○
公述人(中原淳吉君) 産別会議の中原であります。
起草者やその他の
方々はどう思
つておられるかも知れませんけれども、今度の
労働組合法の
改正によ
つて打撃を受けるのは産別会議であろうという噂が專らあります。それがどんなに間
違つたものであるかということを私は申上げたいのであります。それからもう
一つ三年有余の間に
労働組合法が実施されてその欠陥が沢山あ
つた。だからその欠陥を直すのだというふうに
起草者の方は言
つておるようでありますけれども、具体的に見て見ますと、欠陥は少しも直らずに、今までやらなければならなか
つたことをやらなか
つた。却
つて惡いことをや
つていた。その惡いことを條文に記載したというのが今度この案にな
つておるということがはつきりするのであります。このことを私は單に理窟の上げたでなく、事実の上から申上げて見たいと思うのであります。つい先だ
つてでございますが、山口縣におきまして
労働委員会に縣下の
労働組合が呼び出されて
組合の
資格審査を受けるという事件が起りました。それは主として、主としてでなくただ一点
組合專從者の給與を拂
つておるかどうかということで
組合の
資格の審査をする。で專從者の給料を拂
つておるところはこれは
労働組合と認めないということであります。併しこのことが現在の
條項においてできるとい
つておるけれども、そういうことを強弁しておるけれども、今度の
改正の案によりますと、そのことは先刻森長さんが言われましたが書いてない。專從者の給料というのは書いてないが、資本家側から金を貰うということをそれに書いてある。そのことは適用するんだと言
つておる。その趣旨は
御用組合をなくするのだと言
つてある。ところが奇妙なこてにはその
組合において一番
御用組合らしからぬ最も
労働組合らしい
労働組合が
資格がないという
判定を受けておるという、逆な
判定を受けておるという現象が起きておる。だから資本家の
干渉することはいかないということがポツダム宣言や極東十六原則にある。我々の権利を
主張する、やることはやらなければならんということをやらないような
傾向のある
組合の方が却
つて資格がある、こういう結果にな
つておる。こういう間
違つた結果が出て來ておる。この
一つをとりましても、專從者の給料問題というものを資本家が
労働組合に資金を提供するのは
御用組合だからいけないという、そういう決め方をしようというのが却
つて逆な結果を來し、つまり唯々諾々として資本家の言うことを聞く
組合を作るために、この
條項は設けられたということが言えると思うのであります。更に響くべきことは、衆議院の質問に対する労働大臣であ
つたと思いますが、その答えの中に
組合は金を貰つちやいかない。但し爭議の解決の條件として金一封を貰うのは、これはアメリカにも例があるからよろしい。こういう響くべきことを言
つておる。つまり爭議が起きた場合に呑め、それならば、金をやろうと言
つておる、このことはアメリカにも例があ
つてよろしい。こういう響くべきことを言
つております。このことを見ましても、この資本家から援助を受けてはいかんということを、実はどういうことにやろうとしておるのかということがはつきりすると思うのであります。
そこでこの專從者の給料問題というものについて、そういうふうに内容に立入ることは絶対にいけない。これは
労働組合の中に
干渉するものであ
つて、極東十六原則の中にある
條項に違反するものであります。これは後から
纏めて申上げたいと思いますが、而も
御用組合かどうかを
判定することを具体的にやられたのは、今までに專従者の給料問題だけがあるのであります。これが実際上例えば豊和工業等、実に馬鹿げた資料というものを労働省から皆さんのお手許に配
つておるそうであります。つまり今までどんな、
労働組合運動に附随して発生した刑事犯等事件の概要というこのプリントでありますが、この中に豊和工業の第二
組合と言われてあるのですが、その第二
組合の幹部が会社側から金を貰
つたという現場を見たという
労働者もやはりいる。或いは信州上田の鐘ケ淵通信というところにやはり爭議が起きたのであります。で第二
組合ができた、これは法廷において会社の幹部が会社から金を貰
つておるということをはつきり言
つておる。或いは東宝の問題の場合は写眞入りでいろいろな金を貰
つて主食に使
つた、その領收書さえも写眞にとられて現在では公衆の面前に出されておる。そういう
組合に対しては
御用組合かどうかということを
一つもやろうとしておらないということであります。このことを見ても
御用組合かどうかを
判定する
一つの例として專從者の給料等を出しておる。これは如何に間
違つた逆の方向に
行つておるかということが分るのであります。
從つて御用組合かどうかということを
判定するには、そういうことではできない。今そういうことを立入
つて政府その他がやるということはこれは大きな間違いを仕出かすことになる。例えば
一つの爭議が起る。で爭議の起らない前は普通にや
つておるが、爭議が起
つたので一生懸命や
つて、それで
組合の專從者だから給料は拂えないということができる。やらないでおるから
御用組合ということもできる。つまり爭議に介入することになる。爭議のスパイをやらなければそういうことはできない。こういうことをやらないという保証はどこにもない。むしろやるということの保証が今までの例からもはつきりするのであります。ただ
御用組合かどうかということを、そういう形式の上だけでやるというと、先刻言
つたように
御用組合でないところが
御用組合という
判定をされるという馬鹿げた結果になるということであります。そして
御用組合だけを援助することになる。それから今実質上内容に立入
つてやろうとすれば
ストライキ、その他
政府機関はスパイをするということであります。これは極東の十六原則に戒められておる。占領軍の管理下にあ
つて極東十六原則に違反するようなことを敢えて定めるということは誠に以て穏かならんことだと思います。
又最近山口縣の岩國におきまして、婦人
労働者の局部を檢査するという問題が起りました。これに対して、かかる問題は人権蹂躙であるから、これは絶対反対しなければならんというので署名
運動を始めた。そうしてこれを拒否したのであります。ところがこれは事件を煽動するものであるというので首になりました。こういうことが果して許されていいかどうかというわけであります。さすればその首を切られたその
労働者には、明らかにこれは憲法の二十
八條によりましても亦極東十六原則、その他の趣旨によりましても、明らかにこの
労働者に対しては保護が與えられなければならん。その活動に対しては、國爭に対しては保護が與えられて然るべきである。そういうことが一体この
改正の條文の中で何をやることができるでありましようか。更に尚もう
一つ組合がいろいろな圧力があ
つて、交渉ができないという場合には、その
労働者の
委任を受けて、上部
團体或いはその他の役員がそれを交渉するということは当然行われて然るべきこそであります。ところが
團体交渉を拒むことはできないということでありますけれども、それが雇用する
労働者の
代表との
團体交渉を拒むことはできないというのである。上部機関の人或いはその他の
委任を受けた人達が、こういう局部檢査に反対をする、当然のことを言
つた人の
委任を受けてその
團体交渉するということは拒否することができるのであります。そういうことにな
つておる。又こういう問題が起りましたときに、この周囲の
労働者がそれは基本的な人権を侵害するものであるから、これはどうしても應援しなければならないと言
つて爭議を起すということは、これ亦当然のことであろうと思うのであります。然るにそのことを許す條文があるかないかということであります。これも衆議院の本会議であ
つたと思いますけれども、大臣の説明によりますと、同情スト、その他はこれは穏かでない、正当な爭議
行爲とは認められないという解釈をすべきである、こういうことを言
つておられます。明らかに起案者自身がそういうこの弱い、而も正しいことをする人達を、我々
労働者が皆で團結して、皆が團結してやるということはいけないのが、こういう驚くべき観点を以てこの案が
起草されておるということが分るのであります。又先程から政治的信條という点が欠けておる。この第
五條の第二項第四号におきまして、人種、宗教と書いてあるけれども、政治的信條というのが欠けておる。これも單にそういうことは欠けてお
つてはいけないということじやない。現実に或る横須賀の進駐軍の労組におきましては宣誓書を書かせる、それは共産党或いは共産党の
團体というものに関係がないということを書かなければならない。そういうことは憲法の上から言
つておかしいと言
つてこれを保留した。ところがこの人達が
團体交渉をする、いろいろな問題について
團体交渉をするということは拒否されたのであります。明らかに若しもこの信條という問題が落ちておるならば、そういうことについて何らこの
労働組合法によ
つては我々の正しい
運動をすることができない、こういうことがはつきりと出て來るのであります。これは非常に重要でありまして、例えば総
同盟から引上げました人達の就職が、復職が非常に拒否されておるという事実もございます。又私のすぐ側に住んでおります満十八になる若い人でありますけれども、すぐ側の
工場で
組合幹部としておりましたが、辞めまして、
日本鋼管の
工場に紹介を受けて行
つた。ところが外の点では
資格は満点であるけれども、前の
工場で
組合活動を活發にや
つてお
つたということで以て明瞭に拒否されております。こういうことについて、我々はどうしてもその本人に代
つて組合全体が動いて行かなければならない。然るに雇用する
労働者の
團体交渉ならば拒否することができないということだけでは足りない。その他の政治的信條、その他をはつきりしなければならん。それをわざわざぽかされておるというところに、今度の案が、
改正でなく、反動的な改惡ということを我々は具体的に言うことができるのであります。先程申し上げました信州上田に起きました鐘ケ淵通信の爭議のときは、私自身が暴行脅迫の故を以て告訴を受けることが起
つた。そのとき、私は東京の工業倶樂部の中で、石川一郎さんと丁度その時間に話をしてお
つた。そのとき現地において私が暴行脅迫をしたということが起
つておる。これはどういうことかというか、暴行脅迫ということで引つかけてやろうとい
つて計画されてまる。当時私は現地に行くことにな
つてお
つたから、必ずあいつ來るに違いない。來たらというので、計画的らこういうことだ行われてお
つたということが分るのであります。從いまして如何なる場合においても、こういうことが書かれるならば、これは明らかに可なり善良な氣持を持
つておられる資本家の
人々にも、引つかけてやろうということを挑発する。誠に反動的文章である、文句であるということを言わざるを得ないのであります。又午前中黒板さんが、如何なる場合においても、実は
ストライキと言
つたところで、正当な
暴力行爲は勿論いいのだということを言
つておられましたが、現場から
代表者が連れ去られて行
つたのであります。暴行脅迫の理由を以て連れ去られたのであります。そこで交渉は一頓挫いたしました。このために爭議が実に二ケ月の長きに亘
つて終熄することができなか
つた。若しもそういうことがなければ、直ちに手が打てた。そうして現在では生産に邁進しておりますけれども、そのときにできた、それが二ケ月以上遅れたという結果が出て來ておるのであります。ですからこういう條文を置いて置いても、現象として
暴力行爲があ
つた、だからこれを直ぐ連れて行く、
暴力行爲が正しい
暴力行爲であるか、不当なる
暴力行爲であるかということは、ゆつくり裁判所で決めて貰えばいいということでは問題が解決しないのであります。又外の例では、愛光堂やメトロの事件のときに、暴行ということで
代表者が檢束されたのであります。このとき私は東京地檢の勝田檢事に面会いたしまして、
法律の解釈はどうされるか分らん。とにもかくにも
代表者が連れ去られるということは、現在の爭議がますますこじれることになるのみならず、
労働者の
主張が通らない。一方的に資本家の方を援助することになる。百歩讓
つて黒白を付けるとしても、檢束するのは止して呉れ、何も逃げも隠れもしやしないと言
つても、我々は
労働組合法によ
つてや
つてるのじやない、刑法によ
つてや
つてるのだ、こういうことであります。こういう馬鹿なことを檢事は言うのであります。そういうことを言う。そういうことを條文に上げて、はつきり実行することができるように、この第
一條第二項というものに、わざわざこういう但書を付けておるということをはつきり申上げることができるのであります。
労働組合の
資格の点につきましては、内容に立ち入
つて細かく
規定をし、そうしてこれに当嵌るかどうかを檢査し、そうして合わなければ保護を與えないというようなことを言
つてる。その具体的な例の
一つといたしまして、例えば三越の從業員
組合の解散問題というものが労働省から具体的例として挙げられておる。これは最も御用的なものであります。ですからこれは当然直さなければならない、直さなければならないけれども、それは
労働者自身がやるのであります。我々ははつきりやるし、やらなければならない。そしてそれは
労働組合の
責任においてやる、それは極東
委員会の
労働組合の十六原則の第十一項にもはつきりと書いてある。
組合の役員の選出の問題、その他は
労働組合が自分の
責任においてちやんとやる。それは書いてある。何を
政府はこういうことを言う。こうでなければならんということを決めなければならんということは必要はないのである。何故こういうことをわざわざ決めるかということころに、非常に反動的な意図を察知せざるを得ないのであります。又
会計の問題にいたしましても、
会計の不正がいろいろあるという例が出ておる。出ておるけれども、皆さんよく読んで頂きたいと思うのであります。よしんば不正があ
つたところで、それは
組合自身の手によ
つてはつきりされ、綺麗にされておるのであります。会社の運営、その他においてはどうでありましよう。昭和電工のあの事件にしても、昭和電工の
経営者自身が摘発したという例を聞かないのであります。又外の
経営者自身が摘発したという例を聞かないのであります。それはすべて外の人達によ
つて摘発されておるのであります。併し
労働組合のこういう問題は我々自身がやるのであります。若しもこういうことがあるから
労働組合にも問題を解決して
云々というのでありまして、檢査のことまでもやるとするならば、よろしく現在の会社の経理、その他を國民全体が自分の手で摘発するという
法律を先に作るべきであるというように思うのであります。つまりすべての重要な会社の経理というものは國民の手によ
つて管理せよということができなければ、こういうことは問題にならない。全然事柄が逆であります。これは我々自身の手によ
つてやり得ることであります。又や
つておることなんであります。そのことを手を付けよというのは実におかしい。一方では今言
つたように会社の経理その他の問題はそのままにされておるということが沢山あるのであります。併し第七条に資本家の
不当労働行爲のことをいろいろ書いてある。若しも
不当労働行爲をした場合に、どうなるのであるか、こういうことになりますと、これは誠に以て悠長な次第であります。ところが
労働者の場合には直ちにいろいろな手が打たれる。或いは檢束される或いは給與を支拂われない。このことは現在の我々の給與の
状態、生活の
状態から行きますと、死に見舞われるということを全く同じであります。而して資本家の不当労働行為は誠に以て悠長な次第であります。こんなことがどんなに惡い結果を及ぼすかということを具体的な例を以て申上げたいと思います。現在東芝が爭議
状態にあります。実に長い。その中の
一つの事件といたしまして或いは川岸の問題、加茂の問題が挙げられております。併し事実は全く述である。書いてあることを事実は違います。こういうことは一体何故起
つたかということは、資本家の
不当労働行爲というものが敏速に処罰されないところから起
つておる。例えば東芝の川岸
工場の暴行事件が書いてある。大衆の前に重役を引張り出して、交渉することを脅迫した。そうして交渉中煙草の火を頭の上ですり消して、熱いと言
つたら水を掛けた、こう書いてあるが、これは嘘であります。全然そういう事実はない。この大衆交渉にいたしましても、実は東芝の川岸においてはいろいろ問題がございました。
工場を閉めてしま
つて、
労働者の方ではそれでは困るというわけで、毎日いろいろ相談をしたところが、会社の方は、赤字だから潰すすと言うけれども、実は黒字で、そのために交渉の基礎がなくな
つてしま
つた。
工場長も逃げ出してどこかへ
行つてしま
つた。そこでそのときに総務部長がいたので、お前さん代りだから相談しましようと言
つたら、この人も一日いて又いなくな
つてしま
つた。部長もいなくなり、課長もいなくなり。どうしたらいいか分らない、それで仕事は続けられなくな
つてしま
つた。何のことはない宣言なき生産管理ということで行われた。一方では交渉することができない。併し煙草の火でどうこうということはこれは絶対になか
つたのであります。そのときの暴行脅迫の事件というのは、常に交渉しておる
代表者の一人でありますが、私ではありません。私は手が惡くはありませんから……。その人は右手が惡か
つたので、あ
つたかくするために、右手を始終懐ろに入れて交渉してお
つた。そうしたらあいつは匕首を呑んでおる。だから暴行、脅迫だ。そこでこの交渉による結果には從わなくてもよろしいのだということで、賃金も途中から支拂われない。これは明らかに
労働者に対する資本家の
不当労働行爲である。これが処罰されずにそのまま済んで行く。裁判も何もやらない。このために
工場がどんどんや
つて行けなくなる。そうして
労働爭議がますます長引くという結果が出て來ておるのであります。
不当労働行爲というものは、こんなのん氣なことではなくて、嚴密に、峻嚴に敏速にぴしやつと処罰しなければ何にもならないということをはつきりと申上げたいと思うのであります。更に又現在会社側から横浜裁判所に
労働協約の無効の仮処分ということが出ておる。
組合側の方は東京地裁に有効な仮処分が出ている。どうにもならない。ところがこの
労働協約の中には、一方が嫌だと言えば延長しない、どんな
規定があ
つても延長しないということが書いてある。そういうことになりますと、現に問題が起きておるのでありまして、東芝ではあの問題がにつちもさつちも解決付かない。これはもう
方々で出て來ておるのであります。でありますから爭議の
状態を一日も早く解決して、本当に経済の復興を促進して行くということをやるためには、こういう
労働協約の問題についても一方的に打ち切
つてよろしいというようなことが書かれてお
つたのでは、実はますます爭議が長引いて、いろいろな経済の運行の
状態が破壞される結果に陷るということを申上げたいのであります。
最後に、時間がないので簡單に取纒めて申上げますけれども、この
労働関係の法規というものは、外の
労働者に関するいろいろな法規と関連して
考えなければなりません。現に極東
委員会の
労働組合の十六原則の第一項の中にも、
労働組合の目的がはつきり三つ挙げてある。それはその権利を擁護する
法律を作らなければならないということが書いてある。そうして政治行動をやはり
團体としてやらなければならないということが書いてある。そのことを保護しなければならんということが書いてあるが、この
改正案には一字も入
つていない。却
つて政治的な問題はや
つてはいかんということが書いてある。極東
委員会の
労働組合の十六原則というものも、もう少しはつきりと御認識下さ
つて審議を進めて頂きたいというふうに思うのであります。外に言いたいことは沢山ありますが、時間も少いそうでありますから……。
何しろ現在我々は連合軍の管理下にあるという嚴然たる事実と同時に、一日も早くそれから解放されたいという氣持を誰でも持
つておるのであります。そのためにはこのような時代に逆行するものを作
つて行
つたのでは、いつまで経
つても我々は自分達の獨立して運行というものをや
つて行けない。そういう重大な問題であります。で民主化されたかどうかという点についても、婦人の地位の向上、
労働者の地位の向上ということが一番のバロメーターになるのであります。そのためには無論
労働者が本当に自分のために、國のために、民族のためにや
つて行くということのためには、このような反動的な改惡というものは速かに却下されまして、白紙に戻されんことを期待して止まない次第であります。