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政府委員(
齋藤邦吉君) 私から
失業保險法の一部を
改正する
法律案につきまして御
説明申上げます。甚だ恐縮でございますが、お手許にお配りいたしております
失業保險法改正要綱を中心として、必要な
條文を逐いながら簡單に御
説明を申上げたいと思います。
先ず、
失業保險法の
最初の
改正の問題は、
保險料算定の
基礎となる
賃金の
範囲の変更及び
賃金の
最高制限額の撤廃の問題でございます。
先ず、
保險料の額は
事業主が
労働の対償として
労働者に
支拂うすべての
賃金に
基行つて保險料算定の
基礎となります。
賃金につきましては、
從來は
臨時給與を除いてお
つたのでありますけれども、今回は
臨時給與をも
保險料算定の
基礎となる
賃金に加えることといたしたのでございます。それは
改正法律の第四條でございます。
改正法律の
最初の
條文でございますが、「第四條第一項但書中「
臨時に
支拂われたもの、三箇月を超える
期間ごとに
支拂われるもの及び」を削る。」とあります。即ち
臨時給與、
越年資金、或いは三ケ月を超える
期間ごとに
支拂われる即ち
賞與等も
保險料算定の
基礎となるところの
賃金に加えるということにいたしたのでございます。但し第
五條におきまして、
保險料の
算定の
基礎となる
賃金には
臨時給與を加えますが、
失業保險金の額を
算定する場合には
臨時給與はこれを除いて計算することといたしたのでございます。これが第
五條の
改正でございます。即ち
保險料の徴収に当りましては、その事柄の
性質が
税金的性質でもありますので、又事務の簡捷を図るという
意味から申しまして、
保險料の
算定の
基礎となる
賃金には
臨時給與を加えるけれども、
失業保險の方には、これを加えないというようにいたした次第でございます。尚、
保險料及び失業保險金算定の
基礎となる
賃金の
最高制限額を撤廃することといたしたのでございます。これは事務的の内容の問題でございますが、次に、
適用範囲の拡張の問題でございます。
從來の
失業保險の方におきましては、これは第六條の
規定でございますが、
適用事業を列記してお
つたのでございますが、今回はそれを逆に書きまして、例外、
適用されない
事業を列挙することといたしたのでございます。即ち
適用されない
事業と申しますものは、第六條、一のイ、ロ、ハ、ニ、ホとありまするように、
農業関係、
牧畜関係、水産の
関係、それから教育、研究、
調査の
事業、それから
保健衛生の
事業、
社会事業等の
事業は
失業保險の
適用除外ということにいたしたのでございます。その結果として新たに
適用範囲を拡張されまして、
適用されることになりましたものは大きなものは三つあるのでございます。
一つは
土木建築の
事業でございます。二番目の
事業は、映画の製作、映冩、演劇の
事業が二番目に
適用範囲が拡張されたわけでございます。それから三番目に旅館、料理店、飲食店、その他接客の
事業、これが新たに三つ加わ
つたわけでございまして、除外されたものは、農林、水産という原始産業の面、教育
調査、
保健衛生、
社会事業等が除かれることにな
つたのでございまして、この
適用範囲の拡張によりまして、被保險者は約五十万人、この
失業保險の恩恵に浴することと相成
つたのでございます。
次に、大きな
改正は、保險給付の内容の改善の問題でございます。これは保險法第十七條の
規定でございます。即ち「
失業保險金の日額は、被保險者の
賃金日額に百分の六十を乗じて得た額を基準とし、
労働大臣が中央
職業安定
審議会の意見を聞いて定める
失業保險金額表における被保險者の
賃金日額の属する
賃金等級に應じて定められた金額とする。但し、三百円を超えてはならない。」と
規定いたしたのでございます。
從來の
規定を申しますと、現行法におきましては、
失業保險給付率を百分の六十に置いておりますけれども、
賃金の高いものについては百分の四十まで逓減せしむる
方法を取り、
賃金の安いものにつきましては百分の八十まで逓増せしめるという方式を取
つてお
つたのであります。即ち基準を百分の六十に置きまして、百分の八十から百分の四十に逓増、逓減の方式を取りまして計算をいたして
参つたのでございますが、実際の支給を平均して
考えて見ますと、五四・三%の比率になるわけでございます。そこで今回將來の
企業整備等により
失業者の救済を頭に入れて
考えますときに、これだけの給付を以てしましては十分の保護ができないということが
考えられますので、今回一律に百分の六十に高めることといたしたのでございます。大体これによりまして、六千三百円ベースを基準として計算いたしますと、大体において手取
賃金の七二、三%ということになるわけでございまして、これによりまして、一應
失業労働者の最低生活を保障いたしたいと
考えている次第でございます。この
失業保險金の給付の改善につきましては、この平均百分の六十から一律百分の六十にすると同時に、
一つ新たなるところの
改正を加えましたのが、
失業保險金額のスライド方式の改善の問題でございます。
これは第十七條の三の
規定でございます。スライド方式の採用につきましては、現行法におきましても、或る
程度の方式を用いてはいるのでありますが、そのやり方につきましては、多少時期的に遅れたようなやり方でありまして、その実効を
收めることが極めて困難な
情勢にありましたので、今回これをできるだけ速かににスライドせしめ、そのスライドの効果を
失業労働者が直ちに受けるようにいたした次第でございます。その十七條三の第二項によりまして、即ち勤労
統計におきまする工場
労働者の平均給與額が百分の百二十を超え、又は百分の百八十を下るように至
つたと認めるときには、
失業保險金額表を
改正して平均給與額の上昇低下の比率に應じて、
賃金日額、
失業保險金の日額を
改正いたしますと、この二項の
規定によりまして、
改正前に離職してお
つた者もこのスライドによりまして、上
つた給與率の……給與額の上昇の比率に應じて
失業保險金の日額を上
つたものとして受取ることができる仕組みにいたしたのでございます。即ち現在離職前一万円の俸給を取
つてやめたという者は百分の六十でございますので六千円貰うわけでございますが、ところがこの勤労
統計によりまして平均給與額が仮りに二〇%上るといたしますと、一万円貰
つてお
つた者は一万二千円貰
つてお
つた者として、それの百分の六〇という
失業保險金を貰い得るといたしたのでございます。即ち物價の変動に應じまして
失業労働者の実質的な生活保護、実質的な
失業保險金額の改善を
考えたのでございまして、この点は今回の
改正の極めて重要な部分をなすものと
考えている次第でございます。
次に、
保險料率の引下げの問題でございます。
法律第三十條第一項でございます。第三十條第一項中、被保險者及び被保險者を雇用する
事業主について、おのおの千分の十一を百分の二と、こういうふうに改めたののてございます。
從來の
保險料率は千分の十一でありまして、
労働者、
事業主おのおのが千分の十一を負担してお
つたのでありますが、御
承知のように、
失業保險の
経済は極めて鞏固に相成
つて参りましたし、そうして又將來の
失業というものも
考えまして、或る
程度の軽減をいたしましても、保險
経済といたしましては心配がないという見通しが付きましたので、千分の十一を千分の十に下げまして、即ち労資の負担するところの
保險料を百分の二、おのおの百分の一ずつということに
改正いたした次第でございます。これが第三十條第一項の主な
改正でございます。それから次は、第三十四條以下の問題でございます。三十四條、三十四條の二の点でございますが、
保險料の徴収につきまして、
申告納入制度を採用することといたしたのでございます。御
承知のように、
從來までにおきましては、納入告書を発行いたしまして、それによ
つて保險料の納入を命ずるというやり方を取
つたのでありますが、御
承知のように、すでに
所得税におきまして
申告納入の
制度も採用せられており、更に又
保險料につきましては、
労働者の
賃金から一部控除しておるという事情もあり、更に又
保險料の納入につきましての
事業主の実勢をも尊重する
意味合から、今回
所得税と同じように
保險料の
申告納入制度を採用し、これによりまして事務の簡捷を図るようにいたした次第であります。これが三十四條及び三十四條の二の
規定でございまして、大体
所得税その他の
徴收との例文でございます。尚、次に三十六條の
規定でございますが、
國税徴收法に準じまして、延滞金の額を
引上げまして、
保險料額百円につき一日二十銭とすることにいたしたのでございます。次に、第三十四條の四の
追徴金の
制度でございます。この
追徴金の
制度は、
申告納入制度と表裏をなすものでありまして、
所得税が
申告納入となりました際に、同様に
追徴金制度が採用せられておりますし、今回
保險料の滞納につきましても、一定の
追徴金を課し得ることといたした次第でございます。これは
申告納入制度を採用することに閉口しての新らしい
制度でございます。
この点は事務的な
改正でございますが、次に日雇
労働者に対する
失業保險制度を創設するという大きい問題があるのでございます。これが第五章以下日雇労度を被保險者に関する特例という第三十八條の二から第三十八條の十五に及ぶ一章を設けまして、日雇
労働被保險者の
制度を設けることといたしたのでございます。以下これにつきまして簡單に御
説明を申上げます。
先ず第一に、日雇
労働保險の被保險者の
範囲の問題でございますが、これは三十八條の三の
規定でございます。即ち三十八條のの三の第一項の一にありまするように、
安定所の所在する市町村又はこれに隣接する市町村に居住して、そうして第六條の
事業主に雇用される者を強制被保險者といたしたのでございます。保險
制度を採用いたしまする際には、最後に保險給付を貰いまするときには、
安定所に参りまして、
失業の認定を受けるということが
原則でございまするので、
原則として日雇
失業保險の被保險者は、
安定所所在地又はこれに隣接する市町村に居住する者といたしたのであります。併しこれだけでは不十分でありますので、二号、三号にそれを追加いたしてあります。即ち
適用区域外に居住しておる者も、
適用区域内にある
事業主の
事業所に雇用される者、即ち
適用区域外の
地域から通勤して來れるような者は当然被保險者にすべきであるというので、それを
適用いたしておるのでございます。尚日雇
労働者につきましては、
適用区域外の遠隔の地に、例えば高山とか、水力発電の大きな工事があるというような場合におきましては、そういう
適用区域外の
地域に住んでおりまして、而も
適用区域外の
事業に從事する場合におきましても、これも強制被保險者として保護することが必要であると
考えましたので、第三号におきましてそれを定めておるような次第でございます。併し日雇
労働の
原則といたしまして、
安定所の所在地というものを一應
原則といたしておる次第でございます。これが三十八條の三でございます。尚この日雇
労働につきましては、即ち
事業に雇用されるという者でありますので、各家庭に入りまするときには、当然この恩恵は受けないということになります。それから三十八條の二に、「日日雇用される者」、「一月において三十日以内の期間を定めて雇用される者」、これが日雇
労働の定義でございますが、尚
臨時出稼ぎのような
労働に從事する者につきましては、第十條の
規定によりまして、即ち「季節的
業務に四箇月以内の期間を定めて雇用される者又は季節的に雇用される者」、即ち出稼ぎとか、そうい
つたような
業務に從事する者は、日雇
労働者の恩惠は受けないということに相成
つておる次第でございます。次に、受給資格及び受給要件でございますが、受給要件は、
失業の日に属する月の前二月間に、通算して三十二日分以上の
保險料を納付するということが受給要件でございまして、これは三十八條の六に
規定されております。即ち例を引いて申しますると、本年の一月と二月の二月間において三十二日分以上働いて
保險料を納めたという者は、三月になりまして
仕事がないときに、始めて
失業保險の恩惠を受けるということであります。即ち
失業の前二月において三十二日分以上でありまして、一月、二月のおのおのの月におきまして十六日ずつ働きました場合は勿論のこと、一月に二十日働き二月に十二日働いた場合でもこの受給要件が付く。要するに、二月間において三十二日分以上の
保險料を納付する、その場合に初めてこの
失業保險の受給要件が充たされるのでございます。この
失業保險の受給要件が付いた者にどういうふうに支給するかと申しますると、それは三十八條の九でございます。保險金の支給でございますが、その前に
失業保險の受給要件の問題を申上げますると、
安定所に出頭いたしまして
失業の認定を受ける、こういう
原則でございます。尚、支給するに当りましての待期期間の問題でございますが、一般の保險でありますると、一週間の待期を設けることにな
つておるのでありまするけれども、日雇につきましては、通算して七日、継続して五日の待期を設けることといたしておる次第でございます。この分は第三十八條の九の第三項に
規定せられておるわけでございます。三項を読みますと、「
失業保險金は、公共
職業安定所において、
失業の認定を行
つた日について、その日分を支給する。
失業保險金は、日雇
労働被保險者が
失業した日の属する月における
失業の日数が、通算して七日又は継続して五日に満たない間は、これを支給しない。」即ち一月、二月働きまして、支給要件が、資格が付きまして、三月になりまして、
安定所に継続五日行
つて見たけれども
仕事がなか
つたというときに初めて発動して、一日分の
失業保險金を受取
つて帰る。それから通算して七日、即ち今日は
失業して明日は
仕事があ
つた。それから又次の日に
失業したという場合には、通算の場合には七日の待期、それを過ぎてから然る後に
失業保險金を支給する、こういうことにいたしておるのでございます。それから
失業保險金の支給の問題でございますが、今申上げましたように三十八條の九の
規定でございますが、その日その日の
失業保險金を支給することが三十八條の九の第三項にあるわけでございます。どの
程度の日数の
失業保險金を支給するかと申しますると、
失業保險金は被保險者手帳に貼付いたしました
失業保險印紙の枚数に應じまして、一月間に十三日から十七日分を限度として支給することといたしておるのでございます。即ち三十二日分、三十二日働きまして、三十二日分の
失業保險印紙を貼付いたしますると、その月に十三日分は必らず支給することにいたしております。尚、稼働奨励の
意味におきまして、それに三十二日分を超える四日分ごとに一日の保險金を支給することといたしまして、それを最長十七日まで延長し得ることといたしておるのでございます。それが三十八條九の一項の
規定でございます。
それから次に、
失業保險金額の問題でございますが、
失業保險制度を
考えましたときに保險金額をどうするかということが、非常に大きな問題として十分研究をいたしたのでございますが、今回は定額制を採用することといたしたのでございます。
賃金日額が百六十円以上の
労働者については百四十円、百六十円未満のものについては九十円の定額を支給することといたしたのでございます。それが三十八條の八でございます。第三十八條の八「
失業保險金の日額は、第一級百四十円、第二級九十円とする。」といたしたのでございます。第一級と申しますのが日額百六十円以上のもの、第二級の九十円というのは百六十未満のものでございます。それから次に
保險料額の問題でございますが、これも定額制を取
つたのでございます。第三十八條の十一第一項「
保險料額は、一日につき、第一級六円、第二級五円とし、日雇
労働保險者に
支拂われた
賃金の日額が百六十円以上の場合は、第一級、百六十円未満の場合は、第二級とする。」、「日雇
労働被保險者の負担すべき
保險料額は、第一級については三円、第二級については二円とし、
事業主の負担すべき
保險料額は、第一級及び第二級につき各々三円とする。」即ち第一級の高い
賃金のものにつきましては、
事業主、
労働者三円、それから二級の百六十円未満のときには
事業主が
保險料として三円、
労働者は二円、こういうことにいたしたのでございます。普通
保險料額は労資均等負担が
原則であるのでございますが、日雇
労働者につきましては、その特殊性もありまして、又
事業主の側から申しますれば
賃金が高い、低いということよりも、むしろ頭数という問題もありますので、
事業主の負担は第一級、第二級とも同額として、
労働者のみについて、第二級について二円と
保險料を定めておるような次第であるのでございます。
保險料額の次は納付の
方法の問題でございますが、これは第三十八條の十二でございますが、
失業保險の印紙を以て納入せしめる。即ちスタンプ
制度によることといたしたのでございます。即ち
事業主をして
失業保險印紙を購入せしめ、日雇
労働者を雇用した都度、これを雇用した日雇
労働者の被保險者手帳に貼付せしめることといたしたのでございます。尚、こうした
義務を違反いたしました
事業主に対しましては、
追徴金等の
制度を設けておりますることは、一般の保險の場合と同じであるのでございます。
次は、大体簡單な問題でございまして、一般の被保險者と日雇
労働被保險者との調整の問題でございまして、これは第三十八條の五の第二項に定められておるような次第でございます。尚、十といたしまして、
失業保險審査官の職権審査を廃止することといたしております。第四十一條の
規定でございます。第四十一條第二項を削除しておるということでございます。尚
失業保險委員会を今回中央
職業安定
委員会へ統合することといたしたのでございます。これが三十九條でございます。即ち
失業保險事業につきまして、重要事項は予め
労働大臣が
失業保險委員会に諮問することにな
つておるのでございますが、
失業保險制度は御
承知のような
失業対策全般の一環として運営せられておりますので、この際中央
職業安定
委員会に統合し、一本の
委員会で行くことが適当であると
考えましたので、統合することといたしたのでございます。尚、罰則
関係の
規定を整備いたしておるような次第でございます。尚、その外に、
從來政令に讓られておりました事項は、できるだけこの際
法律に
規定することといたしまして、
法律事項に
はつきり明記することといたしたような
條文が五つ六つあるわけでございます。その点につきましては
説明を省略させて頂きたい、かように存ずる次第でございます。