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大内参考人 ただいま
指名にあずかりました
大内でございます。職は
漁業、
北海道網走
漁業協同組合常務
理事でございます。
今次の
漁業法改正の第四次案の発表を見まして、私の感じたことを一
通り申し上げます。社会主義的、革新的
思想の根底のもとに建てられた壯麗な殿堂を見るがごとき感じがいたしまして、その偉大さにまず一驚を喫したのであります。だが反面、実際の
漁業者である私どもが、技術的あるいは
経験的な面から、これにしさいに検討を加えましたる際におきまして、特に
定置漁業に関しまして、認識に不徹底の多々ある点を発見いたしまして、逆にきわめて遺憾の意を表せざるを得ないという心境に到達いたしております。許されている時間がきわめて短かい
関係上、
結論と
理由を切離して申し上げたいと存じます。
まず
結論から先に申し上げます。法二十一條、
存続期間は二十年にお願いいたしたいと思います。第二、第十六條優先順位の問題は、従来からの自営する者に与えていただきたい。この場合組合たると個人たるとを問いません。この場合の補償の問題は
無償であります。これを要望いたします。
免許料、
許可料、この姿におきましては徴收せずということをお願いしたいのであります。
休業、不当集中、不適格、
不在地主的な
漁業権に対しましては、徹底的にこれが整理をお願いいたします。この場合の補償の
関係は有償にお願いしたい。ちなみにこの
休業の数字でございますが、
北海道除外の本州
休業は、全体の数の一七・二%にな
つておるようであります。
北海道の場合、
休業は全体の数字の五一・八%にな
つております。これは昭和二十一年
北海道庁水上産課の調査であります。第三、
定置漁業権の復権
制度、これは現在の
改革案よりももう少し復権制を強化していただきたい。さようにお願いをする次第であります。
次に
理由に移ります。第一の問題、
存続期間の
関係であります。私どもの
定置漁業というものは、
経験技術が非常に強度に要求されるのであります。その結果、その技術者を養うには、二十年あるいは三十年の年月を必要とするのであります。單なる乗組員を養成するにも最小限度五年、十年、人によりましては二十年、船頭以上の
経験年数を必要とされるような
事情にあるのであります。さらにまたこの
経営者におきましては、それらの人々以上の
経験年数と、さらに
経営技術に対する
経験というものがつけ加えられまして、きわめて
経営のむずかしい種類の
漁業に属しておるのであります。かような姿が私どもが現在到達しておりまする
定置漁業の円満なる営業を続ける場合の
條件でございますが、この完全に近い姿でも
つて組み合
つた経営者、それから今の乗組員、技術者、三者合体してできたその姿は、單に
漁場をかえて着業するという
方面を
考えただけでも、その完全なる能力を発揮し得るまでには少くとも五年間を必要とするという、かほどの高度な
経験技術を必要とすることを私ははつきり申し上げたいのであります。これを
存続期間五年をも
つて区切られるという原案におきましては、絶対的にこの
定置漁業の円満なる行使は不可能であるということを、実際の立場からよく申し上げたいのでございます。このために期間の短か過ぎるということを私が強調いたしましたのは、これを強調すると同時に、原案はいかに
定置漁業の実体に不認識であるかということを、はつきり申し上げたい一つの
理由にな
つておるのであります。付言いたしますが、去る七月網走におきまして、
漁業法に関する懇談会がありました。その席上におきまして、この期間の問題につきまして、
水産庁漁船部長殿の答弁をお願いいたしましたが、その答弁には、社会的な情勢の変化に対応するために五箇年にした、單にこれだけの答弁しかちようだいできなか
つたことを付言しておきます。
次に
理由の二、今次の
漁業改革が必要な根本的な
理由である組合優先の
思想のよ
つて来たる根本、原案の
改革思想の根底をなしているところを、私が
水産庁経済課の編みました講義や、あるいは法律案の原案の詳細にわたりまして摘出いたしました四つの点を、ただいま論旨の進展上の材料といたしまして提出いたします。その第一は、海面というものは
漁民の総有であらねばならないという点であります。その第二は、海面は立体的、複合的にこれを利用しなければならないという
思想でございます。第三は、定置の特権性、これを排撃しなければならぬという
思想でございます。第四は、
漁場は総合的に利用しなければならないという
思想でございます。旧法におきましては、この四つの
思想が完全に遂行できないために、徹底的に旧
漁業法を
改革しなければならないのだということが根底にな
つておるのであります。私はこの根底
思想に対しまして、
漁業の実際者として、
漁業の実態から言うと、この
思想がどういうふうになるかということを、しばらくお開き取り願いたいと思うのであります。
〔
川村委員長代理退席、
委員長着席〕
第一番の、海面は
漁民の総有であるという点であります。実際の
漁業というものは、非常に内部において各
業種に分化しております。私の
考えまする、いわゆる海面の総有という
考え方に反対の
結論は、その分化しているグルーブ、グループにおいてこそ共有さるべきものであ
つて、
漁民全部の総有という
考え方は、
実情に沿わないというふうに私には
考えられるのであります。これが実際の
実情でございますが、かりに原案
通りの
考え方に立ちまして、海面は
漁民の総有であらねばならないというふうに
考えてみました場合に、これを押し広げて行けば、
漁民の総有では不徹底であります。市町村総有でなければなりません。さらに広げれば道府県総有でなければなりません。さらにこれを進展して行けば、
結論として国有というふうなところに
行つてしま
つて、およそ
実情とは沿わないような状況が展開されるのではないかと私は
考えるのであります。
第二番目は、海面は立体的、複合的に利用しなければならないという
考え方でございます。これからよ
つて来たるところは、
農地と異な
つて漁業権は分割所有することはいけないのではないかという
考え方にな
つておるようでありますが、これに対して所見を申し述べてみたいと思います。原案はこの問題を幾何学的に
考えております。しかし
漁業の実態から申しましたならば、これは幾何学的に
考えるのではなく、時間的なずれ、魚族は回遊の時期に時間的なずれがございますので、結果といたしまして総合的に現在でも利用しておることをよくお
考え願いたいということを、私は申し上げたいのであります。
次に三番目として定置の特権性の排撃という
考え方でございます。この問題から派生する現実の惡い面と
考えられておる点は、定置の分立はたくさんの弱小の
漁業の死かばねの上に立
つておるという
考え方があるのでございます。私ども
漁業の実際家からこれを見ましても、特に
北海道の
実情について見ますると、これはまさしく逆なのであります。定置というものは、読んで字のごとくきわめて保守的にできておるものでございます。これを強制的に
保護されなければ
漁業の成績があがらないという、根本的な性質を持
つておるものでございます。その性質に対して攻撃を加えることになると、その業に携わ
つている者が、強権をも
つて使用しているのが保守的なのだというふうに錯覚を起している面が多々あるのではないかと
考えるのであります。さらに惡いことは、その錯覚によりまして、その人を徹底的に攻撃するのが、いつかしらほこ先が転化いたしまして、
定置漁業権そのものの存立をあぶなくするような
改革案に到達しておる現状だと私は
考えるのであります。かりにこれを逆に原案の
考えのごとく進めて見まするならば、
北海道では
定置漁業というものは
北海道の開拓的な
漁業にな
つております。つまり
定置漁業者は
北海道漁業の開拓者ということにな
つておるのであります。アメリカのいわゆるパイオニヤーと同じような意味において、
北海道の
漁業を開拓しているという姿をよく想起していただきたいと思うのであります。つまり開拓者の宗教心にかわ
つて、
北海道の
漁民は底に徹する
漁民魂によ
つて努力しておるのであります。親が果し得なか
つたことを子供、子供が果し得なか
つたことを孫と、相伝えて一生懸命にな
つているという現状なのであります。これをよくお
考え願いまして、勘案を願いたいと思うのであります。このアメリカの開拓者と
北海道漁業の開拓者との関連ということにつきましては、過日網走に天然資源局のW・ヨー大佐がおいでに
なつたことがありましたが、そのときに私はじきじき申し上げまして、ヨー大佐殿の御了承を得ていることを付言しでおきます。私はかようにきわめて保守的なことを申し上げておりますが、私も実は保守的であると言われることをあまり喜ぶものではございませんが、これも去る七月でございましたか、
北海道札幌において、全
北海道の
漁業協同組合長の
会議がございましたときに、
北海道の民事部のコンウェー少佐がおいでになりまして、私どもに訓示をたれたのであります。その訓示にいわく、私は本道に赴任して日が浅い、聞くところによると、本道の
漁民はきわめて保守的であるということを承知している、現下の情勢においては、この保守的であるということはきわめて尊重さるべきものである、かように申されております。そしてさらに、尊重するだけでは不十分である、これを助長育成して、も
つて生産の増強に資してもらいたいということを、はつきり私どもはお教えを受けておるのであります。さような指導のもとに私どもは
考えておりまするので、保守的であるということに対しまして、私はひけ目を感じておらないのでございます。
第四番目の
漁場の総合利用の問題でありますが、この問題につきましては、かようなことを申し上げたいのであります。内地の沖合いを含むところの
許可漁業というものが、全体の比重の四〇%にな
つておる。つまり
許可漁業の比重が相当なものであるということが、
水産庁編の本に出ております。この四〇%になる
許可漁業の面が、一応根拠を指定されているだけで、本
漁業法案から除外されてある点が、私はなんとしてもふに落ちないのであります。この点も一緒に包含して
考えてこそ、初めて現在の
漁業法案が完全な海面の総合的な利用というスロ—ガンに到達することができるのだと私は
考えておるのであります。その重要な部分を除いて
改革に進んでおる現在の姿におきましては、政府原案はいうところの
漁業憲法たる大きな立場を捨てて、局部的な改正にみずから甘んじておるということになるのではないかと思うのであります。よ
つて私は、革命的な
改革を強行することなく、先ほど申し上げましたような、局部的な改正によ
つて制度を混乱させることなく、
増産を落すことなく進んでいただきたいということを強く要望いたすものであります。
まことにお聞き苦しい点がございましたでしようが、私の陳述はこれをも
つて終ることにいたします。