。第一には固定給をだんだん半固定給にして来るということ、第二は欠勤の場合の賃金は三割方引下げる、退職金も半固定給の場合には従来の三分の一に切り下げるというような名目的な賃金の切下げにまで、
日本の資本家団体は漸次その方針を遂行しておるのであります。しかも賃金の遅欠配の
状態から言いますと、一月には一一八六であつたものが、この五月には三一七四という猛烈な賃金の遅配
状況であります。このことは勤労階級全体から言うならば、明らかに名目賃金すらすでに低下の傾向にあると言わざるを得ないのであります。しかも勤労所得の
本年度の自然増の中には、上半期分の行政整理による退職金という要素が含まれておるのであります。こういう退職金という課税の要素を含めての自然増の
数字をそのまま認めるということになれば、明らかに本年下半期においてもさらに行政整理、首切りを予定しておるとわれわれは
考えざるを得ないのであります。そうした
状態でありますから、今や実質的にも名目的にも、
日本の勤労階級全体としての賃金の構成は下向の
状態をたど
つておる。
従つてこれをカバーしようとすれば、わずかな名目賃金を得るためにも大きな労働強化がしいられるということが、結果として現われて来るのであります。
そこで
日本の勤労階級の生活内容を簡單に調べてみますと——今の勤労所得税の納税対象にな
つている勤労階級の
状態を見ますと、大体一人から四、五人家族では、月収のうちの四割から三割は
赤字にな
つている。これは事実であります。
池田大蔵並びに各大臣は、勤労階級の生活
状態は非常に向上していると言いますけれ
ども、実際に各家庭では四割から三割が
赤字である。これはわれわれ国
会議員ですら、すでに滞在手当二百円を五百円、六百円に上げなければとうていやれないという事実から見ても否定できないと思う。しかもこの
赤字を借金で埋めている者が三割、食費を切下げている者が一割六分、売食いをしている者が一割五分という
状態であります。食費の切下げの中には、今まで食べたものよりは安いものを買
つて何とかこれを切抜けようとしている者が六割三分、また今まで食べたものの量を減じて、何とか生計費を節減しようとしているものが二割三分という
状態でありまして、ますます食費の方へ食い込んで行き、安いものを食い、量を減じ、からだを粉にして家計の
赤字を埋めているという
状態であります。しかも
配給物の
受取れない
状態から申しますと、二日、三日
配給物を
受取ることができずに遅れるという家庭がほとんど五割であります。
配給物が来ても、金の都合ができないというので
受取りが二日から三日遅れるのが、
日本の勤労所得者のうちの大体五割を占めているのであります。しかもこうして
受取つた配給が——大体一月分の
配給で十日分足りないというのが全家庭の五割を占めております。
従つて配給物の受配が遅れ、しかも
配給量が十日分も不足しますから、やみ買いをしなければならないという家庭が六割九分、七割近くも占めてお
つて、このために家庭の生活はますます苦しくなり、今や
配給物を
受取るにはぜひ掛売りをしてくれという要求は、全勤労階級の実に八割三分を占める
状態にな
つているのであります。さらに住宅問題から申しますと、狭くてどうしても今の
状態では休むことができないという家庭が全勤労階級の五割七分、衣料の点から申しますと、洋服だとか子供の衣料というところまで行けば上等であ
つて、一番われわれの衣料で基礎的なものであるはだ着がほしいというのが、二割三分という
状態である。しかもこのはだ着を手に入れることができない。はだ着が満足できたら洋服なりふとんなり子供の着物がほしいというのが一割四分から二、三分という
状態ににな
つているのであります。
こうしてますます家庭の生活が苦しくなりますから、何とか残業でもしてわずかな名目賃金をあげようということで、従来よりも二時間残業して残業手当をほしいというのが、従来の四倍から五倍であります。この結果、
日本の勤労所得者の肉体的消耗は非常に過度にな
つておりまして、何とかして月のうち二日、三日休みたいという希望者で、大体二日希望者が三割、三日希望者が二割八分という
状態であります。最近の国鉄労働組合浜松工機部からの陳情書によりますと、いよいよ食えなくな
つてしまつた。昨年六千三百円ベースという低水準をきめられて以来、全従業員は戰後四年の窮乏生活にやりくりの道も今はまつたくとだえて、毎日の生活維持のため塗炭の苦しみの中に辛うじて職務を守
つて来ましたが、遂に困窮その極に達し、ここにわれわれは現在最低生活費九千七百円の要求を団体交渉をも
つて行いましたが、今も
つて政府は誠意を示さないというのであります。こういう
日本の労働階級の生活
状態の中から、この百四十九億の自然増を見込むということ、わずか五十六億を減税しておりますけれ
ども、実は九十二億の自然増を認めるということは——この九十二億というものは、
日本の全勤労階級にと
つては血と肉をはまれるようなものであると思うのであります。しかもこのたびの減税によりまして、具体的な例を申し上げますと、家族五人で月収九千円の者は、このたびの改正税法によりまして、月額三百五十五円の黒になるのでありますけれ
ども、一月から
主食の公定
価格が一割上ることによ
つて、月に三百七十五円従来より
主食の
増加支出がありますので、結局二十五円
赤字になります。一方東京都に住んでいる夫婦と子供一人、三人家族の者で、従来の都民税が地方税改正により二・六倍に上るということになると、今度の税制改正により得る利益はけし飛んで、百五十五円増税になるという
状態であります。こういう
状態で、われわれは
物価の
値上りあるいは地方税の増徴によりまして、このたびの減税の
程度では、
日本の勤労階級にと
つてはプラスになるどころか、大きなマイナスになると言わざるを得ないのであります。
さらに私の方の党としましては、勤労所得税そのものは、
日本の勤労階級のごとき低水準の生活をしているものに対しては、かけるべきでないという
見解を持
つているのであります。一応
外国の例を調べてみますと、米国の労働者の平均賃金は週五十五
ドル、月に二百四十
ドル、八万六千余円であります。それに対する
税金の
負担はわずか一・一%、英国では二〇・八%、
日本では実に五三%の過重
負担になるのであります。さらに英国の平均月收百二十一シリングを
基準にすれば、英国が〇・五%、米国はこの
程度では
税金がかかりません。しかるに
日本では三五%の
税金がかかる。さらに
日本の平均月収八千八百二十八円を例にとりますと、
日本ではこれに一割の税がかかるのに、英国や米国では全然かからないという
状態であります。結局米国を
基準にしてとれば、
日本の勤労者の租税
負担は米国の四十八倍、英国を
基準にとれば七十一倍という苛酷なものであります。しかも実質賃金は、
昭和十年から十二年を一〇〇としますと、
昭和二十二年十二月では三一%、三分の一の実質賃金の切下げにな
つておるのであります。
昭和十一年の勤労所得の免税点の千百円を現在の
価格、貨幣価値の変動で
計算してみますと、大体四十三万円となるので、この
程度までは
税金をかけるべきでないという
数字も一例としては出て参ります。いずれにしましても、勤労者に対する勤労所得税の対象というものは、
收入から必要経費を引いたいわゆる利潤的な
意味の所得ではなくして、肉体的な再
生産を保障するものが給與であります。勤労階級に対する給與自体は何ら利潤的な
意味を持たないので、これに
税金をかけるということは勤労者の血と肉をはぎとるものであり、血税であるという
意味で、われわれはこの勤労所得税全体に反対するものであります。
従つてわずか五十六億ぐらいの減税により、千七百億の勤労所得をとるということ自体に対して、われわれは反対するものであります。
次に申告税の問題につきましても、いわゆる
本年度上半期の約三倍半に近いものを下半期でとらなければならないという問題でありますが、これも
政府説明によりますと中小企業の
收入は三割四分、農民の
收入は二割一分増という
計算のもとに、
本年度下半期には上半期のの三倍半の増收は可能であるということを
言つておるのであります。実際
農林省の統計によりますと、農家の
赤字は二十一年の十月から二十二年の九月までを平均してみますと、七千円から一万円近くの
赤字が出ている。しかも耕作を放棄した農家の数が大体一割三分、耕地面積からいいますと、全放棄耕地のうちの一割五分というものが、
税金が高いために、あるいは
税金と供出と両者がからみ合
つているために、耕作を放棄しておるのであります。
また中小企業の面からいいますと、中小企業の金詰まりの大きな原因は、
税金の
負担が過重でありあるいは徴税が強行されるところにあるのであります。
税金の
負担が過重にな
つているがために、金詰まりというものが二割三分六厘、徴税が強行されるための金詰まりというものが一割一分四厘、合せて三割五分というものが、金詰まりの大きな原因は
税金の
負担と徴税の強行によるということを、
はつきり
言つておるのであります。大体東京都の商工指導所で調査したのでありますが、はきもの商あるいは魚商のごときは、すでに廃業の希望者が五割から八割という
状態にな
つているのであります。こういう
状態から参りますと、中小企業に対し
本年度下半期に上期の三倍半の申告税をとるということも、実に容易ならぬことだと思うのであります。これがこのたびの減税の三つの柱のうちの二つの柱の
状況であります。
最後に法人税の問題でありますが、法人税につきましては、当然大きな法人であり脱税しておるもの、あるいは高等所得の法人に対しては、われわれは
税金をとることを別に反対いたしませんけれ
ども、現在の法人税の徴收の
状態がまつたく小額な所得の法人にかけられておる。しかも外形標準による
收入の目安がないために、認定決定がされて来るということで、これは個人から法人に切りかえたけれ
どもとてもやりきれないということで、また法人から個人に切りかえるというような逆戻りの
状態すら見えておるのであります。この法人税の二百二十七億増徴という問題自体が、少くとも中小企業に対しては大きな
負担になると思うのであります。