○菊川参考人 私国鉄の労働組合を代表いたしまして、今度の
運賃改正の問題について意見を申し上げたいと存じます。私の申し上げる意見は、おそらく国鉄の労働組合の大多数がこういう意見であるということを、確信を持
つて申し上げられると思います。本日申し上げまする証言は、来る十二月八、九両日開かれまする中央
委員会におきまして、私はこういう証言をしたということを報告いたしまして、その
承認を求めるつもりで、それだけの確信を持
つて申し上げたいと思います。
結論といたしまして、まず第一番に今回の八割値上げの問題は、好ましくないものであるけれ
ども、現在の段階においてはやむを得ない処置として
賛成せざるを得ない、かように
考えるものであります。と申しますのは、
運賃論につきましては、原則論的に振りまわし出しますると、あるいは受益者負担がよいのである。あるいは国家負担にするのがよいのだということで、いろいろ論争の的になると思いますが、われわれといたしましては、理想論としては国家の負担にすることが正しいと思い、それを主張するものであります。そういう社会が一日も早く来るようにわれわれは主張して、闘争を続けて行きたい、かように
考えておる次第であります。その観点からいたしまするならば、できる限り現在の
運賃を低位なものにしておきまして、採算割れの一
部分が
一般会計から繰入れられることが、最も好ましいことと
考えております。しかしながら現在の国の経済を
考えまするときに、そうした余力はむしろ六・三制の完全実施とか、あるいは社会保障、失業対策
事業の方に振り向けられて、戰争の影響によ
つて非常にいたんだとはいいながら、どうにかまわ
つて行けるという国有鉄道は、まず独立採算制をとらざるを得ないのではないかと
考えます。そういう点からいたしましても、今回の
運賃値上げはやむを得ない処置として認めざるを得ない、かように
考えるものであります。また国鉄
予算の面から
考えましても、
本年度の当初に
承認されました国鉄
予算そのものは、私たちの
考え方からいたしまするならば、これはどうしてもむりであ
つた。最初に
運賃値上げをされる際にも、旅客
運賃の値上げをされるよりも、むしろ貨物
運賃について再検討さるべきであるということを、われわれは主張して参
つたのであります。しかるにもかかわらず、国会におきましては貨物
運賃の値上げは認められずに、旅客の方にこれを振り向けられたことは、私たち遺憾に思
つておりました。しかし幸い今回貨物
運賃の調整という問題が
論議されるということにつきましては、一応いい傾向だと
考えておる次第であります。そこで旅客
運賃については、これ以上の負担力はない。どうしても私は旅客
運賃についてはある程度下げるベきであると
考えております。なぜかと申しますと、
運賃値上げをいたしまして以来、利用者側からいたしますならば楽に
なつたとおつしやるかもしれませんが、非常にすいた車がたくさんにな
つて、特に高級車についてはすいて参
つておるのでありまするが、これは高級車を廃止すればいいのであ
つて、われわれは何も高級車の値下げをせよというような主張にくみするものではありません。しかしながらそういうふうな
状態だから、限度をついておるということだけは、常識に認めざるを得ない。私たち駅に勤務しておりましても、すいたがらがらの車が走
つておることは、実に情ないような気がいたします。実際問題として国鉄の従事員として、すし詰めにな
つておる車をながめて、これはけつこうだというふうには毛頭
考えておりません。一応座席に皆さんがおかけにな
つて、大体において満ちておるという
状態が一番いいと思いますが、そういう
状態にな
つていない。がらがらの車が走
つておるのはさびしい気持が起
つておるわけであります。そこで旅客
運賃については、定期を除いては一応輸送の原価を多少しま
つております。ただいま表をもらいましたが、これを見るまでもなく、われわれの方で検討しても多少上まわ
つております。しかしながら貨物
運賃が、輸送すればするほど赤字が出ておるということは、これは運輸省当局あるいは国有鉄道当局が
調査いたしましても、そういう結果が出ておりまするし、私たち組合側から
調査いたしましても、やはり貨物
運賃が、貨物を輸送すればするほど赤字が出ておる。しかもこの赤字を單に国鉄の労働生産性ばかりに押しつけられることになると、すぐ人が多過ぎるとかいうので、労働の生産性を強調され、しかもこれは
運賃値上げをこのままされずに、
一般会計の繰入れもされないままにや
つておかれると、ますます労働の生産性、労働の生産性とい
つて押しつけられて来まして、特に法的に労働運動は遺憾ながら制約を受けておるこの一段階におきまして、非常に労働組合としては窮地に追い込められ、闘いをやろうとすればすぐ
法律だ何だとい
つて、締められてしまう。こういう段階におきましては、むしろ以上のような
考え方からいたしまして、一応やむを得ざるものと
考えておる次第であります。
次に、この表にも示されておりますように、
昭和十一年との対比からいたしましても、八割値上げをされたあかつきにおきましても、あの
昭和十一年の水準に早くもどそうという努力から
考えましても、まだまだ余力はあるのじやないか。この表を眺めましても、われわれから
調査いたしましても、たとえばきわめて常識的に、従来名古屋から東京へ参りますために、われわれ農民の子弟といたしまして、米を何升売
つて東京へ来られたという、採算制をほんとに常識的に
考えましても、現在米をどれだけ売
つて東京へ来れるかという旅客
運賃との対比を、われわれ一応闘争の時代に、今の
運賃がどうだということを数学的に示しまして、絵を描いて出して見たのですが、米だとか、なすだとか、そういう野菜ものとの比較をいたしましても、私は八割はそういう点から
考えても
ちよつと認めざる得ないじやないか。ただここで遺憾なことは復金債の償還のというようなものが、あまりにも多く
本年度の
予算の中に見積られてお
つて、むしろそういうものを社会保障だとか、失業救済
事業に振り向けられずに、われわれが
運賃の値上げによ
つて生ずるところの余力というものは、そういう方に向けらるべきものであるというふうなことを主張するにもかかわらず、そうでなしに、復金債の償還というものに充てられているということについては、きわめて遺憾でありますけれ
ども、この点については、どうか議員諸公の来
年度予算の審議にあたりましても、十分御検討をお願いいたしました上で、この
運賃値上げの問題をひとつ私たちのこういう
考え方も御参考の上に御審議願いたい、かように
考える次第であります。
次に、
競争状態にある交通業のバランスを
考えて、値上げというような意見もあるようでありますけれ
ども、私はそういうことは反対でありまして、むしろできる限り、採算のとれる限りはやはり低位に置いて、そうして国民に奉仕すべきであ
つて、国家
事業としてはそういうことが望ましいのじやないか。ただよその
事業を起させるためにそうするならば、むしろわれわれの主張する一歩でも社会化への前進をするもとにおいても、そういう
事業は国家
事業として吸收してや
つて行く。こういうふうな
考え方からして、
競争事業とのバランスを
考えての値上げについては、私たちは反対せざるを得ないのであります。
次に、現在の客車、線路の
状態を
考えまして、皆さんも御旅行をなさいまして十分御存じのことと思いまするが
東海道線はややどうにか
日本の鉄道らしくはな
つておりますけれ
ども、これを一歩中央線なり、あるいは東北線、奥羽線、北陸線あたりへ足を踏み入れられましたら、痛切にお感じになるだろうと思うのでありますが、これが
日本の鉄道かと、情ないような
状態だということはお認めだろうと思います。特に目には触れませんけれ
ども、線路もその
通りに弱
つておるように
考えるのであります。そういう点からいたしましても、赤字になるからとい
つて運賃は値上げするが、そのかわりに補給金は出さないとい
つてほ
つておかれたならば、客車はここ五、六年すれば、線路は二、三年もすれば、動かないような
状態になる。この際にはどうしても水を注がなければならぬ、かように
考える次第であります。特に最近の国鉄の、今年時へ九十億程度の赤字が出るというような
状態から、一般の車両工業あたりに対する発注なんかもほとんどとま
つてしまいまして、これか崩壊の
状態にあります。現在戰後
日本が許された重工業
部門といたしまして、車両工業や自動車工業、それから造船工業等の
事業は、どうしてもこれを育成して行かなければ、ほんとうに植民地的な軽工業ばかりにな
つてしまうために、この車両工業を育成する商においても、この国鉄の今回の
運賃値上げを認めて、どうにか黒字にな
つて来たならば、国鉄の経理
状態なんかも再検討を加えまして、こういう面にも新しい車の発注をたとい一両でも三両でも向ければ、それに関連いたしましてほかの産業も起
つて来るのであります。
次に、労働の生産性につきしましては、これは労働力の再生産、あるいは労働の生産性ということで、いろいろ議論もございましようが、私たちもやはり国民各位が著しい中から
運賃を負担されるということを十分理解いたしまして、労働の生産性につきましてはやはり努力をいたしたい。これだけの決意は、現在の国鉄労働組合では十分持
つていることだけをひとつ御認識願いたいと思います。
次に、インフレというのは、どういつでも労働者に不利である。これは今
日本へ来て一番問題にな
つておられますドツジ公使も、この間われわれの代表が会
つた際にも、インフレというのは労働者には一番不利だから、何とか切開しなければいかぬ。そういうことを
言つておりますが、私
どもはインフレの初めごろから、常にそのことを主張して参
つた次第でありまして、従いまして一日も早くこの
運賃が値下げされるような傾向に持
つて行く。すなわち
一般会計からの補償なり、あるいは経済
状態がそういうように向くようにな
つて、一日も早く値下げをされるような政策をおとりくださることを前提といたしまして、今回は
賛成するものであります。
次に、だからといいまして、このまま温存して置きますと、昔の鉄道省から運輸省、それから国有鉄道、一応看板こそはかわ
つておりますけれ
ども、やはり根強い官僚性というものは、そのまま温存されて、公共企業体に移行しております。従いまして戰時あるいは戰後を通じまして、この国有鉄道
事業というものは国家の独占
事業として、ある程度、非常にあたたかい温室の中に育てられて参りましたために、しかもそういう官僚性を温存しておりますために、
事業経営の面においても私
どもは改善すべき余地が多々あることを指摘せざるを得ないと思うのであります。そういう面につきまして、
運輸委員会の各位におかれましても、十分
運賃値上げはされたから、これでどうにか黒字に
なつたから安心だとい
つて、いすの上でふんぞりかえ
つておるような高級官吏の行動については、十分批判されまして、そういう連中の行政機構その他の面についての改革その他については、十分なる監視を願いたいと思うのであります。われわれ組合側といたしましても、今度の公共企業体労働
関係法に定められた
通り、労働協約締結にあたりましても、そのままそういう官僚性をいつまでも温存しておいてはだめだというので、アメリカのTVAの
考え方をそのまま一応取入れまして、協力
会議をぜひ設置せよ、その席におきまして徹底的に
論議しまして、たとえば先般も新聞紙上に載
つておりました、札幌の鉄道局長が建設工
事業者との悪い結託があ
つて、收賄罪に問われて、今東京の地方裁判所に引張
つて来られておる。名古屋方面でもその
資料収集に来ておる。これは現われた事実でありますが、あれだけであ
つて、そのほかにはないとは保証できない。そういう点につきましては協力
会議等を通じまして、十分に批判を加え、そして改正いたして行きたい。かような観点に立ちまして、まことに突然呼び出されましたために、十分な系統立
つた証言ができなか
つたことは、まことに遺憾でございますけれ
ども、結論といたしまして、冒頭に申し上げました
通り、好ましくない
運賃改正では、あるけれ
ども、現段階におきましてはやむを得ないものと確信するものであります。以上証言いたします。