○稻葉
公述人 私は伊豆半島の猟師であります。私は今六トンくらいの船に乗りまして、房州のさば漁に出漁しております。従
つてそういうわけで漁師であります。私話下手でありますし、そういう点で時間もずいぶんかかると思いますが、何とぞそういう点はよろしくお願いします。
実は
漁業生産力を高め、
漁業の
民主化を行うという今度の
漁業法の
改正については、私
ども漁民といたしましては、非常にこれに期待をしてお
つたのであります。たとえば漁場の全面的な整理、こういうことな
ども、私
どもは今までいろいろ悪い面がある、これを全面的に整理することによ
つて、何か漁師に対してよいことが生れて来るんじやないかというような
意味合で、非常に大きな期待をしてお
つたのであります。ところがこの
漁業権の中から浮魚を全然除外するということにおいて、私
ども沿岸の漁師は、絶体絶命の境地に追い詰められたような状態であります。大体沖とりの
漁業が盛んになりますれば、私
ども沿岸の漁師は、いきおい衰亡の道をたどることは、私
ども長い
経験からよく知
つております。昔は岸辺の近くまでかつおが寄せた。しか遠洋にどんどんかつおとりに行けば、魚が寄せなくなる。昔あ
つたかつお網は、何十年も納屋の奥にほうり込まれているというような状態であります。また最近のさんま漁にいたしましても、この沖とりが、特に高燭燈を使用して棒受網をするという革新的な漁傍法が実施されました今日、私
どもの沿岸には、ほとんどと言
つてよいくらい、ここ数年さんまの顔を見ることはありません。昔は沖とりと言いましても、流し網、いわゆる刺網でと
つてお
つた場合には、北海道、三陸、房州、伊豆、能野方面まで、ずつと沿岸
漁民の生活をこれによ
つて潤したのでありますが、現在数千隻の船があの優秀な襲備をも
つて沖とりを試みており、しかもその革命的な漁傍法をも
つてさんまを捕獲しておる。こういう点では、ま
つたく私
ども沿岸
漁業は上
つたりであります。このさんまの
漁業について、私は皆さんにぜひ聞いていただきたいことがあります。実はさんまの現在の棒受網
漁業というものは、私は伊東から二里ほど下
つた富戸という所ですが、私の村の龍丸という三トンぐらいの船が、この漁撈法を考案したのであります。この三トンの船で一夜に三十万尾の漁獲をいたしまして、ここにさんま刺網
漁業において革命的な漁傍法をこの船が思いついたのであります。そうして私
どもの村の漁師は、遠く北海道庁まで招かれて、その漁傍法の指導に出かけたのであります。ところが現在あの
厖大な沖取りが始ま
つて、しか亀棒受網を使用してやるという現在の状態において、この龍丸というものは村倒しである、お前があんなことを
考えなければ、われわえはこんなに困りはしないのだとい
つたような形で、実はサイパンで戦死された、龍丸の船主の石井八十松氏を恨んでおるような状態であります。こういう状態において沿岸
漁業というものは、沖とりが盛んになれば、これはどうしても衰微して行く。従
つて私
どもは、こういう状態の沿岸
漁業を、今度の
漁業法改正では
保護してくださるのだというふうに、実は期待してお
つたのであります。ところが事実はどうか。浮魚をはずせば、どしどしと沿岸
漁業に沖取の人たちも侵入して来る。またお互いの各漁師と漁師との紛争は、しぶきを上げて来ることになります。私
ども、の村にもいろいろ紛争がありまして、実は私も石を放
つて闘
つてたこともあります。ところがその浮魚をはずすということについて、定着性云云ということが
漁業法の中にうたわれておりますが、魚がある地点に回遊して来るということは、これは單に浮魚というようなひとつの動物学的なものではなくて地理的な條事件もありましようけれ
ども、魚が回遊して来るというのには、
漁民の並たならぬ努力があるのであります。特に私
どもの方では魚付林、魚礁というようなものによ
つて、魚を回遊して来るようにする。いくら回遊と申しましても、そういう魚付林などに一時的にも魚を棲息せしめるような状態にして、漁獲を試みる。従
つてその漁場の管理に対しましては、漁師の長い
経験からいたじまして、私
どもの村では非常に厳重な制裁
規定を設けて、もう保安林の一本も切
つたら村はじきするというような
規定まで設けまして管理しておるのであります。これは沿岸漁村はおおむねそういうことでや
つておるだろうと思います。従
つて、こういう漁場管理に対する努力、これを全然無にするような、いわゆる浮魚をはずすというようなことは、ま
つたく漁場の荒廃を来すということは明らかであります。私はこの前、益谷建設大臣が伊豆の方に視察に来ましたときに、この問題を申し上げました。私
どもの村に、もしもこの湾内にどしどし侵入して魚をとるというふうになれば、私
どもは、この何百年来管理を続けて来たこの亭亭たる松の木を、おのをも
つて切
つてしまうということを言いましたら、そんなむちやなことはしてくれるなとい
つてたしなめられたわけでありますが、実はそのよな状態が各地に起ると思います。私の村は有数ないか漁場でありまして、堤防の上からいかがつれます。それはやはり魚付林につくのであります。ところがその湾内に他の船がどんどん侵入して来る。このために紛争が絶えません。今までこの漁場は
專用漁業権がありまして、ある程度これが
保護されておりました。しかし漁師というものは、現在魚をそこに見ておれば、いくら法律でなわを張
つても、なぐり合
つても手を出したくなる。これは漁師として当然のことであります。しかしそこに法律の裏づけがありますれば、たといそのなわ張りの中に入
つて来ても、これは漁師の仁義で、これ以上入
つて来るなというようなことで、これはおのずから調整できると思います。現在私
どもこれをや
つております。しかし、そういう法律の裏づけがなくなれば、今に見ている、この
漁業法が実施されて、浮魚が撤廃されるならば、お前ら中にどんそん入
つて、
行つて、と
つてやるぞ、こういうことを現在公言しております。私
どもは方方の港へ行きますが、そういうことをはつきり耳にしております。そういうような状態どんどんこういうものが荒されて行く。こうや
つて、いわゆる浮魚を撤廃することによ
つて、非常に沿岸
漁民というものは、重大な危機に追い込まれるということになります。しかし実際こういう沿岸
漁民に対して、この
漁業法は何らの
保護の措置を講じないにもかかわらず、沖合いの
許可漁業というものに対しては、全然触れていないという点は、非常にこれは問題であると思います。漁師の紛争というものは、たいがいのときは人魚権の問題で血の雨が降るものであります。ところが
漁業権の問題については、私
どもは最も
関心を持
つておるものでありまして、この問題は最も多く取扱われ、しかも最もややこしい問題になるということが予測されます。この問題を扱うところの
漁業調整委員会が、市町村を單位に設けられるという
最初の案が否定されて、海区にまとめられているということは、実にわれわれにと
つて重大な問題であります。私は今まで浮魚撤廃について叫びましたが、もし私の
意見が入れられてこの
法案事に盛り込まれたならばよいのですが、そういうことが無視されて実施された場合には、当然ここに血の雨が降ることを、今から私は覚悟しております。こうした紛争が起
つた場合に、いわゆる直接地元
漁民の声が反映しないような海区
委員会に、その調整の
責任がまかされるということは、これはきわめて危険なことであると思います。ところが私は、実は昨日ここの
公述人としまして議場の様子を見たいというわけで、傍聽しておりましたが、さつきも非常に騒ぎましたが、昨日も民自党案であるとか、小
委員会案であるとか、こういうことで騒いでおりますので、
一体この
漁業法案のほかに何があるかということで、実はそんなものを知らなければ、この
公述台には立てない。これはとんでもないところに来たものだと思いました。そして昨日あの騒ぎが終ると、私はすぐあとを追つかけて、様子を聞きました、一体何のことだ、小
委員会案とか何とかいう案の
内容はどうだと聞きましたら、それは海区
委員会をやめて県の單位にする、また協同組合に優先的に
漁業権を与えるというようなことも、また
漁業従事者とか、そういうものについても全然だめになる、また賃貸権を認めるか認めぬかは、
定置漁業だけは除外いたしまして、磯つき
漁業だけを
漁業権として
漁業協同組合に認めさせたいというようなことを聞きましてこれはとんでもないというふうに私
どもは思
つたのであります。だから、そういうことならば、現在の
法案は、絶対的に私
どもとしては、浮魚を除外したというだけで、全然これはだめだというふうに私は思
つて、その覚悟でここへ来たわけでありますが、そのほかに、まだなおそういう
意見があるというならば、これはとんでもないことだ、それならばこの
法案を具体的に
修正して出した万が、われわれのためになるというように私は思
つたのであります。しかしそれはそれだけの話といたしまして、実はその
意味におきまして私は現在の
漁業法案の中に、ぜひ次の項目を入れていただきたい。それはどうしてもこの浮魚を、いわゆる今までの
專用漁業権にあるものは、全部
共同漁業権の中に含めてもらいたい。そして
漁業調整委員会は市町村を單位に設けまして、その選出は、農地
委員会と同じように、いわゆる経営者であるとか、また子であるとか、そういうふうに、各階層の利益を代表する者によ
つて構成して、
漁業調整の任に当た
つてもらいたい。
それから
漁業権の
優先順位の問題でありますが、
漁業権は全部これを
漁業協同組合に移管して管理し、賃貸権も認めてもらいたい。これは現在自営ということにな
つておりますが、
優先順位の自営ということは、実は現在の
漁業組合には、その力があるところもありましようが、ほとんどないと思います。しかし私
どもは自営を非常にやりたい。私
どもは現在の根つきなどに関する自営は三年来や
つておりまして、
相当の利益も上げております。どうしても
定置にまで手をつけて自営をやりたいというふうに思いますが、実は資金や資材がないということで困
つております。ところがもしも自営をやるものに
優先順位によ
つて与えるというならば、結局やれないものには与えないということに、逆になると思う。従
つてやれるものは結局
相当資力のある企業家、そういうものの手に
漁業権というものは完全に移るという状態がここに生まれて来ると思う。賃貸については、きのうもいろいろ言われておりましたが、協同組合こそというようなことを言われていたが、実は
漁業が
民主化されて来れば、その賃貸料がただちに
漁民のために投資されるということになります。私の村などは五十軒や六十軒の村ではありますが、そこに有力な
定置漁場がある。しかしその人たちがこの賃貸権を取上げられたならば、あしたにも堤防がくずれても、船底がこわれても、これをつくることができないというような、非常に大きな問題にぶつか
つて参ります。従
つて私は、資金、資材の裏ずけのあるような
時代が来るまで、どうしても賃貸権を認めて経営させてもらいたいということを、お願いいたしまして、私の
公述を終ります。