○楠見義男君
只今議題となりました三つの
法律案につきまして、農林
委員会における
審議の状況並びに結果を御
報告申上げます。
先ず最初に
食糧確保臨時措置法の一部を
改正する
法律案について御
報告申上げます。
この
法律案提案の趣旨は、
理由書にも明記せられておりますように、連合軍総司令部の主要食糧集荷に関する覚書に基き、
経済九原則の具現化を
中心とする我が國
経済の動向に即應するため、供出
制度の改善を図らんとするものであります。御
承知のようにいわゆる
経済九原則におきましては、その第九項として食糧供出
計画の能率向上を図ることが明示せられておるのでありますが、これに基き、更に又
昭和二十年九月二十二日附連合軍総司令部指令第三号に関連いたしまして、昨年十二月二十四日附を以て
日本政府に対し、主要食糧集荷に関する件と題して覚書が発せられておるのでありまして、その覚書の大体の趣旨は次のごときものであります。即ち「國内産主要食糧の実行可能なる最大限の数量の集荷は、すべての
日本人に入手し得る食糧の公平な分け前を確保するためにも、又
昭和二十年九月の指令第三号や
経済九原則の第九項に示された諸
目的を達するためにも必要欠くべからざるものである。而して現行の食糧管理諸
法律には、主要食糧の供出割当は作付前になさるべきこと及び事前割当は爾後増加せしめられないと規定されておるが、この事前割当が増加せしめられないという規定は、限られた國内産食糧の供給についての効果ある
統制の確保を不可能ならしめるものである。從
つて日本政府は、
生産及び供出に関する報奬措置をも含めて、主要食糧農産物の最大限増加に必要な諸措置を継続すると共に、利用し得る主要食糧農産物の最大限実行可能な集荷を確保するための諸措置をとり、これを完遂することを要する。而して右の諸措置の中には、收穫の諸
條件が確定した收穫時又はその直前において、法的に強制力を伴う追加割当を規定するため必要な諸法令を
改正又は公布することを含む。」覚書の趣旨は大体以上の
通りであります。
從つてこの覚書に基いて提案せられました今回の
改正法律案の
内容も、当然に追加割当に関する法的措置がその主なる部分をなしておるのでありまして、
即ち
改正内容の第一点は、追加割当をしないという現行法第七條第四項を削除し、同時に現行法の第八條では、災害その他眞に止むを得ない事由で事前割当の供出数量を供出できなく
なつた場合に、農民は供出数量の減額請求をなし得る旨の規定がありますが、この減額補正と並んで、收穫量が当初の見込に比し増加し、
生産者に供出の余力があり、且つ國内の食糧事情からも、食糧需給の均衡を保持するために特に必要があるときは、作況等を考慮し、農林大臣は、中央農業調整
審議会及び都道府縣知事の
意見に基いて、事前割当の供出量に対し追加割当をなし得ることしているのであります。尤も追加割当の場合には、農民の
生産意欲の減退をでき得る限り防止するための考慮から、その超過
生産分の一部を保有することができるように定めているのであります。
改正の第二点は、市町村長が、各個人別に農業
計画、即ち
生産量、保有量、供出量等の事前割当を行う場合の方式を明確にするために、農林大臣の定むる様式に基く書面によるべきこととし、第三点は、農業
計画の指示を受けた
生産者からの
異議申立期日の統一を図るために、現行法に所要の
改正を加え、その他現在行政措置として
法律上の明文を欠いておりまする地方農業調整
委員会の機能や、いわゆる都道府縣限りの地方補正等について規定しておるのであります。
改正の第四点は、市町村農業調整
委員会が現行法の第十一條において有しているところの主要食糧農産物の
生産増進乃至
生産障害除去に関する指示権の中に、蔭樹の伐採指示権の存することを明確にいたしますると共に、指示に從うことによ
つて生じた損失補償
制度を新たに設けておるのであります。
以上が本
改正法律案提案の趣旨並びにその
内容の主なるものであります。而して申すまでもなく本
法律案は、我が國の
経済自立に直接関連する重要問題でありますると共に、一面現行の事前割当
制度の
根本に触れる問題であり、同時に又農業増産や農家経営の今後を左右する極めて重大な問題でありますので、農林
委員会といたしましては、去る四月二十七日、本
法案に関する第一回の
委員会を開きまして以來、殆んど連日に亘り、各
委員も又あらゆる
方面に亘る資料の蒐集並びにその檢討を行い、眞に愼重
審議を重ねたのであります。その結果、後にも述べまするように、本
法案は一部修正の上可決することといたしたのであります。
以上
委員会における
審議の
経過について申上げたいと存じます。先ず最初に、この
法案の受入れ方と申しますか、
委員会の
審議の態度の点について申上げたいと存じます。御
承知のように、現在の
食糧確保臨時措置法が第二回
國会において提案せられた当時の
政府の提案
理由説明によりましても、「この
法律は、食糧農産物の
生産及び供出について予め
計画を定むることにより、
政府及び農民のそれぞれの責任分野を明確にし、農民をしてその供出
計画の遂行に努力を傾注せしむると共に、
政府も又その
生産計画達成に必要な資材
資金の供給、その他奬励措置を講じ、又追加供出を行わないという義務を負担し、又この義務負担によ
つて農民の
生産意欲の高揚を期し、それが延いて食糧問題において最も
根本的な増産という問題の達成にも資することになる。」かくのごとく述べておるのでありまして、現行法の
一つの特徴は追加割当を行わないという点にあるのに対して、今回の
改正案におきましては、この
制度に対する
根本的改変とも言うべき超過供出に対する法的強制をいたすのでありますから、このままでは農民にと
つても確かに重大な而も不利な影響を與える問題でありまして、さなきだに重視やシエーレやその他の惡
條件の下に苦しんでおる農民を更に一層苦しめることになるわけであります。
從つて委員の一部の方々は、現行供出
制度をも含めて、
本案に全面的
反対の態度を示されていたのでございます。
他の一部の方々の御
意見は次のようでございました。即ち、現在の我が國の食糧事情その他諸般の國際事情から言
つて、而も又
経済九原則に伴う覚書が発せられておる現状から申しましても、勿論この覚書は
日本政府に発せられたもので、
國会に対するものではありませんが、併しこの覚書の趣旨とするところについては、でき得る限りこれを尊重することも又必要なことではあるまいかという
考え方であります。即ちこの
考え方から申しますと、現にアメリカでは、來会計年度における莫大な食糧その他重要
生産用資材についての対日救済援助費
予算が議会で討議されておるときに、
日本國会が占領軍総司令官の
日本政府に対する命令の実行を踏みにじ
つたとしたら、一体その結果どんな事態が生ずるであろうか。それはそれとしても、若し
國会が否決すれば、
政府は直ちに覚書に基き、いわゆるポツダム政令を以て
法律改正をせねばならぬ義務を有しておるのでありまして、そうなれば結局原案の惡いところだけが農民に強いられる結果になる。
法案否決によ
つて一時農民が喜ぶように見えても、実は決して農民のためにはならぬのでありますから、むしろ原案をできるだけ農民にと
つて有利な立場に展開し得るように、即ち
法律案を可能な限度において修正したり、或いはこの
法律案を受入れるために必要な新らしい立法的措置を
國会みずからの手で講じたりすることによ
つて、農民の蒙むるべき影響をでき得る限り緩和することが、眞に大乘的観点からする農民を愛する態度であるという
考え方であります。
從つてこの
考え方からすれば、覚書においても示されておるように、今回の
改正案は、主要食糧農産物の増産を最大限可能ならしむるような
政府の施策が継続実施され、而してその結果によ
つて増産された食糧を公平に分配するためにとらるべき措置であるにも拘わらず、増産奬励に関する
政府の義務が十分に果されておらず、或いは
從來に比して逆に縮小せられておるものすらある点に問題が存するのでありまして、かくては
從來政府が供出
制度に関して受けておりましたところの非難、即ち徒らに且つ一方的に農民を責むるにのみ偏したという弊に再び陷ることになるわけでありますから、覚書に示された
政府の他の一面の義務たる増産奬励措置について十分の究明をなすと共に、その実現を図ることに努力すべきであるといたしたのであります。
以上申上げましたような
二つの相異
なつた観点から、
委員会の
審議は極めて熱心に且つ活溌な論議が重ねられたのであります。即ち現在農業経営において最も
根本的な再
生産確保の問題を
中心といたしまして、積極的な増産対策及び消極的には現に再
生産を阻みつつあるいろいろの障害除去の対策等について、眞劔な檢討と
質疑應答が盡されたのであります。即ち
委員会における主なる質疑
事項は、現行供出
制度の欠陥に対する是正問題の外、
政府の公約違反とその責任、農産物の價格対策、
農村課税における不公正の防止対策、肥料、農機具、農藥等の
生産資材に関する需給調整対策、農業資
金融通対策、
農村向け衣料、ゴム製品及び石油等の配給問題、各種の報奬措置に関する問題、一部保有農家、即ち轉落農家に対する割当及び配給問題、耕作放棄防止の対策、本年度の食糧需給対策等々でありまして、数多くの而もいずれも重要なる問題のみでございましたが、これらの詳細は幸い他の
委員会の御協力をも賜わりまして、でき得る限りこれを速記録に留むることといたしましたので、それによ
つて御
承知願いたいと存じます。
右のごとき
審議の
経過を経た結果、
委員会といたしましては、板野
委員を除く全
委員の共同提案による修正案を用意いたしますると共に、別に
一つの新らしい立法的措置を講ずることといたしたのであります。新らしい立法的措置につきましては、後程
食糧増産確保基本法案として出しましてこれを御説明することといたしたいのでありますが、修正案について申上げますと、その主なる点は、第一は、いわゆる一部保有農家に対しては供出割当をいたさないようにするということ。第二は、農民の権利擁護の立場から、本
法律案においては
從來の割当に対する農民からの
異議申立期間が短縮される虞れがあり、更に災害等の場合における減額補正請求権が抹殺されておりますのを、現行法
通りに復元いたしたこと。第三は、市町村農業調整
委員会の蔭樹伐採指示権が濫に流れないように、例えば保安林等の伐採をその指示権から除くための制限規定を設けたのであります。
質疑終了後、
討論に付しましたるところ、板野、岡田、岡村、池田各
委員よりそれぞれ
反対意見の御開陳があり、尚、板野
委員からは十数ヶ所に亘り修正を提案せられたのであります。その要点は、農業組合の
民主化、農業調整
委員会の
権限強化、並びにその
構成の
民主化、再
生産用資材の確保、現行
制度における作付制限的規定の排除、及び、民主的且つ自主的供出の実現以上の四点であります。
次いで採決に入り、先ず板野
委員の修正案を議しましたるところ少数を以て否決、次に前に申述べました板野
委員以外の各
委員共同提案の修正案は多数を以て可決せられました。修正個所を除く原案残余の部分につきましては、賛成八、
反対八の各同数、
從つて委員長の決するところとなり、
委員長は原案に賛成いたしましたので、結局本
法律案は一部修正の上多数を以て可決することとなりました。この
食糧確保臨時措置法の一部を
改正する
法律案の
審議の状況は以上の
通りであります。
次に
食糧増産確保基本法案について御
報告申上げます。
この
法律案は農林
委員大多数の共同によ
つて立案せられたものでありまして、
委員会におきましては板野
委員を除く全員一致を以て可決せられたものであります。而してこの
法案は、先に本院において議決せられました食糧の増産確保に関する決議の趣旨の一端に副うための
法案でありますると共に、只今御
報告申上げました
食糧確保臨時措置法の一部を
改正する
法律案を我が國現下の諸情勢の上から見て万止むを得ざる措置として賛意を表したものにとりましいは、その受け入れるための必要な新らしい立法的措置として提案せられたものでありまして、即ち只今御
報告申上げました
通り、追加割当に関する覚書において明示せられている増産奬励措置について
政府の負担すべき責任を
法律上義務付けますると共に、提案
理由にもありまする
通り、我が國の
経済自立を達成するためには食糧の増産確保が極めて緊要であることの基本的事実に鑑み、主要食糧農産物の増産を容易且つ適切ならしめるため、積極的な措置を講すると共に、その増産を図る上において障害とな
つている諸
事項を是正し或いは排除するのに必要な措置を講ぜんとするものであります。而してその
内容は、第一に、農地開発、災害復旧、土地改良等の事業について、
政府みずからその施設をなし、或いは
民間事業に対して適切なる
予算的或いは
資金的の助成を行わねばならぬこと、第二に、今後の我が國食糧の自給度向上の見地から最も重要な芋類の利用増進を期するために不可欠の加工貯藏施設の完備についても、同様
政府の義務を規定し、第三には、いわゆる早期供出及び超過供出に対する
政府の報奬金交付の義務を規定しておるのであります。尚この点につきましては、報奬金に対する免税或いは税法上の特典附與について、
委員会といたしましては最後までその実現を期して最善最大の努力を盡したのでありますが、遂に
関係方面の了解を得るに至らず、誠に遺憾ながらシヤウプ・ミツシヨンの今後の檢討に譲ることになりました。
内容は第四は、極東
委員会の農業十六原則中にも示されておるところの農業協同組合等に対する差別待遇防止、即ち一般商業者又は商業團体に比して差別待遇を受けた場合の救済措置を規定しておるのであります。もとより農産物増産を確保するためには、一般税制の問題、價格の問題等、更に
根本的ないろいろの問題もあることと存じますが、この
法案は最初に申上げましたような趣旨で立案いたしましたので、足らざるところ極めて多いと存じます。
從つて希くば今後
國会各議員の方々の御盡力によ
つて、その
内容を眞に題名に副うごとく補充完備して頂くことを切にお願いいたしまして、
本案の
委員会における可決
報告といたす次第であります。
最後に
食糧管理法の一部を
改正する
法律案について御
報告申上げます。
本
改正法律案の
内容の主なるものは大体三点でございますが、その第一点は、主要食糧の配給
計画を中央地方を通じ適正且つ明確に定むるとともに、その
計画を的確に実行して參めために、
法律の明文を以て毎月の配給
計画について、農林大臣から都道府縣知事及び市長村長や実施
機関たる食糧配給公團に至る
計画の流れ方を規定し、且つ購入通帳乃至購入切符の発行及びその行使方法を明らかにいたしておるのであります。元來食糧配給
統制の
根本をなすものは、言うまでもなく配給対象人口の正確なる把握であり、その基礎の上に立
つての適正なる配給討
計画の策定及びその実施であります。而してこのことにつきましては、
生産者及び消費者の正確なる区分、
生産者の中では一部保有農家と完全保有農家の区分、消費者の中では労働者等に関する稼働日数や人員の正確なる把握、轉出入に件う重複配給の防止が必要であり、更に又全体を通じてのいわゆる幽霊人口の絶滅、大きないわゆる家庭農園の取扱に関する問題があるわけでありまして、この間に処して、
政府從來の努力にも拘わらず、尚一部には不正申告や不当配給等が跡を絶たぬ
実情に鑑み、先般三月二日附を以て連合國総司令部より主要食糧の配給
制度強化方策に関する件と題する覚書が
日本政府宛発せられたのでありますが、右覚書の一部に照應する措置として今回の
法律改正が提案せられた次第であります。而してその具体的な規定は、概ね現在農林省令或いは行政措置としてとられておりますところを
法律上明定いたしておるのであります。
改正の第二点は、現行
食糧管理法第九條の規定の運用を
民主化せんとする
改正であります。現行法の第九條によりますと、食糧
統制上必要に應じ臨機の措置をとり得るための廣範囲の委任命令がなし得ることとな
つており、即ち主要食糧の配給、加工、製造その他の処分、使用、消費、保管及び移動に関して必要な命令をなし得ることとな
つておるのでありますが、
改正案におきましては、その
運営上の枠として、当然のことながら、「主要食糧ノ公正且適正ナル配給ヲ確保シ其ノ他本法ノ
目的ヲ遂行スル為」という制限規定を置きますると共に、本條に基く命令の規定について直接の
利害関係を有する者から
経済安定本部総裁に不服の申立をなし得る途を開き、この場合、安本総裁は
公聽会を開いて、然る後何分の
決定をなし、その結果を
関係者に通知することといたしておるのであります。
改正の第三点は、食糧配給公團の基本金の増額に関する
改正でありまして、前
國会においても五千万円の増額をいたしたのでありますが、今回更に五千万円を増額し、結局現行の一億三千万円を一億八千万円と
改正せんとするもであります。而してこの点につきましては、前回の
改正の際にも御
報告申上げましたごとく、前回すでに今回の増額分以上も含めて必要でございましたが、
國家財政の都合上、その許す範囲でその都度増額しておる
実情であります。
本
改正法案の
内容及びその趣旨は大体以上の
通りでありますが、本
法律案の
審議に当りましても、各
委員より食糧管理行政の全般に至り極めて数多くの且つ又重要な
質疑應答が重ねられたのでありますが、時間の
関係上すべてこれを会議録に割愛することをお許し頂きたいと存じます。
かくて質疑終了後、
討論において板野、池田恒雄の両
委員から
反対意見の御開陳があ
つた後、採決に付しましたるところ、本
法案は多数を以て
衆議院送付、
政府提出原案
通り可決すべきものと
決定いたした次第であります。以上御
報告申上げます。(
拍手)