○山田節男君 只今
議題となりました
労働組合法案につきまして、委員会におきまする審議の経過並びに結果を御
報告申上げます。
委員会におきましては去る五月十二日公聽会を開き、桂皋氏以下十二名の公述人より意見を聽取いたしました。次いで五月十四日より五月二十一日まで愼重に審議をいたしまして、質疑應答の後、討論に入りまして、採決の結果、多数を以て
衆議院送付案通り可決すべきものと決定いたしました。
先ず本案の提案理由及び内容について申上げます。現行の労働組合法は、施行以來三年余を経過いたします間に、立案当時予想せられなかつた不備の点が現われて参りましたので、これが修正を必要とする事態に立ち至りましたことが理由の第一点でございます。
次に過去三年間に急激に発達いたしました我が國の労働組合が、今日三万六千の労働組合と、約七百万の労働組合員を擁し、近く國際労働運動場裡にも参加を許されんとする機運に立ち至りました今日に当りましては、労働組合が眞に民主的、自主的であり、且つ経済再建に対し、その責任をみずから担うところの独立にして建設的なものとなり、更に日本経済安定九原則実行の最大の担い手として、労働組合大衆の盛り上る総意を以て再建に協力する態勢確立のために、立法上の措置を講ずる必要に立ち至つたことが理由の第二点でございます。次に旧憲法下におきまして制定せられました現行の労働組合法と、新憲法及びその成立後に行われました諸立法との調整を図る必要が生じましたことが、この理由の第三点でございます。
次にこの内容の主な点を掻い摘んで申し上げますと、第一は、労働者の團結権、團体交渉権の保障を、より具体的且つ明確にしようとするものであります。第二は、労働組合に加入し得る者の範囲を明確にし、且つ使用者の財政的援助を禁止することにより、組合の自主性を確保せんとするものであります。第三は、無記名投票制度等を採用して、組合員の平等と組合運営の公正とを期し、これを組合規約の必要記載事項とすることによりまして、組合の民主性、責任性の保障を図つたこと、又労働組合の資格を備えないものには、本法及び
労働関係調整法の保護を與えないことにしようとするものでございます。第四は、使用者の不当労働行爲を明瞭に
規定し、組合に対する一切の干渉を排除して、團結権、團体交渉権の保障を図ろうとするものでございます。第五は、労働協約の不合理な延長を排除し、合理的な労使関係の保障を図ろうとするものでございます。第六は、
労働委員会の職責、権限、組織を
法律を以て明確にすると同時に、委員会の使命、職責を考え、その権限を強化し、更に準司法的機能については公益委員のみを以てこれを行うことにしようとするものでございます。第七は、不当労働行爲を直接に罰する方針を改め、
労働委員会及び裁判所の命令違反に対し有効且つ強化された罰則を科する方針に改め、正常な労使関係の確保を図ろうとするものであります。
次に衆議院におきましては、政府提出の原案に対しまして、三つの面からこれの修正をいたしておるのであります。第一は、立法技術上不適当な表現及び不備な点を修正いたしたのであります。第二は、政策上不適当な点を修正いたしたのであります。即ち
東京都
労働委員会は特に取扱件数が多いために、委員を公益、労働者、使用者代表共それぞれ五名を七名に改めたことでございます。第三は、本
法案のために労働省
設置法その他の
法律を
改正しなければならない点がありますので、それをこの
法案において
改正いたしたのでございます。
委員会におきまする質疑應答は、極めて活溌且つ熱心に行われましたが、その主なるものを申上げます。
現行法第
一條には、労働組合の目的に関して團結権、團体交渉権を明確に
規定しておるに反して、本
改正法案第
一條は、憲法第二十八條に
規定されておる基本原則をより具体的に
規定し、これを保障するものであると称しながら、その実、表現は極めて曖昧であり、且つその意味が捕捉し難く、却
つて憲法の
規定する團結権、團体交渉権、団体行動権の保障の範囲が狹められたのではないかとさえ考えられるから、むしろ現行法の
規定を存置する方がよいのではないか。又同條第二項但書「いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行爲と解釈されてはならない。」これは現場において何が暴力行爲であるかの認定を官憲の一方的判断に委ね、從
つて官憲による爭議行爲の不当彈圧を誘致することを憂えるが如何という質問に対しまして、政府委員より、本條の内容は、趣旨において現行法と全く同一であ
つて、具体的且つ詳細に
規定し直したものに過ぎない。第二項但書の点につきましては、かかる虞れのないように十分指導監督を與える所存であり、労働省におきましては、全國六ヶ所のブロツクごとに、都道
府縣知事、労働部長並びに
労働委員その他労働関係の人々を集め、本條の運用についての趣旨の徹底を図るつもりであり、又法務当局におきましても、近く全國の檢察事務当局の労働係檢事等の会同を催し、同樣趣旨の徹底を図り、その運用に万一の誤まりなきを期する旨の答弁がございました。
第二條第二号の、使用者による経済的援助の禁止につきましては、組合專從者の減少を來し、健全な労使関係の調整に惡影響をもたらす虞れはないかという質疑に対しまして、政府委員より、現在の実情に鑑み、使用者の援助を禁止して組合の自主性を確立すべき時期であると思うとの答弁があり、第五條第二項第四号中、憲法、労働基準法等においては、同種の
規定の中には、すべて「信條」が挿入されているにも拘わらず、本
法案にあ
つては、これが削除されている理由如何。又第七号の、職業的に資格を有する会計監査人による組合の会計監査制度の採用は、今日組合財政の実情から見て困難ではないかという質疑に対しまして、政府委員より、前段の点は組合の自主性に委ねるのを適当と考える旨、又後段の点は、これは極東委員会の「労働組合に関する十六原則」に明記されているものであ
つて、費用の支出を困難とするような小さい組合については上部團体による世話を期待する旨の答弁がございました、又公益委員のみの権限強化は不適当ではないか。各代表者が評議に参加して十分論議を盡し得るようにしなければ、関係者を納得させ、決定を浸透させることは困難である。
労働委員会の特質を考えず、司法裁判的な形式に因われることは妥当でないと考えるとの質疑に対しまして、政府委員より、三年間の経驗に徴しましても、又國際的通念から言
つても、現状より見て、労使の代表をこの種事件の評議決定から除くことが妥当であると考えられる。併し決定に至るまでの間に各労使委員の論議はこれを十分盡させるよう期待している旨の答弁がございました。
政治スト、同情スト、生産管理等について如何に考えるかとの質問に対しまして、政府委員より、本法上の爭議とは、労使間においての経済上の主張、要求を貫徹するための行動と解釈しておるから、政治スト、同情ストは、違法ではないが不当なものと考えておる。從
つて、本法に
規定されておる保護を受けることができない。又生産管理は、使用者の指導監督を排除して、労働者が使用者の管理に属すべきものを運営する爭議行爲と解しておる。具体的事例によ
つて種々の相違があり、一律には言い難いが、生産管理そのものとして違法性があるものとは必ずしも言えぬが、犯罪構成の要件がこれに加わ
つて違法性の出て來る場合が多い旨の答弁がございました。第三十二條の命令不履行の場合、一日につき十万円の過料は、中小事業主にとり苛酷に過ぎはしないかとの質疑に対しまして、政府委員より、本
規定は英米法の流れを汲む本邦最初の間接強制の
規定であ
つて、その迅速的確な効果を期待しておる。尚、過料については、それ以下において裁判官の健全な常識による運用を期待しておる旨の答弁がございました。
かくて質疑を終了し、続いて討論に入りました。田村委員、平野委員、一松委員より、それぞれ緑風会、民主党、民主自由党を代表して賛成意見の開陳がありました。そのうち田村委員の御意見を御紹介いたしますと、本
改正法案は、労働組合の民主性並びに自主性の確立、使用者側の不当労働行爲の取締、及び
労働委員会、特に公益委員の権限拡大等、現行法に比較して若干ではあるが整備改善を示したものとして賛意を表すると共に、一面取締法的色彩を帶び、從らに欧米法の模倣に堕せんとする傾きを示しておるのは遺憾であるが、客観情勢の機運未だ熟せざる現状を省察するとき、止めを得ざるものとして、今回の
改正の程度を以て一應了承するものである旨の賛成意見でありました。
玉村尾委員、中野委員、千葉委員より、それぞれ日本社会党、日本共産党、無所属懇談会を代表して反対意見が開陳されました。先ず村尾委員よりは、本
改正法案提出に至るまでの手続乃至経過が非民主的、官僚独善的であり、且つ又秘密主義であつたことには賛成し難い。更に内容については次の諸点において反対であるから、社会党として修正案を提出せんとしたのであるが、諸般の情勢に鑑み、今回その要旨を述べるにとどめる。即ち、第
一條「組合の目的」については、現行法のままこれを口語体に改め、第二項但書「暴力の行使」の項を削除し、第五條「労働組合の認可制」は、現行法通り届出制とし、第二項第四号中「宗教」を「信條」と改め、第七号中「職業的に資格のある会計監査人」を「公正な会計監査人」に改め、更に附則において、現行労働協約はその有効期間内にあ
つては当然その効力を認めらるべき旨の一項を挿入せんとするものである等の修正意見を体して反対されました。中野委員、千葉委員よりは、それぞれ本
法案は、組合の自主性、民主性確立の美名に隠れて、実は組合の分裂を策し弱体化を企図せんとするものであり、憲法の明らかに保障する團結権以下の労働者の基本的権利を蹂躪せんとする天下り的改惡案である。特に「暴力」に関する
規定の創設のごとき、組合活動彈圧の意図歴然たるものがあり、本
法案に反対する労働者の悲痛なる叫びは今や全國に澎湃たるものがある旨の反対意見が開陳されました。尚、詳細につきましては、速記録により御承知願いたいと存じます。
かくて討論終局の後、採決に入りましたところ多数を以て
衆議院送付案通り可決すべきものと決定いたしました。右御
報告申上げます。
次に
議題となりました
労働関係調整法の一部を
改正する
法律案に関しまして、
労働委員会における審議の経過並びに結果を御
報告いたします。
先ず
改正の要点を申上げますと、第一点は、公益事業の追加指定手続を変更して、從來は中央
労働委員会の決議により主務大臣がこれを行な
つていましたのを、今回は國会の
承認を経て内閣総理大臣が指定をなすことにいたしているのであります。第二点は、関係当事者の双方によ
つて受諾された調停案につきまして、その解釈又は履行に関して意見が一致せず、爭議行爲をなすには、先ず当該調停委員会の見解を聞かなければならないといたした点であります。第三点は、公益事業に関し受諾せる調停案中、或る事項について尚交渉すべき旨の継続
規定の存する場合、その事項について爭議行爲をなすには、更に冷却期間の経過を要するといたした点であります。第四点は、
労働委員会の委員は斡施員候補者となることができないといたした点でございます。以上の外、労働組合法の
改正に伴い、これと符節を合せるに必要な当然の事項等につき
改正がなされているのでありますが、ここで申上げて置きたいことは、予備審査のため送付せられました政府原案中、特に重要な
改正点でありました公益事業に関する爭議行爲期間の制限
規定は、衆議院において修正削除せられることとなりまして、本案中には挿入されていないことであります。
次に委員会における審議の経過について簡單に申上げます。
議題の
法律案に関しましては、五月七日より二十日に至るまで吉田総理大臣、鈴木労働大臣初め多数の政府委員と各
労働委員の御出席の下に、終始熱心なる論議が交され、愼重に審議が行われたのであります。殊に本案が労働運動並びに公共の福祉に及ぼす影響の重要なる点に鑑みまして、五月十二日公聽会を開催し、学識経驗者、労働組合代表、使用者團体代表より成る多数の公述人の意見を聽取しまして、審議上貴重なる資料を得ることができたのでありますが、詳細は速記録で御覧願いたいと存じます。
次に質疑について、二三の点を申し述べますると、國会の閉会中に公益事業の追加指定をなす必要が生じた場合の措置に関する質問に対し、政府委員より、その場合は國家が緊急状態に置かれるのであるから、臨時國会を召集し、
改正案に認められた手続によ
つて追加指定すべきであり、又事務的五面から言えば、かかる愼重な手続を必要とすることによ
つて爭議の解決に万全の努力を盡すという結果になる旨の答弁がありました。又現行法第四十條の、「使用者は労働爭議の調整をなすに当り労働者がなした発言又は爭議行爲を理由として不利益な取扱をしてはならない。」という
規定の中、爭議行爲の部分を削除したのは如何なる理由に基くかとの質問に対しまして、この点は
労働組合法案第七條の不当労働行爲の観念に包攝されることとなつたため、本法に
規定することは不必要になつた旨、及び「発言」についてのみ
規定したのは、労働爭議の調整中、労働者のなした発言を理由に不利益な取扱をすることは公平妥当な調整を妨げるものであるから、不当労働行爲の場合と異なり、かかる行爲そのものを処罰の対象としている旨の答弁がありました。又
労働委員会の委員はなぜ斡旋員候補者たり得ないかとの質問に対し、委員と斜旋員とを兼任することによ
つて、委員が調停仲裁等の仕事に專念できないことを防止するためである旨の答弁がありました。
かくて五月二十日質疑を終了し、二十一日討論に入つたのでありますが、田村委員、一松委員、平野委員よりそれぞれ賛成討論があり、村尾委員、中野委員、千葉委員よりは反対意見が表明せられたのであります。討論の要旨は、さきに
議題となりました
労働組合法案の
報告に述べたと同様でありまするので、詳細は速記録に讓りたいと存じます。次いで採決に入りましたところ、多数を以て
衆議院送付案の通り可決すべきものと決定いたした次第であります。以上を以て御
報告といたします。(拍手、「休憩々々」と呼ぶ者あり)
〔佐々木良作君発言の許可を求む〕