○草葉隆圓君
只今議題となりました
決議案につきまして、
発議者を代表いたしましてその
趣旨の
説明を申上げたいと存じます。
先ず
決議文を朗読いたします。
未亡人並びに戰歿者遺族の福祉に関する
決議
夫を失つた婦人は所謂未亡人と呼ばれ、封建的因襲のままに社会的冷遇をうけ、か弱き女手にいたいけな子供や老人を背負い、社会
混乱の渦中に漂流し、或いはいばらの道に難行し、その
生活苦を原因とする悲惨事件は、近時一層の深刻さを加えているが、これが福祉に関する
施策は皆無に等しい。
又一家の主柱を失い、人生の光明を失つた所謂戰歿者遺族の多くは、精神的にも物質的にも、その窮状は看るに忍びざる状況にあることは、まことに重大なる社会問題である。
戰歿者の多くは、志願して戰爭に出たものではなく、軍國主義時代の徴兵制度により、総動員されてその犠牲と
なつたものである。
しかして最も平和を愛し最も戰爭を呪うものがこの遺族であるのに、民主的平和國家の現実は、これを差別的に冷遇し、或いは社会的虐遇のままに放置している実状にあることは、國政上遺憾である。
よ
つて政府は改めてここに右の二大問題の事実を深く認識すると共に速かに左の各項に関する
施策を樹立しその結果を次期
國会において本院に
報告すべきである。
記
一、社会保障制度の確立を促進すると共に社会福祉
施策の強化特に公共扶助の制度を拡充して
生活保護の基準を引上げ、これが活用を計り、その適切、公平なる遂行をなすこと。
二、未亡人の擁する子女の育英に関しては現行制度を拡充して特別の
施策をなすこと。
三、遺族年金又は弔慰金を支給すること。
四、生業扶助制度及び生業
資金制度を拡充し、その適切な活用を図ること。
五、母子福祉事業特に授産事業、母子福祉施設等の拡充強化を図ること。
六、戰歿者に対する葬儀その他の慰霊行事については一般文民同樣の取扱とすること。
七、課税の減免、農地の開放、作物供出、職業の安定等の問題に関して、未亡人家庭の
特殊事情を充分参酌して、適切なる
施策を行うこと。
右
決議する。
以上であります。
今次の戰爭におきまして軍人として動員されました総数は六百八十七万四千六十二人と推定され、そのうち戰歿いたしました者は実に百九十五万二百八十八人に及ぶ多数と推定されるのでありまして、これらの人々は、或いは一家の主柱として、妻子を擁し、或いは老父母を養えべきかけがえのない人々が多数でありまして、從
つてその遺族は精神的にも物質的にも困窮の極にあるに拘わらず、今日まで殆んど何らの方途が講じられておらないばかりでなく、却
つて差別的に冷遇され、社会的虐遇のままに
終戰後すでに四年を経ましたことは、誠に遺憾に堪えない次第であります。第一に、未亡人の問題が最近重大な社会問題とな
つて参りましたことは、戰爭によりまして多数の未亡人が一時に発生いたしましたことに起因するものでありまして、現在判明いたしておりまする未亡人の総数百八十八万三千八百九十名の中、困窮せる者の過半数は戰爭による未亡人と思われるのであります。從
つて未亡人の問題は平常時におきましても絶えないところではありまするが、現在の未亡人問題はいわゆる大戰爭の結果によりまする特殊的現象でありまして、ここ数年間がその頂点であり、子女が成長いたしまするまでの最も緊急を要する差迫つた問題と存ずるのであります。これらの未亡人は幾人かの子供を抱え、自分の力によりまして辛うじて
生活を続けて参つたのでありまするが、すでに賣り食いし得るものは賣り盡しまして、遂に社会の
経済的、精神的圧力に堪えかねて超る悲惨な事件が次々と釀されておる次第でありまして、最後には肉をひさぎながら子供を育てて参らなければならないというような様相が次第に顯著になりつつありますることは、一日もゆるがせにすることのできない重大問題であると存じます。
生活保護法によりまして現在
生活扶助を受けております五十八万世帶の中で、その六割、即ち三分の二に当りまする三十八万世帶は婦人世帶でありまして、その大部分は戰爭未亡人の世帶であります。現在の
生活保護法は新憲法以前のいわゆる救貧制度の残滓でありまして、從
つて公共扶助の制度を確立し、社会保障制度を促進いたしますると共に、差当
つてその実効を挙げまするために、未亡人の
生活保護法によりまする扶助額は現在男子の約半額にしか達しておらない基準を改めまして、多数の子供を持
つておりまする未亡人には、扶助費だけで十分
生活でき得るようにいたさねばならないと存じます。又一人二人の子供を持
つておりまする未亡人のために授産所、保育所を増設し、相当の收入を挙げ得まするよう、現在の授産所の内容及び制度を根本的に改革し、而も働いて挙げました收入を
生活扶助費から差引くような
現状を改めねばならないと存ずるのであります。
未亡人の問題は、子を持つ母の姿そのままの形におきまして解決すべきものでありまして、從
つて母と子と両方の福祉を來すようにいたさねばならないのであります。この意味におきまして、育英及び医療は未亡人にとりましては切り離すことのできない重大な問題であります。然るに現在では、中学までの義務教育にする多額の経費を要し、それ以上の高等教育に至りましては全く望み得ない
状態でありまするから、いわゆる義務教育には費用の掛らないようにいたし、それ以上の教育に対しましては育英会等によりまする貸費の方法を
拡大いたし、未亡人の子女が安らかに、平等に、而も自由に教育を受け得るように適切なる方策を樹立すべきであります。未亡人の多くは殆んど何らの貯えを有しておりませんから、一朝病氣に見舞われました際は非常に悲惨であります。從いまして未亡人に対しましては、全体として
生活保護法による医療扶助を受けられるようにいたすべきであります。又生業扶助費を増額し、生業
資金や
國民金融公庫の貸出に対しましては、未亡人のために一定の枠を設け、簡易に迅速に貸出のできますようにいたし、(
拍手)或いは母子寮を増設し、
庶民住宅の建設に当りましては、未亡人に一定の割当をなし、課税についても、夫ある妻に対しましては控除の方法がありますが、夫が亡く
なつた未亡人に対しましては、むしろ課税が
増加せられておりますという
現状を改めまして、且つ農地の問題なり又農作物の供出に当りましても、子供を持
つて営々と働いております未亡人と夫婦共稼ぎでや
つております男子と同様の供出をいたすような現在の不均衡を改めまして、又未亡人に対しまする職業の安定を図りますために、就職を容易ならしむると共に、今後の整理等の場合におきましても、未亡人の
特殊事情を十分参酌いたしまして、解雇等のなされます場合、
政府は適切なる方策を講ぜられたいのであります。
これを要しまするに、未亡人の問題に対しましては
政府に統一した一つの機関がないことが本問題の解決を遅らせておる一つの重大なる原因でありますから、
政府は未亡人対策の中心機関を設けられまして、速かにこれが解決を図られますと同時に、未亡人團体の正しく且つ十分なる組織とその発達を図りますため、これが指導に万全を期せられたいのであります。
第二は戰歿者の遺族についてであります。
終戰以來戰歿者の遺族に対しまする一時金も、或いは扶助料も、その他万般の処遇は
〔副
議長退席、
議長着席〕
殆んど全部が廃止されましたばかりでなく、むしろ冷淡に放置することが当然であるかのごとく感をすら呈する
状態でありまして、國政上誠に遺憾に堪えないところであります。我々は尚外地に四十余万の同胞が残
つており、その
帰還の一日も速かならんことを念願し、
國民挙げて、引揚再開を熱望し、引揚埠頭におきまして、或いは車中におきまして、或いは郷里におきまして、万般の準備がなされておりますことは当然であり、我々もその十分なることを望んでおりますが、一方、一人遺骨とな
つて帰られました場合は、殆んど出迎える人もなく、遺骨傳達に当りましては、遺族の希望いたしまする宗教行事すら許されず、会葬する者もなく、慰霊行事につきましても一般文民とさ甚だしく差別され、むしろ冷遇されておりますることは、我々の了解に苦しむところでありまして、
政府は速かにこれらの不合理を是正すべきであると信じます。遺族に対しましては現在遺骨引取りのための旅費及び埋葬費おのおの僅か千五百円支給されるに止まりまして、その他には何らの処遇もなされていないのであります。労働基準法によりまする遺族補償の場合ですら、御承知のように十数万円の補償金が支給されておるのと比較いたしまして、余りにも甚だしい不平等であると言わねばなりません。よ
つて政府はこれらの遺族に対する当然の義務といたしまして遺族補償の方途を講じ、たとえ他の経費を節約いたされましても、遺族年金なり遺族弔慰金を支給し、以て全
國民の要望いたしておりまするところに應え、速かにこれらの不均衡を是正せられんことを熱望して止まない次第であります。
戰歿者の多くは、いわゆる軍國主義時代の徴兵制度の結果によりまして総動員されたものでありまして、その一部志願いたしました者と雖も、殆んどそれは割当による志願でありまして、強制動員された者であります。これらの人々は平和建設の礎としての聖戰と信じ、日本最高の道徳と信じて参加いたしたのでありまして、この精神たるや勝敗の
如何によ
つて左右せらるべきものではないと信じます。この精神こそ新日本建設の礎であり、平和日本の礎石であると信ずるのであります。この精神を踏みにじるようでは、平和日本、民主主義日本、道義日本の建設は成就し得ないと存じます。我々はこれらの戰歿者に対しまして心からその御冥福をお祈り申上げますると同時に、
國民挙
つて黙祷を捧ぐべきであると存じます。その遺族に至りましては、何人にも劣らず平和を愛し、戰爭を呪うものであります。
政府はこの未亡人並びに戰歿者遺族、この二大問題を深く認識されまして、以上申述べました諸点について十分なる
施策を樹立され、次期
國会において本院を
報告されることを
要求するものであります。
何とぞ全員の御賛同を衷心より希いまして、私の
提案理由の
説明を終ります。(
拍手)